表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第一章
8/346

ようこそ、十の御社へ




「わたくしは紅玉と申します。この度、雛菊様の研修の担当を務めさせて頂く事になりました。どうぞよろしくお願いします」

「よっ、よろしくお願いします!」


 紅玉のその言葉遣いと所作を見て、雛菊は感動していた。


(ふっわ! すごく綺麗な言葉遣いに、美しい所作! 姿勢も綺麗だし、今時こんな人珍しい! 育ちの良いお嬢様なのかな!? これぞまさしく『大和撫子』って感じ! いや『大和撫子さま』だわ!)


 雛菊がそう思いながら見つめていると、「どうぞこちらに」と紅玉がスッと手を差し出し誘導する。


(ああもうきっちり指が揃えられた手の動作の美しさったらハンパない! 同じ女としてちょっと恥ずかしくなるわー。どういう教育受ければこんな淑やかな女性になれるんだろうねー)


 そう思いながら、雛菊は御社に足を踏み入れる――そして、その瞬間、雛菊は目を剥いた。


「おっ、お城!?」


 雛菊の目の前に現れたのは、西洋の文化を取り入れた大変立派な洋館であった。門から洋館までの間には少し距離があり、立派な通路がある。通路の脇には花が植えられており、洋館の脇にはこれまた大変立派な庭園が見えていた。


「驚かれたでしょうか? 御社のほとんどは大和皇国伝統の建築技術を詰め込んだ平屋のお屋敷なのですが、神子の趣味で、十の御社は洋館でして……ああ、勿論、他にも洋館様式の御社もございますよ」


 そう紅玉が簡単に説明をしながら、花で彩られた通路を進んでいくが、実は雛菊はそんな事よりもある事が気になっていて仕方なかった。


(ひっっっろっっっ!! え、なにここ、貴族のお屋敷? むしろ皇族のお城の一角じゃないの!? 広い! 広過ぎるっ!! 庭園がある! 池もある! むしろ川もある! 何故か山もある! 意味不明!)


 何故、雛菊が御社の広さをここまで気にしているのかには訳があった。

 ここ、神域は皇族所有の土地ではあるが、神域内の管轄管理を行なっているのは神域管理庁である。そして、その神域管理庁は政府管轄だ。すなわち神域の管理の資金源は、大和皇国国民の税金ということになるのだ。


(どんだけお金かけているんだこのお屋敷!? 神子の数は四十七人で、御社も神子の数分あるってことは、こんな豪奢なお屋敷が神域内に四十七ヶ所もあるってことで、その資金も全て我々の血税から出ているってことですよねっ!? どうなっているのよ、政府! どうなっているのよ、神域管理庁! 神子様神様の為って言いつつ、あんたらも所詮は庶民の敵かぁーーーーーーっ!!??)

「この御社は神子様の神力によって生み出されたものでございます」

「…………はいっ?」


 紅玉の言葉に雛菊は慌てて振り返った。

 紅玉は雛菊を見ながらころころと笑っていた。


「え、えっと……神子様の神力によって生み出されたとは……?」

「そのままの意味でございます。神の託宣により選ばれた神子様はお身体に神の紋章を宿します。それが神子の証であり、神力の源でございます。そうして選ばれた神子様は神域へ移り住み、まずご自分が住まわれるお屋敷を自らの神力で生み出すのです。ですから雛菊様が心配されるような無駄遣いは一切しておりませんのでご安心ください」


 そう説明して、紅玉はにっこりと微笑んだ。


「ごっ、ご説明ありがとうございます! 危うく誤解し続けるところでした……!」

「いえいえ」

「と、ところで、どうして紅玉さんは、あた……わたしの疑問がわかったんですか?」

「…………雛菊様、よく考えている事が顔に出やすいとか言われませんか?」

「……え」

「お可愛らしい百面相でしたわ」


 紅玉の言葉に雛菊は愕然とした。

 実はまさにその通りで、「考えている事が顔に出やすい」は雛菊がよく言われる台詞の上位に入る一言だ。


(いやーーー! まさか初対面の人にまで言われるなんて! 完全に心の声筒抜けじゃないーーー! あらゆる意味で恥ずかしいーーーーーー!)


 あまりの恥ずかしさに雛菊は顔を両手で覆って悶えた。


「すみません……なるべくポーカーフェイスできるように頑張ります……」


 絞り出すように、そう言うしか雛菊はできなかった。


 すると、洋館の方から子どもが三人トテトテと走ってくるのが見えた。


「紅ねえーーーっ!」

「遅いから迎えに来ちゃいましたぁ」

(ふっわっ! みんな可愛い! 三人とも将来有望なイケメン君と美少女ちゃんだわ!)


 雛菊がそう思うのも無理はない。やってきた子ども達は、思わず見惚れてしまうほどの非常に器量の好い子達だったのだから。


(それにしても、紅玉さんって「べにねえ」って呼ばれているんだ。確かにお姉さんっぽいもんね)


 雛菊が見つめる先で紅玉と子ども達が話している。


「こぉら、走っては危ないですよ。それにお客様の前です。まずはご挨拶ですよ」

「あ、そうだった! ごめんなさい!」

「ごめんなさい~」

「……ごめんなさい」

「きちんと謝って反省したのならもうよいですよ。さあ、お客様にご挨拶を」


 紅玉に促され、子ども達は雛菊の方を向いた。


「ようこそ! 十の御社へ! 俺は真昼(まひる)!」


 そう名乗るのは燃え盛る陽のような朱色の髪の少年。瞳はまるで快晴のような綺麗な青色。元気そうな印象だ。


「ボクは雲母(きらら)ですぅ」


 次に名乗ったのは、光沢のある白髪と不思議な虹色の煌めきの瞳を持った少年。ふわふわした口調が特徴的だ。


「……れなです……」


 最後に小さな声で名乗ったのは淡い藍色の髪と緑の瞳を持った少女。引っ込み思案なのか、名乗ってすぐ少年二人の後ろに隠れてしまう。

 少女が恥ずかしそうに俯いているのを、少年二人は労うように少女の頭をポンポンと撫でた。


(可愛すぎ……っ!)


 三人の仲睦まじい様子に思わず胸をときめかせる雛菊だったが、子ども達が立派に挨拶をしてくれたので、負けじとお姉さんらしく挨拶をしようと、少し腰を屈めて頭を下げる。


「わたしは雛菊です。二週間の研修期間、こちらでお世話になります。よろしくお願いします」

「おう! よろしくな!」

「よろしくですぅ」

「……うん」

「はい、皆様、よくできましたね。ご立派です」


 紅玉がそう言いながら、子ども達の頭を撫でる。子ども達も紅玉に褒められて満足そうである。


(紅玉さん、もうなんて言うか、お姉さんって言うよりお母さんっぽい。そして、子どもちゃん達が可愛すぎる! 研修中の身で気を引き締めないといけないってわかってはいるけど、すごい癒されるわぁ……)


 子ども達をほっこりと見つめる雛菊を、紅玉と子ども達が何とも言えない顔で見つめる。


「…………そういう訳なのです」

「なるほど、理解した。なるべく俺達が傍についておけばいいって話だよな」

「お話が早くて助かります。面倒かけてしまいますが、よろしくお願いします」

「任された!」

「お任せください~」

「……うん」

(……何の話だ?)


 今の紅玉達の話を一切理解できない雛菊だが、四人がとても仲良しだという事は良く分かった。


「皆さん、仲良しですね。ご姉弟なんですか?」

「いえ、この子達……この方々は神様でございます」

「……はあっっっ!?」


 紅玉の言葉に雛菊は目を剥いた。

 どう見ても見た目は年齢一桁くらいの子どもである。それが神だと聞いては驚くのも無理はないだろう。


「驚かれるのも当然かと思いますので、説明させていただきますね。我が国の神々は万物に宿ります。そして、神子様が神様に祈りを捧げ、名前を与え、契約をする事で、我が国は神様の恩恵を授かる事ができるのです。そして、降臨された神様達も共に御社で過ごす事になるのですが、神様にもまた個性があり、性格容姿までもが多種多様なのでございます。なので、真昼様達のように子どものような容姿をした神も少なくはないのですよ。」

(はあ……なるほどね……神様にも個性があるのね)


 紅玉の説明に雛菊は納得することができた。


「よろしければ神様と人の見分け方のコツをお教えしましょうか?」

「え、どんなコツですか?」

「神様は皆様例外なく大変容姿が整っていらっしゃいますので、容姿が美しければ大概は神様です。極普通の方は大概人間です」


 ニッコリとそう微笑む紅玉に、雛菊は何も返せなかった。


(分かっていた気はするけれど、現実が世知辛い……神様うらやましすぎるっ!)




だって、神様だもん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 神様の見分けかたについて雛菊が紅玉を見て思った内容からすると神様と誤解されないのかが気になりました。 [一言] 黒って大概悪いイメージが多い気がしますが、皆さんそんなに気にいらない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ