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21話



「ワン! ワウー!」

「あれ? 兎立織くんじゃない。そんなに急いでどしたのわん?」

「か、漢太郎さん……」

 子犬の跡を信じてついていったのだが、行き着く先に居たのは大量の書類を抱えた漢太郎さんだった。これが学校の廊下で出会うシチュエーションならば、運ぶのを手伝うイベントが発生するのであろう。が、今はキラを探さなくてはいけないのだ。ごめんなさい、漢太郎さん!


「実は……。キラがチームの書類を書いてる途中に、いきなり部屋から飛び出して何処かに行ってしまって……。シオさんに言われて探してる所なんです」

「チムメン選びで悩み事でもあったのわん? あいつが変なのはいつもの事わんけど……」

「それが、チームのメンバーを書いている時に、シオさんはメンバーになれないって話になって」

「え? シオ?」

「シオさんです。……漢太郎さん、どうかしましたか?」


「シオって、誰だわん?」


「………………えっ?」

 こんな時に冗談はよして欲しい。シオさんなら、ずっと俺達と一緒にいたじゃないか。漢太郎さんだって、一緒のベッドで眠っていた筈。

「シオさんはシオさんですよ。ほら、ホテルでだって、お風呂でだって、牢屋でだって一緒だったじゃないですか。冗談はやめて下さいよ」

 妙な沈黙が流れる。

「…………もしかして、メイザースが? いや、でもあの人は……」

 小声で何かを考えるように呟く漢太郎さん。

「あ、あの。漢太郎さん?」

「うぅん…………。あ、ごめんだわん。考え事しちゃってたわん。キラならさっき、VIPエリアに行くのを見たわんよ」

「VIPエリア?」


「あそこに大きな塔があるでしょ?」

 そう言って遠くを指差す漢太郎さん。その先にはかっこいい形のタワーが見える。裏地球のど真ん中に堂々と建っており、前から気になっていた建物だ。

「あれは運営本部の建物なんだけど、その隣のガラス張りのビルがVIPエリアになってるんだわん。資格のある人にしか入れないんだけど……。はい、今子犬ちゃんに仮パスを発行したから、中に通して貰える筈わん」

「ワウ!」

 子犬はそういう事だと言わんばかりに頷いている。なるほど、俺一人では入れないから漢太郎さんの元に先回りするよう誘導したのか……。騙されたと思っていたが、たいへん賢い犬だった。疑ってごめんね!

「ワウワウアウーン!」

「あ、ありがとうございます! 急いでるのでまた後で!」

 子犬が走り出したので、俺もその跡を追いかける。

「VIPエリアは癖の強い神様ばっかりだから、気をつけるわんよー! 走って転ばないようにねーーっ!」

 漢太郎さんの声に手を振って答える。

 


 キラもシオさんも漢太郎さんも、何だか雰囲気が変だ。俺に隠し事をしているのか、説明して無い事があるのか。俺はまだこの世界に来て数日だし、まだ信用されてないのかもしれないけど……。

(今日ホテルに帰ったらまた会えるんだ。その時にちゃんと聞かなくちゃ)



 暫く走り続けると、VIPエリアの玄関に到着した。エントランスには、ホテルの受付の人と同じ容姿をした白い少女が立っている。

 昨日下着屋でもこの少女の姿を見かけた為聞いてみたのが、彼女は裏地球のお世話をしている妖精みたいなものらしい。以前俺に『すんちゃん』と名乗ってくれたこの少女は、裏地球のあちこちでお店番をしている様だった。


「こんにちは。漢太郎さんから発行された仮パスですね。どうぞお通り下さい」

「あの、すんちゃん。キラがここを通りませんでしたか?」

「キラ様ですか? キラ様は……西ノ宮様にお会いになっているようですね。45階になります。あちらのエレベーターからどうぞ」

「ありがとうございます!」

「ワン!」

 にこにことしながら手を振ってくれるすんちゃんにお礼を言い、エレベーターに乗り込む。ボタンを押すとゆっくり上昇し始めたので、ふぅと一息をつく。

 落ち着いて建物を見回してみるが、とてつもなく豪華な内装だ。とにかく広くてピカピカしているし、天井や壁には見た事もない様な電飾が飾られている。エレベーターも建物もガラス張りになっている為丸見えなのだが、下階はロビーなどの共有スペースで、上階はホテルの様な構造になっているらしい。決して貧相な所では無いのだが、俺達の宿泊するホテルとは雲泥の差だ。

 子犬は抱っこしろと言わんばかりにしがみついてきたので、抱え上げてやる。

「お前、小さいのに走るの早いね。ここまで案内してくれてありがとう」

 そう言って撫でてやると嬉しそうにフスフスと鼻を鳴らす。エレベーターはゆっくりと上昇している。

 

 緊張を紛らわす為に、会話は出来ないだろうが子犬へ話しかける。

「キラは西ノ宮さんに会いに行った、って言ってたよね。どんな人なんだろ。こんな場所にいるような人って事は凄い人なのかな。そんな人に、何の用事があるんだろ」

 西ノ宮って、何か日本っぽい名前だな。

 

 チン! と音が鳴るとエレベーターが停止して扉が開く。ただのエレベーターホールなのだが、ここも高価そうな調度品で囲まれており、気後れしそうになる。

(……よし、行かなきゃ)

 息を呑んで廊下を進み出す。静かだが、何だか威圧感がある場所だ。漢太郎さんは、ここにいる神々は癖が強いと言っていたっけ……。変な人に出くわしませんように……!


「もし、そこの人」

「っ! ひ、ひゃい!」

 びっくりして声が裏返る。早速声をかけられてしまった。全く気配がしなかったぞ……!?

「これ、落としましたよ」

 ギ、ギ、ギ、と錆びついた扉のようにぎこちなく振り返る。と、中世の婦人の様な格好をした少女が、俺の服に付いていたらしきリボンを差し出していた。

「あれ、走り回ってたからほつれちゃったのかな……。わざわざありがとうございます」

「いえ。西ノ宮様の居室はそこを曲がって突き当たりにございますよ。……では」

「あ、ご丁寧にどうも…………あれ?俺、西ノ宮さんの事、何も話してないよな……?」

 疑問に思い目で追おうとするが、もうその人は居なかった。

 (ま、まぁ深く考えないようにしよう!)

親切な人だった。そういう事とする。


 親切な人(仮)の言う通りに進むと、周りよりも豪華な彫像が施された扉に突き当たる。『西の間』と書かれたルームプレートが貼ってある。

(ここっぽいな。よし、入るぞ……!)

 コンコン、とノックをするが返事は無い。ドアノブを握ると回ったので、ゆっくりと扉を開き中を覗いてみる。すると。

「うわわわわっ!! 熱っつ!?」

 覗き込んだ顔が焼けるように熱い。視界が真っ赤だ。危険を感じて廊下に下がる。一歩下がってみれば部屋の中が燃えていた。否、ここは本当にホテルの部屋なのか? こんなに燃えていたら外まで熱気が伝わってもいいはずだ。


「ねぇ。お前、キラの友達?」

「え?」

 突如、目の前に小さな少女が現れる。灰色の髪をツインハーフにして綺麗に整えている。これはロリータに文類されるのだろうか、フリルの沢山ついた白い服を気怠げに着こなしている。ユニコーンを模したぬいぐるみを引きずるように両手でぎゅっと抱えており、可愛い格好をした小さな子供にしか見えない。

 だがそんな可愛らしい外見とは裏腹に、長い前髪の間から覗く瞳は紅く、威圧するように力強くこちらを射抜いてくる。

(こ、言葉が返せない……! 身体が固まっている……!?)

「……まぁいいや。まだ足りないから、お前にも身体で払ってもらうの」

 そう言うと、動けない腕をがしりと掴まれ、勢いよく部屋の中に引き込まれる。焼けるような熱気が再び身体を襲い、俺の意識は途切れた。


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