11話
「つ、つかれた……!」
あの後、数時間温泉に浸からされた俺はすっかりのぼせてしまっていた。
浴衣に着替えてベッドに倒れ込む。そんな俺の横にキラも並んで寝転ぶ。
「どうだ兎立織! まだ我のナイスバディにドキドキしちゃってるのだ?」
寝ながらくねくねと器用に身体を動かす。
「あー……正直、後半はのぼせて裸どころじゃなかったです……。キラは元気だね……」
ぷしゅ〜と息を吐く。たくさん運動して、観客の皆と楽しいライブが出来て、勝負に勝って、温泉に浸かって、ふかふかのベッドで転がる……極楽だ。キラも隣でぐーんと猫の様に伸びている。
「ベッドの広さは大丈夫そうだね。クイーンサイズが2台だから余裕を持って使えそうだ」
俺はキラ達が泊まっているホテルの部屋にお邪魔していた。ベッドは2台しか用意されていなかった為別の部屋に泊まろうとしたが「一緒じゃなきゃヤダヤダヤダヤダ!!」とキラに懇願され折れてしまった。横幅が3メートルもあるので、一緒に寝るとしても端っこの方によれば大丈夫だろう。
寝転がったまま、俺はボロボロになった規約の書かれたビラを取り出して眺める。
焦げて読めなくなってしまった箇所や、千切れて紛失した紙片もあるが、アイドル達の地球侵略戦について細かくルールが記されていた。
誰が何の目的で、どうやってこんな大会を開いているのか。異世界からやってきた神々達は何故、女子アイドルになってしまうのか。この戦いはいつまで続くのか。地球が異世界の神に乗っ取られたらどうなるのか……。
疑問はまだまだ沢山ある。
俺は隣に転がるキラへ向き直った。
「ねぇキラ。キラは、どうしてこの星に来たの?どうしてアイドルになったの?」
「我か? ……我はな、前にもちょこっと話したと思うが、新しく誕生した他の神に住処を追い出されてしまったのだ」
キラは少し寂しそうに語る。
「我は追放される時まで、ずっと自由に生きてきた。感情の赴くままに、愉快で苛烈な日々を貪っていたのだ。
だからであろうな、その地に住う者達に我は疎まれていたのだ。それまでは畏怖される事で信仰を得ていたが、皆我に石を投げ始めたのだ。私達の神はキラでは無いと。この方こそがこの地に相応しいと」
「信仰を失った神がその地で生きるのは難しい。我はまだ死にたくなかった。どうにかして生きねばと必死になっていた時にこの地球という場所を知ったのだ。藁にもすがる思いであった」
「……そっか」
この星に来た神々達は、元の場所では何をしていたんだろう。どんな姿だったんだろう。
俺と戦ったデーモンさんも。
「だからな、兎立織が我の手を取ってくれた時、本当に嬉しかったのだ」
キラが俺の手をぎゅっと握る。
「お主が我をどう思っていても、我をどう扱おうともいいのだ。我を必要としてくれたお主が必要なのだ。我はお主の手を離さない」
キラはじっと、俺の目を見ている。瞳孔が少し縦に伸びた、獣のような妖しさを含んだ綺麗な瞳だ。
見つめ合って、時間が過ぎる。
「ふふっ、今度は我の方が照れてしまったな」
俺が何も言い出せないでいると、キラははにかむように笑った。
「大丈夫。お主が悩んでいる事も、疑問に思う事も。明日になれば解決するであろう。今日はもう眠れ」
部屋の電気が消えて、シオさんが隣に寝そべる。俺を真ん中に3人で川の字になる。
ベッドは余裕がある筈なのに、すごく狭い。
「ほれ、美少女のぬくもりなのだ!」
「ふふっ、人の身体は不思議だね。こうして抱きつき合っていると、心も温かく感じるよ」
左右から二人が抱きついていた。
「もー……。二人とも、これじゃ眠りにくいですよ!」
そう口では抵抗してみせるが、なんだか温かくて心地よくて。笑い合ったりくすぐり合ったりするうちに、眠りに落ちたのだった。
明日は何が待つのだろうか。この戦いの先に何が待つのだろうか。
今はその問いに、目を瞑って。
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深夜、ホテルのロビーにて。
テッテッテッテッ。
誰もいないロビーに、可愛らしい足音が鳴る。
「アンッ! アンアンッ!」
「こんばんは。今日はどうされましたか?」
受付に座っていた少女は、足下の犬へと丁寧に応対する。
「アンッ! ワフッ! ぶるるる」
そう言って首を回転させる犬。蓄えた胸毛の隙間から、何かの手帳が転がり落ちる。それを拾って確認する少女。
「あら。まぁ、長期滞在の許可が降りたんですね。よかったですね、漢太郎さん」
「ワフッ!」
そう鳴き返すと、犬は肉球を鳴らしながらホテルの中へ入ってゆく。その足音は、兎立織達が眠る客室へと、こっそり入っていった……。
1章 完
次章 チーム編 「友情・邪神・ライバル〜アイドルって辞められないんですか!?〜」
おまけのコーナー
キラの秘密
本名 キラ・ニャフルゥワ
年齢 世界6転歳 唯一無二な存在の為性別無し 邪神
黙って居れば美少女。口を開けばキャラが濃く尊大、自由にさせれば問題を引き起こすお転婆アイドル。中身は傍若無人で狡猾な邪神。人を理解する事もされる事も無く、元の世界では非常に恐れられていた。だが新たな神が降臨し、権力争いに負けて追放されてしまう。この戦いに負ければ後がない為、必死でアイドルをやっている。
高い位置でポニーテールにした金髪に、金の眼をしている。兎立織と対になるような、黒と金色の衣装を纏っている。




