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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第一章
73/346

十六夜に隠した涙

こちらの話で一章が終了になります。




 その日は、満月の翌日の夜――十六夜の日だ。


 月明かりに照らされた十の御社へ続く道は酷く静かで、荘厳で、とても美しいものだった。

 その道を、高い位置で結った漆黒の髪を揺らして、紅玉が歩いていた。しゃなり、しゃなりと、姿勢を凛と正して――。


 美しい月夜の道を歩きながら、紅玉はつい先程行なわれた「十六夜の会」の事を思い返していた。




 「十六夜の会」とは朔月隊結成初期からいる紅玉、幽吾、轟、世流の四人で行なう定例会の事である。

 開催日は毎月の満月の翌日の夜――つまり十六日だ。

 そして、この「十六夜の会」の開催場所は少し特殊であった。


 「朔月隊」は朔の如く闇に隠れて存在する秘密部隊――その存在を知られる訳にはいかない。故に開催場所はいつも決まっていない。人気のない裏路地や橋の下、同じ店内にいるのに席はバラバラで座るという変わった開催の時もあった。


 そして、今日は深い森の中での開催だ。周囲に全く気配は感じないので、今日は互いに顔を合わせた状態である。


「まずは、みんなお疲れ様」


 幽吾がそう会話を始める。


「無事、〈神力持ち〉の雛菊ちゃんの身の安全は確保。今後も雛菊ちゃんに手を出すバカはいないと思うよ。連絡網の大事な要で、神獣にその身を保障され、文もついているからね」

「ホント! よく思い付いたわね、紅ちゃん! 流石だわっ!」

「いえ、一番頑張ってくれたのは鈴太郎さんですわ」

「にしても、よく神獣はあの〈神力持ち〉の身の保障をしてくれたな。あいつら基本的に自分主義だろ?」

「……土下座してお願いをしましたので」

「はあっ!? 土下座ぁっ!?」

「はいはい。この話はもうおしまい。今日の『十六夜の会』のメイン話すよ」


 パンパンと両手を叩いて、雛菊の話を強制的に終わらせると、幽吾は真剣な声で話し出す。


「正式に命令が朔月隊に下った」


 その一言に、紅玉も轟も世流も真剣な表情となる。


「命令……ですか」

「上が直接命令を出すってよっぽどだな」

「……それで、命令の内容は?」


 世流の質問に幽吾は持っていた書状を全員に見せ、そこに書いてある美しい字を幽吾が読み上げる。


「命令――、術式研究所の生き残りを確保せよ――」


 そう、今回の事件、まだ終わりを迎えていないのだ。

 雛菊に施された神術の種は、三年前禁術とされ封印されたはずの術。

 しかし、今回萌がそれを使用し、萌にその術を教えた人物がいる。そして、その人物は萌に口止めの為、萌を亡き者にし、自分自身の存在を隠そうとした――。


 人を殺め、神をも凌駕する禁術を使う危険な人物を放っておく事など許されない。


「まずはこの四人で研究員についての情報収集と捜査。一週間後に『ツイタチの会』を開催。その時に各々報告よろしく」

「かしこまりました」

「応」

「了解よ」


 そして、幽吾はいつもの読めない笑顔になる。


「まだまだ忙しい日が続くと思うけど、みんな身体には気を付けるんだよ~。特に紅ちゃん。ちゃんと休むんだよ?」

「大丈夫ですわ、幽吾さん。もう一日くらい余裕で働けますわ」

「「「………………」」」


 そうして、「十六夜の会」は解散となった――。




 そんな事を思い返していたら、十の御社の門へと到着していた。

 紅玉は門を二回叩く。

 「ギイ」と重厚感のある音を立てて、門が僅かに開かれる。


「おかえり、紅殿」

「蘇芳様……!」


 思わず紅玉は驚いてしまう。

 もう大分夜更けである。出迎えをしてくれるとすれば、夜番の神だと思っていたからだ。


「まさか……起きて待っていたのですか?」

「貴女と少々話をしたかったからな」

「もうっ、明日できるお話でしたら、明日でも構いませんのに。蘇芳様は一刻も早くお休みになるべきです」

「貴女に一番言われたくない台詞だな」


 蘇芳は思わずジロリと紅玉を睨んでしまう。


「……それで、わたくしにお話とは何ですの?」


 小首を傾げて見上げてくる紅玉を蘇芳はじっと見つめ、少し視線を合わせる為に屈む。

 金色の勇ましい瞳に見つめられ、紅玉は少しドキリとしてしまう。


「あ、あの……蘇芳様?」


 恥ずかしさに耐え切れなくなった紅玉が声を上げると――。


「あの時俺は……雛菊殿の色が彼女と同じ色になったから、貴女もいろは殿も動揺したのだと、そう思っていた」

「え、と……?」

「だが、そうではなかった。俺も今日気がついた」


 蘇芳は少し切なげな表情をすると言った。


「雛菊殿の声は似ているのだな……貴女の幼馴染の蜜柑殿の声に」


 その瞬間、紅玉はひゅっと息を呑み、大きく目を見開いた。そして、その瞳にどんどん涙が溢れていく。

 慌てて蘇芳から視線を逸らそうとした紅玉だが、瞬間顔を目の前の大きな身体に押し付けられた。

 紅玉が目を丸くするのも構わず、蘇芳はその頭を自らの胸に押し付け、撫でる。


「……強引ですまん。これ以上は触れないと約束する。服を濡らしても構わない。俺は気にしない。人払いもしてある。俺も何も見ていないし、聞いていない。だから……」


 蘇芳はそう言いながら大きな手で紅玉の頭を撫で続ける。

 蘇芳の言葉に大きな手の温もりに、紅玉は涙を止める事ができない。嗚咽が零れそうになり、思わず目の前の大きな胸に顔を押し付けて音を隠そうとする。

 それでも、身体は震えるし、涙は止まらない。


 懐かしい人を思い出させるその声で、名前を呼んでもらったせいだろうか……切なくて、切なくて、切なくて……胸が苦しい。

 どんなに頑張っても、彼女にはもう二度と会えないのだから――。


「紅殿……よく……よく頑張った」


 蘇芳の言葉に紅玉は嗚咽を必死に押さえながら耳を傾ける。


「貴女はやりきった。雛菊殿を守りきった。胸を張っていい。貴女はそれだけの事をしたんだ。貴女は本当にすごい人だ」


 掴んでいる蘇芳の服をさらに強く握ってしまう。


「きっと蜜柑殿も、貴女の頑張りを評価してくれているに違いない――俺も貴女を誇りに思う」

「――ぁっ――ぅっ――!!」


 紅玉が更に強く蘇芳にしがみ付く。肩を震わせ、口から零れる嗚咽を必死に押さえながら、泣いた。必死に堪えていた涙を全て零すかの如く――。


 蘇芳は胸にしがみ付いて身体を震わせる紅玉の漆黒の髪をただ黙ったまま、撫で続けていた。


 彼女の悲しみが少しでも癒えるように……祈るように……そっと、優しく……彼女の涙が止まるまで、ずっと。




長い一章を読んでくださりありがとうございました!

でも、乱立させたフラグの回収も終わっておらず、書きたい話も山ほどあるので、こちらの作品まだまだ続きます……!

温かい目で見守っていただけますと、大変嬉しいです!


ご意見、ご感想も是非頂けますと励みになります!


二章は執筆見通し立ち次第、あげていきたいと思っています。

どうぞよろしくお願いします!

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