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㉗ それから、

「今日俺部活サボるから、一緒に帰るぞ」


 愛花の告白のあとの学校で、予想通り隆に呼び出された。休み時間の教室や屋上でという場所じゃないあたり、じっくり内密に話たいということだろう。


 誰かが聞いているかもしれない、とか、愛花の根幹にかかわるような話を休み時間のたった数十分でおざなりに終わらせようとしないところには正直感謝する。


 学校から出て、帰り道にある土手で「ここなら大丈夫だろ」と言った隆に座るように促された。土手の中腹部分で腰を下ろす。「で?」と俺から切り出した。下手に自分から喋って、聞かれてもいないのに言いふらすようなことはしたくない。


「悪かったよ」

「……なにが?」


 てっきり愛花の告白の裏をとるように、根掘り葉掘り聞かれるかと思っていたのに、第一声謝られて面食らってしまう。本当に申し訳なさそうな顔をしている。


「俺、色々酷いこと言ってたなと思ってさ」


 酷いこと……。まぁ思いつくことはあるけど、それはしょうがないことだ。


「隆は何も知らなかったんだからしょうがないよ。知ってたって、意図せずに相手を傷つけることは割とよくあることだろ?」

「……やっぱり、傷付けてたんだな」

「いや、俺が傷付いてたって意味じゃなくて。俺は知ってたけど、意図せずに愛花を傷つけていることもあるんだろうなって話。お前のことじゃない」


 ふーっとため息がもれる。愛花を公園に連れ出そうとしたあの日、駅で倒れさせてしまったあの日、目に見えて愛花を傷付ける結果になってしまったと思ったのは、その二点だけど、ずっと一緒にいたんだ。それだけのはずがない。何気ない俺の言葉に傷付いていてもおかしくはない。


「それに、隆の言葉に関してはあんまりどうでもいいって言うか……」

「どういうことだよ?」

「うーん。例えば、ムッとして、それが愛花の……この前言ってたことと結びつくことだったとして、それだと俺は何も言い返せない」

「おぅ」


 神妙な面持ちで項垂れるついでのように隆が頷いた。


「その場合、俺はムッとしたまま特に発散もできずにイライラを抑え込むことになる訳だけど」

「待て、やっぱ責めてるよな?」

「最後まで聞けって。俺は俺なりにちゃんと隆に隙をみて報復してっから」


 呼ぶときにちょっと力強めに肩を叩いたり、炭酸ジュース飲む前にこっそり振りまくったり、冷たいの欲しいって言ってんのにホットなコーンポタージュを買ったりな!


「報復? された覚えないけど……」

「お前にバレないようにしてんだから、気付かれたらダメじゃん。まぁ、そんで割とスッキリしてるし、言い返せるときはキッパリと言い返してっから、気にすることない」

「……ちなみに俺、何されてたの? ちょっとドキドキすんだけど」

「そのドキドキ感が報復の一つと思って甘んじて受け止めてくれ。今後もそういうことあったら同じ方法で報復すっから」


 敢えて、ニヤリと悪戯な笑顔で笑いかける。隆は一瞬おののいて、目を丸くして上半身だけで俺から距離をとったけど、すぐに気持ちを切り替えたようにニカッと笑った。


「分かったよ。じゃあ、今度からはこれが報復か? と思ったら、確認するから」

「正解かどうかなんて教えるわけないしっ」

「単純バカの春樹なんて顔見りゃ一発で分かるさ」

「言ってろ」


 隆は胸のつかえがとれたようにケラケラ笑った。隆に変に気負わせずにすんだようで、俺も安心して隆に合わせるように笑う。


 だいたい、愛花が傷付かなかったらそれでいいんだから、なんの問題もない。なにより、亜紀ちゃんと一緒に愛花の力になってくれようとしてくれている。こんな心強いことがあるだろうか。それだけで充分、隆の今までの暴言の数々はチャラだ。


「あー! 思い出した! お前なんなの? 突然仕切りだしやがって」


 俺は、数日前の愛花の告白後の隆の振る舞いについて一言モノ申した。いや、一言では足りなかった。今後の愛花の練習プランとか即席SPとか、その場を仕切りだしやがって、ポジティブ亜紀ちゃんは隆の意見に賛同するし、そんな二人に愛花は目を潤ませて感動しているし、なんてことをしてくれたんだ、と。


「ポッと出のくせに! ずーっと前から愛花の傍にいた俺を置き去りにしやがって。お前が俺に謝ることがあるとするならあの俺に対する所業だな。存分に謝りやがれ」

「え? そこは俺に気付かれないように報復して済ませるんじゃないの?」

「そんなショボイ報復であの屈辱を消すことなんてできるもんか。ふざけてんのか。あの時の俺の情けなさがお前に分かるのか。愛花の傍で愛花を守ることが俺の使命だとずっと思ってきたんだ。それなのに……悲愴だよ悲愴。俺が知っている言葉で今の気持ちに一番しっくりくる言葉だ」


 情けなくて、悲しくて、悔しくて、目に涙が貯まっているのが自分でも分かったが、瞬きだけはしないように、キッと隆を睨んで指を指す。


「わ、わるかったよ」

「反省してくれればそれでいい。お前と亜紀ちゃんの提案自体は良かったし、愛花も嬉しそうだったしな」


 言いたいことは言った。少しすっきりした。あの日の俺がかわいそすぎたのだから、このくらいの言い分許されるはずだ。


 仕切りなおすように、隆がカバンから出した水筒に口をつけた。


「亜紀とも話したんだけど、この前言ったみたいに春樹が近場の外出の訓練をして、それが大丈夫そうなら3人でSPしながら少し遠出してみるって言うので良いんだよな?」


 その件については、愛花から愛花の両親に話が通っていて、愛花の両親もスーツ姿の男に注意しながら少しずつ外出してみること、可能であれば一度愛花をカウンセリングに連れて行くということになったそうだ。


 俺は、カウンセリングのことは伏せて隆に情報を提供した。


「だから、正確には俺と、愛花の両親で少しずつ行動範囲を広げるようにしてみるから、愛花と相談しながらSPをお願いしたいと思うって。愛花の両親、涙流して感謝してたって。『こんなに良い友達に恵まれて』って。本当は愛花の両親ももっと訓練に付き合いたいみたいだけど、そこは共働きだから時間にも制限があるみたいでさ」

「愛花ちゃんのお父さんはスーツ着てるってことは会社員? お母さんは何してるんだ?」


「愛花のお父さんは会社員で、お母さんは看護師で交替勤務してるんだ。だから、なおさら愛花との時間合わせにくいみたい。愛花も通信制って言っても、俺らと同じように時間割でオンライン授業受けてるからな」

「そうか。大変そうだな。……でも、愛花ちゃんのお母さん看護師なら色々情報入って来るんじゃないか?」

「医者も臨床心理士もやっぱプロだから、同じような事例のことは話してくれても、本人と話したこともないのに、適当なことは言えないって言葉を濁されるみたいだ」


 少し喋りすぎたかなとは思ったけど、愛花の両親が何もしていないみたいに思われるのは許容できない。愛花の両親は何より愛花のことを考えているし、仕事以外の時間を愛花に向けている。絶対に変な誤解はされたくない。


 隆は考えを巡らせるように何度か頷いた。


「そっか。そうだよな。専門家だからこそ責任持てないことは言えないよな」

「うん。だから、ってわけじゃないけど、とりあえず、近場は俺。主に俺ん家か図書館までかな。少し遠いところは愛花の両親、もしくは即席SPメンバーってことで」

「おう。役割分担大事だな。俺らみたいなガキは一つうまく行くとすーぐ突っ走るからな」

「そう。それが怖いんだ。明日にでも自分が起こしそうで怖い」


 隆が「どうどう」と背中を叩いた。


「俺らにとっちゃ最近がはじまりだけど、春樹にしたらもう何年もだもんな。焦る気持ちも分かるよ」

「うん」


 それから俺は気がかりだった亜紀ちゃんの様子を聞いた。概ね愛花に直接言ったようなことで落ち込んで泣いて泣いて泣きまくったあとには、元気に「SP頑張るんだ」と声高らかに瞳を輝かせて宣言していたらしい。


 本当に、隆の彼女が、愛花のチャット相手が、亜紀ちゃんで良かったと思う。怒って泣いて叫ぶように「愛花と仲良くしたいって気持ちを疑われてるみたいでムカつくよ!」って言ってくれた亜紀ちゃんに俺は全幅の信頼を置いている。


 あと一つの気がかり。俺は恐々と隆に問いかける。


「隆は? 急にSPするとか言って後悔してないか?」

「なんで? 言い出しっぺなのに。したくないこと言わないよ」


 「何言ってんだ、こいつ」とでも言いたげに肩眉を上げた。


「だって、ただでさえ亜紀ちゃんとデートの時間とか減ってんじゃないか?」


 これは俺の気持ちでもある。愛花と亜紀ちゃんが仲良くなって俺と愛花の二人の時間は急激に減った。愛花の楽しそうな姿を見るのは嬉しいけれど、少し寂しくもある。


「俺らは門限とかも特にないし、学校帰りとか日曜日の部活の後とかにも会ってるしな。それにアイツ友達付き合いも大事にしてるから、愛花ちゃんと知り合う前と比べても俺らの会う頻度あんまり変わらねぇよ? いや、愛花ちゃんと遊ぶのに駆り出される分、多くなったくらいかも」

「は? 俺のこと言えねーじゃん。お前そういうの多くね? キモいとか幼馴染バカとかさ」

「いやいや、俺らはお前らみたいに毎日会ってはないし、お前ほどキモいくらい重たい愛情を一心に捧げているわけではないから」

「キモくないし。一途なだけだし」

「はいはい」


 呆れるようにしれっと聞き流す隆を見るのはここ最近多くなった気がする。かと言って、知らん顔して放置するわけじゃなくて、ちゃんと相談に乗ってくれるあたり面倒見いいよな。


 太陽が沈んできて、川に夕日が射し込んできた。


「それで、お前の話はこれで終わりか?」

「あぁ。お前にちゃんと謝りたかったのと、即席SPとして今後の活動について確認したかったんだ」

「そっか、じゃあ帰るか」

「……お前……、日が沈んできたからさっさと俺との話切り上げて、愛花ちゃんのところに行きたいんだろ……」

「おう。帰るぞ」


 「こんな親身になってる俺になんて態度だ」とかなんとかぶつぶつ言いながら、それでも一緒に帰る隆はやっぱり懐の深いやつだ。俺と愛花のために、ひいては4人での遠出ートのためにぜひ力を貸してほしいと思う。


次は「㉘ SPプランとスマホデビュー」です。

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