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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第一章
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【おまけ】ぴよぴよぴよ

「そして、彼女は心を鬼にする」のその後に起きたおまけ話です。

マスコットキャラ誕生秘話です。




 朝から今の今まで、神々から天国のような(ある意味地獄のような)異能制御の訓練を受け続けた雛菊は、見事「以心伝心」の異能を制御する事ができるようになっていた。

 しかし、その代償はあまりに大きく、雛菊は応接室の長椅子にまるで屍の如くぐったりと横たわっており、座る気力すらも最早なかった。


 そんな雛菊を見て罪悪感を覚えた紅玉は労わるように雛菊の頭を撫でる。


「お疲れ様でございましたね、雛菊様。よく頑張りました」

「あハ……アははハは……いやなンの……アたしはたダのあそばレるオにンぎョうですカら……」


 言語がかなりおかしなことになっている。精神的疲労が尋常ではないようだ。


(死に物狂いとかどんな手段を使っても……とか、少し言い過ぎましたかね……)


 紅玉は少し反省する。少しだけ……。


(ですが、これで準備は整いましたね)


 あとは雛菊の異能を術式化して、神獣達に「以心伝心」を「転写」するだけだ。

 これで、遠くに離れた相手に「以心伝心」の異能を持つ神獣を通して会話ができる――「神獣連絡網」の完成である。


 一番苦労するかと思った神獣への説得も、雛菊からの説得と紅玉の土下座一つで許してもらえたのだから非常に安いものだった。

 それまで何度も土下座していた鈴太郎は少々涙目で可哀相ではあったが……。




 さて、その神獣はというと現在準備真っ最中であった。

 というのも、「神獣連絡網」の完成の為には多くの鳥の神獣が必要となる。

 そこで神獣は自らの神力を使って、分身を生み出していた――。


 そのおかげで、応接室は月のような淡い黄色い羽を持つ小鳥まみれになっていた。


 あっちでも「ピチチ」

 こっちでも「ピチチ」

 蘇芳の頭や肩の上で「ピチチ」

 鈴太郎には嘴で「ツンツンツン!」


「痛っ! 痛いっ! やめてください~~~!」


 流石は自称「鳥に嫌われる男」である。


「うみゅ~~~……ここは小鳥カフェか」


 そう言う水晶の掌の上でも小鳥が囀っている。

 ふわふわの羽毛が非常に愛くるしい。


 そう、非常に愛くるしいのだ。

 淡い黄色い柔らかな羽に、掌ほど大きさの小さく丸い身体。

 姿形は現世に存在する雀や柄長に近く、これが非常に紅玉の心を擽っていた。


(かっ、可愛いっ!!)


 思わずニヤついてしまう口元を両手で隠し、紅玉は頬を赤く染めながら小鳥の群れを観察した。


 あっちでは首をプルプルと震わせ、

 こっちではキョロキョロと周囲を見回し、

 蘇芳の頭の上や肩にピョンピョン飛び移って遊び、

 鈴太郎の眼鏡をツンツンツン、


「ちょっ! 眼鏡が割れちゃいます! やめてください~~~!」


 そんな憐れな鈴太郎を見ても、紅玉は小鳥達に心が奪われていた。


(かっ、可愛すぎますっ……!!)


 実は、紅玉は大の小鳥好きであった。

 特に掌ほどの丸みのある小鳥が大好きで、自室の寝台の上には大きなヒヨコのぬいぐるみが置いてある程なのだ。


 そんな小鳥好きの紅玉にとって、この応接室はまさに夢のような空間であった。

 最早小鳥達の止まり木状態になって、もふもふとした羽毛に埋もれつつある蘇芳が羨ましいくらいである。


『ほれ、姉君、次の分身が生まれますぞ』

「あっ、はい!」


 雛菊の異能を転写し、言語が通じるようになった神獣の指示の下、紅玉は神獣の卵の孵化を手伝っていく。

 孵化しそうな卵を雛菊の前に並べ、主人が雛菊であると神獣の分身たちに刷り込みをさせる作業である。

 ぐったりと長椅子に横たわる雛菊の目の前に孵化しそうな卵を次々と並べていく。


「ねえチょっト……みたらしさん……こレ、いつマデつづクの?」

『姫! もう少しの辛抱でございます!』


 「みたらし」とは鳥の神獣の名である。

 神獣には個別の名前がない。しかし、やはり名前がなくては呼ぶ時に困るというので、雛菊が名付けた。随分と美味しそうな名だが、神獣自身は大変気に入っているようだ。


 すると、ついに全身を黄色いもふもふの小鳥に埋め尽くされて、蘇芳の姿が見えなくなった。


「すーさん大丈夫? もふもふに埋もれて、息できてる~?」

「………………」

「うみゅ、返事がない。タダの屍のようだ」

「うええっ!? 蘇芳さん、大丈夫ですか!?」


 鈴太郎が慌てて立ち上がろうとした時、鈴太郎はうっかり失念してしまっていた。

 己自身で眼鏡を外してしまっている事に――。


 故に悲劇は起きた。


「あたっ!?」


 長椅子に躓いた鈴太郎の手から眼鏡が飛び、水晶の掌の上にぽとり――それに驚いた小鳥が急に飛び立ち、蘇芳に突っ込み、蘇芳に止まっていた大量の小鳥達もが驚いて一斉に飛び立つ――。


「うみゅーーーーーーっっっ!!??」

「のわっ!?」

「うわわわわああああああっ!!??」


 人間達からは悲鳴が上がり、小鳥達も「ピチチチチ!」と慌てふためく。

 応接室は大量の小鳥が飛び交い、辺り一面黄色い羽毛だらけとなる。


 そして、運悪く小鳥が孵化寸前の卵にぶつかってしまう。


「――っ!!??」


 紅玉はそれを見逃さなかった。

 透かさず落ちゆく卵目がけて飛び、両手を伸ばす――そして――。


 卵は見事紅玉の両手の上に落ちた。


「せっ、せーふ……っ!」


 流石の紅玉も焦った。軽く息切れをしている程だ。


「うみゅ、お姉ちゃんナイスキャッチ」

「紅殿! 大丈夫か!?」

「す、すみませ~ん、紅玉さ~ん……!」

『まったく何をやっているのです、二十二の神子』


 みたらしが呆れたように声を発したその時だった。


 ピシリッ――と、音をたて、紅玉の掌の上で卵に罅が入る。


「へっ?」


 紅玉が目を丸くした瞬間――。


 パカッ――卵が孵化した。


『……ぴよっ』


 ふわふわの淡い黄色い羽のまんまるの身体を持つ雛鳥が円らな青い瞳で紅玉をジッと見つめた。


「か…………」


 卵が落ちて焦った事も、刷り込み作業に失敗した事も、最早全て忘れてしまう程――。


(可愛いっっっ!!!!)


 紅玉は掌の上に乗る小鳥の愛くるしさに胸を射抜かれてしまっていた。




**********




 そんなこんなで分身生み出し作業と刷り込み作業と異能転写の作業を終えた頃には、すっかり日が落ちてしまっていた。


 あの騒動以外、滞りなく作業は進める事ができたが、問題が一つ残った。


 それは紅玉の掌の上で孵化した神獣の分身の事だ。見事刷り込みに失敗し、雛菊にではなく、紅玉に懐いてしまった。

 他の分身達は雛菊の言う事を聞く中、この個体だけは紅玉の傍から離れようとしない。


 みたらしは溜め息を吐きつつ言った。


『刷り込みに失敗してしまったそやつはもう仕方ありませんね。それは強制的に姉君の物ですよ』

「はいっ! 大切に可愛がりますっ!」


 やや興奮気味に言う紅玉に、みたらしも少し驚いてしまう。何故なら――。


『そやつ、ワタクシの分身にしては些か翼が小さく、大分ふくよかで、不格好なようですが、構わないのですか?』


 確かに姿形が雀や柄長というよりはヒヨコに近い。丸みがより強く、翼が小さく、飛ぶ姿が少々不細工だ――それでも。


「構いませんっ! だって物凄く可愛いですっ!」


 紅玉は自分に懐き「ぴよぴよ」と擦り寄ってくるこの分身を大層気に入っていた。思わず頬擦りしてしまう程だ。


『では、姉君、その分身に名を付けてやっておやりなさい』

「え、わたくしが名付けてしまっても構わないのですか?」

『そやつは姉君を主としています。アナタがつけないでどうするのです?』

「それもそうですね……うーん、では……」


 紅玉は掌に乗る分身を持ち上げて、目線を合わせると言った。


「貴女の名前は『ひより』です。いかがですか?」

『ぴよっ!』


 ひよりと名付けられた分身は、名を気に入ったらしく、何度も「ぴよぴよ」と鳴き、紅玉の周りを飛び回った。


(ああああっ……! なんて可愛い……っ!)


 紅玉は内心悶えながら、ひよりを掌の上に導くと、そのふわふわの黄色い羽毛に頬擦りした。


「これからもよろしくお願いしますね、ひより」

『ぴよっ!』


 こうして十の御社に小さな仲間が増えたのだった。




 頬を淡く染めながら幸せそうな微笑みを浮かべている紅玉を見て、蘇芳は口元を手で隠し、頬を赤く染めて思う。


(かっ、可愛い……っ!)


 そして、内心悶え震えていた。




『……十の神子、あれは……』

「うみゅ、ほっとけ。いつもの事」


 その一言でみたらしはいろいろ察した。


 そして、この先、神獣たるみたらしも、紅玉と蘇芳を見てはやきもきするようになってしまうのだった――。




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