怒れる者達の歌
はい、初めてのご登録でいらっしゃいますね?
では、ここにお客様のお名前をご記入お願いいたします。
――――……。
――……。
はい、結構です。
お客様のランクは『C』と承っております。素晴らしいことですね!
それでは、この先はこちらの者がご案内いたしますので、どうぞ彼について奥へお進みください。
* * *
お前さん、ここのことは知ってるかい? ――そうか、じゃあ、ほんとに簡単な話しか知らないんだな。それなら、まずここの成り立ちを簡単に説明しよう。
そもそもこの国には、何百年か前から妙な現象が起きてるってのは……まあ、子供だって知ってる話だ。最初にこの国に現れた娘は、人を癒す力を持ち当時の王に見初められた。『癒やしの聖女』とか呼ばれて民から崇められ、起こした奇跡についての逸話は数知れない。聖女の力を手に入れようと、他国が攻め込んできたりもしたそうだ。
まあ実際、そんな力の持ち主を手に入れたら敵なしだもんな。そして手に入れる方法として最も手っ取り早いのが、血筋の中に取り込んじまうこと――婚姻だ。国王だけでなく、貴族達もこぞって娘に群がったらしい。
聖女は結局王家の中にその血と力を受け継がせることになったわけだが、貴族達が悔しがる時間はそう長くなかった。また数十年経って、やはり聖女と似たような女が現れたからな。ただし今度は癒やしの力ではなく、見たことも聞いたこともない料理を作る女だった。
料理ってのは、つまり毎日の食事だ。うまいもんをたらふく毎日食べられるのは幸せなことだ。そして女の持つ知識にも相当な価値があることが徐々にわかってきた。そしてまた、女を巡っての争奪戦が始まった。このときは、王様は参加しなかったようだがな。癒やしの力は手に入れたし、料理くらい別にいいってことだったのかもな。
女はとある侯爵家に嫁ぎ、またしばらくして三人目の『女』が出現した。このころには、もう女達の共通点がわかってきていた。黒髪黒目と不思議な色の肌をしていること、特別な力や知識を持っていること、そして……『ニホンジン』と名乗っていることだ。
女達がもたらした恩恵は様々だった。料理法が広まった。それに伴って、食材の種類が増えた。聖女の子孫も例外なくその力を受け継ぎ、それまでは治らなかった病や怪我から立ち直る人間が増えた。そして何より変わったのが――俺達のような奴が増えたってことさ。
ああ、ニホンジンの女達はこの国を変えた。噂じゃあ、よその国にも……世界中そういう奴等が見つかってるらしい。そして奴等の力や知識で、国の在り方がどんどん変わってるのさ。
俺達平民にとっての恩恵は、物を知る手段と機会が格段に増えたことだ。この国に現れた三人目の女は、すべての民に等しく教育の機会を与えろとお偉い奴等に掛け合ったからな。学校に通うことが義務化され、平民だろうが貴族だろうが、ちょっと頭が切れれば最高学府まで行ける。そこの卒業資格があれば、どんな仕事にも就ける。そう、例えば国の中枢にだって入り込めるってわけだ。
あんたはランクCってことだが、それなら当然大学までは行ってるんだろ? 俺達の間では、そういう目安だからな。ランクDは一つ下の高等学校、Eは中等学校まで。そしてA、Bってのは大学卒業資格を持ち且つその上の学識と思想を持っている証。
さあ、ついたぜ。ここが俺達の集会所だ。ああ、ちょうどリーダーが挨拶を始めるところだ。
「今夜も危険を顧みず、こうして集まってくれたたくさんの同志に感謝する。今宵の議題は、【労働者の待遇改善】だが――」
リーダーが昔言ってたことがある。平民達が無知だったころ、王侯貴族は意のままに彼らを奴隷として扱うことができた。自分達の成果をすべて搾り取られても、なぜそんな無体が許されるのかはおろか、それに対して怒りを覚えてもいいということすら民は考えもしなかった。知識と知恵こそが光となり、虐げられた民の目を啓くのだ、ってな。
俺達の目はもう啓いちまった。だから、どこから来たのかわからねぇ異相の女の尻を追いかけてるだけの支配者どもは必要ねぇし、そんな奴等に好き勝手されるのはごめんだって思うのさ。
四人目のニホンジンの女は、国王の婚約者を処刑に追い込んだ。ナスタシア姫は、聡明な方だった。この国のことなんぞ何一つわかりゃしないあの女、王に思いつきでいろいろ吹き込んだあげく、どんどん国をめちゃくちゃにしてやがる。あんなのにいいようにされてる王も王だ。
失業者は増える。女子供年寄りが飢えていく。全部あの女が来てからだ。
お? リーダーの様子がおかしいな。
「諸君、私は今こそ確信を強めた。もはや耐えるだけの日々は終わらせるべきだ――と。このままあの女と王を放置しておけば、我が国は屍の積み重なる地獄の荒野と化すであろう」
ああ……やっとか。やっと、決心したのか。
俺はずっと思ってたんだよ。てめぇの生まれた国を、どこだか知らねぇがよそから来た奴等に平気で好きなようにさせる支配者なんて、本当に必要なのかってな。
ここは俺達の国だ。だったら、ここで生まれた俺達の手で何とかしていくのが正しいんじゃないか?
俺達が生きやすいように、俺達が動かして何が悪い?
「今こそ、我らは立ち上がるとき! 無能な王や貴族は必要ない! 国の主権を我らの手に!」
ああ、その通りだ! さあ、お前も剣を取れ。そんな想いがあったからこそ、俺達の仲間になりに来たんだろう?
きっと何もかもひっくり返る。俺達の手で、ひっくり返してやるんだ。
明日になれば――そうさ、そのための明日なんだ!




