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㉘ SPプランとスマホデビュー

 

 学校帰りに自宅に寄って、最終チェックをする。部屋の掃除もした。お菓子も準備した。お菓子はコンビニで買ったチョコ系としょっぱいスナック系のお手軽なものだけど、お茶は冷蔵庫から出したばかりの冷たい麦茶と、愛花がホットを希望した時用に、ケトルにお湯と紅茶、中国茶、緑茶、紅茶ポットに急須も準備した。


 紅茶ポットはガラス製で中の茶葉が見えるヤツだ。中が見えるんだから、茶葉も見た目のいいものをとネットで探しまくった。工芸茶がかわいいと思った。お湯を注ぐと花が開くように咲くんだ。花が開くように咲くなんて、まるで愛花の笑顔みたいだ。


 きっと愛花も楽しんでくれるに違いない。紅茶は残念ながらティーパックだけど。座布団にクッションも準備済みだ。コーヒーがないのは愛花が苦手だから。飲むと頭が痛くなるらしい。


 クッションは前々から愛花のために準備していた。愛花に似合うように白を基調とした、淡いピンクの小花柄だ。そのクッションを抱っこした愛花と話すんだ。想像しただけでニヤケる。


「よし。完璧だ」


 俺は一つ頷き愛花に「今から迎えに行く」とメールを入れた。


 愛花の家に着くと、玄関で靴を履いているところだった。その隣には心配そうに愛花を見つめるおばちゃん。今日は日勤じゃないみたいだ。俺が挨拶をするとおばちゃんは笑顔で送り出してくれた。


 たった数分の道のりだけど、愛花はメガネに帽子をして予防線は完璧だ。そして、手を差し出してくる。俺の手に愛花の小さめな手が重なった。

 ナイトの散歩コースに俺の家があるため、愛花も迷うことなく歩をすすめる。嬉しそうに頬を綻ばせた。


「アイカ、ハルキの家くらいなら余裕で行ける」


 顔をあげて自慢気にニカッと笑った。ふと一つ疑問に思う。


「前に誘ったとき断ったよな?」

「うん。ハルキは毎日来てくれるし、行けると分かってるところに行くのはあんまり意味がないかなって思って」


 そんな理由だったのか。ちょっと寂しいぞ。俺の部屋に興味はないのか。


「でも、この時間帯に家から出るってことが訓練になるって分かったから」


 家が近すぎるので、そんな二言、三言話すだけで俺の家に到着だ。愛花を家に招き入れ、スリッパを勧める。何を隠そうこのスリッパも愛花のために準備したものだ。正確には愛花用に前々から準備していたものを昨日下したのだ。


 すっかり秋になり肌寒くなってきたので、もこもこスリッパだ。愛花の部屋は基本的にシンプルだけど、クロックスもパソコンも他の小物なんかも赤が多いから赤のギンガムチェックにしたのだ。もちろん夏用スリッパもある。どの季節にも対応可能だ。


 いつ来ても大歓迎だし、愛花のかわいい小さなきれいな御御足(おみあし)様と、我が家人の汚い足を同じスリッパに通すことなどできるはずもない。


 ちなみに俺には2つ下の弟がいるのだが、この弟が裸足でどこでも歩き回る。どこを歩いたか分からない足でバタバタと歩くので、廊下もきれいとは言い難い。弟の足跡と愛花の足跡が重なるなんて考えただけでも気持ち悪い。



「ここが俺の部屋」


 いつもはぐちゃぐちゃの足の踏み場もない部屋をキレイに整頓した。正しくは愛花の目に触れたくない余計なものは全てクローゼットに投入した。


 最近、母さんに男臭いと言われる部屋なので、愛花に臭いと思われないように、登校前に消臭剤を振りまき窓と扉を開け放して、帰宅後に閉めた。今日が快晴で本当に良かった。雨だったら窓を開け放したままの登校もできなかったし、ジメジメして臭いが更に大変なことになっていたに違いない。


「きれいにしてるんだね」

「まぁな」


 「いつも通りだけど?」感を前面に出してみた。「キレイにしておかないと落ち着かないんだよな」と付け加えた方が信ぴょう性が増しただろうか。


 決して嘘ではない。これからは愛花が頻繁に訪れることになる(予定)から、部屋は常にきれいになる。


「漫画だと、女の子がくるときに慌てて片付けるっていうのが主流みたいだったけど、現実は違うんだね」

「……まぁな」


 ……変な予備知識は持たないでほしい。


「そんなことより座って座って。ベッドにもたれた方が楽だったらそっち側でもいいし、もたれなくていいなら、どこでも」


 俺は部屋の真ん中にあるテーブルを指さした。愛花の部屋では横並びに二人ともベッドにもたれかかって話すことが多いため、自分の部屋と同じように、少しでも楽に過ごせるようにと配慮してみた。


 どうしてもクッションは抱えてほしいので、愛花の座る場所に応じて、さりげなくクッションを移動する予定だ。


 愛花はベッドにもたれかかるように座ると、「ハルキはここだね」と隣に座布団を移動させた。俺は誘われるように隣に座る。


 移動途中にさりげなく足で俺が座るのとは反対側にクッションを蹴った。愛花はすぐ気づいて「もう、そんな乱暴に扱って」と、クッションを抱きしめた。目的達成の瞬間だった。()()()()()クッションが良く似合う。愛花の可憐さとクッションの可愛さが相乗効果をもたらしている。ここは天国だ。


 隠しカメラを設置しておけば良かっただろうか……。いや、それは超えてはいけない一線だ。

 この時を永久保存出来たらいいのに。


「戸は開けたままなの?」

「うん、それが男の部屋に女の子を呼んだときのマナーなんだって」

 

 愛花が家に来ると決まった日から、検索をかけていたのは茶葉に関してのことだけじゃない。『女子を部屋に招くときの紳士的マナー講座』的な検索もかけていたのだ。


 二人で過ごすのはいつもと変わらないけど、場所が変わると受ける印象も変わるかもしれない。自分の部屋で過ごすように俺の部屋で過ごしてほしい。そう感じてくれたら、自分から俺ん家に来たいと言ってくれるかもしれない。


「アイカの部屋にいるときも閉めてるのに、誰か通ったらって思うと落ち着かない」

「閉めておいたほうが気兼ねしない?」

「うん」


 ……俺を試しているのか? いや、この困ったような表情を見る限り、言葉のままの意味だろう。


「じゃあ、閉めておく」

「うん」


 愛花が俺の部屋にいる。小学生の時も一緒に遊んでいたけど、外に出ることの方が多かったし、初めてじゃないだろうか。


 布団は男臭くないだろうか。せめて枕カバーだけでも変えておくべきだった。チラリと愛花を盗み見するが、匂っている様子は見受けられない。臭わないまでも鼻をかすめていたらお手上げだ。そんな自然現象ともいえる事象に対応できる術は持ち合わせていない。


「ハルキ、パソコン使って良い?」

「うん、い……いよ……?」

「なんで、疑問形?」

「いや、なんでもない。どうぞどうぞ」


 ヤバイと思った。まさか検索履歴を見られることはないだろうな……。


 目に見えるところに関して、余計なものはベッドの下のシークレットボックスを含めて、クローゼットの中に排除した。が、パソコンのことまで頭が回らなかった。ドキドキハラハラしながら、机の上のパソコンをテーブルへと移し、起動させる。愛花がワード画面を開いた。


「なにするんだ?」

「今後のことについてハルキに相談しておきたいと思って」

「今後のこと?」

「隆くんが言ってたこと。……アイカてっきりハルキが協力してくれるものだと思って……。ごめん、あつかましかったね」


 愛花がワード画面のバッテンにマウスを合わせる。


「いやいや、どうしてそうなった? 協力するに決まってんじゃん」

「……ハルキがいつも協力してくれてるからって、当たり前のように今回もって思ったことが、だめなような気がして。アイカの問題なのに」


 いやいや、その当たり前に俺がいて嬉しいけど?


「だめじゃないよ。なんでパソコンが必要なのか分からなかっただけ」

「そう。……良かった。ありがとう」


 愛花はふんわりと笑顔を見せて、説明してくれる。


「隆くんが言ってくれてたことを書き出して、そこにお母さんとお父さんが言ってたことも追加して、今後のプランを立てようと思って」

「なんで、パソコン?」


 検索履歴を見られるリスクを排除したい俺は、パソコン使用目的について喰いついてしまう。


「アイカと両親用、それとハルキも同じプラン表持っててくれる方が安心だってお母さんが言ってたから。パソコンだと家でプリントアウトできるから……。なんか、アイカもアイカの親も当然のようにハルキを巻き込んじゃってるね……」


 それは俺がおばちゃんに直談判した結果なのだが、秘密裏に行ったため愛花は知らない。しょんぼりと申し訳なさそうに俯く愛花の頭を撫でる。


「巻き込まれてるわけじゃないから。結果的にそうなってるように思えるかもしれないけど、俺が好きでしてることだ。俺は毎日のように愛花の家に遊びに行ってるけど、別に愛花が来てくれって言ってるわけじゃないだろ? 俺がしたくてしてるんだから、愛花はそんなこと気負う必要はない」


 そう。登校の付き添いとか訓練を除けば、悲しいことに愛花から遊びに誘われたことはない。もう5年近く通い夫しているのだから、そろそろ帰り際に「また明日」くらい言ってほしいものだ。


 愛花は俺の言葉に安心したようにそっと息を吐いて、コクリと頷いた。


「じゃあ、この前隆くんが言ってたことと、アイカの両親が言ってたことを打ち出すね」


 愛花はしていたメガネを外してキーボードを叩きだした。


 早っ!! こんなに早く打てるようになってたとは。


 パソコンの購入時期はほぼ同じなのに、タイピング速度の違いに愛花の凄まじい努力を感じた。

 つらつらと白い画面が黒字で埋まっていく。



【みんなごめんなさい。ありがとう】

1. アイカ一人ですること

 1) ナイトの散歩

2. アイカとハルキが一緒

 1) ハルキの家に遊びに行く

 2) 図書館まで行く(朝や夕方以降などの会社員の出没時間は避ける)

3. アイカと親が一緒

 1) 病院に行く

 2) 図書館以外の場所に行く

 3) 様子を見ながら会社員出没場所、時間帯もトライ

4. アイカとハルキ、亜紀、隆くんが一緒

 1) いろんなところ

5. 注意事項

 1) すべての情報においてみんなで共有し、相談しながら訓練のレベルを上げていくこと



 【みんなごめんなさい。ありがとう】って表題かわいいな。愛花の感謝とやる気が分かる一言だ。……会社員の出没時間……。出没って敵感ハンパないな。


「愛花、この病院に行くっていうのは?」

「この前、ハルキたちと話したことお母さんたちにも言ったの。そしたらお母さんが事件のトラウマ症状が出ているのかもしれないって」

「……そうか。その治療のために通院するってことか?」

「治療っていうよりは心のケアになるみたい」


 愛花の話によると、愛花の両親は、以前からトラウマの可能性を疑っていたが、外に出ることに強い抵抗を示す愛花を無理やり病院に連れて行くことができなかった。しかし、愛花がその可能性に気付き、克服したいと自分から言い出したことで、今のタイミングが絶好の機会と捉えたそうだ。


 病院はおばちゃんの勤務先でもある、誘拐事件のあと愛花も少し入院したところに行く予定だそうだ。記憶喪失に陥った経緯が記されたカルテが残っている病院の方が、根掘り葉掘り聞かれて不必要に傷付くリスクが少ないと考えてのことだそうだ。


「アイカ頑張る。みんなにこんなに協力してもらうことになるんだもの」


 真っ直ぐとパソコンを見据える愛花の瞳は強い意志を宿していた。「それと」と言って、愛花が表情を崩す。へにゃっと嬉しそうに笑った。


「お友達もできたんだし、愛花も持っていた方がいいだろうって、お父さんが買ってくれたの」


 赤色の小ぶりなポシェットから大事そうにスマホを取り出して、俺に見せてくれた。


「俺と色違いだな」

「うん。使い方わからなかったらハルキに教えてもらおうと思って」


 申し訳なさそうに、だけど嬉しそうにスマホを俺に手渡す。


「ハルキのアドレス入れてほしいの」

「もちろん」


 俺が一番乗りだろう。そんな確信に胸を躍らせながら、スマホを指で触れて電話帳を開いて項垂れる。


 ……そうだよな。おじちゃんが心配して買ってくれたんだから、両親の連絡先が入ってるに決まってるよな……。だけど、亜紀ちゃんと隆の番号まで……。家族以外では俺が一番に入れるのが順当ではないだろうか。


 ……ちょっと夢を見ただけだ。良い夢だった。


 自分の電話番号とメールアドレスを入れて、愛花にスマホを返した。


「他の4人の番号は愛花が入れたのか?」

「うん。説明書とかネットとか見て。亜紀にチャットでスマホ買ったこと言ったら、連絡先教えてくれたから。即席SPメンバーだからって隆くんの了解もとってくれて隆くんのも。練習だよって、スマホの方にメールもくれたの」


 愛花が恥ずかしそうに照れ笑いする。俺だって練習相手になりたかった。俺より隆のアドレス登録が先とか悪夢だ。


「亜紀がね、せっかくだからLIMEアプリ? を入れて、グループLIME作らない? って言ってくれたんだけど、愛花やり方分からなくて。グループチャットみたいにできるんだよね?」


 「グループチャットなら授業でたまにするんだけど」と愛花が言う。オンライン授業の中で、学生同士で模擬討論をしたり、学校で挙手して先生に当てられて発言するのと同じような状況にするために、グループチャットを使うそうだ。


「こんな小さい機械でできるなんてハイテクだね。……ハルキ、設定の仕方教えてもらって良い?」


 俺はもう一度愛花からスマホを受け取り、愛花に教えながらLIMEアプリをダウンロードして設定した。画面を見ようと、ぴちょんとくっついてくる愛花がかわいい。いい匂いがする。


 同じ香料をつけても体臭が混ざって誰一人として同じ匂いにはならないと言う。これはもう「愛花の香り」という商品名で売り出すべきではないだろうか。いや、その場合俺が買い占めるけど。


 何人たりとも愛花の香りを所有することは許さん。発案者も購入者も俺だけど、如何せん商品化できないところが痛いところだ。


「ホーム画面のこのマークがLIMEの起動画面になるんだ。ここ押してみて」


 愛花が小さな手でスマホを支えながら、もう片方の指で画面を押さえる。そのまま、俺にメッセージを送ってもらう。


 ふっふっふ。これは俺が一番乗りだ。


「ここ見て。愛花がメッセージ送ってくれたから、このマークのここに1って出てるだろ? これは1件メッセージが来たってこと。これに気付いたらメッセージを確認すれば良いよ」


 「ほら」と言って、俺は愛花のメッセージ画面を開き、返信の仕方を教える。ついでに、愛花のLIME画面でも俺のメッセージ画面を開いてもらい、「既読」が付くのを確認してもらった。


 正直、愛花に何かを教えることはほぼない。頼ってもらえているとは思うけど、愛花と俺では、頭の構造が違いすぎるのだ。こういう、愛花が始めてで俺が経験済みなことくらいでしか教えられることはない。


「これが一連の流れかな」

「ありがとう。じゃあ亜紀にメッセージを送りたいときはここを押せばいいの?」

「そう」


 愛花のスマホを覗けば友だち一覧の中にいる、隆のニカッとした笑顔が目に入った。番号登録で勝手に反映されたとはいえ、憎たらしい。なんで、俺の未来の嫁のスマホの中でお前は笑っているんだ。


 愛花がたどたどしく指を動かして、メッセージを送信した。「できたみたい」とほっと一息ついた。一仕事終えたように得意気なところがまたかわいい。


 すぐに、LIMEの着信音がなった。俺も愛花も着信音は初期設定のままなので同じ音だ。


 同時にスマホ画面を確認して愛花のスマホの着信音と分かる。


「亜紀からだ。『グループ作ったから招待するね。春樹くんの招待お願いね』?」


 愛花にスマホを差し出されて、招待の受け方と俺への招待の仕方を教える。俺は招待を承認して、ちょっとしたイタズラ心でビデオ通話をかけた。


「なんだよ」

「春樹くん、設定ありがとう」


 スマホ画面に映る隆と亜紀ちゃんが喋り出す。俺はあえて隆を無視する。愛花の所持品の中で憎たらしく笑っていた顔がまだ気に障っていたからだ。


「亜紀ちゃん招待ありがとう。愛花への返信が早かったから電話してみたんだけど大丈夫だったかな?」

「大丈夫だよ」


 亜紀ちゃんの声に耳ざとく愛花が「なになに? どうしたの?」と俺にくっついてスマホ画面を覗き込む。俺の顔の横に愛花の顔が映り込む。


 ははは。幸せが止まらない。


 「こうするとグループに登録されたみんなでビデオ通話することができるんだよ」と教えて、愛花のスマホを操作した。愛花は当然のように俺から離れて自分のスマホにかぶりつく。ちょっと寂しい。


「愛花、近すぎだよー」


 亜紀ちゃんが愛花に笑いながら話しかけ、隆は愛花のもの知らなさが面白いのか爆笑している。俺は、スマホにかぶりついて、めいっぱいになった愛花を反射的にスクリーンショットして、保存する。


「うわっ!!!」

「えーーーー? 春樹くん……」

「なになに? どうしたの? なんで二人とも驚いてるの? アイカ何か変なことした?」

「いや、愛花ちゃんじゃないから」

「うん。愛花は何も変なことしてないから安心して」

「お前らも気にしないでくれ。反射神経の誤作動だ」


 シャッター音が二人に漏れてしまったらしい。愛花は気付いていないようで、少し首を傾げるだけだった。訳の分からないことより、ビデオ通話に興味津々だ。


 それからしばらく、みんなでビデオ通話を楽しんだ。ついでに計画書を作ったことも伝えておく。隆と亜紀ちゃんも持っておきたいということで、隆からは俺が手渡し、亜紀ちゃんには愛花がメールに添付することになった。愛花と愛花の両親のために、メールにワード文書を添付して愛花のパソコンに送信した。


 工芸茶の味は微妙だったけど、紅茶ポットの中を埋めるようにピンクと山吹色と白色の小花が咲いた。愛花は気に入ってくれたようで、スマホで写真を撮っていた。カシャリと鳴るシャッター音に首を傾げる。


「変な顔してどうしたんだ?」

「さっきのビデオ通話のときも同じ音した」


 バレた!! 早っ! 削除したくないんだ、俺は。


「でも、カメラで撮ってる感じじゃなかった……」

「あ、あ、あぁ、なんか間違って変なとこ押しちゃったのかな」


 自分でも目が泳いでいるのがわかった。しかもどもった。愛花が疑わしそうな視線を俺に向けて、パソコンのネット画面を開いて、検索を始めた。


 俺は知っている。なんでもかんでも分からないことをネット検索かける愛花の手腕は確かだ。検索ワードのチョイスがうまいのか簡単に意図した結果が出てくるのだ。マイナス検索というのを教えてくれたのも愛花だった。


「スクリーンショット……」


 パソコンの画面を注視して、ポツリと呟いた。1分足らずで俺の秘密は暴かれた。俺の方に視線を向けてジト目で見つめてくる。手を出して「何を撮ったの? 見せて」と言った。俺は観念してアルバム画面を見せる。


「き、記念すべき、み、みんなでの初ビデオ通話だからな」


 通じるかどうか分からないが必死で言い訳する。どもったし、目も泳いでしまったが、あとは祈ることしかできない。もう一度言う。削除したくないんだ、俺は。


 スマホの中の4分割のみんなの顔を見て、驚いたように愛花が言った。


「こんなこともできるんだね。愛花もこの記念写真ほしいな」


 せ、セーフ! 自分目当てで撮られたとは考えもしないのだろう。俺はスクショを愛花に送った。自分のスマホに届いたみんなの顔を愛花は、まぶしいものを見るように、目を細めて頬をほころばせた。

次話「㉙ 隆が賢くて辛い」です。

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