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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ご令嬢の公衆衛生活動記録 [彼方の平行世界記憶断片3]

(続々)悪役令嬢は脱走し、脱臭する(こうして脱走するに至りましたの)

作者: 平泉彼方




 あれから数日経過したが、特筆すべき点はない。

 街や家の衛生環境改善は急務といえるが、所詮12歳(成人)にも満たない子供の戯言には誰も手を貸さない。まして、男尊女卑の罷り通る中世異世界で私の発言なんて大した威力を持たない。


 むしろ、今までが異常だったのだ。

 すべてお父様とお母様が幼いからと甘やかしてくれたおかげだ。普通なら何の実績も持たず利益も出さない子供の言葉になんか、貴族御用達の職人たちが耳を傾けるはずがない。


 だからまずは周囲から。具体的には私の部屋と廊下、ついでに調理場の衛生環境から取り組むことにした。我儘たる私にとっての最優先事項である。

 特に調理場は死活問題。ただでさえ、あんな衛生状態の水使っているのだから、食材だって衛生状態は知れているだろう。サラダ用の生野菜とか、どう搬入・保管・洗浄しているのか不安になった。

 そして、加熱済の料理も油断ならない。ただでさえ不衛生な土壌で育ち、雑菌が付着しやすい環境下での調理。寄生虫卵はもちろん、加熱に強い細菌セレウス・ウェルシュ・ボツリヌス混入の可能性も……


 嗚呼、ハヤクナントカシナイト(涙目)


 そこで、例の私の『我儘』により幾つか身近なことを以下の様にして行こうと考えた。


①私周辺の使用人全員(3人)が生活魔法『浄化』を習得する

②調理場職員の制服・専用靴を導入



 まず①について。こっちは順調、ほぼクリアした。


 つい先日、教会へ慰問目的で行った際、マリアンを含む我が家の使用人複数名に生活魔法の『浄化』を覚えてもらった。この数名には今年度中、『浄化』を積極的に使ってもらうことになった。

 そして、お父様専属と私専属とで風邪・下痢等の頻度調査を行い、1年間で比較してもらう予定。これで目に見えて成果が出れば、『浄化』を使って清潔に保つことの重要性を教育できるだろう。


 けど、『浄化』だけでは当然しのげない。浄化はあくまで表面上にいる『人体に害をなす物質』を排除する魔法だと考えられるのだから。


 さて、この話に関して多分納得いかない人も多いと思う。なぜなら、私は確かに「全員へ『浄化』を掛ける」と提案したのだから。

 その理由だが、マリアンが予想以上に私に対して『忠臣』だったからである。


 実はあの後、マリアンからこってり諫言をもらうこととなった。人に貴族として名乗り上げて宣言したことと、私が全員へ『浄化』を掛けると提案したことに対して。

 貴族としても魔法使いとしても無知・無謀・軽率だったと。


 前者に関して、軽々しく行うことの危険性に関して説かれた。

 今回は幸い発言時に魔力込めていなかったため『宣言』として成立しなかったものの、仮に有効だった場合、厳守せねばペナルティーがあったとのこと。

 ゾッとする話だが、過去この『宣言』を破った貴族は文字どおり肉体が爆散したらしい。私もそうなる可能性があったことをコンコンと怒られ、そして心配された。


 そして、彼女の話を聞いて『私』の記憶を思い出し、心底震えた。

 危なかったと。


 魔力量が並程度で爆散なら、魔力量の多い私ならば人災レベルで爆発が起こっていた可能性がある。下手すると人間爆弾よろしく屋敷の敷地ごとパーン、だってありえたのである。

 そうなると、この屋敷の職員は一体何人犠牲になるのか。

 仮に私以外全員助かっても、私が死ねば周囲も殉職することになる。そして、今の時点で私を失えば両親も後継者を失うことになってしまう。

 そうした公爵令嬢としての立場に少しだけ、考えさせられた。今後軽率な行動は、一旦考えようと。(懲りてはいない)


 後者に関しては、魔力の発達上デメリットが大きいからであった。現在の未発達な魔力量で全員分の『浄化』を掛けるとリスクがあるらしい。

 筋肉と違い、魔力量と質の鍛錬を行う場合は限界まで減らすのは厳禁だとのこと。特に、幼少期においては限界量直前MP1程度残しておかなければ回復すらしなくなる可能性があるとのこと。

 魔力や魔法に関しては、生活魔法の基礎しか記憶になかったので、今度改めて勉強しようと思う。


 そうした事情に加え、公爵家の使用人中私専属にしたのが下級貴族だったことから、魔法が使えることは知っていた。そこで、マリアン自身が提案したのだった。

 幸い教会で習える生活魔法はイスカリオテ公爵領では無料なので、後必要だったのは1週間以内に終わる修行であった。ネタバレだが、その間写経みたいに長文書き写して自身へ刻み込むのである。

 私も3歳時点で通った道なのでみんなもやれると信じていると、送り出した。

 結構ハードだった気がしたが、3歳でも1日でクリアしたのだ。いい年の大人ならば大丈夫だろう。皆を信じよう。



「お嬢様、必ず……必ず2日以内に習得してまいります!」



 そう言って本当に1.5日で戻ってきたマリアン。その他2人、執事見習い兼護衛見習いのルカと侍女見習い兼護衛見習いのティナは3日で戻ってきた。



「お嬢様、大変お待たせして申し訳ございません」

「かくなる上は、減俸「そんなことしませんわ! 一度落ち着いてはいかがかしら?」 ……申し訳ございません」



 ともかく、これで3人とも私がまともに目を合わせて会話できる使用人に育った。彼らには、廊下への浄化と自身への浄化を毎日掛けることを義務付けた。

 同時に、下痢・風邪等感染症の疑いがある症状が出た頻度を今年1年で各々計算するように頼んだ。


 これでようやく部屋と部屋前の廊下は制圧した。悪臭退散。



 さて、次は②について。


 これに関してはお父様の許可が必要なため、残念ながら完全に導入するのは不可能だった。お父様は公爵家当主としても内務大臣としても多忙を極めているので邪魔はできない。

 導入できなかったのは制服で、汚れ具合がわかる白色はコストがかかり過ぎてしまう。他の色を選ぶ必要があるが、汚れが最低限わかる色を値段と併せて今後検討する必要があることがわかった。

 残念だが、一旦保留。

 そこで行ったことは、靴底と水へ浄化をかけることだった。


 水に関しては、今回私の我儘は納得・感謝されることになった。なぜなら、水の状態が最悪になっていたからであった。

 我が家の使う井戸の状態を見せてもらったが、ひどいものだった。

 木製の蓋を裏返すと黒っぽい黴がびっしり付着しており、一部きのこも生えて腐食が進んでいた。

 水を試しに汲みあげてみると、少し濁りが見られ酸っぱい香りがした。おまけに、水瓶にも黴が生えていた。

 これにはマリアンをはじめ使用人や料理人達が蒼白になった。


 後に、これをきっかけとして大規模な邸内井戸視察を行ったらしい。随分荒れており、水周りを含む敷地管理担当をしていた庭師が減俸処分を受けたとのことだ。


 尚、この日は仕方がなく応急措置だけおこなった。蓋は取り外し、水瓶は浄化した。

 水に関して、一旦は煮沸して使うことになった。ただ、薪代が馬鹿にならないのでどうしようか少し考え中。川水を引くことも一瞬考えたが、糞便が溶けている可能性がある以上信用できない。


 そうなれば、カラムを造るしかない。

 一度ボランティアの一環で造った経験があるので構造はわかっているが、原料をどうやって調達するか。どれくらいのコストと時間で造れるか。また、造った後その方法をどうするか等。

 なんにせよ、お父様とこの件も相談しないといけない……いやその前に、どこでそんな発想がでたかと疑われるかもしれない。

 うぅ、異端審問……魔女裁判。


 よし、我が家の書庫にしよう。そこで、何も書かれていない古い羊皮紙に日本語とローマ字交ぜた暗号文でも書いて、なんとなく読めましたってやればいいか。(適当)

 いや、それじゃあお父様と言え騙されてはくれないわね。


 そうなると、流れの賢人に教えてもらったことにする他ない。面識ない隠居流浪老人的な(水戸の縮緬問屋想像)

 よし、そうと決まれば脱走だ!


 感想・ご意見、評価等、いただけると幸いです! よろしくお願いします^^

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで筆が乗ってきたなら、連載化することを希望します。
[良い点] 平泉彼方様、執筆されるのが速いですね。 現状のところ、【悪役令嬢】というよりも周囲からみると単なる【我儘令嬢】ではありますが、既にマリアンの忠誠は篤いですし、成果がでれば『勝てば官軍』でし…
[良い点] おもしろいです。 [気になる点] 続くのかしら?(ドキドキ) [一言] 連載にしちゃえば、いいんじゃないかしら?(ワクワク)
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