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第6話 作戦2:お金で釣る作戦(前半戦)

 私は自室の学習机に寄りかかるようにして座っていた。

 目の前には舞ちゃんから貰ったガラスの牛 (命名:太郎)が鎮座している。

 つぶらな目をした太郎はよく見てみれば結構かわいい。


 とりあえず作戦1は失敗に終わった。

 舞ちゃんからお土産を貰えたという想定外かつ衝撃的な事態に陥った私は、頭を撫でるより前にさっさと引き上げて帰ってきてしまったのだ。

 だけど今の私の心は、まるでクリスマスプレゼントを貰った子供のようにウキウキとしていた。


「お土産もらっちゃった~♪」


 私は鼻歌混じりに太郎の頭を人差し指で撫でる。

 去年、お父さんとお母さんが修学旅行のお土産を貰っているのを「私にはないのかな~?」と遠くで指をくわえて眺めていたが、ちゃんと私にもあったのだ!

 なぜか1年も忘れられていたようだが、とにもかくにも私にもお土産はあったのだ!

 そのことが嬉しくて、嬉しくて。作戦1の失敗は私の中で「まあいいか」とあっさりと流れてしまった。

 それからひとしきりお土産を満喫した私だったが、ふとある疑問が脳裏に浮かぶ。


(そういえば、舞ちゃんはいつもこの牛の置物を持ち歩いてたのかな)


 あのとき舞ちゃんは、間髪入れずすぐにお土産を取り出した。

 たまたま偶然持っていたとは考えづらいが、ということは常に持ち歩いていたということになる。

 だがそれでは、渡すのを忘れていたという説明はいささか理にかなわないような気がするが――。

 いつしかすっかりと考えに沈んでしまっていた私だったが、我に返ってハッと息をつく。

 お土産に気を取られて、危うくガチャのことを忘れるところだった。


 繰り返しになるが、今日。

 ピックアップガチャの開催期間は今日中なのだ。

 これを逃せば次回の復刻ピックアップまでベルガモスを待たなければならない。

 そんなことになれば、『えっ! ベルガモス持ってないんですか?』と、SNSのフォロワーたちから総攻撃を食らう(マウントを取られる)ハメになってしまう。

 そのような事態だけは何がなんでも絶対に避けなければなるまい。


 私は太郎の頭を撫でながら、次なる作戦を考える。

 うん。こうしていると、なんだか本当に頭が良くなってきたような気がしてきたぞ。


 おかげで次の作戦も浮かんできた。


 私は財布から1万円札を取り出す。ややたわんだお札の上で、福沢諭吉がいつもどおりの仏頂面を浮かべている。


(……そういえばここに描かれている肖像は、いつから渋沢栄一になるのだろう)


 ふとそんな出どころ不明な疑問が頭を突き上げる。

 というかそもそも渋沢栄一って何をした人なんだろうか。テレビでやたらと埼玉県民が湧き上がっていたということしか知らない。でも1万円札の肖像になるくらいだから、きっととてつもなくすごいことをした人なんだろう。

 そのとき、ふいに机の上の太郎がずっこける。

 きっと『今はそんなこと考えてる場合じゃないだろ』とツッコミを入れてくれたのだ。


 太郎の言うとおり。

 今の私は、埼玉県の名士・渋沢栄一ではなく、漆黒騎士・ベルガモスのことを考えるべきだ。


 私は天井に福沢諭吉を掲げて睨む。

 次の作戦も実に単純かつ直接的。

 この1万円を舞ちゃんにあげる。その代わりに頭を撫でさせてもらうのだ。


 舞ちゃんはまだ中学生。

 そんな彼女にとって1万円とは、お正月のお年玉でも貰えるかわからない大金だ(ちなみに私は大学入学と同時にもらえなくなってしまった)。

 たとえ多少の嫌悪を抱かれていたとしても、これだけの大金を差し出されれば頭のひとつやふたつ撫でさせてくれるに違いない。


 ここで「1万円あるなら、それでガチャ引けばいいじゃん」と、そう思われるかもしれない。


 気持ちはわからなくもないが、それは浅略(せんりゃく)と言わざるを得ない。


 スマホゲーガチャのレア排出率にあまり詳しくない方は驚かれるかもしれないが、この1万円で目的のキャラが確実に引ける確率は100パーセントではないのだ。


 ベルストの場合、ピックアップガチャで最高レア(星5)のピックアップキャラが出る確率は0.8パーセント。

 ベルストは1万円で60連ガチャが引けるので、計算すると、38.24パーセントの確率で星5ピックアップキャラが排出されることになるのだ。


 この38.24パーセントというのは、必ず当たるという確かな自信を持って引くには、いささか心もとない数字といえる。


 ゲームによっては技は外れるし、怪我は間違いなくする。40パーセントとはそういう確率だ。


 ちなみに99パーセント目的のキャラを手に入れるには、約1100回ガチャを回す必要がある。

 そうなると必要な金額としては、大体18万円くらいになる計算だろうか。下手するとちょっとした中古車が一台買えてしまう、そんな額だ。

 実際スマホゲーのガチャにこれくらいのお金を出して、それでもほしいキャラが一枚も手に入らなかった人というのは珍しくない。確率の怖いところと言える。

 それを考えると、たった1万円渡せばそれで確実に目的のキャラが引けるというのはかなりお手頃であると言えよう。

次話明日更新予定

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