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17話


 俺達はあの後、キラのライブが行われるという会場に移動した。ご機嫌な漢太郎さんの後をついて行けば、気づくとVIP席に座っていた。なんと個室。広い部屋を2人と一匹で貸切である。


 正面のガラスから見えるステージはまだ暗いカーテンが降りたままで、観客の入りを待っているようだった。座席はサイリウムの入りを確かめるように、チカチカと光が点滅している。



「よーし! 予約時間に間に合ったわん! 

さて。ライブお疲れ様なんだわん! ご飯でも食べながら聴くわんよ」

 そう言ってケータリングをむしゃむしゃ頬張る漢太郎さん。机の上には食べ切れない程の料理やお菓子がずらりと並んでおり、美味しそうな匂いを漂わせている。

「カリカリカリカリ」

 足元からも子犬の食事の音が聞こえる。犬用のペットフードも用意されているようだ。

(わ、わ〜! どれも美味しそう……!)

 俺も目の前の小さなケーキを摘んでみる。

「もぐもぐ……。わ、これ美味しいですね!」

「そーでしょ? 全部私の奢りだわん! 遠慮なく食うわんよ!」

「ワゥーン!」



 俺達がVIP席でご飯を食べていたその頃。

 キラは控室で目を閉じ、瞑想していた。

「……シオ、いるか?」

「うん。ここにいるよ」

 シオは背後からキラをそっと抱きしめる。キラもその感触に気付くと、シオの手をぎゅっと握り返した。

「必ず勝つ。お前の事も、いつか必ず取り戻してみせる」

「うん、……待ってるね」

 シオも目を閉じて微笑む。2人は暫くの間、その体勢のままに身を寄せ合う。

 やがて握られていた手はそっと離れ、キラはステージへと向かっていった。




「兎立織くーん、はいチーズ!」

「んぇ?」

 パシャリ

 掛け声に振り返れば、漢太郎さんが端末で写真を撮っている所だった。画面の中にはキメ顔の漢太郎さんと、食べ物を頬張っている気の抜けた顔の俺が写っている。

(ま、まぬけな顔してる……)

「写真なんて撮ってどうするんですか?」

「ファンクラブに投稿するわんよ。端末からファンに向けて簡単なメッセージや画像が送れるんだわん。地球でいうブログとかSNSみたいなやつだわん」

「へー。そうなんですね」

「これもアイドルの勤めわん! 次は兎立織くんが撮るわんよ。研修研修!」


 そう言われてカメラのアプリを立ち上げてみる。俺と漢太郎さんを画角に入れてみるが、いまいちピンとこない。


「自撮りって難しいですね……?」

「カメラは下からじゃなくて、上からが鉄則わん! あとこれじゃ遠すぎだわん、もっと距離詰めるわん! 顎も引いて!」

 身体にぎゅっと抱きつかれ、顎を親指でくいっと引かれる。

 パシャッ!

(動揺してシャッターボタンを押してしまった……!)


 画面を見れば、画角いっぱいに美少女2人が密接した、怪しい雰囲気の写真が撮れていた。先程まで食べていたものの油で唇は艶やかに光っており、漢太郎は注意しながら顎を引いた為、「お前を食べてしまうぞ」と言わんばかりに口を開け、顎を掴んでいるように見える。


「……。これは……」

「ヤバわんね」

 流石にこれは消してしまお……

「ダメダメダメ絶対消しちゃダメだわん!!!! これは絶対にファンの皆へ届けてあげないと!!」

 バッと端末を奪い取られ、ポチポチポチと凄い勢いで操作される。


 ピロリン♪

「投稿完了だわん……!」

 漢太郎さんはやり切ったと言わんばかりの清々しい顔をしている。

「う、うわ〜! 恥ずかしい写真が……!」

「ファンの心を掴む為にもSNSへの投稿は大事わんよ! これは大反響間違いなしわん! ライブの前後とかオフの写真はジャンジャン撮ってバンバンアップするわん!」

「わ、わかりました」

 自撮りかぁ……シオさんとかこういうの詳しそうだよな。帰ったら聞いてみよう。


 パッ、とステージのモニターに文字が浮かぶ。数字が浮かんでは消えてゆく、カウントダウンのようだ。あと4分。

「あ、そろそろライブが始まるみたいわんね」

「ライブ……!」


 観戦側からライブを観るのは初めてだ。こちらから見えるステージはどんな場所だろうか。キラはどんなライブをするのだろうか。


 ……そういば、初めて会った時。キラはライブ中で、ボロボロに傷を負っていた。MCパートでデーモンさんにやられてしまったのだと思うが、キラは戦えるのだろうか。キラの実力を、俺は知らない。


(キラ、負けちゃったらどうしよう……!?)


 そわそわし始めた俺を見て、漢太郎さんが声をかけてくれる。

「キラを心配してるわん?」

「はい……。初めて会った時の事を思い出すと、ボロボロにされて負けちゃったらどうしようって、心配になって……」

「大丈夫わんよ。キラは簡単に負けたり消えたりしないわん。長年追いかけてる私が言うんだから、間違いないわん!」

「そうなんでしょうか……」

 キラ……。


「漢太郎さん、キラ達について詳しそうですよね。確か、宇宙警察として追ってたとか」

「宇宙警察犬だわん!そうわんね、キラは自分の世界から追い出された後、他の世界や宇宙を荒らし回っていたんだわん。

正々堂々侵略するだけなら何も言わないんだけど、キラは降り立った世界一つ一つを、全て壊して行ったんだわん」

 世界を……壊す?あのキラが?

「流石にそんな通り魔みたいな事は見過ごせなかったわん。私達はキラを追いかけて、やっとの思いで追い詰めた! と思ったら裏地球でアイドル戦争が始まってて、もう捕まえられなくなったんだわん」

「捕まえられないって、どういう事ですか?」


「こんな大事な事を教えられてないわん?裏地球からは、誰かが新たな神の座を勝ち取るまで、出る事が出来ない」

 ここから……出られない。そういえばそう言っていた、気がする。

「この裏地球にアイドルとしてやって来た者達は、皆ここから出られないんだわん。だから追いかけるのを辞めて、たまに裁定者として様子を見に来るんだわん」


「……それと、これも教えておくわん。アイドルは自分の認知と存在をかけて戦うわん。勝てば相手の知名度をそのまま奪い取って自分のものに出来る。負ければ知名度が減る。……もし知名度がゼロになれば、もしくは互いの存在を勝負にかけていれば……消えるわん。この裏地球からも、全ての世界からも」

 ………………。

 個室に沈黙が流れる。2人とも、ステージをじっと見つめていた。


 カウントダウンが終わり、スポットライトがステージを照らし出す。

 キラがステージに上がると、割れんばかりの声援があがる。

「キラ様ぁああああっ!!」「頑張ってーーーーーーっ!!」「愛っしてるうううう!!」

 キラは観客席へ返事をするように腕を掲げる。

「「「うおおおおおおおおおっ!」」」

観客の興奮が、地割れのように伝わってくる。


 反対側にもスポットライトが当たる。対戦相手のアイドルがやって来るようだ。


 ドスン、ドスン、ドスン。


(んっ? なんかステージが揺れてるような…?)

 ステージ袖を見ていると、突然大きな靴が飛び出して来た。

 ドスン!

 そのまま靴は歩いて行き、ステージの上に立つ頃にはその全貌が圧を放っていた。


「アタシはメタル・クラッシャー!」


「な、なんだあれーーーーーっ!?」



 大きな靴が歩いてると思ったら、巨大な女性が入場していた。しかもやけにピカピカと光っている。髪は金属の光沢のように光を反射し、纏まりを保って尖っている。背丈はステージの天井スレスレまで届くのではないだろうか。ジャンプをしたらスポットライトが当たってしまいそうである。



「メタクラちゃぁあああああん!!!待ってたよぉおおお!!!」「今日もデカくてピカピカで最高ーーーー!!!!」「俺の事を踏んでくれーーーーーっ!!!」

 歓声が飛ぶ。コアなファンが付いているようだ。



「オマエがアタシの対戦相手かぁ? ヒヒヒ、貧相な身体だなぁ! アタシが軽く捻り潰してやるよ!」

 ドスン! と足踏みをして威嚇するメタル・クラッシャーさん。そんな彼女をキラは冷たく睨みつける。


「ふん、威勢と図体だけは立派なようだな。貴様如きでは我に傷ひとつ付けられぬだろうよ」

「何だと!」


 キラはメタクラさんを無視して挙手をする。

「全掛けだ!」

「……! ふんっ、アタシも全掛けだ!」

 メタクラさんも挙手をする。



 会場がガラリと雰囲気を変える。照明がアイドルに絞られ、レーザーとスモークが緊張感を煽る。


『これより、メタル・クラッシャーVS キラ=ニャフルワのライブを開始します』


 いざ尋常に。


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