わがまま
「ほら行くぞ、場所教えろ」
「…ねぇ……」
「んん?」
なんだ?まだなんかあんのか?
いつ巡回がきてもおかしくないんだから早くしてくれ……
「……今日だけはやっぱり帰りたくない」
「お前なぁ…この流れでこれ以上わがまま言うなよ、巡回が来て一番困るのはお前だと思うぞ?」
「わがままじゃない…」
「はい?」
「わがままじゃない……」
「……じゃあ なんだよ?」
いつもよりやさしめに聞いてやった
「…お願い…」
「……お願い?」
「そう、お願い」
「お願い……ね」
「このまま帰っても眠れる気がしないし……、なんか家に帰るのがコンビニの前にいるのよりコワい……」
「………」
いや泣き疲れて寝た分当然寝れないだろうし吐きそうになるくらい満腹になってればさらに寝れないだろうけど、じきに2時回るし、どっち道寝ついても中途半端にすぐ起きなきゃいかん時間までたぶん寝れないだろうが
「あともともと最近寝不足でこのままじゃ生理きたとき色々やばいから免疫とか下がってたぶんコロナとかにもなっちゃう……」
「…………」
寝不足は多分ウソだな、昨日も普段と変わらず走り回ってたし不調の気配はなかった、それに色々ざっくりしすぎだろ
「………」
「あともうユウヤの家知っちゃったからこれから同じようなことがあったらたぶん家の前に行っちゃう……」
「お前とうとう本性現したな??」
その手は食わねえよと言いかけたとき
「お願いっ…」
と真っ直ぐ目を見ながら訴えてきた
心なしか目が潤んでるようにみえて怯む……
1分ほど悩みに悩んで葛藤の末
「ふたつ、いや3つか」
約束できるなら、今夜だけは…家に泊めてやる
顔の前に三本指を突き出して言った
ひとつ
受験諸々に対して、ちゃんと自分なりの答えを出すこと、友達や学校の先生、もちろん俺に相談してもいい
そして出した答えを親に伝えること、わかってもらえるよう努力すること。
ふたつ
それでもわかってもらえない場合、また同じようなことがあった場合、特別に番号教えてやるから、家出なんかしないでその前に俺に電話しろ、そして番号は誰にも教えないこと、俺が教えたことも誰にも言わないこと。
みっつ
何かあったらひとりで悩むな、最終的に結論を出すのはお前だけど、思い詰めて家出するほど悩む前に、誰かに相談しろ、ラジオとかでもいい、FM放送で平日夜に学生向けのやつがやってる、小学生もたまに採用されてるし、匿名で他人にしか聞けないこともあるだろ、とにかくひとりで抱え込まないこと。
「以上の三つが守れるなら、今晩だけうちで寝かせてやる」
「……わかった」
返事が若干二つ返事で怖いんだが……
「こういう約束事を守るときに『わかった』でいいのか?」
「…はい、わかりました、約束します。」
本当に大丈夫か…?
「一応念押しとくけど、これを破ったらもうお前の信用は地に落ちると言っていいからな?信用っていうのは獲得するより取り戻す方が比べ物にならないほど大変だからな?今後何か問題があったら俺は直接対処せず、誰かに任せることになるからな?」
ちゃんと肝に銘じておけよ
とさらに念押しして
「…はい」
まぁこれ以上言わなくても我ながらくどすぎるし、万が一でもなければこいつのことはだいたいみんな把握してるはずだから大丈夫だろ
説教なんてされるのはもちろんするのも大嫌いなはずなんだけどな、俺も歳とったもんだ
「じゃあとっとと行くぞ」といって車を出そうとすると「うんっ!」と今までで一番かと言うほどの笑顔をみせやがった。
若干憂鬱になりながらハンドルを切った