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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第二章
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捜査報告と報告事項




 食事を終えたところで、いよいよ「ツイタチの会」が開催される事になった。


「はいはーい、『ツイタチの会』始めるよ~。議長は毎度お馴染み『朔月隊』隊長の幽吾で進めるよ。まずは『術式研究所の生き残りについての情報収集と捜査結果報告』から――てなわけで僕から行くね」


 幽吾はそう切り出すと、卓の上に一冊の本を置いた。


「はい、術式研究所が作った禁術紋章一覧表」

「「ちょっと待てっ!!!!」」


 堪らず幽吾と焔が叫んで立ち上がる。


「いきなりすっげえモン出してきやがったな!? どうやって手に入れた、それ!!」

「術式研究所の禁術は封印されたのだろう!? どうやって持ち出した!?」

「まあまあ、細かい事は気にしない気にしない」

「「気になるわっ!!!!」」

「まあ僕は一応中央本部の人間だからね。それ以上は企業秘密ってことで」


 幽吾と焔の怒涛の突っ込みに対しても、幽吾は相変わらず飄々としていた。


「流石に祝詞も載せた完全な術式までは持ち出せなかったけど、書き換えのされた紋章だけでもわかっておけば今後の捜査に役に立つかな~と思って。紋章の書き換えがされているとはいえ、パッと見じゃわからないからね」

「なるほど……確かにこれではまるで間違い探しのようですわね」


 幽吾の持ってきた資料と正式な紋章を見比べてみると、あまりに酷似しており、何処が書き換えされているのか分からない程だ。


「全員には何処に紋章の違いがあるのだけでも覚えてもらえると助かるな。もしかしたらどこかで禁術を目にする可能性があるかもしれないし。特に『探知』の異能を持っている天海君はしっかり覚えておいてね」


 天海の異能は「探知」――術式や神力の痕跡を辿って、誰が使用したものか特定する事ができるという鑑定系の異能である。

 しかし、天海の異能には弱点があった。


「わかった。出来る限り努力はするが、俺がきちんと探知できるのは使用後一時間くらいだから、あまり期待をしないでくれ」

「うんうん。だから、神域中で使用されたと思われる神術はなるべく全部探知するようにしてね」

「………………」


 無茶ぶりもいい所である。


「そんなわけで僕の報告はここまで」


 幽吾が話を終えると、次に世流が手を挙げた。


「じゃ、次はワ・タ・シ!」


 パチリと紫がかった黒い瞳の片方をパチリと瞑ると、世流は卓の上に何枚かの写真を並べた。

 写真に写るのは全員男性だ――そして、紅玉はその全員に見覚えがあった。


「ここに写っている人達は、かつての術式研究所の研究員をしていた人達よ。幽吾君から情報を貰って、この人達と関係があったと思われる人達にそれなりに探りを入れてみたんだけど、研究員だった彼らとはあまり関わる事がなかったらしいわ。プライベートもよく分からない謎めいた人達だったって言うのが共通の意見ね」

「まあ、趣味、新神術作りって言っちゃいそうな人達ばかりだもんね」

「特別交友関係の深そうな人も、特に名前が挙がらなかったわ。一応、話を教えてくれた職員の名前は控えているけど、参考にはならなそうね」


 世流は肩を竦めながら「以上よ」と言った。


「それじゃあ最後は俺様達だな! 頼んだぜ! 紅!」

(((((俺、達?)))))


 轟と紅玉以外の全員がそう疑問に思いつつ、紅玉の言葉に耳を傾ける。


「神域図書館の禁書室で、轟さんと術式研究所に関する事件の資料を確認しました」

「どうだ! すげぇだろ!?」

「その資料のほとんどは、術式研究所の所長であった神子管理部職員の矢吹という男性が自ら記入していたものだったのですが……」

「ここから驚きだぜ!?」

「――【轟、黙れ】」


 文の言霊にて、轟は口を無理矢理閉ざされてしまった。

 「むぐー!?」と轟が無言の悲鳴を上げる事も気にせず、紅玉は言葉を続ける。


「あの几帳面な矢吹にしてはあり得ないミスを発見しました。彼が記入していた資料の一部に抜けがあったのです」

「なんだって?」


 珍しく幽吾が驚きの声を上げていた。


「わたくしはこの矢吹という男を知っておりますが、彼は大変几帳面で計算ミスや誤字脱字の一つも見逃さない方でした。彼の性格を考えると、書類の抜けを見落とすなんてあり得ません」


 そして、紅玉は恐ろしい可能性を口にした。


「もしかしたら……誰かが、矢吹の資料を抜き取った可能性が……あるかもしれません」

「……否定、できないね。禁書室閲覧等の管理は中央本部事務課がやっているから……めちゃくちゃずさんなんだ」


 幽吾の言葉に全員目を見開く。

 そして、改めて中央本部の呆れた実態を知る事となってしまい、開いた口も塞がらなくなってしまう。


「閲覧者の過去の名簿を見たところで犯人を暴くのは難しいかもしれないね……何せ、きちんと整理整頓されていないからね」

「……ちっ!」


 文が思わず舌打ちをした。


「ちなみに紅ちゃん、足りなかった資料ってのは分かる?」

「はい、『術式研究所関係者名簿』の一ページ目と二ページ目。あと『術式研究所会計』の方は大分足りていないページが多かったですわ」

「抜けのページが分かるって……その資料の作成者の矢吹っちゅう男は、随分細かい男やったんたなぁ」

「はい、細かくて細か過ぎて……厄介な先輩でしたわ」


 曇天のような暗い髪と瞳を持つ眼鏡をかけた男性の冷酷な表情を思い出す――。

 そんな紅玉の様子を見た天海が質問をする。


「紅玉先輩、知り合いですか?」

「はい。配属区は違いましたけど、面識はございました……空さんの事でちょっと対立していましたし」

「え……空きゅん?」

「あの、紅様……!」

「空君の事で対立って、何があったのですか?」


 空の友人である美月や右京や左京が、心配そうに身を乗り出して紅玉から話を聞き出そうとするが――。


「はい、悪いけど、その話に関しては長くなりそうだからここまで」

「……ごめんなさい、三人とも。今度機会があったら……」


 幽吾の言葉にシュンとした三人に紅玉は申し訳なさそうに微笑んだ。


「それじゃあ引き続き研究所の生き残りに関しては情報収集と捜査を行なっていこう。各自、何か掴んだら神獣連絡網で報告を」

「「「「「仰せのままに」」」」」

「それじゃあもう一件の報告事項といこうか」

「あ? もう一件?」


 幽吾の言葉に轟は眉を顰める。

 何せもう一件の報告事項など、事前に聞いていないからだ。

 何の事かと全員が思っていると、幽吾は言った。


「それに関しては――はい、紅ちゃん、よろしく」


 幽吾に指名され、紅玉は「はい」と返事し、にっこりと微笑んで言った。


「報告します。空さんと鞠ちゃんを朔月隊入隊推薦し、入隊試練を言い渡し、昨日実行されました」

「「「「「!!!!」」」」」

「皆様、ご自身の『武器珠』をよくご確認くださいまし」


 「武器珠」とは神域管理庁から支給される職員用の武器を収納する珠の事である。


 紅玉に言われ、全員腰に付けている「武器珠」を確認する――。


「「「「あ……」」」」


 そう揃って声を上げたのは、文、美月、天海、右京の四人だ。


 文、天海の武器珠には「空参上!」と書かれた小さな貼紙が――美月と右京の武器珠には「まり」と書かれた小さな貼紙がそれぞれ貼られていた。


((((あの時か……!))))


 四人はそれぞれ空と鞠に会った時の事を思い出していた。


 文は、空に糸屑を取ってもらった時の事を――。

 美月は、鞠に抱きつかれた時の事を――。

 天海は、空に肩を叩かれた時の事を――。

 右京は、鞠に荷物運びを手伝ってもらった時の事を――。


 四人の武器珠を見て、紅玉はにっこりと微笑みながら言った。


「武器珠はわたくし達職員にとって非常に大切な武器であり、いざという時の命綱。その大切な命綱に悪戯をされるようでは、まだまだですわね」

「ってことで、空君も鞠ちゃんも『朔月隊現職隊員二名の武器珠に己の証拠を残す』朔月隊入隊試練にゴウカク~」


 幽吾がパチパチと拍手をした。


「おめぇら二人揃って何やってんだよ!?」

「文……君、油断し過ぎだろう」

「ねえ右京、お腹抱えて爆笑してもいいですか?」


 轟、焔、左京が武器珠に証拠を残された四人に対して辛辣な言葉を向ける。


「こらこら三人とも、その辺にしておきなさい。明日は我が身よ。それにしても、空君と鞠ちゃんね……ふぅ、時の流れを感じるわ」


 頬に手を添えながらしみじみと呟く世流の言葉に頷きつつ、紅玉は話を続ける。


「試練は合格ですがが、他の皆様の意見を伺いたくお聞き致します。空さんと鞠ちゃんの朔月隊入隊、許可しますか?」


 紅玉の言葉に真っ先に幽吾が手を挙げる。


「僕は許可するよ」


 その一方で――。


「ワタシはちょっと反対よ。だって、二人ともまだ十六歳になる前でしょ? 心配だわ」

「俺様は断然に反対だ!! ガキにこの仕事は無理だ!!」

「私も反対させてもらう。あんな真っ直ぐで優しい子達に、こんな危険を伴う仕事をさせたくはない」

「僕は許可したいところですが、友人として敢えて二人の実力をこの目で見てみたいです」


 世流、轟、焔、左京から反対意見が出た――。

 それを聞いた紅玉はゆっくりと頷く。


「反対意見多数……ということで……入隊試練規定により試練は実技試練へと移行します。皆様、ご予定をお聞かせください」




空と鞠は、はじめてのおつかいと見せかけて、入隊試練もこなしていたのでした。

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