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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第一章
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同期達の思い出話




 食堂では水晶率いる十の御社組と鈴太郎率いる二十二の御社組での合同宴会が急遽開催されることになり、大変賑やかな事になっていた。


 紫がひいひい言いながら、酒を配り走っており、正直憐れである。


 というのも、れなと六花から、雛菊の神術の種が取り除かれた事と、取り除いてくれたのは鈴太郎だと聞いた十の御社の神々があまりに喜び興奮した結果なのだ。

 食堂にはまだ本調子でない水晶もいたが、そんなことお構いなしに神々は酒を片手に祝杯を上げる。


 そして、紫はひいひい言いながら、つまみも作って運ぶ……律儀な男だ。


 そんな宴会の最中で、二十二の御社の職員と雛菊が改めて自己紹介をしていた。


「俺は実善(みよし)。神域警備部、二十二の御社配属、神子護衛役だ。よろしくな」

「私は慧斗(けいと)。神子管理部、二十二の御社配属、神子補佐役。よろしくね!」


 実善という職員は、柑橘色を混ぜた黒い髪と、橙と黒が混じった瞳を持つ男性だった。明朗快活なさっぱりとした印象だ。

 次に名乗った慧斗という職員は、毛先だけが青い漆黒の短い髪と、青と黒が混じった瞳を持つ、中性的な(だが、胸部の膨らみを見れば明らかに)長身の女性だ。


「雛菊です。生活管理部所属です。よろしくお願いします」

「ふっわ! 可愛い! よっしーにリンリン見てみてよ!」


 慧斗は興奮気味に雛菊の頬を触ったり、抱きしめたりした。


「ちっちゃーい! お肌ぴちぴちーっ! ああいいなぁ! 若いっていいなぁっ!」

(ぐえっ! い、意外と慧斗さん力強い!)

「おいおい、けーと。新人潰すなよ」


 慧斗にぎゅうぎゅう抱き潰されている雛菊を見ながら、水晶が両手を伸ばして呟く。


「うみゅ、けいちゃん。晶ちゃんもハグぷりーず」

「わああっ! むしろ喜んでだよーっ!」


 美少女の水晶にそう懇願されて、拒否しない訳がない。慧斗は喜んで水晶を抱きしめた。


「ふっわ! ちっちゃい! さらにちっちゃい! ほっそい! わああっ! 可愛くてお持ち帰りしたいーーーっ!」

「おいおい、けーと。犯罪はするなよ」


 実善が冗談交じりに「ハハハ」と笑う。


 その一方、水晶はまじまじとした顔で、慧斗の身体に顔を摺り寄せていた。


(うみゅ……やっこいが、若干筋肉多め)

「…………」


 水晶の心の声がしっかりと聞こえた雛菊は、思わず遠い目をした。そして、「身体のどこの話をしている」か、は考えないように「ははは」と笑う。


 実善と雛菊、互いに同じものを見て笑っているはずなのに、その表情は実に対照的なもので、鈴太郎は首を傾げた。


 ふと、雛菊はある事に気付き、鈴太郎に尋ねる。


「実善さんが神域管理部で、慧斗さんが神子管理部なら、時告さんは生活管理部ですか?」


 槐と話している時告を見ながら、雛菊がそう言うと、鈴太郎はへにゃりと笑って言った。


「あ、時告君は、神様ですよ」

「――ああっ!!」


 鈴太郎の一言に、雛菊はまるで謎が解けたように気分になった。


「あの見目の麗しさならば、納得です」

「うんうん、わかります。僕も、初めて時告君とお会いした時に、こんな平凡顔地味顔が呼び出して申し訳ございませんってなりましたから。実際土下座して謝りましたし」

(それは流石にやり過ぎじゃ……)


 そう思いつつ、雛菊は改めて周囲を見渡した。見渡す限りの美形、美女、麗しき神々達。一見すれば、ここは天国かと思える程の楽園なのかもしれない。だがしかし、その中で際立つ人間の凡庸さに、申し訳なさを感じてくる。


「……なんか、鈴太郎さんの言っている事の意味、分かった気がします」

「共感頂けて嬉しいです。僕なんていつも、どうして神子に選ばれちゃったんだろうって常日頃思いますので」

「鈴太郎さん、もっと自信持ってください。あたし、鈴太郎さんを見ていると、物凄く安心します」

「あははは、ありがとうございます。昔は僕を見ると、『むかつく!』って、よく言っていた人がいたので、安心するなんて言われると嬉しいですね」

(……誰よ、そんな失礼な人)


 しかし、そんな話をしながらも、鈴太郎は変わらずへにゃりと笑うだけだ。むしろ何かを懐かしんでいるようにも見え、雛菊は小首を傾げる。


「あ、それで思い出したんですけど――」

(……何で思い出したんだ?)

「僕、実は元管理庁の職員で、よっしーくんとけーとくんと紅玉さんとは同期なんですよ」

「えっ! そうなんですか!?」


 道理で四人で仲良さそうに会話をしていた訳だ、と雛菊は思った。そして、鈴太郎が元職員という事実にも驚きである。

 すると、鈴太郎のその言葉に、実善と慧斗も反応を示した。


「そうそう、リンリンは元職員で、そこから神子に選ばれたんだったよな。で、紅玉も同期。俺達、元は同じ神子管理部で、お披露目の儀の待機の時も隣同士とかで近くて、それで仲良くなったんだよな!」

「そうそう! 懐かしいね! あの時にお互いのあだ名決めたんじゃなかったっけ? 『大鳥居くぐるまで待ち時間長くて暇らしいですよ』ってリンリンが言ったから」

「そういえばそうでしたねぇ」

(この人達心臓強過ぎじゃない!?)


 つい先日、新入職お披露目の儀を受けた雛菊は、その日の事を鮮明に覚えている。大鳥居をくぐるまでの待機の間、ひたすら緊張で心臓が爆発しそうになった記憶しかない。

 そんな待機の時に、仲良くあだ名決めとは、いっそ尊敬してしまう程の気の大きさである。


 ふと、慧斗に抱き締められていた水晶が鈴太郎に尋ねた。


「うみゅ、りんたろー、当時〈神力持ち〉で大変な思いをしたんじゃないの?」

「あっ――」


 現在、神子である鈴太郎は、すなわち入職当時から〈神力持ち〉であることは間違いない。雛菊の時でさえ、結構な騒ぎとなったのだ。鈴太郎の時もそれは騒ぎになったに違いない。


「いやそれがさ、あの時、紅玉も一緒に大鳥居くぐったじゃん。そしたら、紅玉の色が変わらないって、周りがざわついてさ」

「あの時、私達はそれがどういう意味か分からなかったんだけど、ただ紅ちゃんがすごーく軽蔑されているのは分かって、とにかく嫌な感じでさ、紅ちゃんの手を引いてさっさと引っ込んだんだよね」

「紅玉の事を、初めて〈能無し〉って言ったあのハゲ親父の顔、ぶん殴ってやれば良かったよな!」

「顔は痕が残るからダメだよ。やるなら鳩尾でしょ! あるいは毛を全部刈り取る」

「あっ! それいいなぁっ!」


 口調は懐かしい思い出を語るようなあっけらかんとしたものだが、内容はなかなかに重たいものであった。


(や、やっぱり紅玉さん、入職直後から随分苦労していたんだ……)

「うみゅ、話逸れてる。で、鈴太郎はその時どうしたの?」

「おー、わりぃわりぃ。とにかく、その時一番目立ったのは、紅玉の方でさ」

「リンリンって、見た目地味でしょ? 色の変わり方も、一見すると現世にもいそうな色合いの変化だったからさ――ぶふっ!」


 そう話しながら、慧斗は我慢できず吹き出してしまう。そして、代わりに実善が告げた。


「結局、リンリンが〈神力持ち〉だって誰も気づかなくてよ、これ幸いってリンリンのヤツ、俺の後ろに隠れて、まんまとお披露目の儀を乗り切った訳よ! 今思えば、爆笑だよな! だははははははっ!!」

「ひぃーーー! ウケル! 超ウケル! ある意味、紅ちゃんも盾にしたわけだよね、リンリン! 悪い男!」

「ええっ!? そ、そんな言い方酷いです! 僕は別に紅玉さんを盾にした訳じゃ――」

「この駄主ぃいいいいいいっっっ!!!」

「へばあっ!?」


 突如現れた時告に蹴り飛ばされ、鈴太郎は床へと倒れ伏す。そして、時告はそのまま鈴太郎の上に圧し掛かり、両足を持ち上げ、背中の方へと折り曲げる。見事な海老反りの完成だ。


「痛い痛い痛い! 痛いです! 時告君! 僕折れちゃうっ!!」

「女性を盾にするとは! 男の風上に置けぬ! いっそここで折ってやろう!!」

「いやああああああっ!! 助けてええええええっ!!」

「とっきー! 折るなって! ストップストップ!」

「とっきー、あの時は仕方なかったんだよ。ほら、どうどう!」


 暴走する時告を、実善と慧斗が必死に止めようとする。先程見た光景の再現のようだった。


「あ、あはは……仲が良いわね、二十二の御社の人達」

「うみゅ、仲の良さなら、十の御社も負けない、キリッ」

「はいはい」


 この研修の期間で、雛菊もすっかり水晶の扱い方を熟知していた。


(それにしても……)


 雛菊は、神様に圧し掛かられ悲鳴を上げている鈴太郎を見る。


(鈴太郎さんって、運も良かったんだろうけど、実は物凄く冷静な人なのかな)


 雛菊は自分の状況と鈴太郎の状況を比べて、ついそう思った。

 就職説明会で、多少自分の髪の色と瞳色が変わると説明されていて、頭の中では分かっていたはずなのに、実際自分の髪と瞳の色が全て変わってしまい、完全に大混乱してしまった雛菊。

 一方で、己の髪と瞳の色が全て変わりながらも、〈能無し〉という紅玉の存在の影に隠れながら、同期の後ろに隠れてやり過ごした鈴太郎。

 言い方は悪いかもしれないが、なかなかの策士である。


(神域という場で、いきなり冷静に行動できるなんて、鈴太郎さんって実はかなりすごい人?)


 雛菊はそう思いつつ、床を連打して降参を示している鈴太郎を見た。


「いったいっ! 時告君! ほんとにいったいですっ! うわあああんっ! もうやめてくださいいいいいっ!」


 眼鏡はズレ、瞳からボロボロと涙を流している鈴太郎を見て、雛菊は思う。


(うん、あたしの思い違いだわ!)


 とても策士とは思えない情けない姿であった。


(きっと策士は別の人ね。鈴太郎さんに誰かアドバイスしたに違いない!)


 雛菊はそう思い込んで、「鈴太郎策士説」を一蹴した。




雛菊はなかなか鋭い子なのです

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