表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第一章
60/346

議題「神術の種について」

「ツイタチの会」なのでテンポ優先に書いています。

少々読みにくいかもしれません。




 御社の門前にて、緊急の「ツイタチの会」が開催された。


「はいはーい、緊急の『ツイタチの会』始めるよ~。議長は『朔月隊』隊長の幽吾で進めるよ。じゃあ、早速、本日の議題――『雛菊ちゃんに植えられた神術の種』について。あと『今後の対策』について。それじゃあ、まずは――」

「ちょっと待て! 幽吾!」

「は~い、どうぞ轟君」


 轟は、紅玉の隣に立つ仁王か軍神かの容姿の身体の大きな男を睨みつけながら指差した。


「なんで朔月隊じゃねぇ蘇芳がさらっと参加しているんだよ!? 誰もツッコまねぇから、俺様も一瞬スルーしそうになったぞ!」

「うんうん、そこは敢えてツッコまなくても良かったのに。まあ僕は、十の御社で『ツイタチの会』を開催したいって聞いた時から、蘇芳さん参加の予感はしていたし、まあいっかって」

「よくねぇだろ!!」

「まあまあ、轟君。いいじゃないの、今回くらいは。蘇芳さんは紅ちゃんのオプションだと思えば」

「せやで、轟。ほんまちっさい事気にする男やな」

「てめぇら黙れ!!」

「まあ轟君の言い分も分からないではないよ。一応僕達『朔月隊』は、神域管理庁に存在を知られてはいけない極秘部隊だからね。まあ、蘇芳さんとか、一部の神子様には存在知られちゃっているけどねぇ、あははははっ! 『極秘の意味なんだっけ?』って感じだよね~」

「笑い事じゃねえ!!」

「幽吾さん、一部修正させてください。十の御社の神様達にも知られておりますので」

「あ、そっか。ごめんごめん」

「尚わりぃわっ!!」

「ちなみに紫様には未だ『朔月隊』の存在を知られておりません」

「え、なにそれ。何で気付かないの? 紫君は馬鹿なの?」

「それが当り前だろうがあああっ!!」

「も~~~、轟君の声は相変わらず五月蝿いなぁ。わかったわかった。それなりにペナルティを科せばいいんでしょ」


 幽吾の鉛色の神力が立ち込めた瞬間、蘇芳は全身が凍りつくような殺気を感じ、身体を瞬時に動かそうとした――が、それは叶わずに終わる。気づけば、己より大きな身体を持つ非常に恐ろしい鬼神がいつの間にか背後に立ち、隣いる紅玉の首を締め上げていた。


「――ぅっ」

「紅殿!!」

「ねえ、蘇芳さん……『朔月隊』の情報を外部に漏らせば、わかっているよね? どうなるか」

「わかっている! わかっているから! この命に代えてでも責任を取る! だから、紅殿を離してくれ!」


 幽吾は鬼神に合図を送ると、鬼神はゆっくりと紅玉を降ろした。

 蘇芳は直ぐ様紅玉に駆け寄る。


「紅殿!!」

「もう! 蘇芳様ったら、自分の命に代えてでもなんて恐ろしいことおっしゃらないで! あれは幽吾さんの悪ふざけですわ」

「痛む所は!? 苦しくはないか!?」

「もう……わたくしなら大丈夫ですわ。ですから、そんな思い詰めた顔をなさらないで」


 紅玉の無事を確かめる蘇芳と、困ったように笑いながら宥めている紅玉を見て、世流は幽吾を睨みながら言う。


「幽吾君、ちょっとやり過ぎじゃない? 紅ちゃんは女の子よっ! 乱暴するなんて最低よっ!」

「だってだって~轟君が納得してくれないし~」

「もうっ! 轟君、最低!」

「最低やな、轟」

「「轟様は最低でございます」」

「【あんたは最低だ】」

「おめぇら寄ってたかって何なんだよ!? あと文、おめぇは『言霊』使って喋るな! やめろ!」


 すると、幽吾が両手をパンパンと叩いて宣言する。


「はいは~い、おふざけもその辺にして、いい加減『ツイタチの会』を始めるよ~」

「ぐっ……! 誰のせいで話し合いが始まらねぇと」

「言いだしっぺはアンタやろ」


 轟を無視して、幽吾は話を進める。


「それじゃあまず、雛菊ちゃんに植えられた神術の種について――焔、報告よろしく」


 幽吾に名を呼ばれ、焔は一歩前へ出る。


「私が見た時点では、雛菊さんはすでに落ち着いていて、眠っていた。体調面には問題がなく、蘇芳さんや御社の神様達からの証言を聞いて、私は洗脳の類いの神術や呪いを疑った。それで身体を確認させてもらった所、雛菊さんの耳の後ろに怪しい神術の種が植えられていたのを発見した。その種は神力の受信機の役割を持つものだと思われる」

「――恐らく、『泡沫ノ恋』で、萌が神術の種を植えたんだろうね……チッ、もっと豪速球を投げておけば!」

「おい、そン時の球役、俺様だろう!? 殺す気か!?」

「だからなんで店破壊の方向で話進めようとしてンだよ! ああっ!? もっと平和的解決法考えろや!」


 世流が低い声で幽吾と轟相手に怒鳴り声を上げている横で、文が冷静に焔に尋ねる。


「雛菊が『泡沫ノ恋』から十の御社まで帰る間、誰も気付かなかったの?」

「……ああ、残念ながら、神術の種を植えられた状態の雛菊さんに会っても、神力が強い私も幽吾も、たまたまその場に居合わせた蘇芳さんですら、神術の種に気づく事ができなかった」


 焔の説明に紅玉も頷く。


「十の御社の神様達も、雛菊様に植えられた神術の種を見破る事は出来ませんでした」

「幸いな事、雛菊さんがあの当時、神からの守り石を持っていた事と、タイミング良く轟が飛び込んで来てくれた事もあり、神術は中途半端にかけられ、洗脳も完全なものではなかったようだ」


 焔の説明に、今度は蘇芳が頷く。


「洗脳され、暴れている雛菊殿をこの目で見たが、彼女は必死に何かに抵抗しており、また彼女を押さえていた神々もそのように証言している」


 蘇芳の説明に、今度は天海が挙手する。


「蘇芳先輩、どうやって洗脳を解いたんだ?」

「自分はあの時、原因は雛菊殿の中にではなく、外部にあるものだと考えた。それで御社の外を確認したら、そこに怪しい人物がいた。情けない事に逃してしまったが、その人物が御社を離れた途端、雛菊殿の暴走が治まった」

「まさかの外部からの干渉か……」


 そして、焔が補足する。


「あの当時、十の御社の神子様は高熱を出して寝込んでいた。恐らく御社の結界が弱まってしまっていたのだろう。雛菊さんの神術の種を見抜けなかったのも、神子様の高熱で御社全体が慌ただしかったのが一因だと思う」

「――――いえ」


 焔の言葉を否定する声に、全員が振り返る。それは紅玉が発したものであった。


「これは紛れもなく人の悪意が絡んだ、立派な事件です」


 そう言って紅玉は、花萌葱の小さな玉――洗脳の神術の種の成れの果を取り出した。


「これは、二十二の神子の鈴太郎さんによって取り出された神術の種でございます。先程もご説明したように、誰も見抜く事ができなかったものです……しかし、そもそもそれがおかしいのです。神力を用いて生み出した神術の種を、神様達が見抜けない――そんな矛盾があると思いますか?」

「確かに……」

「少し疑問に思って、鈴太郎さんにこちらの神術の種の『術式解読』をお願いしましたところ――こちらの神術の種は、紋章の書き換えがされているものでした」

「紋章の書き換えだとっ!?」


 声を上げた轟だけでなく、その場にいた全員が驚きの表情を見せる。


「皆様ご存知の事かと思いますが、この神域において、紋章の書き換えは神への冒涜に値し、禁じられています」


 神術を習う際、誰もが聞く常識だ。その場にいる全員が頷いている。


「……実は隠されたもう一つの理由があるのです」

「……隠された理由?」


 そして、紅玉は驚くべき事を口にした。


「紋章が書き換えられた神術は神様に感知できず、神様にとっての毒になり得るからです」

「ど、毒っ!?」


 紅玉の言葉に驚きの声を上げた世流だけでなく、他にも大勢の者が驚いている。


「紋章が書きかえられた術は神様との神力の相性が大変悪いのです。実は雛菊が持っていた神の守り石が昨夜の帰り道で消滅してしまったのですが、その原因もそれなのです」


 初めて聞く事実に驚く者達が多い中、轟と幽吾、そして蘇芳だけは心当たりのある顔をしていた。


「……ねえ、その神術の種ってまさか」


 幽吾の言葉に、紅玉は頷きながら言った。


「はい。この術式は『術式研究所』が生み出したもので間違いないだろうという判定が下りました」

「おいおい、マジかよ……」

「……『術式解読』の異能を持ち、術式の知識に関して右に出る者はいない二十二の神子様である鈴太郎君がそう言うなら間違いないだろうね」


 淡々と言う幽吾の横で轟は苛々したように髪を掻き乱す。


「チッ! 『術式研究所』か……久しぶりにその名前を聞いたな」

「あ、珍しい。轟君のくせに、覚えていたんだ」

「うるせぇっ!!」

「なっ、なあなあ、ちょっとええ?」


 二人の言葉を遮って、美月が挙手した。


「その『術式研究所』の事、何のことかまず説明してくれへん?」

「ああ、そっか。『術式研究所』は三年前には解体済みだから、知らない人の方が多いか」


 幽吾が納得するように周囲を見渡すと、美月だけでなく、天海や右京と左京、文に焔が、幽吾の言葉に頷いていた。また世流も肩を竦めて言った。


「ワタシも、『術式研究所』が絡んだ事件のあの当時は、入職したばかりでバタバタしていたから、よくわかっていないのよね。よかったら簡単に教えてくれない?」

「そう言えばそうだったね。じゃあ、解説するね……紅ちゃん、よろしく」


 幽吾の言葉に紅玉は頷いた。


「『術式研究所』は独自に結成し、術式の研究を行なっていた神域管理庁非公認の組織です。非公認の組織という事もあり、研究し編み出した術の多くが紋章の書き換えがされた非常に危険なものでした。人の心を操る術、人の自由を一方的に奪う術、人の命を利用して発動させる術など……中には神様や神子様に害を与える為作られた術や神力を使わない人工的な術もありました」


 紅玉の説明に、全員「術式研究所」がいかに危険なものか理解したようで、非常に驚いた顔をした。

 そして、幽吾がさらに説明を重ねる。


「研究所のヤツらはうまく身を隠しながら、非人道的な実験を繰り返していた。おかげで三年前までは、その研究所存在は全く知られる事なかった。でも、三年前に起きた『ある事件』をきっかけに研究所の存在が明るみになり、研究所の関係者全員強制捕縛。研究所で研究された術は禁術扱いとなり、厳重に封印された。そして、研究所は解体となり、研究所の関係者全員は重刑が科される事になった」

「ま、待ってくれ……!」


 幽吾の説明に、今度は焔が挙手をする。


「研究所は三年前に解体になり、研究所が編み出した術も封印されたのだろう? では何故今ここにその禁術が存在しているんだ!?」


 焔の疑問に紅玉は頷く。


「……ええ。まさに、問題点はそこです。三年前、禁術とされ封印された術を何故萌が使用できたのか……」




次回も会議回です。

会議って長引きますよね……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ