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第3話 スマホゲーガチャ宗教『妹教』爆誕

 最初に私がこの方法でレアを引き当てたのは偶然。

 ベルストの期間限定ガチャで超絶有能キャラ(人権キャラ)を当てようとしていたときのことだ。


 ガチャを引く前にまず緊張で乾いた喉を潤そうと、自室を出て1階のリビングに降りた私は、ソファーで眠る舞ちゃんの姿を見つけた。

 普段はしゃんとしているはずの彼女が、そのときばかりは無防備にも制服姿のままリビングのソファーで眠ってしまったのは、生徒会長や学年主席という日々の疲れやプレッシャーによるものが大きかったのだろう。

 無防備に眠る妹の姿を見て久しぶりに姉妹としてスキンシップしたくなった私は、労いの意味もこめて彼女の頭を撫でてやった。


 自室に戻った私はベッドに腰掛けると、深く息を吐いて心を落ち着かせる。

 もしかすると、はたから見れば今の私は心を落ち着けて瞑想しているようにも見えたかもしれない。

 だがその実、内心は――


(お願いだから、今持ってる石だけで来てくれないかな~)

(あのキャラが来たらさっさと撤退しようかな)

(でももう一体ピックアップされてるキャラも欲しいんだよな~)


 とまあこんな感じに我ながら雑念で荒れに荒れていて、瞑想というよりも迷走状態だった。

 そんな一向に静まる気配のない心にいい加減見切りをつけると、私は静かに目を開く。

 そしてまるで赤ちゃんの柔肌に触れるようにスマートフォンの画面に表示されている『10回召喚』のボタンを親指でタップした。

 瞬間、画面を満たすまばゆい虹色の光に私は大きく目をむく。

 この虹のエフェクトは、最高レア(星5)確定演出に相違なかった。


(え? え? うそ? もう!?)


 私は喜びと期待と困惑がないまぜになった想いをスマートフォンの画面へと注ぐ。

 この段階ではまだすり抜け(目的と違うキャラが出ること)もあり得たからだ。

 だが結果は見事最初の10連ガチャ(1度に10回ガチャを回せる)で目的の星5キャラをゲット。

 まあこのときは喜びが大きかったこともあって、私は特に深く考えることはなかった。

 1回目の10連ガチャでアタリが出るというのは、滅多にないことだが決してありえないことではない。

 それに、まさかさきほどの自分の行いとガチャの結果に関係性があるとも思わなかったのだ。



 2度目は、これまた私がガチャを引く前にリビングに降りたときのこと。

 リビングテーブルの上には教科書やノート筆記用具が広げられており、ソファーの上にはまたも仮眠を取る舞ちゃんの姿があった。


 舞ちゃんは学校の勉強をなるべくリビングでするようにしている。

 日頃からそうしておくことで、他人の目があるおかげで勉強に集中できるというのと、試験本番中雑音にも動じない強い精神力を養うことができるらしい。


 ちなみに、このとき舞ちゃんは試験を控えていた。

 舞ちゃんは中学1年生のときからずっと学年主席の座を守り続けている。

 両親や教師からはもちろんのこと、周囲の生徒からもかなり期待されているはずだ。

 当然重いプレッシャーがあるだろうということは、そんなものとは無縁の21年間を過ごしてきた私にだってわかる。


「大変だよね」


 辛うじて自分に聞こえるくらいの小さな声でつぶやいた私は、そっと舞ちゃんの頭を撫でてやると自室へと戻った。



 スマートフォンを前に私は、柏手(かしわで)を打つようにして胸の前で手を合わせる。


(どうかできれば無料石だけで来てほしい。今年の水着ガチャも控えてるし、今ここで課金とか絶対にさせないでほしい……!)


 スマートフォンに祈る様は、他人から見れば実に滑稽だろうが、当の本人からすれば至って真剣なのだ。

 目をつむりながら文字どおり祈る思いでガチャを引いた私は、おそるおそるまぶたを開いて。

 そしてその結果に叫びそうになってしまう。


 画面には虹色の光、そして目的のキャラの姿があった。

 1回目の10連ガチャで目的の星5レアを引くことができたのだ。

 実に運がいいとしかいえないその結果に、心の中で快哉をあげながら部屋の中を小躍りしていた私は、そこでふとあることを思い出す。

 そういえば前回、10連ガチャ1回で目的のレアを当てたときも私は舞ちゃんの頭を撫でていた。



 3度目は、わずかな確信と確かな期待があった。


 私は1階のリビングにいる舞ちゃんの様子をうかがう。

 その日は生徒会の活動で疲れていたのか、舞ちゃんはリビングのソファーで眠っていた。

 その様子を確認した私はソファーに近づくと、舞ちゃんの頭を撫でて手早くベルストのアプリを起動する。

 そしてガチャの画面までやってきた私は、試しに単発ガチャを引いてみることにした。


 1度に10回ガチャを引ける10連ガチャと違い、単発ガチャは1度に1回ガチャが引けるのみだ。

 消費される石の数は、10連ガチャ1回も単発ガチャ10回も変わらない。

 だがふたつの違いとして、10連ガチャは星4レア以上が必ず1枚は最低保証として排出されるが、単発ガチャにはその最低保障がないのだ。

 そう考えると単発ガチャで引く意味はないようにも思えるが、単発ガチャ一発で目的のキャラを引くことができれば、無駄な石を使わないで済むというメリットはある。


 普段、本気で当たりを狙いにいくとき、私は10連ガチャを引く。

 いくら単発ガチャ一発で目的のキャラを引ければ無駄な石を使わないで済むとはいっても、基本10回以内に目的のキャラが排出されることは滅多にない。

 それに単発では、場合によっては10回引いても星4レアが1枚すら来ない可能性があり得る。

 まあこれは単純に好みや流儀の話といえるかもしれない。


 だが今回、あえて私は己の流儀を捨てて『1回召喚(単発ガチャ)』のボタンをタップした。

 この時点ではまだ、100パーセントの確証があったわけじゃない。

 ただ脳裏によぎった可能性が、賭けるに値するものであると。そう私の心が叫んだのだ。

 果たして、私は画面に虹演出を見た。

 もはやいうまでもないかもしれないが、現れたのは星5レア。それも目的のキャラである。


 舞ちゃんは前世で座敷わらしか何かだったのか。それは私にもわからない。

 だがこの3度の経験を経て私は確信した。

 舞ちゃんの頭を撫でれば確実に。それでいて狙いどおりのキャラを引くことができる、と。

 その瞬間、私の中でスマホゲーガチャ宗教『妹教』が爆誕した。

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