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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第一章
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祈りの儀

短めですが、キリが良いので今日はこちら一話のみの更新です。

水晶の神子としての本領発揮でございます。




 地獄のような異能制御訓練を終えた翌々日、人事課の幽吾から告げられた突然の異動命令と新部署への配属命令と新部署部長就任命令と、三つの大きな驚きの知らせを一気に受けた雛菊は、別の意味でまた気を失いそうになってしまった。

 しかし、隣でその報告をニコニコと微笑みながら聞いていた紅玉の顔を見て、今回の件は絶対彼女が関わって、自分の為に動いてくれたのだと察し、雛菊はその命をしっかり承る事を決めた。




 そして、卯月十五日――新入職研修最終日を迎えた。


 この大和皇国において、毎月十五日の月は満月である。

 そして、神子はこの満月の夜に「祈りの儀」を実施する。

 毎月行なうこの祈りによって、大和皇国の平穏と繁栄が齎される――神子の最も重要な役目と言えよう。


 そして、この卯月に行なわれる「祈りの儀」の見守る事で、全ての研修が終了となる。


 御社の庭園の真ん中にある「祈りの舞台」が満月の光に照らされ、神々しく輝いている。

 その周囲に待機するは、十の御社に住まう神々。皆、静かに神子が現われるのを待っている。瞳を閉じて、神力を研ぎ澄ませており、全身が淡く光を放つ。


 そんな神々しい場面を目にし、雛菊は心臓の鼓動が速くなるのを感じていた。

 いよいよ研修が終わる事と初めて目にする「祈りの儀」に、緊張だけが高まっていく。

 そんな雛菊に紅玉と蘇芳は優しく声をかけた。


「そんなに緊張なさらずにとも大丈夫ですよ、雛菊様」

「は、はい……っ!」

「御社配属でない限り、この儀式はそう易々と拝見できるものではないですからな。良い機会だと思って、心穏やかに」

「そ、そうですね……っ」


 そして、紅玉が「祈りの儀」についての説明を行なう。


「『祈りの儀』は日付が変わる直前から日付を跨いで十分程行なわれる儀式です。その間、神子様や神様は儀式に集中なさる為、無防備になります。わたくし達管理庁の職員は、神子様が滞りなく祈りを捧げられるよう、御社の安全を守る事が仕事です」

(よっ、余計に緊張してきたぁっ!!)


 そんな重要な仕事、武芸や武術などを一切知らない自分に到底務まるとは思えない。すでに新しい配属先が御社ではない事はわかっているものの、御社配属でなくてよかったと、つい雛菊は思った。


 すると、シャラリ、シャラリと音を響かせて、その人物は現れた。


 満月の光を浴びていつも以上に輝く神力を纏った白縹の髪は波打ち、髪に飾りつけられた簪がシャラリと綺麗な音を立てる。

 まるで人形の如く美しい顔は薄く化粧を施され、頬は桃色、唇は淡い紅色、肌は透き通る如くの白。完璧な美しさだ。

 白く輝きを放つ白衣の上に羽織るのは、こちらも輝くばかりの白い千早。鮮やかな緋袴を穿き、その腰から後ろに流れるは白縹の裳と朱色の引き腰。


 これぞ、まさに神子といった装いに身を包んだ水晶が男神の槐に誘われ、やって来た。


 今まではずぼらな水晶しか見た事がなかっただけに、目の前に現れた美しい神子に雛菊は思わず目を奪われてしまう。


 そして、水晶は雛菊の前に立ち止まる。


「雛っち、研修お疲れ様。この間はいっぱいいじめちゃってごめんね」

「いっ、いえっ! そんなっ! 滅相もございませんっ!」


 水晶のあまりの美しさに、雛菊は思わず敬語になってしまう。

 そんな雛菊に水晶はふわりと微笑む。


「これから神子のお仕事頑張るから、見ててね」


 そして、水晶は再び槐に誘われ、「祈りの舞台」へ入っていく。

 すると、雛菊の耳に紅玉がそっと囁いた。


「うちの妹、やる時はちゃんとやるのですよ」


 そう言ってにっこりと微笑む紅玉は、とても誇らしげな表情であった。


 そして、「祈りの儀」が始まる――。


 シャン――水晶が手にした鈴の音が高く鳴り響く。

 ゆらり――白縹の神力の光が煌々と舞台一面に灯る。

 ふわり――水晶の小さくしなやかな身体が舞台上で軽やかに舞い出す。

 シャラリ――簪が揺れ、音を奏でる。


 その儀式はあまりにも美しく、荘厳で、崇高なものだった――。


 舞台を囲む三十六人の神々も神々しく輝き、神力の光が舞台へと注がれていく。

 その光を浴びて、神子は更に輝きを放ち、美しく舞う。

 鈴の音も、簪の音も、高く清らかに響く。


 目で、耳で、肌で、その儀式を見守っていた雛菊は――自然と涙を零していた。


「きれい……」


 思わず零れ落ちたその言葉が、全てを物語っていた。


「はい。とても美しく尊いものでしょう?」


 紅玉の言葉に雛菊はただ頷くばかりだ。


「わたくし達は、この尊き存在を守らなければなりません」


 そう呟いた紅玉を雛菊は見た。


「神子様と神様は大和皇国の平穏と繁栄を導く大切な存在……そして、わたくし達神域管理庁の職員はその尊い存在をお守りするのが仕事」


 紅玉の視線の先にいるのは、美しく舞う神子の姿。


「わたくし、このお仕事を誇りに思います」


 そうはっきり言う紅玉の横顔があまりにも凛々しく、雛菊は思わず見惚れてしまう。


「雛菊様にも、少しでもご自身のお仕事に誇りを持って頂けたら嬉しいです」


 そう言って紅玉は雛菊に微笑みかけた。




 そして、二週間の新入職研修を終えた雛菊は、世話になった十の御社から巣立って行った――。




目立たない地味な仕事に誇りを持って働ける方を尊敬します。

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