車中
コンビニでコーンパン、からあげ棒、オレンジジュースを買わされた。おれはおでんと肉まんと野菜ジュースを買ってキチンと防犯カメラにおさまるであろう位置に駐車した車に戻った
「あの〜…いくら暖房つけてるとはいえ流石にこの格好は寒いんだけど…」
ここまでの往復にあたり寒いといって上着をぶん取られた
くさいんじゃなかったのかよ…
「えー女の子のカラダはひえやすいんだよー?生理もそろそろだし、まったくこれだからモテない男は」
「……」
言い返すだけ無駄そうだったから暖房効いてきたら返せよとだけ言ってたら「しょうがないな〜」といってパンにかぶりつき始めた
小食な方でもないはずだけど勢いからしてよっぽど腹が減ってたようで
「晩飯食べてないのか?」と尋ねると
「食べてない」とモグモグしながら答えた
お行儀のよろしいことで…
「それ食ったらざっくりでもいいから話せる限り話せよ?」おれも肉まんにかぶりつこうとしたら
「あっ!待って!」わりと大きめな声に驚き何だよと尋ねる
「肉まん半分ちょうだい」
「は?それで足りないのか?」
まぁ夕飯食べてないならそうか
「わかったわかった、半分残しといてやるよ」
「は?ユウヤの食べかけなんか食べれると思ってんの?」
「お前さっきおれのコーヒーもろ口つけたよな…」
「あれは緊急だったしそれに飲み物と歯形がついた食べ物一緒にしないでよ、ほんとデリカシーないんだから」
「……」
空腹と何かのストレスで怒りっぽくなってるだけだろうと黙って口元まで運んだ肉まんをふたつに割って渡してやったら「ありがとー♪」とわりと素直にかぶりついた「ん〜っ!やっぱり肉まんはファミマのだよね〜ユウヤは食のセンスだけはいいもんね〜」いいから食えとおれも肉まんを食べつつ野菜ジュースを飲みながらとりあえず食事中は修学旅行どうだった?とか男子ってほんとバカだよね〜
といった取り止めもない雑談をした
おれが食べ終わりスマホでLINEの返信やらなにやらをタプタプしていると「…ちょっとからあげ棒最後の一個食べて……」と言われて「お前絶対肉まん余計だったよな?」すこし厳しめに言ったが だって匂いでここの肉まんならって食べたくなったしほんとに食べられそうなくらいおなか空いてたんだもん………今日イチ、いや出会ってから一番しおらしい声で言うからハイハイとパクっと食べてやった
こんな場面で使うなやそんな顔
まぁ胃袋ってなんにも腹に入ってないとかえって入らないように出来てるしな
「ねぇ、その野菜ジュースひと口ちょうだい…?」
「お前たったいまからあげおれに食わせたよな??」
「いや、お腹いっぱいすぎて気持ち悪いんだもん…ほんとにちょっとでいいから……」
吐きそうな声で言いだすので好きなだけだぞ…と渡してやった
まぁ栄養も偏ってそうだったしちょうどいいか
落ち着くのを待ってたら不意にラジオの曲に反応した
「あ、この曲好き」
「ん?あー最近やったら聴くよな、夜に駆けるもいいけどおれは群青?の方が好きだなぁ」
あー私もそっちの方が好きかも、と返してきたところでどうやら落ちいたようなので話を切り出した
「んで、何があったんだ?」
「……」
「仕事上、ってわけでもないけど当然守秘義務はあるし、これ以上黙秘を続けられると流石に今度こそ警察に連絡するしかなくなるんだが」
少し黙ってからわかった…としぶしぶながら経緯を話しはじめた
────
「なるほどねぇ、しかしなんでこの時期に受験?どう考えてもお前の成績じゃ間に合わないだろ」
「成績が悪すぎるからこそだよ…」
聞くとAO入試のような形で入れる中高一貫の女子校で、学力はそこまで必要ないらしい
幸か不幸か運動神経は何気にいいしなぁ
「問題はそっちじゃないよ……」
「あ…?」
「全寮制なの…そこの寮ものすごく厳しくて夜ふかしもまともにさせてもらえないって……」
「あー…」
「スマホだって使用時間決められてるから買ってもらえてもオタ活ができなくなるぅぅ……」
「あ゛ー〜……」
そこかよ……
「あと勉強は出来なくても学校でみっちりさせられるから問題ないんだって……」
「なるほどねぇ…」
至れりつくれりってわけですね…
「それにそんな頭じゃあんた絶対悪い男に騙されるって…」
「…………」
否定できないな……
こいつはほんとに造形は整いすぎてる
容姿さえ失わなければ男に困ることはないだろう
ただ逆を言えば容姿だけの女なぞロクな男が寄り付かないし同性にも疎まれるだけだろう
結論から言えばこいつの親の判断は正しい、と言えそうなのだが
「お前はどうしたいんだよ?」
「え?」
「いや、お前自身はどうしたいんだって聞いてんの」
「ユウヤってほんとバカだよね……さっきから受験なんかしたくないって言ってるじゃん…」
「いやそうじゃなくて」
お前はどうしたいんだ?ともう一回尋ねると首を傾げてしまった
「要するに、したくない、じゃなくて、したいことはないのか?って話だよ」
「したいこと……?」
「そう、なんかないのか?」
ないよそんなの……とため息をついた
ま、だろうな
「ちなみに親とはどう喧嘩したんだ?」
「どうって……夕飯食べる前に突然話があるって言われて……一方的に話されて反論しても聞く耳持ってくれなくて…」
「ふむ……姉ちゃんはなんて?」
「アイツはアイツで部活とかで最近イライラしてるせいか知らないよとしか言ってくれないし、弟はおなかすいたって騒ぎだすし……そのままもういいって言って部屋に…」
「…なるほどね。」
そこで泣き疲れて━━てまてよ…?
「お前ここに何時に来た?」
「ユウヤが来る10分くらい前かな?家に一応ご飯はあったけどなんか食べたくなかったからコンビニで買おうとして来たけど財布忘れて…」
サザエさんかお前は……とは流石に言わなかったけど、それでか……こんな田舎ひとつの交番でまわるコンビニなんてせいぜい5軒あるかないかだろうし巡回なんて1〜2時間に一回はくるはずだし、何時間もあんな格好でいたら流石に風邪ひいてておかしくない
悪運の強い奴め……
「んで、俺のLINEに通知のひとつも来てないってことは、親に気づかれずにまんまとコッソリ出てこれたと」
「そう、なんじゃない?」
っっはぁ〜ー……っと、深呼吸をしながらため息をつき
「よし、腹も満たされただろ、帰れ」
「は?ここでわかったっていうと思う?」
「おもいませんね」
だよなぁ……、さてどうしようか……
「今晩はつきあってよ〜」
「急に甘えた声色使うんじゃねえ」
「お願い〜家に連れてけとは言わないからさ〜」
「当たり前だろ」それこそやばいってさっき言ったよな?
「車なんだしードライブとか〜隣町のファミレスとか〜……なんだったらホテルでもいいんだよ…?」
「お前意味わかって言ってる…?」
怖えんだよ高学年から中坊は一番……その辺の認識とかが……
「わかってるよ…?もう子供じゃないんだし、そろそろ大人の階段登ってもいいかな〜って、それに好きな人とする時にまぐろ?になってもイヤだし、ユウヤで我慢してあげる〜」
ユウヤもこんな美少女の初めて貰えて人生最大の武勇伝になるでしょ?といって憎たらしく笑った
「とりあえず警察……」
「あーもう冗談だってば!!」
「俺の家もドライブもファミレスもダメ、当然ホテルなんて論外、ちなみにこのままここにいてもそのうち警官が巡回にきてチェックメイト」
「ふっふっふ、果たしてそうかな?ワトソンくん?」
「あ?」
「ここでもし私が、車から飛び出して服をはだけた状態でコンビニに駆け込んで「助けてください!!」って店員さんに駆け寄ったら……ユウヤさんはどうなっちゃうのかなぁ〜?」
ニヤニヤとしたり顔で逆王手をかけたつもりらしいが
「残念ながらそれをやったらお前が詰む」そういいながらスマホを取り出して画面を見せた
「…?なにこ……ッ!?」
「そう、お気づきいただけただろうか、おれはお前に声をかける前からリバースカード〝ボイスレコーダー〟のアプリを発動していたのだよ」
「ッな!?」
「要するにここ2〜3分の会話だけでもおれにはアリバイがある、この意味がわかるな?」
「…クッソぅ……卑怯者……ッ‼︎」
「残念ながらこれは証拠を残す上で絶好の手法なのだよ、ガキの浅知恵なぞお見通しなんでね」
危なそうな時はお前も是非使えと言って
「行くぞ、できれば場所を把握しておきたくないけど、送ってってやるよ、もちろん歩いてな」