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25話



 昨日は結局、キラと二人(+子犬)で過ごした。シオさんと漢太郎さんの二人が居なくなって、部屋が広く感じる。すんちゃんに言って一台増やして貰ったベッドは使われずに、脱いだ服や道具が乱雑に置かれている。


 昨日の喧騒が嘘のように静かだ。

 少し寂しくなって、椅子の上で膝を抱いて座る。キラは向かいの椅子に座って腕を組んでいる。子犬も俺の側で床に伏せている。


 机の上のメンバー申込用紙。キラと俺の名前が書かれ、シオさんの欄は消されて空白になっている。申込期限は今日、もし今日中に間に合わなかった場合は失格だ。


「ねぇ、キラ。チームメンバー、どうしよっか……」


「うむ……」


「もし見つからなかったら、このマッチングサービスを使うとか……」


「それを使うと我らがバラバラになってしまうのだ。それは駄目なのだ」


 アイドルマッチングサービス。これは一人専用のシステムらしく、これを使えば失格は免れるが俺とキラが同じチームになれる保証は無い。


「キラは初期メンバーって聞いたよ。昔からの知り合いとか、アテはある?」


「初期メンは殆ど残っておらぬ。それに、我に味方はおらんのだ。昨日馬子に会いに行ったのも、チムメンにならないかと誘いに行ったのだが、断られてしもうた」


「うに子さんもダメか……」


「じゃあ、漢太郎さんは?」


「彼奴は運営の犬だ。チームには入れぬだろうよ」


「ワウワウ」

 子犬もその通りだ、と言っているようだ。


「地道に声掛けして探すしか無いのかな……」


 知らない人に声かけ、俺に出来るのかな……。アイドルをナンパとかハードルが高すぎる。


「いや、兎立織。その必要は無い。我はもう一度馬子に会いに行くのだ!」


 キラが自信げに立ち上がるので、俺もそれに従う。


「わ、分かった!」




 VIPエリア建物前、噴水広場にて。

 

 意気揚々と向かったはいいが、キラも俺もVIPエリアのパスは持っていなかった為、受付で「だめです」と止められてしまった。キラは通して貰うべく、うに子さんの部屋のインターホンを連打している。怒られないかな、それ……?

 手持ち無沙汰になった俺は、建物前をぶらぶらとしていたのだった。


「綺麗だな、ここ」


 まさしくVIP用と言わんばかりの広場だった。花壇には手入れされた薔薇が咲き誇り、香りが漂う。上品にライトアップされた噴水は丁寧に掃除されているのかゴミが無く、水底まで綺麗に澄んでいる。


(綺麗だな……。水の流れって、いつまでも眺めてしまいそうだ。)


 俺がぼーっと噴水を見ていると。紙が飛んで来た。


「ん? あれって、申込用紙だよな……。えいっ!」

 

 昨日ここに来た時に親切な人(仮)に、リボンを拾って貰った事を思い出す。自分も誰かに親切にしてみようと思い、水に浸かってしまいそうだった紙をジャンプして取る。

 が、濡れた縁に足を滑らせてしまい、噴水の中に落ちてしまった。小さな水柱が上がる。


「がぼぼっ……。ぷはぁっ! ハァ、ハァっ……。紙は……無事か、よかった……!」


 紙だけでも無事で良かった。腕以外ずぶ濡れのまま噴水の外に出る。運動不足を痛感する。トレーニング、した方がいいよな……。

 手にした申込用紙には、二人分の名前が書いてあった。

「いるいるさんとやるやるさん……?俺達みたいに、残りの一人を探しているのかな」


 と紙を読んでいると、後ろの方から声がした。


「お姉様!こっちの方に飛んでいったよ!」

「やる、走ると危ないわ。ほら、そこの人みたいに転んでずぶ濡れになってしまうわよ」


 その声のした方を見ると、水色とピンク色の髪の子がこちらの方に歩いて来ていた。


「あ! それだよ! そこの人が手に待ってるよ! こんにちはーー!」


 水色の子が元気に挨拶しながら走ってくる。が、俺が水浸しにしてしまった地面に滑って転んでしまう。


「きゃんっ!」

「あぶっ!」


 俺に覆いかぶさる形で倒れ込む。むぎゅむぎゅと、柔らかい感触に押しつぶされる。

 気のせいだろうか。俺、毎日誰かに押し潰されてないか……?


「わわっ! ごめんなさい! すぐ退くね!」


 水色の子は素早く俺の上から退くと、俺の手を掴んで起き上がらせてくれる。元気の良い、垂れ目の子だ。水色の小ぶりなツインテールが、動きに合わせて跳ねている。


「あ、ありがとうございます……」


「全身びしょびしょね。はい、これで拭きなさい。」


 一緒に居たピンク色の髪の子も追いついて、俺にハンカチを差し出してくれる。ピンク色の髪を後ろで纏めており、凛とした顔立ちが何処かの姫君を連想させる。


「すみません……。俺が鈍臭いせいで」


「ぜーんぜん! 気にしなくていいの! これを取るために落ちちゃったんでしょ?」


「あ、この紙、貴方達のだったんですね」


「そうよ。私がいるで、この子がやる」


「やるやるだよー! ほんとありがとね! あっ、残りのメンバーと待ち合わせしてるから、もう行かなきゃ! またねー!」


「ごきげんよう、親切な人」


「あ、はい。またこんど……?」


 やるさんはバタバタと走り、いるさんもその後を歩いて追いかける。なんだか、明るい雰囲気の人達だったな。

 ……チームメンバー、もう決まっているのか。彼女達とも戦う事になるのだろうか。その前に失格になってしまいそうなのだが……。


「おーーい! 兎立織! 馬子が来いといっておるぞ!」


 キラが呼んでいる。うに子さんから仮パスが出たようだ。


「あ、はーい! 今行く!」



 子犬はマグマの部屋は行かないようで、受付に座るすんちゃんの膝に収まっていた。昨日も俺が部屋に入った後、ずっとここで待っていたんだな……。


 キラと共にエレベーターに乗り、うに子さんの住む西の間をノックする。「入れ」と声が帰ってきたので、キラがドアを開けて入る。

 部屋の中は相変わらず赤く燃えており、俺は外から様子を伺ってみる。


「こ、こんにちは、うに子さん」


「ん、兎立織も来たのっ? え、えっと、……よし、どうぞ入ってね! 今お茶入れるねっ!」


 部屋の温度が下がり、俺もお邪魔しますと言って部屋に入る。



 部屋の中は前回よりも片付けられ、剥製や人形作りに使っていたらしき器具類は見当たらなかった。

 以前一緒に茶を飲んだ机の上には、また同じお茶がセッティングされており、キラがその香りに釣られて寄っていく。


「お、ぺろぺろ草のお茶なのだ! 懐かしいもの持ってるではないか!」


「え? キラがうに子さんの故郷のお茶を知ってるって事は……。お二人って同郷なんですか?」


「そうだぞ。此奴とはそこそこ昔からの顔見知りなのだ」


(友達じゃないのか……。)


「よい、しょっと」


 うに子さんがずりずりと、椅子に座ったキラを運んでくる。これは……剥製の方のキラか。

丸いテーブルを囲み、四人で向かい合って座る。


「さて、我はお前に話があるのだ。馬子よ」


「奇遇だな。あたしもお前に話があるの」


「…………」


 睨み合う二人。俺は二人が話し出すのを、固唾を飲んで見守っていた。


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