表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第二章
99/346

神様による恋愛成就大作戦 前編

お笑い回です。

初登場の神様たくさん出演して、ごちゃごちゃしています。




 その日は春の祝祭日の休暇の為、蘇芳は朝から不在だった。

 そして、紅玉の帰宅は昼以降の予定だ。


 すなわちこの時間、紅玉と蘇芳は十の御社にいない。


 十の御社の神々は朝食を食べ終えると、応接の間へと集まっていた。


 そして――。


「十の御社の神様達による恋愛成就作戦会議の開始じゃああああああっっっ!!!!」

「「「「「いえーーーーーーーーーいっっっ!!!!」」」」」


 高らかに宣言し、大きな歓声で盛り上がる神々に、同席している水晶は好物の芋の菓子を頬張りながら心の中でそっと呟く。


(神様が恋愛成就の作戦会議って……)


 両隣に立つ空と鞠も何とも言えない微妙な顔をしているので、恐らく同じ事を考えているのだろうなぁと思った。


「会議の議長は儂、樹木組の槐樹の神こと槐じゃ!」

「よっ! 槐!」

「いいぞ! 槐!」


 拍手喝采で迎えられる。


「さてさて、皆の衆、しっかりと聞くのじゃぞ。先日の『春の宴』の際、さりげな~く蘇芳に紅ねえとの進展を聞いたところ……なんと手繋ぎ止まりじゃった! 口吸いすら済ませておらんようじゃ!!」

「「「「「えええええええええ!!!!」」」」」

「蘇芳さんの意気地無し!」

「根性無し!」

「草食系男子!」


 女神から蘇芳に対する批判の声が相次いだ。


「まあまあお前さん達の気持ちもよぅわかる! しかし、蘇芳は至極真面目な男じゃ。きっかけもあるんじゃろうが、複雑な心情を抱える紅ねえに対して、困らせんよう己の気持ちを封じ込めておるんじゃろう」

「蘇芳……」

「男だぜ……」

「目から汗が……」


 一転、男神からは蘇芳への称賛の声が上がった。


「蘇芳の真面目過ぎるその気持ちもわかる……じゃが! 儂はもう限界じゃ! あのすだちやら檸檬やらの酸っぱい柑橘類に一滴の蜂蜜をたらしたような甘酸っぱすぎる恋模様を見せつけられるだけはもう勘弁じゃ! いい加減あの二人には進展が欲しいんじゃーーー!!!!」

「「「「「そうだそうだーーーーーーっ!!」」」」」

「よくぞ言った! 槐!」

「いいぞっ! 槐!」


 神々はどんどん盛り上がっていく。歓声や拍手があちこちで湧き上がる。


「せめて口吸いの一つは済ませておくべきじゃーーー!!」

「「「「「まったくもってその通りだーーー!!」」」」」

「甘酸っぱすぎる恋模様を見せつけられるのはもうごめんじゃーーー!!」

「迷惑被っているのはこっちだーーー!!」


 最後に叫んだのは何故か同席している紫だった。


 そして、槐は「バンッ!」と目の前の台を叩いて、全員の注目を集める。


「そこでじゃ! こやつらから提案があるそうじゃ!」


 槐の声を合図に前に出てきたのは三人の神だった。

 一人目は肩程の長さの真っ白な髪持つ女神、二人目は薄墨色の長い髪を持つ男神、三人目は白か銀の色合いの髪と真っ白な耳と尾を持つ男神だ。


「天気組の雪の女神の六花でーす!」

「時組の日暮だよ」

「獣組の遊楽だ!」


 六花は少し夢見がちな暴走をする傾向のある女神、日暮は飄々としていて掴みどころがない不思議な男神、そして遊楽は悪戯大好きで悪事を働く問題神の一人だ――水晶と空と鞠の頭には「不安」の文字しか浮かばない。


「それじゃあ各々作戦を発表じゃ!」


 槐に促され、三人は一斉に作戦名を読み上げる。


「じゃっじゃじゃーん! 名付けて『事故ちゅー大作戦』!」

「砂糖に蜂蜜大量投入作戦」

「毒林檎事件作戦だ!」


 「おおおっ!!」と歓声を上げる神々の中――。


(うみゅ、なんでそんな漫画みたいな展開を考えたの)

(Sugar and honey……Very very sweetでマズそうデース……)

(え、毒? 毒って何するつもりっか? 止めるべきっすか?)


 水晶と空と鞠は至って冷静に作戦を分析していた。

 そして、同時に予測される未来図も……。


 すると、六花がとんでもない事を言った。


「こないだ神子から借りた本を読んで思い付いたんだー!」


 六花だけでなく、日暮や遊楽も同じように頷いていた。

 空と鞠は思わず水晶を見てしまった。


(うみゅ! 晶ちゃん悪くない!)


 まさかの濡れ衣に水晶は首を横に振っていた。


「よぅし! これから役割分担と流れの話し合いじゃ! 皆の衆、数日後に作戦決行じゃあっ!!」

「「「「「おおーーーーーーっ!!」」」」」


 最早この勢いの神々を止められる存在は誰もいなかった……。




**********




 そして、日差しが暖かくなってきた麗らかな初夏の日に作戦決行の日は訪れた。




 「事故ちゅー作戦」の立案者である六花は、同じ天気組と呼ばれる神三人と一緒に屋敷の一区画にある曲がり角にいた。

 六花は曲がり角の真ん中に立ち、他の天気組に説明をしていく。


「やっぱり出会い頭の衝突による事故ちゅーは鉄板だよね! というわけで、この曲がり角に紅ねえと蘇芳さんをうまく誘導して、事故ちゅーの場面を作るよっ!」


 実にやる気満々の六花に対し、他の天気組の神々はいまいち心配が拭えないでいる。


「なあ、六花……本当にこれうまくいくのか?」

「何言ってるの! (じゅん)! 絶対うまくいくに決まっているじゃん! ここにも描いてあるでしょ!」


 潤と呼ばれた淡い青い髪と深い青い瞳を持つ男神は六花に渡された水晶の漫画に目を通した。

 その漫画に描かれた一場面は、主人公の女と相手役の男が急いでいるところに曲がり角でぶつかって口付けをしてしまうというものだ――。

 しかし、潤には、現実的にこんな事が起きるなんてあり得ないと思っていた。


「なあ、(とばり)姉さん……俺、すっげぇ不安しかないんだけど……」


 思わず潤はそうぼやいた。


 一方、帳と呼ばれた黒混じりの白い髪と瞳を持つ女神はどう冷静に分析しても、ああなった六花を止めることは不可能だと半ばあきらめ気味であった。


「まあ、とにかくやるしかない。頑張ろうではないか」


 帳は一見男神のような容姿をしているせいか、性格も割り切ったさっぱりもののようで、いっそ潔い。

 一方の潤は慎重派のせいか、未だに不安げである。


 すると、もう一人の天気組が潤から漫画を奪うと、先程見ていた一場面を読み返す。

 雷雲のような灰色の髪と稲妻のような黄色い瞳を持つ男神で、名を(なる)という。


「へえ、これが、六花がやろうとしていることか?」

「そうだよ! 事故により口付けをしてしまった二人が互いを意識しあうようになり、恋に落ちる……! ああなんて浪漫的……! 鳴も素敵だと思わない!?」

「うーん……浪漫っていうか、妄想の世界の最早お笑いだな! ハハハハッ!」


 鳴の正直過ぎる一言に潤と帳は思った――「馬鹿」――と。


 そして、次の瞬間、鈍い音が響き、どさりと床に倒れ落ちる音がした。


 そうして気付いた時には、腕を凍らせてその場に立ち尽くす六花とその傍らに倒れる鳴の姿があった――それだけで何があったかはお察し頂けるだろう。


「はい、作戦通りさっさと準備してね~」


 六花の背後に吹雪が見えた。


「「……はい」」


 潤と帳に逆らう勇気などなかった。




 作戦はこうだ。

 まず、潤が紅玉を、鳴が蘇芳を曲がり角まで誘導する。

 そこは全く問題ないのだが、紅玉も蘇芳も、他者の気配とか音などに敏感な方だ。そこで帳の神術で辺りを淡い霧で包み込んで気配や音を遮断させて、蘇芳と紅玉を曲がり角で衝突させるという作戦である。


「完璧っ!」


 ちなみに六花は監督役だ。


「じゃ! 潤と鳴、紅ねえと蘇芳さんを連れてきて。紅ねえは神子様と一緒で、蘇芳さんは結界の見回りをしているはずだから外にいるはず」

「「うぃーす」」

「二人を慌てて走らせてきてよね!」


 六花に命じられ、潤と鳴はそれぞれの場所へと走り出した。


 潤は神子の執務室にいる紅玉の元へ。

 鳴は屋敷の外にいる蘇芳の元へ。


 しかし、走りながら二人は同じ事で悩み出していた。


((慌てて走らせるって何て言って連れてくればいいんだろう))


 そう言えば、その辺の事は六花から聞いていなかったと二人は焦り出す。

 しかし、もうすでに目の前に標的とする人物の姿が見えてしまった。


 潤は「紅ねえ!」と叫んで呼ぶ。

 鳴は「蘇芳!」と呼んで叫ぶ。


 潤と鳴は別々の場所に居ながら、全く同じように悩み、困り、そして考えた。

 そして、考え抜いた結果、二人は同じ台詞を口にしたのだった。


「「獣組がっ!!」」


 それは最早奇跡的であった。




 「獣組が」と聞いて、慌てない者はこの十の御社には存在しない。

 紅玉は潤の先導で、蘇芳は鳴の先導で、急いでその場を一目散に目指す。


 やがて響いてくる足音に六花は興奮する。


(きたきたきたきたっ!!!!)


 そして、六花は帳に合図を出す。


 瞬間、帳の神術が発動し、辺りが淡い霧に覆われる。気配が遮断され、音も聞こえにくい空間に、紅玉と蘇芳は足を踏み入れるが、気づく様子はない。


 そして、曲がり角に差し掛かった時、突然現れた互いの姿に紅玉と蘇芳は目を剥いた――!


 ぶつかる――!!


 ――と思われたが――紅玉はしなやかに身体を回転させると、紙一重で蘇芳の身体を避けた――最後に「タンッ」と足音を響かせて身体を止める。


「あ」

「あ」

「あ」

「お、お見事……」


 思わず蘇芳は拍手をしてしまっていた。


 紅玉は慌てて蘇芳を振り返ると、頭を下げた。


「蘇芳様、申し訳ありません! 急いでおりまして、非常に不注意でした!」

「いや、俺こそ申し訳ない。俺も獣組がまた悪さをしていると聞いて、慌てていて」

「まあ、蘇芳様も?」

「紅殿もか?」


 奇しくも二人の心が一つになった瞬間だった。


「では共に参りましょう」

「そうだな。一筋縄ではいかない相手だからな」


 氷の如く冷たい雰囲気と憤怒した仁王の如く恐ろしい雰囲気を纏わせた紅玉と蘇芳が並んで歩き出す。


「それで、獣組は……」

「今何処だ……?」


 恐ろしい雰囲気の二人に潤と鳴は本当に事が言い出せなくなってしまう。


((獣組、ごめんなさい……))


 二人の男神は心の中で両手を合わせながら、あっさりと獣組を生贄に差し出したのだった。




後編に続く!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ