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18話 メタル・クラッシャーVS キラ・ニャフルゥワ




 レーザーと花火が上がり、ライブの火蓋が落とされる。一曲目、二人は合同曲を歌いだす。

 メタル・クラッシャーと名乗ったアイドルは地面こそ揺らしているが、その巨体から想像出来ない程、華麗な身のこなしで踊っている。ライブ中の相手への攻撃は御法度だが、髪や尻尾がターンする度に周りにぶつかりそうになり危ない。しかし、相手に当たらぬよう調整されているのか、キラのスレスレを掠めてゆく。

(見ていてハラハラする……!)

 キラも負けじと歌い踊る。溌剌とした、キレの良い動きだ。だが、メタクラさんの存在が大きすぎて見劣りしてしまう。



「あ、あんなのありなんですか!? デカすぎません!?」

 俺の言葉に、漢太郎さんは手帳を取り出しパラパラとめくる。

「規約7条によると、『裏地球にやって来たアイドルの姿は、アイドル自身が可愛いと信仰する姿形があれば、それが適用される』となっているわん。

 だから彼女自身が、この姿の自分は"可愛い"と思っているならオッケーなんだわん。ステージ上での大きさについての規定も特に無いから現状オッケーなんだわん」

「そんな……!」

「観客に被害が及ぶならルール改訂の検討が入るけど、大きいだけわんだもん。被害が無ければ介入出来ないんだわん……」

 日本の警察も宇宙警察も、似たような事で悩んでいるらしい。

「規約といえば、この紙…」

 俺は前にキラから貰った規約の書かれたビラを取り出す。

「あーそれ初版のやつワンね。懐かしいわん。最初にアイドルになった初期メンだけが持ってる奴わんよ。さっき渡した冊子に最新版が付録されてるから読むわんよ」

 確かに、突然ビラが配られ始めたって言ってたな。

「そうなんですか? キラ達って古参なんですね」

「そうだわん。初期メンは初めにアイドルとしてこの地に降り立った、伝説的な存在なんだわんよ。もうほとんど消滅したけど」

 消滅。戦いに負けて、散っていった先輩アイドル達……。

「初期からずっと残ってるって事は、実力があるって事わん。負けるかも〜! なんて心配、必要ないわん」

 漢太郎さんは腕組みをしてふん! と鼻を鳴らす。実力は信頼しているのだろう。シオさん程ではないが、キラとは長い付き合いなのだ。

「ついでだわん。さっき渡した端末は持ってるわんね? それをステージにかざしてみるわん」

「こうですか?」

 画面に『観戦モード』と文字が表示され、見たことの無いUIに切り替わる。

 

『メタル・クラッシャーVS キラ・ニャフルゥワ

現在の支持率 20% : 30%』

 他にもアイドルのプロフィール、SNS、ソロ曲の歌詞など詳細が並んでいる。

 

「細かなデータが見れるわんよ。今後使う機会があると思うから覚えておくわんよ」

「? 分かりました」

 

 気を取り直してステージに目を戻せば、一曲目が終わった所だった。これからMCパートだが、どう動く?

 

「クラッシャアアアアッ!!」

「ヌルダニヲン!!」

 二人は同時に魔法を放った。大きな爆発音と共に、ステージが煙に包まれる。

 が、メタクラさんの大きなシルエットは煙の外からも健在で、悠然とステージに立っている。


 徐々に煙が晴れ、俺はステージの惨状に驚く。

「な、なんだあれ……! ステージの床がメチャクチャだ!」

 床の上は金属の鋭い針が無数に突き刺さり、とても踊れるような状態ではない。しかも、真っ黒な粘性を持った液体が床を溶かしており、ステージの底の鉄骨までを剥き出しにしている。

「2人とも、即座に決着を付けようという訳ね。ステージの破壊はソロ曲の妨害と見做されるけど、ソロ曲が始まる前に決着が付いてしまえば規則的に問題は無いないのだわん」

「ステージが破壊されてるのに!?」

 この規則、穴があるんじゃ!?


 慌ててステージを見渡すが、キラの姿が見えない。

「あそこだわん」

 漢太郎さんが指差す。その先にはキラが天幕にしがみ付いてぶら下がっていた。

「そこかッ!」

 メタクラさんが気付き、伸びた爪で攻撃する。キラはその攻撃も躱すと、風圧とメタクラさんの巨体を利用して上へと走り出す。天井に張り巡らされた通路に立つと、仁王立ちして挑発する。

「図体の割には大した事が無いなメタクラよ!図が高いのである!」

 観客席から見え辛い位置に行ったキラをドローンカメラが追い、正面モニターに映し抜く。仁王立ちしたキラが画面いっぱいに表示される。

「キラ! そんなに挑発したら……!」

「キサマァ! アタシを、馬鹿にするなぁああ!!」

 メタクラさんの怒号と共に、金属片がキラへ向かって飛んでゆく。が、器用に全て躱す。

(凄い、暗くて足場が悪そうな場所なのに……!)

 会場上部は鉄骨が格子状に組まれており、メンテナンス用のワゴンや簡易的なライトが取り付けられていた。ライトの逆光で薄暗く、足場は狭い。通称キャットウォークと呼ばれるその場所を、まさしく猫のように素早く、縦横無尽に駆け回るキラ。

「ええい! ちょこまかとウザったいわ! さっさとアタシのメタルに潰されな!」

 メタクラさんの髪が鞭のようにしなる。が、

「ふっ!」

 それも華麗に跳び避ける。


「すごい……。あんな動きが出来るなんて」

「あの身体能力には私達も手を焼いてるのよね。一人でサーカスが開けちゃうわん」

 キラはそのままキャットウォークを走り抜け、攻撃を躱しきる。


「さて、我が逃げていただけなんて訳が無いだろう。その大きな身体で足元が見えて居ないようだ」

 メタクラさんの足元には、先程キラ放った黒い液体が集まって水溜りを作っている。

「ヌル,ヌァル、ヌォアネ・カフ」

 キラか呪文を唱えると、空から黒い液体がとめどなく溢れ降り注ぐ。それは意志を持った様に四角くメタクラさんを囲み、動きを縛る。天井からステージまで、大きく結界が貼られているようだ。

「焼けろ」

 指をパチンと鳴らすと、暗闇の中で業火が舞う。

「ぐぁ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」

 メタル・クラッシャーさんの身体が溶けてゆく。鉄と皮膚の焼ける臭いが漂ってくる。これが裏地球での、アイドル同士の本気の戦い……。

 ズドン! と大きな音を立てて、メタクラさんは崩れ落ちた。

 キラも、メタクラさんを足場にしてステージに立つ。


『メタル・クラッシャー 戦闘不能

勝者 キラ・ニャフルゥワ』

 

 その瞬間、ステージが明るく照らされ、紙吹雪が舞う。観客からも大きな声援が飛ぶ。サイリウムと、強く光るライトと、光を反射した紙吹雪で、会場がきらきらと光っている。客席から見る会場はこんなにも綺麗なのか。

「キラ……!」

「兎立織っ!」

 ステージの上のキラと目が合う。俺の事に気が付いたのか、先程までの獰猛で冷たい顔ではなく、心からの満面の笑みで俺にピースを向けてくれる。

 俺も、笑顔で頷いて返す。一日も離れていなかったのに、沢山話したい事がある。早く、キラ達に会いたい。


 漢太郎はそんな2人を困惑した顔で見つめ、兎立織に聞こえない小声で呟く。

「ほんと、キラは変わっちゃったわんね……。何を企んでるのか。私が側で見守ってあげないと……」

 ステージを物憂げに見つめる漢太郎さん。膝に乗ってライブを見ていた子犬も、心配そうにくぅんと鳴いた。

 


おまけのコーナー


本名メタル・クラッシャー

450歳 オス 種族:スチール・ドラゴン

異世界からやって来た大きなドラゴン。父ドラゴンと大きさの事で喧嘩になり家出してきた。

元の世界では何事も大きいほうが良いとされていた為、その価値観がアイドルの姿にも反映されている。

メタリックなビックボディが魅力的なアイドルだ。


 


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