26話
「…………」
「…………」
(キラそのままだな……。大きな剥製って、どこか形が崩れて見えるけど、これはそっくりそのままのキラだ)
俺は目の前に座るキラの剥製を観察していた。その左右には睨み合うキラとうに子さんが座る。二人は空白を読むように、じっと睨み合っている。
キラとうに子さん。裏地球アイドル初期メンであり、同郷だというこの二人の間には、一体どんな確執があると言うのだろうか。一緒にアイドル、出来るのだろうか……。
俺は部外者だ、二人が切り出すのをじっと待つ。
ガタンと両隣の椅子が揺れる。
「我らと共にアイドルやって欲しいのだ!!」
「お前なんか大っっっっ嫌いだこの馬鹿!!」
二人が同時に叫ぶ。被ってるが、お互い構わずに喋り倒す。
「我らにはチムメンが足りんのだ! 後一人、我らと並び立てるようなアイドルが必要なのだ!!」
「お前のせいで裏地球に巻き込まれて!! でもお前が王になって裏地球を解放するっていうから、ずっとずっと待ってたのに!!」
キラとうに子さんは堰を切ったように話を続ける。お互いに言いたい事が沢山あるらしい。遠慮の無い物言いを見るに、やはりこの二人はただの顔見知りでは無いのだ。
「我はお前のアイドルとしての素質を見込んでおるのだ! 美少女への観察眼、衣装の選定から改造、自分の身体を操り人形とする事で可能となる寸分違わぬ精密なパフォーマンス! 西ノ宮の名は伊達ではない! 再びステージに立つべきなのだ!」
「犠王ノ宮に負けるし! ペナルティまみれで実力出せてないし! そもそも全部お前のせいなのに反省する気無いし! 人形欲しいって言うから作ったのにやっぱ要らないとか言ってくるし! 昨日からピンポン連打してくるし!」
(キラが犠王ノ宮に負けた……?)
犠王ノ宮といえば、運営本部の長だと紙に署名があった。そんな存在とキラは戦って、負けた……?情報に思考を巡らせる間もなく話は進む。
キラは大きく頭を振り、うに子さんは椅子から立ち上がる。
「馬子、この通りなのだ! 我らと共にチームを組んで欲しいのだ!」
ガンッ!!
「あの時の約束、もう守らなくていい!! もうお前には期待しない!!」
キラが勢いよく頭をテーブルに叩きつけ、ガンッと大きな音がした。突飛な行動に驚く暇も無く、うに子さんが俺にぎゅっと抱きついてくる。
「約束?」
顔を上げたキラが首を傾げる。きょとんとした顔をして、うに子さんを見つめる。
そんなキラをキッと強い眼で睨むうに子さん。俺を掴む手にも力が入る。
「うに子さん……?」
「……あたしはもうアイドルやらない。故郷にも帰らない。お前が王になるのも待たない。兎立織を応援して、ずーっとここで一緒に、永遠に暮らすの!! ねっ、兎立織!」
「……え? 俺!?」
俺に矛先が向くの!?
「……え、アイドル引退? 兎立織と暮らす、だと!?」
うに子さんは俺にほっぺをくっ付けて、涙目で懇願する。
「あのね兎立織、あたし聖獣ユニコーンなの。だから、あたしが選んだ女の子には聖なる力が授けられるんだよ! その力であたしと一緒に最高に可愛い女の子になろう! あたしと一緒に最強のアイドルになろっ!」
キラが慌てて机を力強く殴る。ゴッ! と硬い音がして机が揺れる。
「ダメだダメだ兎立織! 騙されてはいかんぞ! 今は可愛い見た目をしておるが、本性は処女厨ロリコン殺人解体癖の変態馬だぞ! 二人きりになっては何をされるかわからん!」
「うるさい!! 負けたお前に何が出来る!」
うに子さんは指をビシッとキラに向ける。
「犠王ノ宮に負けて!! 四天王の座から落ちて!! 挙句の果てにそこらの雑魚にも負けそうになって!! あたしを此処から解放するって約束、本当に守れるのか!?」
「それは協力してくれた手前、本当に申し訳ないと思っているのだ! だが我はまだ諦めておらん! 必ずや犠王ノ宮を倒し、裏地球の頂点に立つのだ!! だからその為にもチムメンになって下さいっ!」
ガンッ!!!
キラが再び机に大きく頭を叩きつける。衝撃でティーカップがジャンプし、お茶が中を舞う。浮いたカップから溢さずに、素早く回収して机に戻すうにこさん。
「あたしはもう疲れたの!! お前なんかと組んだら余計にストレスがかかるわ!」
フン! と顔を背けるうに子さん。
「うに子さん、アイドル辞めるってどういう事ですか? 一度参加したら、誰かが地球の王になるまで終わらない、んじゃないんですか?」
「アイドルは引退して運営側に回るの。今だってライブは全然やってないし」
うに子さんはマグマの鍋に手をかざす。以前兎立織が落とされそうになった煮えたぎる溶岩。その中から、ゴポゴポと音を立て無数の手が這い上がろうとしていた。
『あは、あははは……』
笑い声がする。キラに似たあの声だ。うに子さんが手を握りつぶすと、ロウソクの火を消すように手と声はマグマの中に消え去った。
「あたしは西ノ宮、この化け物の管理と四天王の一角を任された者だ。あたしはこいつの管理と、この戦いに巻き込まれた初期メンとして運営側に借りがあるの。いつでも運営側に来て良いって言われてるし」
この部屋がやたらと熱いのは、あのマグマの中の何かを封印する為だったらしい。自分はあの時、そんな化物の中に落とされそうになっていたのかと鳥肌が立つ。……落ちていたら、どうなっていたのか。
「今からでもまだ間に合う。あたしの事は諦めて、メンバー斡旋所にでも向かうんだな」
「そんな……っ!」
うに子さんは取り付く島もないようで、チームどころかアイドルをする気すら無いという。横顔は諦めたような、何処か寂しそうな表情をしている。俺が見つめているのに気付くと、笑って応えようとする。
「来てくれたのにごめんね、兎立織の事は友達として応援するから。早く斡旋所に行かないと、チームメンバーとの練習時間が無くなるの」
そう言って俺の手を引こうとするうに子さんを遮る様に、キラが椅子から立つ。
「いや、その必要は無い。我はお前とチームを組みにきたのだ。……なぁ馬子よ、お前が西ノ宮の座に登り詰めたのは、お前が初期メンだからでも、運営に借りがあるからだけでも無いだろう」
ガンッ!!! と机を力強く殴る。天板に大きくヒビが入る。
「お前が! 一から! 歌と踊りを学び! 自らの信じる少女性を極めて! アイドルを心から楽しんでいたからだろうが! その自分の過去の努力を! 我は忘れておらんぞ馬鹿者! アイドルを辞めるなんて我が許さんのだ!!」
机が幾度の衝撃き耐えきれず、真っ二つに割れて崩れ落ちる。お茶は椅子の上に避難していたので無事だ。
「別に運営側になっても、ライブは出来るし……」
「お前は逃げているだけだ。我からも、故郷からも、お前の主人からも。運営の側に付いたら、お前はそれを理由にアイドルである事から遠ざかるだろう」
「でも! あたしは王にはなりたくないし、いつか帰らなきゃいけないし……! 終わりが来るかもって、期待したり怖がったりするのはもう嫌なの! 全部全部お前のせいなの!」
「そうだとも!! お前の災難は全て我の因果である! お前がすべきは自分の部屋に閉じこもってその身を焼き続ける事でも、アイドルから遠ざかって自分の好きだったものから逃げる事でも無い!! 我に抗う事であろうが!!!」
仁王立ちで堂々と、自分の非を宣言するキラ。自信に溢れた顔だ。金色の眼が爛々と輝く。
「お前が言うな!! 何でそんなに構ってくるんだ! あたしを馬鹿にしたいのか!?」
「全然そんな意図は無い! 我らとチームを組んで欲しいからだ!! マジでホントに頼むのだ!!!」
ガシャン!!!!
キラが勢いよく机の残骸に頭を突っ込む。場所も流れも構わずに、土下座の体制でうに子さんに懇願している。
「何なんだ一体!? お前は切り替えが良すぎる! プライドとか無いのか!!」
「無い!!!!!! 我は裏地球で頂点取る以外は全て切り捨ててきたのだ! この大会中だけでいい! 頼むのだ! 後生なのだ!!」
綺麗な土下座の体制で、ひたすらに頼み込む。これは止めた方がいいのか。それともキラがこんなに頼み込んでいるのだから、俺も一緒に土下座した方がいいのかな……!?
「うににっ……! あたしは嫌だ! 何回頼まれたって嫌なものは嫌!」
口をへの字に曲げて嫌そうな顔をするうに子さん。
「うに子さん。俺とチーム組むの、嫌なんですか……?」
「うににににっ……。兎立織は! 兎立織となら……嫌じゃ無い、けどっ……! あたしはアイドル辞めるの! もうしないの!」
決意は固いようで、うに子さんは俺からもぷい、と顔を背けてしまう。これ以上お願いしても、もう無理かもしれない……。
「ならばライブである」
「えっ?」
立ち上がったキラが、パンパンとスカートに付いた破片を払い落とし、うに子さんに向き合う。
「我と兎立織のライブを見て欲しいのだ。馬子よ、兎立織のライブはまだ見た事が無いのだろう? 特等席で我らの歌を聴くのだ!」
【通知が届きました】
『シークレットライブ開催
仙下谷兎立織& キラ・ニャフルゥワ
and more ……?』




