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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第二章
89/346

宴会とその裏側の炊事場にて




 空と鞠の朔月隊の入隊が正式に決まり、その夜の十の御社は朔月隊合同の祝賀会となった。


「「「「「空! 鞠! 合格おめでとうーーーーーーーーー!!!!」」」」」


 十の御社の神々は、飲めや食えやの大騒ぎだ。

 そして、祝賀会の主役である空と鞠は大勢の神々に囲まれ褒められ揉みくちゃ状態である。


 そんな光景を目の当たりにしながら、幽吾は酒を飲んでいた。


「いやあ、相変わらず神様達は宴会が大好きだよね~。あの神様今一体何杯目?」


 目の前で豪快に酒を一気に飲み干す神を見ながら呟くと、隣に座っている世流が言った。


「いいじゃないっ! ワタシは宴会とか賑やかで大好きよ!」

「そりゃ世流君は蟒蛇(うわばみ)の人だからね」

(ざる)の人に言われたくありませーーーん!」


 世流はそう言いながら、幽吾の杯に酒を注ぐ。


「おいっ! おめぇらっ! 俺様を仲間外れにするんじゃねぇっ!」


 そう叫びながら、若干フラフラした足取りでやって来たのは轟だ。轟は遠慮なく世流の隣にドカリと座った。


「あら、どうしたの? 幽吾君」

「さては同郷コンビに蔑ろにされたんでしょ。あの二人は空君と鞠ちゃんと仲良しだからね~」

「うるせぇっ! 俺様が置いて来てやったんだ! 仲間外れにされた訳じゃねぇっ!」


 どうやら図星のようだ。


「はいはい、轟君、さみしかったんでちゅか~? おねーちゃんがお酒を飲ませてあげまちょうね~」

「バカにしてンのか!? 世流!」

「馬鹿にはしてないよ~。からかって遊んでいるだけ~」

「てめっ! 幽吾ぉっ!!」


 轟は幽吾の胸倉を掴み前後に揺さぶった。




 一方、その轟を蔑ろにした美月と天海は、というと――空と鞠に突撃しているところだった。


「空きゅーーーーーーんっ!!」

「ぐえっ!!」


 美月は文字通り、本当に突撃だ。空の首辺りに抱き付き、美月はまるで猫のようにゴロゴロと頬擦りをする。二股の尻尾が嬉しそうに揺れていた。


「空きゅーん! おめでとさん! ウチ、空きゅんと働けて嬉しいわぁ!」

「みっ、美月ちゃん、ぐるじいっす……!」


 首を若干締められる形になり、空が悲鳴を上げる――と、美月の腕から空が取り上げられてしまった。

 美月がパチクリと状況を確認すれば、蒼石が空を美月から取り上げ、深海色の瞳を光らせ睨みつけていた。

 それを見た美月は可愛い顔に妖しく笑みを浮かべ、蒼石を挑発的に見つめる。


「いややわ~蒼石は~ん。ウチは友達として空きゅんを祝おうとしていただけやのにぃ~」

「ならば言葉で伝えればよかろう。何故抱擁する必要がある」

「スキンシップやって~。大事やろ?」

「いらん」

「ケチやな~」

「みっ、美月……!」


 一触即発という雰囲気ではないが、あからさまに竜神に喧嘩を売っている美月の態度に天海は慌てて止めに入った。

 一方、空と鞠も蒼石をどうどうと諌めている。


「お取り込み中失礼致します。こちら追加のお飲み物です」


 そう言って、人数分の飲み物を持ってきたのは右京だった。


「Oh? ウッチャン、Waiter?」

「はい、紫様が不在ということで、流石に紅様と蘇芳様だけでは回すのは大変かと思い、お手伝いをしております」

「Oh! Sorry……!」

「俺達もお手伝い――」

「いえいえ、空君と鞠ちゃんは本日の主役でございますから、ゆっくりしてくださいませ」


 すると、そこへ大皿を持った左京が現われ大広間のど真ん中で高らかに声を上げる。


「お待たせしました! 紅様特性の唐揚げでございます!」


 瞬間、神々が唐揚げに殺到した。


「「「「「唐揚げーーーーーーっっっ!!!!」」」」」

「これっ! とりあえず一人三個までじゃ!」

「ちょっと! そこのアンタ! 多くもって行っているだろ!?」

「おい誰か! 栗丸! 栗丸押さえろ!! 全部やられるぞ!!」

「っていうか空と鞠の分は先に確保させろっ!」

「うめぇうめぇっ! 唐揚げうめぇ!」

「「「「「栗丸ーーーーーーっっっ!!!!」」」」」


 唐揚げの山に群がる神々と次から次へと無くなる唐揚げの山に、右京と左京はやや呆然とした顔で見つめていた。


「これはまた……」

「人気が高いのですね、このメニュー……」


 そうこうしている内に唐揚げの山が無くなる寸前である。


 すると、こちらも給仕の手伝いをしていた焔が声をかけた。


「右京君、左京君、追加を頼んだ方が良さそうか?」

「「そうしていただけますか? 焔様」」

「わかった」


 焔は空いた食器を回収しながら、炊事場へと向かう。

 そこにはひっきりなしに食器を洗っている文がいた。


「文、唐揚げ追加で」

「わかった……紅さん、唐揚げ追加」

「はーい、もう出来上がっていまーす!」


 紅玉は皿に山盛りになった唐揚げを差し出した。


「流石過ぎるだろう……」


 焔は尊敬を通り越してやや呆れたような声で言った。


「焔ちゃん、文君、お手伝いありがとうございました。恐らくこれで皆様のお腹は満たされると思いますので、あとはお酒と飲み物を置いておけば問題ありません。ですので、右京君と左京君にも言って、皆さんもお食事をしてくださいな」

「大丈夫なんですか?」

「……大丈夫なの?」

「はい。あとはわたくしだけで十分ですわ」


 焔と文は躊躇いがちに顔を見合わせつつも、紅玉がにっこりと微笑んでそう言うものだから――。


「では、お言葉に甘えさせてもらいます」

「よろしく」


 焔と文は唐揚げの大皿を持って、大広間へと向かっていった。


「蘇芳様もどうぞお食事なさって来てくださいな」


 紅玉は鍋の後片付けをしている蘇芳に向かってそう言った――が。


「俺はここに残って貴女と共に片付けをする」

「大丈夫ですわ。蘇芳様、お腹が空いたでしょう? ここはわたくしに任せて――」

「紅殿」


 キリリとした金色の瞳にジロリと睨まれ、紅玉はたじろぐ。


「貴女はそうやってすぐに一人で何でもかんでも仕事を抱え込もうとする悪癖がある。それに一人でやるより二人でやった方が断然に早く終わるだろう。早く二人で片付けを終わらせて、一緒に食事をするぞ。よいな?」


 そう一方的に言うと、蘇芳は流し台に向かって神術を発動させた。

 しばらく黙ったまま立っていた紅玉だが、「わかりました」と言うと蘇芳の隣に立って、蘇芳と共に作業を進めていく。


「……蘇芳様」

「ん?」

「ありがとうございます」


 ふわりと微笑んで蘇芳を見上げる紅玉に、蘇芳は笑い返す。


「どういたしまして」


 二人の頬は少し赤く染まっていた。




 蘇芳が神術を使って洗い物をし、紅玉が濡れた食器を拭いていく――。

 そんな作業をしながら、蘇芳は口を開いた。


「正直、今回の事は驚いたぞ」

「何がです?」

「貴女が空殿と鞠殿の朔月隊入隊を許可したことだ。絶対に許すはずがないと思っていた」

「ふふふっ。実は、最初はわたくしも猛反対しましたわ」


 「朔月隊」は朔の如く闇に隠れて存在する秘密部隊――秘密裏に情報収集や捜査を行ない、必要であれば「敵」を排除する為に全力を尽くす――相手がどんな存在であろうとも。


 紅玉は「朔月隊」結成初期から入隊していた隊員の一人で、今までの朔月隊の任務には全て参加して来た。

 中には理不尽な結果に終わった任務もあったり、葛藤に悩まされる任務もあったりして、辛い時期もあった程だ。


 そんな「朔月隊」に純粋無垢で心優しい空と鞠を巻き込むのは、正直気が引けた――だが。


「でも……空さんと鞠ちゃんがあまりにも真剣で……説得されて……結局最後は負けてしまいました」


 困ったように微笑む紅玉に、蘇芳は少し呆れたように笑う。


「まったく、貴女は二人に甘過ぎる」

「ふふふ、仰る通りで言い返せませんわ。だって可愛い弟と妹ですもの。お願いされたら断れませんわ。それに前向きに考えてみましたの。空さんと鞠ちゃんが朔月隊に入ってくだされば、二人を守ってくださる方が増えます。朔月隊の皆さんはお優しい方達ばかりですもの。何かあった時は必ず力を貸してくれますから」


 「空と鞠を守る」――その意味を考えた時に、蘇芳はある事が真っ先に思い浮かんでいた。


「……紅殿……『()()()()()』を朔月隊に公表するつもりなのか?」

「はい。でないと意味ないでしょう?」


 蘇芳は少し驚いてしまう。


「……蒼石殿は……」

「許可を得たそうですわ。空さんったら、一体どうやって説得したのでしょうね?」

「…………」


 まさか、蒼石にも許可を貰っているとは思わず、蘇芳はいよいよ驚きが隠せない。紅玉と同じように蒼石への説得をどのようにしたのか気になってしまうところだ。


「……わたくしは空さんと鞠ちゃんにこう説得されてしまったのです……」


 紅玉は目を閉じ、あの時の事を思い出す――玄関広間で二人に「お願いがある」と切り出された時の事を――。


「お父さん達を守りたいって。神子様を守りたいって。守りたいから朔月隊に入りたいって……あと、それと……」


 その言葉を思い出すと、目頭が熱くなってくる。紅玉はゆっくりと呼吸を繰り返しながら、その言葉を言った。


「もう、お母さんのような……(はる)さんのような……悲しい犠牲を二度と生み出したくないって」


 「晴」――前二十二の神子であり、空の母――その名を久々に聞いた蘇芳は思わず目を見開いた。


「そう真剣に言われては……わたくし、反対なんてできませんでした」


 困ったように微笑んで言った紅玉の瞳の端に滴が一つ零れ落ちていたのを蘇芳は見逃さなかった。

 手を拭い、そっと紅玉の頬に手を伸ばすと、その滴を拭う。


「……本当に良い子達に育ったな」

「はい、本当に……晴さんにも、空さんと鞠ちゃんの立派な姿をお見せしたかったです……」


 空っ風のようなさばさばとした笑顔が、紅玉の記憶に今でも鮮明に思い出させ、余計に切なくさせた――。




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