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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第二章
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実技試練開始




 「ツイタチの会」から帰宅した紅玉は空と鞠に「二日後、十の御社にて朔月隊入隊実技試練が実施される事になった」と説明をした――竜神組の目の前で――。


 当然ながら――。


「はあああああああああっ!? 朔月隊入隊実技試練だとぉっ!? 冗談じゃねぇ!兄様は許さねぇぞ! 空! 鞠!」


 熱き火の竜神の火蓮から真っ先に反対の声が上がった。


「火蓮様、少々お静かに願います。そして、どうか空さんと鞠ちゃんの意思を聞いてあげてくださいませ」


 紅玉の言葉に、火蓮は空と鞠を見つめた。

 空と鞠もまた真っ直ぐな穢れの無い瞳で火蓮を見つめ、はっきりとした声で言った。


「火蓮兄、心配かけてごめんっす。でも、俺、お母さんが儚い人になった時から決めてたっす。お父さんや火蓮兄、翡翠兄や琥珀兄、あと晶ちゃんみたいな神子様……この神域に生きる大切な人達をこの手で守りたいって。先輩のように戦いたいって。だから、俺、朔月隊に入るって決めたっす」

「マリもソラとオナジ。マモリたいデス。たくさんたくさん、オンガエシしたいヨ」


 空と鞠の言葉に、火蓮の瞳から滝のように涙が零れ落ちていく。


「うっぐ……ひっぐ……そっか……お前ら、ちゃんとそこまでしっかりと……!」


 翡翠も先程まで難しい顔をしていたが、空と鞠の言葉を聞いて、困ったように微笑んでいた。


「参ったな……そう言われたら、僕らは応援するしかないじゃないか」

「…………大きくなったな、空、鞠」


 しみじみとそう言う琥珀の横で、蒼石は黙ったまま空と鞠を見つめていた。しばらく黙ったままだったが、やがて大きな手を空の頭の上に伸ばし、空色の髪を撫でながら呟く。


「……旅立つ我が子を見守るだけという事が、こんなにも歯痒いとはな……」

「お父さん……」


 そして、蒼石はニカッと笑って見せた。


「全力を尽くせ。空、鞠」

「――っ、おっす!」

「Yeah!」


 そんな親子達のやり取りを紅玉は微笑ましげに見守っていた。




**********




 そして、あっという間に二日経ち、朔月隊入隊実技試練当日となった。


 開催場所が十の御社の庭園という事もあり、御社に住まう三十六名の神々は勿論、十の神子である水晶や蘇芳も実技試練を見る為に庭園へと集まっていた。

 すっかり試練というより、何かの見世物状態である。


「空ぁっ! 鞠ぃっ! 頑張るんじゃぞ~~~!」

「空く~~~ん! 鞠ちゃ~~~ん!」

「頑張れーーーーーーっ!」


 十の御社で成長を見守って来た空と鞠の試練という事もあり、神々はみな二人への応援に余念が無い。

 竜神組に至っては、翡翠と琥珀が巨大な横断幕を持ち、その前で火蓮が大声で声援を送り、身体の大きな蒼石が最前列で無言のまま腕組みをして立ち、只ならぬ威圧感を放っている。


 その圧倒されるような雰囲気に、轟は思わず眉を顰めた。


「……俺様達、超アウェーじゃね?」

「うふふっ、愛されているわね~、空君に鞠ちゃん」


 微笑ましく思いながらも、世流は妖しげにニヤリと笑う。


「ま、手加減なんて一切しないけどね」

「ハッ! 当たり前だ!」


 試練開始直前の異様な高揚感が増していく――。


 そして、庭園の一区画に巨大な結界が張られたところで準備が完了する――紅玉が叫んだ。


「これより名前の呼ばれた方は結界の中へ――空、鞠――轟、世流、左京、焔」


 紅玉の声に六名が結界の中へと入っていく。


「これより空と鞠の朔月隊入隊実技試練を開始します。わたくし、紅玉が審判を務めさせていただきます。対戦相手は轟、世流、左京、焔の四名。幽吾、文、美月、天海、右京の五名は試練の判定を行ないます。朔月隊、異議はありませんか?」

「「「「「異議なし」」」」」


 全員の許可を得られたところで、紅玉は再び話を進める。


「実技試練のルールについて説明します。これより四対二の戦闘をして頂きます。武器珠は使用可、攻撃系神術は使用禁止です。制限時間は十分。戦闘範囲は十の御社の庭園内の結界を張ったエリアのみとなります。多少の怪我は互いにご了承願いますが、大怪我をさせるまでの強い攻撃は禁止です」

「なんでだよ!?」


 轟の叫びに幽吾が答える。


「僕ら朔月隊のお仕事はあくまで隠密。影の仕事だよ。ド派手にブッ飛ばさないし、命までは奪わないよ。犯罪だからね。その代わり社会的には抹殺させてもらうけどね」


 にっこりと微笑む幽吾に背筋が凍ったのは果たして誰か……全員か……。


「……とまあ、そういうわけですので、実技試練参加者にはこちらを」


 紅玉がそう言って差し出したのは至って普通の硝子玉だった。


「全員、この硝子玉を左肩に装着してください。そして、この硝子玉を奪うか、破壊してください。奪われたり、破壊されたりした方は戦闘不能扱いです。最後まで残った方が勝ちとなります」


 すると、空が手を挙げた。


「先輩! 試練の合否の基準は何人倒せばいいっすか?」

「基本的には全員殲滅です」

「厳しいな! おい!」


 紅玉の説明に抗議の声を上げたのは火蓮だ。


「ご安心ください。全員殲滅できなくても、試練中の動きも見て合否の判定を行います」

「その為に僕らもいるわけ。逆に言えば、全員殲滅させても戦い方によっては不合格の場合もあるってわけ」


 幽吾はそう言いつつニンマリと笑う。


 なかなか厳しい試練内容だと誰もが思っていると――。


「Oh、もーメンドーデース。CoolにAllタオせばOK?」


 鞠がサラッとそう言うものだから、全員思わず黙ってしまった。


「うみゅ、鞠ってば豪快」


 水晶は素直な感想を述べつつ、好物の芋の菓子をパリパリと食べていた。


「ハッ! 現役の朔月隊なめんな!」


 轟が腕組みをしながら威嚇をし、


「かわいこちゃん達には悪いけど、ここで諦めてもらわなくっちゃねっ」


 世流がパチリと片目を瞑り、


「私も本気を出させてもらおう」


 焔が武器珠から銃を取り出し、


「お覚悟を」


 左京が胸に手を当てながら一礼をした。


「全力尽くすっす!」


 空が拳を握りしめ、


「ソッチこそカクゴしやがれデース!」


 鞠が轟達に向かって指をさし、挑発をした。


 そして、高揚感が頂点に達した時、紅玉は右手を高く上げ、高らかに宣言する――。


「それでは両者見合って――実技試練開始!!!!」


 紅玉の右手が振り下ろされた。




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