23話
あの後、無事マグマ鍋を片付けてもらい、下に降ろしてもらった。
少女に話しかけようか迷ったが、一人でニコニコしたり悔しそうな顔をしたり、ぶつぶつと独り言を呟いたりと一人の世界に入っていたのでやめておいた。
「ひひ、ヒヒヒヒヒッ」
(こ、怖……)
これは無闇に触ると危険なタイプかもしれない、受け身の体勢で行こう……!
少女は何処からか椅子とテーブルを引っ張り出すと、俺に座るように促す。小さい身体でせっせと準備してくれている様は愛らしいが、中身は何かヤバそうな人だ、警戒するに越したことは無い。
座ると可愛らしい形のコップが出される。中には玉虫色に輝く、お茶らしき液体が入っているが……。ちらりと顔色を窺ってみると。
「…………っ」
少女は期待するように、口元を噛みながらこちらを見てくる。
見てくる。めっちゃ見てくる。これは逃げられない……!
「あ、意外と美味しいかも……」
「!!」
視線に耐えられず飲んでしまったが、普通に美味しかった。お洒落なカフェで出てきそうな不思議な味だ。
「お、おいしいか! おかわりもあるからな! お前の為に部屋の暖房下げてるけど、まだ暑かったら遠慮なく言うんだぞ! なんたってあたしたち、友達だからね!」
そう言ってご機嫌そうに口をVの字に曲げてニコニコしている。感情が口元に出るタイプかもしれない。
(あの熱気は暖房だったのか……)
確かに部屋の温度は多少熱いくらいにまで下がっている。吊られていた時も、多少手加減してくれていたのかもしれない。
「え、えっとね……。友達は友達同士とお茶しながらおしゃべりするんだって本に書いてあった! でも、あたし友達とどんな話していいのか分かんなくて……。そ、そうだ! お前何か話してみるの!」
「え、えっ! 俺、ですか……!? えっとぉ……」
(まずい、相手の出方を伺うつもりが後手を取られてしまった……!)
正直、この子に聞きたい事は山ほどある。あるのだが、迂闊な話を振って地雷を踏んでしまっては困る。
例えば後ろに眠っているキラ。この子はキラと知り合いらしいが、さっきキラの話が出ると様子がおかしかった。
さっきの崩れ落ちた身体もそうだ。何でピンピンしてるのか、とか人形にするってどう言う事だと問い詰めたい。問い詰めたいのだが、相手は神様だ。まずは当たり障りのない会話で場を濁すべきだろう。
(流石に一発目からそんな核心を突いた事は聞けないよな……! 考えろ、考えろ俺!)
《兎立織の脳内に選択肢が現れた!》
・キラはどうした?
・何で俺吊されてたの?
・人形って?
・その身体どうしたの?
・一緒に居た子犬はどこ?
・この部屋何で熱いの?
・ご趣味は?
・どんな本読むの?
・そのコップ可愛いね。
・このお茶なんていう茶葉?
・あなたが西ノ宮さん?
・自己紹介。
(……なら、手始めに言うのは。)
「え、っと。俺の名前は仙下谷兎立織です。数日前に裏地球に来たばかりの新人アイドルです。よ、よろしくお願いします……。貴方は西ノ宮さん……でよかったですか?」
自己紹介、やはり会話の基本であろう。マイネームイズ兎立織!
俺の質問に少女はあわあわとテンパりながらも答える。
「ち、違う! わ、わわわたくしのなまえばっ! 噛んじゃった……。
ごほん! あたしの名前はうまユニコーンなの! 裏地球初期メンの一人! 大御所アイドルなの! 西ノ宮はすごーいアイドルに与えられる称号みたいなものだぞ!」
ババーン! という効果音が付きそうな動作で自己紹介をしてくれる「うまユニコーン」さん。名前が壊滅的にダサ……、個性的な人だ。西ノ宮さんは名前ではなかったらしい。
初期メンという事は、キラ達と同僚の関係になる。キラがここに来たのはそれが関係しているのだろうか。
「ファン共はあたしの事うにこって呼ぶから、お前、えっと……。と、兎立織もそう呼ぶといいの!」
「は、はい! うにこ……さん。よろしくお願いします」
「う、うん!」
「………………」
「……………………」
お互いの名前を呼び終わり、テーブルに沈黙が流れる。両者机の上に視線を這わせ、落ち着かない様子でそわそわしている。
ど、どうしたらいい!?
「えっと、………………兎立織! もっと話しかけるの!」
「は、はいっ!」
ほ、他に!?他に訊きたい事は……。
《兎立織の脳内に選択肢が現れた!》
New!
・名前ダサくないですか?
・キラについて訊く。
・何で俺吊されてたの?
・人形って?
・その身体どうしたの?
・一緒に居た子犬はどこ?
・この部屋何で熱いの?
・ご趣味は?
・どんな本読むの?
・そのコップ可愛いね。
・このお茶なんていう茶葉?
(一発ゲームオーバーの選択肢が!! 邪念よ、去れ!)
「え、えーっと、これ! このお茶とコップ美味しいですよね! なんて言う本ですか!?」
あっ。 俺もテンパってる。三つも質問が混ざってしまった。
うにこさんも「えっ?」という表情を一瞬浮かべるが、察したようでアレこれそれと机の上に引っ張り出してくれる。
「こ、これか! お目が高いねっ! これはね、故郷から持ってきたぺろぺろ草の茶葉と、この部屋に備え付けてあったコップと、友達について書いてある本だよ!」
「わ、わー! そうなんですね!」
「そ、そうなの! 手に取ってみるといいの!」
「あ、ありがとうございます」
「……………………」
「…………………………」
また長い沈黙が流れてしまう。き、気まずい……!
机の上に出してくれた物を触ってみるが、なんて言って返せば良いのか分からない。帰れない故郷の話を振るのも怖いし、部屋の備品を褒めるのも変だし……。本でも読んでみるか……?
『友達の作り方! 目指せ、友達100人!』
・友達と仲良くなる方法
せっかく出来た友達との会話が続かない? ならば、二人の共通点を探してみましょう! 同じ趣味があれば、会話がもっと盛り上がるかも!
(な、なるほど……! 二人の共通点か!)
本の隙間から少女をちらりと見ると、唇を噛んで涙目になり、沈黙に耐えていた。
《兎立織の脳内に選択肢が現れた!》
New!
・俺達ぼっち同士ですね!
・キラについて訊く。
・何で俺吊されてたの?
・人形って?
・その身体どうしたの?
・一緒に居た子犬はどこ?
・この部屋何で熱いの?
・ご趣味は?
「え、えっと、うにこさんのご趣味はなんですか……?」
流石にぼっちですね!なんて言えるわけがない。邪念よ去れ去れ!
俺のその質問を聞くと、うにこさんはニタッ、と笑った。
「あ、あたしの趣味はね! 可愛い女の子を剥製にする事だよ! ……そう、丁度お前みたいな、成熟してない無垢そうな女が良い。皮を剥いだら人形にして、可愛く着飾ってずっと一緒に居るんだ。老いを知らないまま、永遠に」
うにこさんは焦点の合わない眼でうっとりと語る。
「ねえ兎立織、お前もあたしの人形にならない? 永遠にその姿のまま、皆で一緒に暮らすの」
「…………っ」
選択肢、間違えたかも……!?




