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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第二章
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空と鞠 対 朔月隊




 紅玉の開始の声に真っ先に飛び出したのは轟だった。

 空に向かって駆け出しながら、武器珠から金棒を取り出した。


「先手必勝っ!!」


 物凄い速さで空に金棒を振り下ろす――しかし――空は轟の先手を難なくヒョイッと避けた。


「――っ!? うらぁっ!!」


 二打目、三打目と、かなりの速さで攻撃を繰り出す轟だが、空は涼しい表情でヒョイヒョイとそれを全て避けている――そう、それは回避を得意としている紅玉の如く。




「……見事な紅ちゃん二世の爆誕じゃん」


 結界の外で試練を見守る幽吾が呟いた。




 振っても振っても当たらない攻撃に轟の苛々が増していく。


「うがあああ!! 避けんなあああ!」

「ちょっと轟君、熱くなりすぎ!」


 世流が指摘したその瞬間――視界の端にキラリと鈍く光る何かが見え、世流は反射的に鞭を振った。

 鞭に手応えを感じ、地面を見ると――手裏剣が突き刺さっていた。


「あっぶな……!」


 思わず呟く世流に対し、空は悔しそうな表情を浮かべる。

 しかし、すぐさま空は武器珠から手裏剣を出すと、鋭く轟と世流を睨みつけた――。




 鞠が武器珠から弓を取り出したのを見た焔は前へ出る。


「左京君、一旦下がってくれ」


 焔の言葉に左京は一歩下がる。


 そして、焔は己の神力を一気に両手に握る銃に込め、鞠に向かって次から次へと発砲した。激しい銃声が鳴り響き、確実に鞠に撃ち込まれていく。

 しかし、左肩に向かって撃ち込まれる神力の弾の数々を、鞠は全て避けていた――それはさながら――。




「こっちも紅ちゃん三世じゃん」


 ついさっきも似たような事を言った幽吾が再び呟く。




「焔様の命中率は高いはずですが、鞠ちゃんの回避力もお見事ですね」


 冷静に一人分析している左京はそう言いつつ、武器珠から己の身長よりも大きな西洋の槍を取り出す。

 やがて、焔の弾が尽きる――それを待っていた鞠は素早く弓を構えて焔に放った――。

 しかし、矢は焔に届く事無く、左京によって全て叩き落されていた。


「そう簡単にはいきませんよ」


 にっこりと微笑む左京を鞠は悔しげに見つめた。




 結界の外で実技試練を見守っていた蘇芳は感心していた。


(流石、幽吾殿に認められた朔月隊……そう容易くは硝子玉に触れさせてはくれないだろうな。何より気心知れた仲という事もあり、息が合っている。空殿と鞠殿も良い動きをしているとは思うが、回避だけでは持久力勝負となるとどうしても限界がある……さあ、どうする……?)




 次から次へと襲いかかる怒涛の轟の攻撃に、最初涼しい顔をして避けていた空だが、徐々に体力が無くなって来た事を感じ取っていた。

 どうやらそれは鞠も同じようだった。


 しかし、それでも状況を分析しようと、頭を回転させながら、周囲の観察を行なう――。


「ちょっと轟君! 地面ボコボコにさせるまで暴れないでよ!」

「っるせぇっ!!」

「焔様、僕が鞠ちゃんの足を止めてみせますので、必ず硝子玉を破壊してください」

「わかった」


 相手の会話も聞きつつ、空は考える。


(轟さんは近距離戦闘スタイルの直情型。世流さんは近中距離の戦闘スタイルで轟さんの抑え役。さっちゃんは近距離戦闘スタイルで大きい武器の割に動きが素早くて厄介。焔ちゃんは遠距離戦闘スタイルで命中率高い……まず叩くべきは――)


 空はチラリと鞠を見た――鞠はそれに対し、頷く。

 そして、空は轟を無視し、左京に向かって駆け出し、すかさず手裏剣を左京に投げつける。

 左京は視線を空へと向け、飛んでくる手裏剣を槍で難なく叩き落とす。


「俺様から逃げられると思ってんのか!? うらぁっ!!」


 空にあっという間に追いついた轟は金棒を振り下ろした。

 大きな音を立てて地面が抉れる。




「うみゅ、今更だけど、朔月隊に修繕費請求するからね」

「うんうん、つけといて。轟君に」


 結界の外で水晶と幽吾のそんな会話が繰り広げられていた。




「うらうらうらおらああああああっ!!」


 振れば振る程増していく轟の金棒の威力と速さ――あれを一撃でも受けたら一溜りも無いだろう。

 なんとか空はそれを避けつつ、足で地面を蹴り上げ、轟に土を浴びせかけながらも、左京に手裏剣を投げつける。


「ハッ! 目潰しなんざ俺様に効くかよ!!」


 轟は再び地面を抉る。


 轟が地面を抉り、空が土を蹴り上げ――辺りに土煙が立ち込めたところで、世流は空の意図にハッと気づかされた。

 そして、焔も焦る。


(土煙で鞠ちゃんの姿が……!)


 そう思った瞬間だった――。


 風を切る音がし、「パリン!」と割れる音がした。


「っ!?」


 気づけば、焔の左肩の硝子玉が破壊されていたのだ。

 微かに見えた土煙の向こう側で、鞠がニヤッと笑っているのが見えた。


「何やってんだよ!? 焔!」

「轟君! ちょっとあなた暴れすぎよ!」

「お気をつけください、お二方!」


 土煙の中から手裏剣が飛んでくるのを、槍で叩き落としつつ叫んだ左京はハッとする――目の前に急に空が現われたからだ。


(何時の間にっ)


 「ガギンッ!」――と槍と小刀がぶつかり合う音が鳴り響く。

 突然空が奇襲をかけてきたからか、相手は小刀のはずなのに、想像以上の強い力に左京は押し負けそうになり、一旦態勢を立て直そうと、後方へ跳んだ――。


「――っ!?」


 そこは轟が抉った地面の上で左京は完全に体勢を崩してしまう――。


 それを見逃す空であるはず無く――「パリンッ!」――飛び込んできた空に左京の硝子玉は破壊されてしまった。

 左京は少し悔しげに微笑むと両手を上げていた。


 焔が戦闘不能にされ、立て続けに左京まで――世流は轟を思いっきり睨みつけた。


「轟君のおバカ!!」

「なんでだよ!?」

「焔ちゃんとさっちゃんの足引っ張ってんじゃないわよ!!」


 しかし、文句を言ったところで試練が終わる訳はない。

 むしろ相手は更に勢いを増す――矢が引っ切り無しに飛んでくるのを、世流は鞭で全て叩き落す。

 それを見た鞠は苦い顔をしながら空にチラリと視線を向ける。


(やっぱり世流さんを遠距離から攻撃するのは難しそうっす……ってなると)


 空は轟の方を向いた。


「轟さーん! 考えなしの猪突猛進な轟さーん!」

「……あ?」

「鬼さーん、こっちら、手のなる方へ~っす! あっ。アホ鬼さんっすかね?」


 轟の頭で「ぷっちーん」と音がした瞬間、轟は考える事を忘却した。

 そして、空は轟から逃れるように世流の方へと向かってくる――。


(嫌な予感……!)


 世流は空から距離を取ろうとするが、鞠の矢がいく手を阻む。

 そして、あっという間に空は姿がはっきり捉えられる距離に近づいており、轟も空の目の前へと迫っていた。


「こンのおおおおおおおおおっっっ!!!!」


 空は轟の動きをしっかりと見極め、金棒を振り下ろす直前の轟の手首を握る――そして、轟の力を利用し、世流の方へと投げ飛ばす――。


「だああああああああああああっっっ!?」

「きゃあああああああああああっっっ!?」


 物凄い速さで飛んでくる轟を避ける事ができず、世流は轟と激突した――土煙が上がる。


「ちょっと! いつまで乙女の上にのし掛かってんのよっ!」

「へばあっ!」


 己の上に圧し掛かる轟を世流は思いっきり平手打ちをし、「バチンッ!」と良い音が響き渡った。


 その次の瞬間――。


 「パリンッ!」「パリンッ!」――硝子玉が割れる音が響き、轟と世流は己の左肩を見た。

 そこには破壊された硝子玉がぶら下がり、少し離れた位置に矢が突き刺さっていた。


「そこまでっ!!」


 紅玉が叫んだ。


 結界の外で試練の行方を見守っていた十の御社の神々は歓声を上げ、幽吾はニンマリと笑い、蘇芳は二人を湛え拍手を送り、水晶は芋の菓子を銜えたまま目を見開き、蒼石は安心したように柔らかく微笑んでいた。


「実技試練終了です。判定者五名、結論は?」


 紅玉にそう問われ、幽吾達は顔を見合わせ頷き合うと、声を揃えて言った。


「「「「「合格異議なし」」」」」

「では、対戦者四名、何か異議は?」


 紅玉に問われ、焔と左京は首を横に振り、世流も困ったように微笑みながら両手を挙げた。轟も悔しげではあるが、首を横に振っていた。


「朔月隊異議なしということで、空と鞠は合格! 朔月隊入隊を認めます!」


 紅玉が高らかにそう宣言した瞬間、空と鞠は抱き合って喜びを分かち合い、十の御社の神々からは雄叫びのような喜びの声が上がった。


「「「「「合格祝いだああああああああああああっっっ!!!!!!」」」」」




次回、宴会です。

神様、狂喜乱舞。

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