13話
「わー…こんな所に地下牢があったんですね…」
俺は建物を見上げてつぶやく。地下の道を通って外に出ると、そこは俺達が泊まっているホテルの下だった。
外はもう昼になっているようで、他のアイドル達が忙しそうに走っているし、会場の方からはライブの音が聞こえる。
「キラ、貴方はこの地球人にちゃんと説明していないようだけれど、一から説明する気はあるわん?」
「それはアイドルの事か?我の事か?」
「どっちもよ。私は宇宙警察だけど、この裏地球の裁定者でもあるわん」
えへんと胸を張る漢太郎さん。
「ルールのわからない初心者にはチュートリアルを提供するし、隣に居るのがどんな邪神かも知らない少年には事実を教えなきゃいけないわん」
そう言って俺に抱きつく漢太郎さん。
「兎立織くん、その話は…」
「そんな訳だからこいつは借りてくわん。明日には返すわん」
漢太郎さんはシオさんの話を遮り、俺はひょいと肩に担がれてしまった。
「キラ、今日は夜にライブがあるらしいわんね。ちゃんとアイドルやるわんよ〜!」
「うわわっ!ちょっとー!!」
言い残すと、さっさと走り出してしまった。
「こらーっ!!兎立織は我のなのだーーっ!!」
遠くにキラの声が聞こえる。
なんで人を担いだままこんなに早く走れるんだ!?
あっという間に景色が遠ざかってゆき、何処かへ運ばれていく。早さに目を回しているうちに何処かの建物に辿り着くと、ボスン!とソファーの上に落とされた。
肌触りが良く弾力もあるお高めのソファーだったようで、落下のダメージは無かった。
「はぁ、はぁ、はぁっ……!いきなり何するんですか!」
息も絶え絶えに、俺は漢太郎さんに抗議する。
「手荒ですまんのだわん。さっさと連れ込まないと時間がないのよね。はいこれ」
そう言って飲み物と紙の束を手渡してくる。
「あ、どうも…ってこの冊子は?」
表紙をよく見れば『アイドルのてびき』と書いてある。煽り文句には『新人研修もこの一冊でバッチリ!君も今日から輝くアイドルに!』と心強い言葉が並ぶ。
「これから新人アイドル研修を始めるわん!講師はこの私、かんたろーちゃんが務めるんだわん!」
そう言ってポーズを決める漢太郎さん。流石アイドルの講師をすると宣言しただけあって、堂々としていて魅力に溢れている。ただのVサインがここまで可愛いとは…!この人、出来る…!
「新しく裏地球に来た新人アイドルにはこれが渡されるわん。これにアイドルの基本が書いてあるんだけど…キミはもうアイドルとしてやっていけそうだから、暇な時にでも読んどくわん。あとこれも大事なものだわんよ」
そう言って端末を渡してくる。小さめのスマホみたいだ。
「スマホですか?ここって電波繋がるんですかね」
「繋がんないわんね。それはバトルでの戦績、ファン数・認知度の数値が見れたり、運営からのお知らせや次のライブの予定とかも見れるアイドル必須のアイテムわん!」
「なるほど…?あ、俺の名前が書いてある」
画面をタップすると文字が表示された。
『仙下谷 兎立織 大学生 男
2戦 1勝 無効1
ファン数 集計中
認知度4504』
「このファン数と認知度って何ですか?」
「ファン数はそのままの意味だわん。キミのライブを見てファンになった観客の数だわん。デビューしたばかりだからラグがあるわんね。数日したら反映されるわんよ」
「俺のライブを見てくれた人達か…。なんだか緊張しますね。そういえば疑問だったんですけど、観客の人達って何者なんですか?」
「それが2つめの認知度と関係するわんよ。キミはこの星を侵略しに来た神々が皆失敗したって話は聞いてるわん?」
「はい。信じがたいですけど…。キラ曰わく地球に触れられなかったとか」
「そのとおりわん。確かに存在しているけれど、地球の人々と私達はあまりにも存在が違うんだわん。だから地球人は私達の事が観測できないし、観測が失敗しているのだから干渉だって出来ないのだわん。私達は土地の主に存在を否定されてる幽霊なんだわん」
なる…ほど?
「でも一つだけ地球人に観測されるチャンスを与えられた。それがライブなんだわん!観客席の人達はね…実は地球人なんだわん!」
「そうだったんですか!?」
「そう!人は自分の知ってるものに惹かれる習性があるわん。だから自分を観客にどんどんアピールして知ってもらうわん。そして認知の壁を突破するわん!!……というのが、この裏地球でアイドルがライブしてる理由なんだよ。
つまり認知度というのは、アイドルのキミが地球で認知されてる度合いなんだわん。
ちなみに日本のアイドル様式をモデルにしてるから、観客も日本人が多いわんよ」
「同郷の人達だった!!」
というか、アイドルしてる理由がちゃんとあったのか…!
「そうわんね。知り合いが見てるかもしれないけど大丈夫わんよ。キミはすっごく可愛いから、恋させちゃえばいいわん!」
「うっ…」
女の子の格好してアイドルやってる所を知り合いに見られるって、シチュエーション的にかなり恥ずかしい……!
でも俺友達居ないから心配ないんだった!
良かったような悲しいような…!
「まとめるとね、ファン数を増やすと、キミの事を応援してくれる固定ファンが着くわん。もちろん応援して貰えるとすごく嬉しいし、バトルの判定も有利になるんだわん。認知度を上げると、地球に干渉する為の力が増していくわん。頑張って自分の認知と信者を増やすんだわん!目指せトップアイドルなんだわん!」
漢太郎さんは天を指さしてポーズをとる。アイドルよ、地球を目指せ。
宣言が終わると俺の方にそのままくるりと向き直り、ピシッと指を指す。
「さぁ、座学は一旦終わりだわん。次は身体を動かすわよ。私とライブするんだわん!」
手元の端末にピピッと通知が届く。
『仙下谷 兎立織 vs カグー・ツイン・ワンカレロ・アスタリアン・ダンタロス Sホール 1時間後 開催』
「私は手強いわんよ。全力でかかってくるんだわん!」




