5話
一方その頃。B会場、主賓控室にて。
「犠王ノ宮様! あんな戦いは無効ですわ!」
バン! と机を叩く人影。
「それに私はまだ戦えますの、負けてなんていませんわ! 再戦を!」
もう一つの人影が答える。
「デーモンさん、落ち着いて? 私達も気になっているの。乱入して来たあの黒い髪の子、私達の……。ううん、なんでもないわ。デーモンさん、再戦を許可します。明日、また同じステージで」
「ありがとうございます。……必ず雪辱を果たしてみせるわ、待っていなさい小娘……!」
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「ステータスオープン!」
俺がそう唱えると、目の前に半透明のウィンドウが表示される。
《仙下谷 兎立織 ステータスを表示します。
HP 10/10
MP 10/10
攻撃力 10
防御力 10
素早さ 10
弱体耐性10
回復力 10
認知度 10
魅力 10
スキル
一般人
このスキルを持つ人物は全てのステータスが一般的となり、突出する事も欠ける事もなくなる。
アベレージ
敵対する対象のステータスを平均に削る。基準はスキルを持つ人物のステータスに準拠する。
※転移ボーナス
削った相手のステータス、発動中のスキルを自分のものに吸収する。》
「スキルってこれの事か。アベレージは何回か聞いたけど、一般人って……」
「我も兎立織のステータス見るのだ! なになにふむふむ……ステータスは凄くクソなのだな。我こんなのにやられたのだ?」
クソって言われた!
「この一般人と転移ボーナスの組み合わせが凶悪だね。凄まじい力を持った神々も、君のスキルで大幅に弱体化されて力を奪われてしまう」
キラさんとシオさんが手元の画面を興味津々に覗き込んでくる。中身は兎も角外面は美少女達だ、非常に心臓に悪い。ドキドキする……。
「キラさんとシオさんは?」
「んー、それ止めるのだ。我にさん付けは要らぬ。我らはお前の下僕になってしもうたのだ…。煮るなり焼くなり抱くなりちゃん付けするなりするのだ〜! およよ……」
そういって嘘泣きするキラ……さん。
「えー……じゃあキラ、ステータス見せてください」
「はーい《ステータスオープン》」
《キラ・ニャフルゥワ ステータスを表示します。
HP a「6→j
MP ¥3♪
攻撃力 m/5°
防御力 ).一。
素早さ >8yt
弱体耐性mug
回復力 7558063571172$5
認知度 4
魅力 5
スキ####rlll.
表記出来ません。》
「……何ですかこれ? 数字がバグってるんですけど……」
「我ら知外の神であるからな! 地球の理では数値化出来んものなのだろう」
「ステータスはこの戦いにおいて重要な項目じゃなかったんだ。実践至上主義、アイドル実力主義さ。君が現れるまではね」
突然キラはバン! と机を叩き、飛び上がって俺の目の前に着地する。
「兎立織! お前と我らで地球を掌握しようではないか! 一般人のお前でも、いや、お前だからこそ! 我らと共に新たな神となろう!」
キラに手を強く握られる。きらきらとした瞳で見つめられると、嫌な気がしなくて困る。
「えっ、神って……俺が地球を侵略する戦いに参加するって事……?」
それは不味いんじゃ……いや、待てよ。俺が参加する事で、逆に地球を変な人達から守れるんじゃないか? アイドルとしてステージに立つのは楽しそうだし、最後の1人になれば解放されるって言うし、まぁ悪い神様じゃ無さそうだし、いっか〜!
「……分かった、俺もこの戦いに参加する。協力してくれ、キラ、シオさん」
「もちろんなのだー!」
「了解、頑張ろうね」
三人で輪になって笑いあう俺達。
しかし。
(ひひひっ、人間はちょろいのだ♪ 可愛い我がお願いしたらなんでも聞いてくれるのだ! こいつに従ったフリしてこっそり眷属の魔法を解くのだ! ……あれ、どうやって解呪するんだっけ?)
(元の生活に戻るまで、この人達に協力してもらおう。邪神とかアイドルとかはよく分かんないし、ちょっと変な人、いや神様だけど……。俺みたいな一般人が、地球を守るヒーロー、いやヒロインになれるのも悪く無いかも)
(何とか収まって良かったな。それにしてもキラ、どうやって人間なんて召喚したんだろう?また裁定者に目を付けられないと良いけど……)
気持ちは三者、別の方向を向いていたのだった。
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幕間
兎立織、女子トイレにて。
「便所、どうして女子トイレしか無いんだろう。まぁ用があるのは個室だから良いけど……いやよく無いけど……」
独り言を呟きながら、誰もいない女子トイレの個室に入りため息をつく。
『煮るなり焼くなり抱くなり好きにするのだ!』
キラに言われた言葉で思い出してしまった。
自分のスカートの下の事を。
気分が落ち着いてきた頃から、身体に少し違和感を感じていた。こんな衣服を着たのは初めてだったから、そのせいだと思ったのだが。でもなんか、違うような、もしかしたら。
「い、一応確認の為だから。いくら魔法っていったってそんなわけ……」
ストッキングを下げ、スカートの下もたくし上げる。下着は女物だった。
ある、絶対ある。あるはず……。
そう信じて、パンツに手を掛けた。
「う、嘘だ……」
夢であってくれ。
ショックのあまり俺はトイレの壁に倒れかかり、泣いた。