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生き残った召喚勇者の最後の言葉

作者: ユーリアヌス




  ーおや、お嬢さん。あんたみたいに綺麗な人が、こんな路地裏で何をしとるんだい?さっさと表通りに戻りなさい。じゃなければこの歳とった浮浪者に襲われるぞ。


 ーどうしたそんな顔して...。


 ー何?あぁ、そうかそうか。浮浪者が何かわからんのか。すまんな、自動翻訳が仕事してくれなかったみたいじゃな。そうだよなぁ。対応する言葉がなけりゃ翻訳なんぞできるわけが無いものな。


 ーでは僭越ながら、この年食ったジジイが教えて差し上げよう。浮浪者ってのはな、わしみたいにこうして日がな一日道端でぼうってしてるやつのことさ。



 ー...何でってそりゃあお前、住む家も無し、宿を借りる金も無し、仕事もないとくりゃあ、こうして道端で暇を潰すしかないのさ。


 ー仕事なぁ。すれば良いんだろうが、くだらん意地でここまでやってこなかったからのう。もう老い先短い身でもある。もう少しこの意地を貫き通してやろうってことさな。


 ーそうそう、お嬢さんみたいに親切な人が食いもんくらいは恵んでくれるからな。腹が減ることはこっちに来てからはとんと経験しとらんよ。


 ーそうかい?そう見えるか。まぁ確かにあんたの言う通り、儂はこの国出身じゃないっっとちょっと待ってくれ、お嬢さん。話は最後まで聞くが良いよ。ちょっと、いやいや、殺すのは少し待ってくれんかの。先に話をさせてくれ。話せばわかるって言うじゃろ?まあ元ネタはわからんだろうが、取り敢えず落ち着いて、話を聞いてくれ、な?頼むよ。


 ーふぅ、あんた見かけによらず強いみたいだなぁ。まあ儂には相手の強さを推し量るなんて芸当できやしないんじゃがな。


 ーあぁうん。わかってるさ。話を始めるとしようか。だがお嬢ちゃん。ひとつだけ約束しちゃぁくれんか?これからまあそれはそれは詳しく話すつもりじゃが、儂は本当に人間の屑と言われても仕方がない出来損ないさな。


 ーいや、いいんだ。卑下してるんじゃないさ。本当の本当にそうなんじゃ。それでもな、こんな人間の屑の話だが、カケラでもいいから覚えておいて、書き残してくれんか?この哀れな老人の戯言を後世に残してはくれんか?それさえできれば、儂は満足してあの世に行けるんでな。



 ーそうじゃよ。儂はこれから死ぬんじゃ。あぁわかるとも。儂が今生きてるのは、最後にお嬢さん、あんたと話すために女神様が時間を与えてくれたからじゃ。


 ーさて、何処から語ろうか?まずはこの世について少し講釈を垂れるとするかの。しばらくはあんたにとっちゃ常識を長々と語るだけになるが、まぁ我慢してくれや。


 ーこの世界には人間と魔族と呼ばれる奴らがいて、両者は互いに延々と争っとる。人は高潔で清く正しく、思いやりが深く誠実で...とありとあらゆる褒め言葉を並べても足りないような、そんな素晴らしく『善良な』生き物だ。


 ーそんでもう一方の魔族はといえばこれがまた筆舌にし難いとんでもない奴らだ。他者を顧みず、自分勝手で、強欲で、怠け者で、傲慢で...と所謂『極悪な』生き物ってことさな。


 ーおっとお嬢さん、焦れてきたね。そんなことわかりきってるって言いたいんだろ?それがな、儂にとっては違ったのさ。そろそろ儂の出身を答えるとするかの。



 ーむかしむかし、多分まだお嬢さんが生まれてすら無い頃。具体的に言うと...そうさな、70年と数ヶ月前じゃな。その頃の人間たちは魔族に押され始めていた。それに危機感を持ったエライ方々が、そりゃあもう尋常じゃない時間と金をかけて何かを行った。何かわかるかな?




 ーそうそう。正解じゃ。流石じゃな。お嬢さんは見かけ通り頭もいいときた。おっと照れなさんな照れなさんな。


 ー話を戻そうか。あんたに答えてもらった通り。勇者召喚ってやつじゃ。当時はそれはもう熱狂的に迎えられたらしいのぅ。そしてな、何を隠そうこの儂もその時召喚された一人だったんじゃよ。



 ーおぉ?その目は全くカケラも信じてないようじゃな。だがまあ本当かどうかはどうでもいいさ。これは死にかけの老人の戯言だからな。


 ーとにかく、儂も勇者として召喚された。知っての通り、その時召喚された()()()()勇者は39人。ところが実際には40人が召喚された。その記録に残ってない一人が儂なんじゃよ。


 ーおっと、お嬢さん心当たりがあるようで、もしかして事情通かな?まあいいさ。それで記録に残ってない理由だが、それがもうなんというか。単純に儂が人間の屑だったというただそれだけよ。


 ー少しあんたにはわかりにくい話をするがな、儂は、まあその時は勿論17歳の若造じゃったが、元いた世界でもそりゃあ悪い奴でな。学校の帰りに万引きをする、近所の立ち入り禁止の場所に勝手に入るは、夜中に家を向け出してトンネルにスプレーで落書きをしたりとまあ散々なやつだった。


 ーそれでも、今思えば我が身が可愛い子悪党でな、周りの人間にはバレんように、慎重に慎重に悪さをしとった。


 ーそんなふうに過ごしていたある日、教室の床が光ってこっちに飛ばされたっちゅうわけよ。


 ー...時に事情通のお嬢さん。勇者ってのはどう特別なのか、わかるかい?


 ーそうそう。神様から強い加護を受けて普通の人の何倍も強く、その力で持って人類の敵に立ち向かう。それが勇者だな。ところがこの加護っていうのはな、元いた世界で最低限の徳を積んで無いと与えられん。


 ー翻って当時の儂は、どうしようも無く卑しい子悪党じゃ。まあ当然のように加護は与えられなかった。


 ーまあそういうわけで、儂は一人加護が与えられず、悔しいやら悲しい、恥ずかしいやら、そんな感情が入り混じって耐えきれんかった。儂は勇者の役目を返上して、すごすごとお城から出て行った。これが儂が勇者に数えられなかったわけじゃよ。


 ーそんでまた話が前後するが、この世界では人間ってのはとんでもなく『善良な』生き物じゃな?ところがだ。元の世界では違っていたんだ。むしろ大昔の学者の中には『人間の本性は悪である』なんて公言した者もいたくらいじゃ。


 ーこっちに来るまでは、人間はそんなすっぱりと割り切れるもんじゃ無いと思っていた。こっちにきてからも、人間が一方的に善だってのにはなんとなく胡散臭さを感じた。どうせ蓋を開けてみれば醜悪な側面を押し隠してるのが垣間見えるんだろうってな。


 ーところがだ。この国はそんな儂からすると少々()()()()()()。まず、あんたと出会った時にも言ったが、浮浪者がいない。そして悪人もいない。なんなら悪者を捉える警察も、悪者に罰を与える裁判官もいない。


 道を歩く人は大人も子供もみんな明るい顔をしてる。稀に悲しそうな人を見かけるが、そうした人は通りかかった人に慰めてもらえる。そもそも貧乏でも生活に困ることがない。近所の助け合いで十分に生活できるからな。


 ーうん、そうさな。あんたにとっちゃそれは当たり前の事以上の感想は出てこないだろうよ。けど俺はそれでもまだ信じられなかった。こう思ったんだ。「市井の人たちは言っちゃあ悪いがそんなに豊かじゃ無い。だから進んで助け合うし、勤勉で真面目なんだろう。それなら高い地位に付いていて余裕のある生活をしている奴ら...難しくいうと特権階級って奴だな。そいつらは腐敗しているに違いない」とな。



 ーおいおいお嬢さん、そんなに怒らんでくれよ。怒ってないって?いやいや、目をみりゃああんたが何考えてんのかくらいはわかるさ。「私が尊敬している人々を侮辱するなんてなんて奴だ」ってところか?まあその様子を見ると当たらずと言っても遠からずって感じかな。それじゃあ話を続けようか。


 ーともかく、そう思った儂はひとまず一番調べるのが簡単そうな場所を調べた。教会だよ。元いた世界でも教会の堕落や世俗化はいろんな事を引き起こしてきたからな。一番の有望株ってわけだ。


 ーそうしていろんな街の教会に行ってそこの責任者と話もした。まずびっくりしたのが、まるまると肥え太ったような坊主がいない事だな。みんな健康的に痩せて引き締まった身体をしていた。そんで話をしてみると、みんな敬虔な信者で神の僕として人々を助けるって意思を物凄く感じたな。


 ーまあ要するに、教会は白だったってことさ。まあ本当に黒がいるのかどうか、この辺で少し怪しく思えてはきたんだがな。それで次は貴族について調べたんだが、まぁあんまり勿体ぶるのもアレだな。白だったよ。


 ー自分たちは民を守るためにあるって感じの理想を掲げて魔族との争いに全力で当たっていたな。戦いが苦手で後方支援を担当する貴族はといえば、物資が不足しないように万全の備えをしたりだとか、魔族に荒らされた村の再建を助けたりだとかで駆けずり回っていた。


 ーふぅ、この話をしてると嫌なことも思い出しちまうのぅ。...聞きたいか?話を聞きに行った貴族が次の日には全身傷だらけになりながらも子供を守って死んだりだとか、数年間の苦労の末に再建した村を、魔族が迫ってきたがために泣く泣く放棄した村民だの。...すまんの。お嬢さんに聞かせる話では無かったなぁ。ああいうのを見ていられない光景っていうんじゃろうなぁ。





 ー...少し気分が沈んだが話を戻そうか。とにかく、儂はこの目で見て、この世界の人間は皆『善』であるとの確信を抱いた。最初はなんていうか...感嘆。そう感嘆していた。


 ーその時になって初めて、色眼鏡を外して人々が儂に向けてくれる純粋な好意を受け入れることができそうじゃった。このままこの理想郷を謳歌しようとしていた。そんな時じゃ。儂が別れたクラスメートの勇者達と出会ったのはな。


 ー儂が勇者じゃなくなった経緯はさっきアッサリと話したが、実際はもっとごちゃごちゃした騒動の果てに、こっそりと城から脱出したんじゃ。だから儂としてはあいつらに会いたくはなかったし、向こうもこっちのことなんか忘れてるに決まってると勝手に決めつけていた。


 ーじゃが、再開したあいつらは儂のことをちゃんと覚えていたし、結構気に病んでるものもいた。脱出するまでに儂がどうしようも無い子悪党だということは知れていたし、全面的に儂が悪かったんじゃが、どうも向こうとしてはこちらを責める気はないようだった。儂は当時のことを謝り、暫くクラスメート達と行動を共にすることにした。



 ー...ふぅ。いやいやお嬢さん、心配は要らんよ。この話が終わるまでは死なんからの。安心せい...とは言っても難しいかのぅ。...話を続けようか。


 ー彼らに同行して、儂は不思議なことに気づいた。彼らの間で()()()()()()()()()()ということに。


 ーもちろんこの理想郷のような優しい世界で暮らすお嬢さんにはわからんと思うが...なに?言い方に棘がある?くくく、それくらいは死ぬ間際の老人の僻みじゃと思って流してくれ。ともかく、儂らがいた世界では他人がいるというだけで争い事が起きるんじゃ。


 ーそうじゃなぁ。例えばここにリンゴが三個ある。これを儂とお嬢ちゃんとで分けようと思う。ところで儂は今リンゴを見ておらん。お嬢ちゃんはどうする?


 ーそうじゃな。一つと半分をとって残りを与えるのぅ。儂も多分そうするじゃろうな。じゃがな。儂らの世界では相手が見ていない間にリンゴを2つ、挙げ句の果てには3つ食ってしまうものもいる。ほんとに酷いやつだと自分で3つとも食っておいて「ここにあったリンゴを食ったのはお前だろ!」てな具合に相手に罪をなすりつけることもある。


 ー信じられんじゃろ。だが悲しいことにこれよりもっと酷いことをもっと大きな規模で起こしたりするのが儂らじゃ。


 ー少し話が逸れたが、この時の儂は、こう思っていた。

「この世界の人々は真に善なる人々だが、あちら(儂らの世界)からきたクラスメート達は自分と同じように単純に善なだけの生き物では無い」とな。ところがどうだ?あいつらは争うどころか自然と協力して勇者としての役目を果たしておった。


 ー最初は単なる違和感だった。共に旅をする中でその違和感は増していった。彼らは、儂以外の39人は...いや38人は、彼方にいた時から明らかに変わっていることがあった。


 ー元いた世界では生きていることも面倒くさいとばかりに何事にも不真面目だった奴が、「民を守るため」とか言って毎日欠かさず鍛錬をするようになった。彼方では虫も殺さんような大人しい性格をしていた子が、なんの躊躇もなく魔族に刃を突き立てるようになった。彼方ではおちゃらけていて空気が読めないと言われていた奴がみんなの雰囲気を盛り立てるムードメイカーとなっていた。


 ー違和感は個々の変化に留まらなかった。まず彼らの行動は歯車ががっちりと噛み合うようだった。誰も余計なことをせず、やるべき役割をこなし、互いの行動が完全に噛み合っていた。


 ー儂からしてみればこれもおかしかった。一日くらい誰が何かしらの不手際をして予定が少し狂う日があってもいいはずなのに、一緒に旅をした2年ほどの月日の中で、彼らの歯車が狂ったのは、たったの一回、儂が彼らと別れた日だけじゃった。




 ー...




 ーどうしたって?何、少しなぁ。思い出しておった。彼らと過ごした日のこと、そして()()()のことをな。




 ー...そろそろ時間がなくなってきたようだの。さっさと話を終えようか。いや、いいんじゃよお嬢さん。儂はに残された時間は本当に後ごく僅かなんじゃ。儂が今なんとか話せているのも、女神様の慈悲という奴なんじゃ。お願いだからお嬢さんは儂の話を聞いてくれ、頼む。



 ーそうそう、いい子だ。さて、()()()のことを話す前に一人先に説明しておく必要があるな。おそらくお嬢さんも知っとるじゃろう。道半ばにして斃れた勇者、39人の勇者を実質敵に率いていた、勇者の中の勇者、勇者タチバナについてじゃ。



 ータチバナは元々クラスの纏め役だった。誰に対しても公平で、悪いことははっきりと悪と断じる。それでいて対応が柔軟で人当たりも良かった。とまぁそんなことは今あまり関係ないな。重要なことは、タチバナも儂が感じた違和感を覚えていたことじゃ。



 ーある日、儂が違和感について考えていると、タチバナが隣に座り、ズバリその違和感について聞いてきた。儂は少し動揺しながらも、思ったことをありのままに話した。すると奴は自分もその違和感を抱いていたと、そう答えた。そして続けた。


 ー「日々自分の中のドロドロとしたものが浄化されていくような、救われたような、そんな気持ちになる。だがそれは言い換えれば自分が知らぬ間に自分でなくなっていくような、言い方は悪いが洗脳されていくようなものだよ。後何年、何ヶ月、何日今の自分を保っていられるかわからない。この心の中のドロドロとした醜い感情が、全て無くなった時、自分は自分でいられるのだろうか?君はどう思う?その時のことを考えると、どうしてもこの女神様の与えてくれた救いが、薄寒く感じてしまうのさ。」



 ーお嬢さん。あっちの世界にはな、完璧な人間なんてそうそういなんじゃよ。みんな心のどこかに醜さを抱えたまま生きておる。その醜さを解消するも放置するも儂ら次第じゃ。言い換えれば、心の醜い部分とどう折り合いをつけていくかが人生であり、それは本人にしか許されないことなんじゃ。



 ーその時儂は、この世界を見てきて、少しずつ感じていた違和感の正体を知った。それから儂は勇者達のキビキビとした姿も、日々を健気に清く正しく生きている此方の人々の姿も、なんだか薄寒く覚えるようになってしまった。


 ーそんな中タチバナは特別な位置を占めていた。儂が感じる恐怖を唯一アイツだけがわかってくれる。向こうも儂と話している間は自分の醜さを再確認できる。少し歪んではいたが、間違いなくあいつとは親友に限りなく近い関係じゃった。



 ー...そして運命の日がやってきた。その日、儂と勇者一行は魔王直属の四天王とかいう連中に遭遇した。激しい戦いの中、タチバナとその仲間達は果敢に立ち向かい、誰一人殺されることなく彼奴らを討ち果たした。...儂か?儂は戦場の隅で震えておったよ。そんな顔をせんといてくれ。なにせ儂には戦う力も、他人を指揮する能力も、仲間を癒す力も、なぁんにも無いんだからの。そいつに戦うことを求めるのは酷じゃぁないか?


 ーまあいい。問題は戦いが終わった直後だった。激しい戦いの中が終わると、限界まで力を使い果たした勇者達は次々と意識を失っていった。タチバナだけはまだまだ平気そうだったが、その時突然、あいつはまだ立っている仲間を次々と気絶させて回った。


 ーあぁ、儂もあいつが何をしてるのか分からんかった。最後の一人を気絶させると儂のところに来た。


 ー「なぁ君、もう限界だよ。さっきの戦いの中で自分の中のどす黒い感情が殆ど浄化されてしまった。もう自分が自分じゃなくなる前に、君にお願いしたい」


   ー私を殺してくれー


 ーあいつは...あいつはそう言った。儂は何がなんやら、すっかり動転して意味のないことを喚き散らした。奴はそれを黙って聞いていたが、いつも通りの、あの強い意志を宿した目で儂をじっと見ていた。


 ー儂がいうべき言葉を言い尽くしてあいつに顔を見ると、あいつは、そう、泣きそうな、それでいて恐怖を耐えているような、それなのに儂を信頼してくれているような、そんな顔をしていた。あの時は場違いにも、人の顔はこんなに感情を表に出すことがあるのかと、そう思ったね。



 ー...儂は、耐えられんかった。何よりあいつが哀れだった。こんな元いた世界からかけ離れた場所に連れてこられて、何年も仲間をまとめて戦い抜き、それなのに、自分を身失おうとしているあいつが。


 ー儂は...あいつを殺した。











 ーこれが、戦いの中で死んだとされる、英雄の真の最後じゃ。...すまんのぅ、お嬢さん。まだ若いあんたに聞かせるのは早すぎたじゃろうか。


 ー...っく、ふぅ。あと少し、あと少しで語り終わる。お嬢さん、あと少しの間辛抱してくれ。



 ーそれから儂は、倒れている勇者達を介抱し、傷の手当てをしたあと、逃げ出した。そのあとは知っての通り、いろんな街を転々と悪さしながら流れるままにここに辿り着いた。




 ーお嬢さん。なぜこの世界の人は善なのだと思う?



 ーそう、女神様がそうお造りになったからだ。聖書曰く、「神は47日の間邪神と争い48日目に世界の善なる部分を素に自分を助けるものとして人間を生み出した。人間の力を借りた女神は49日目に邪神を討ち果たし、敗れた邪神の亡骸は地獄となった。」...この世界の人は、そもそも()()()()()()()()()()のじゃ。そして異世界から召喚された勇者は、勇者の加護を通じて、徐々にその心の醜さが浄化され、ついには此方の人々と同じになる。


 ー一体何を考えて女神は人をこのように創ったんじゃろうなぁ。ところでお嬢さん、最後にお嬢さんに考えて見てほしい。


 ーこの国は、神話によると創世記の後、女神と邪神の戦いの直後に建国されたらしい。国の歴史としては、口伝で伝えられた部分も含めて約10000年じゃな。


 ー一方、儂らが元いた国は、向こうでは最も古い王家が治める国...治めてはおらんか、ともかく、要するに最も古い国じゃ。その歴史は大体2600年と言われている。


 ー此方の方が圧倒的に長い歴史を歩んでいるが、向こうでは人が音よりも早く空を飛び、世界で最も高い山の3倍の深さがある深海の様子を探っておった。人は星を出て宇宙へ飛び出し、中には月にまで到達した人もおる。人々は、これくらいの大きさの箱を触るだけで殆ど全てのことができるようになった。



 ー翻って此方はどうじゃ?口伝の部分を抜かしてもまだ8000年この月日、それだけの時間がありながらどうして此方は彼方に比べて遅れているのか?儂はそれが、女神様が人間をこのように創った理由だと、そう考えておる。







 ー...少し、いや、だいぶ話が長くなってしまったのぅこれが儂の人生最後の望みじゃ。儂の話を書き残してくれ。そしてっっゲフッゴホッ、次に、勇者が現れた時、加護を持たない、者がいれば、ゲホっゴホッゴホ、この話を聞かせる、よう伝えて、おく...れ...。



 ーそれ、では、おじょう、さん。最後まで、ありが...と...ぅ。



補足:勇者の加護について

勇者の加護は、異世界から召喚された勇者に魔族との戦いに十分な心身両面での強さをもたらす物です。さらに、この世界の“善良な”人々を汚さないように、少しずつ勇者の精神をより高潔に、より誇り高く、より優しく変えていきます。タチバナ...君?は元いた世界では結構闇が深い生い立ちを背負っていてそのせいで表面上は完璧だけど内心はドロドロしてて、それでもそんな自分と向き合って克服した過去を持っています。だから、その“心の中のドロドロ”が消えてしまうのが許せなかったのです。

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