表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第一章
31/346

休憩中騒動




 用意されていた屋外用の椅子に雛菊だけでなく、神々も腰掛け、卓の上に茶や餡団子が並べられ、休憩はいつの間にか小さな茶会になっていた。

 紅玉が人数分の茶を淹れながら、次々と茶を配っていく。真昼、れな、蘇芳の三人に囲まれた雛菊のところにも茶を持って行くが、雛菊はまだ気持ちが乱れているようで、真昼とれなの励ましを受け続けていた。


「雛菊さん、元気出せって! 神術はそう易々とすぐにできるものじゃねぇんだから!」

「……団子食べて元気出して」

「う、うん……ごめんね、ありがと……」


 二人に勧められるまま、ぐずぐずと鼻を啜りながら、雛菊は餡団子を頬張る。頬にたくさん団子が詰め込まれているようで、両頬が膨らんでいる。


(あらぁ、栗鼠(りす)みたいでお可愛らしい)


 ふと紅玉はその隣を見る。

 蘇芳も大きな口を開けて、餡団子を一気に二個も口に入れており、頬が大分膨らんでいる。こちらは栗鼠というより熊のようだ。


「ふふふふっ!」

「…………」


 紅玉が何を見てころころと笑っているのがわかってしまい、蘇芳は思わず紅玉を睨んでしまう。

 その蘇芳の視線に気付いた紅玉は申し訳ないとは思いつつ、笑いを堪える事ができない。


「ふふっ、申し訳ありません。お二人があまりにも可愛らしくて、つい」


 紅玉が正直にそう言うと、蘇芳は顔を赤く染め、歯を食い縛って、何かに耐えるように唸ってしまった。

 傍からその様子を見ていた雛菊は思わず照れがうつってしまう。


(この二人、本当に付き合っていないでオーケー? オーケーなのよね?)


 しかし、雛菊は二人のその曖昧な関係性を疑問に思い始めていた。

 実は、雛菊は見てしまった。昨夜、隣の部屋――すなわち紅玉の部屋の方から、ぼそぼそと声が聞こえてきたので、こっそり廊下を覗いてみると――蘇芳が紅玉を抱えて、紅玉の部屋に入っていく決定的瞬間を目撃してしまったのだ。


(あの真夜中に部屋に訪れる程の仲で付き合っていないってどゆことよっ!? しかもこれが三年続いてるって、そりゃ御社皆様勢揃いで爆発しろって言いたくなるわっ!! 目のやり場に困るっっちゅうのーーーっ!!)


 気づけば拳を握りしめ、餡団子を噛み締めながら、心の中で苦情に近い全力の叫びを上げてしまっていた。


 すると――。


「「「「「はあ??」」」」」


 そう声を上げたのは、最早その場にいた神全員だったと思われる程、揃いに揃った間抜けな声が響く。


「――えっ?」


 雛菊は思わず神々を見る。しかし、神々は雛菊ではなく、蘇芳を見ていた。

 そして、神々が蘇芳に向かって物凄い勢いで突撃してくる――。


「蘇芳おおおおおおっ!!!! お前さん、紅ねえの部屋往き来する程に進展したのかえっ!!??」

「えっ!? はあっ!?」


 蘇芳の両肩をがっしりと掴み、狂喜乱舞した表情でそう叫ぶのは槐だ。


「野郎てめぇ蘇芳!! そう言う事なら早く言えっ!! おい誰か! 紫に赤飯炊けって言って来い!!」

「いやあのちょっとまっ――」


 燃えるような真っ赤な長い髪を持つ火の竜神の火蓮がそう叫ぶと、真昼とれなが「赤飯~!」と諸手を上げて喜んでいる。


「や~~~んっ! ついについにこの日がやってくるなんてぇっ! 六花(りっか)、超感動なんですけどぉっ!」

「まっ、待たれ――」


 一見幼い容姿ながらもややませた発言をしている純白の雪のような髪を持つ女神の六花が両手を頬に添え、頬を桃色に染めながら非常に喜んでいる。


「おおしっ! 今宵は祝いの宴だ! 皆の衆、飲むぞぉーーーーーーっ!!!!」

「話を聞い――」

「「「「「おおおおおおおおおーーーーーーっ!!!!」」」」」


 鼠色の髪を持つ酒大好きの男神まだらがそう叫ぶと、神々全員が賛同の雄叫びを上げる。

 誰も蘇芳の言葉など聞く気などない――。


「お静かにいいいいいいいいいいいいっっっ!!!!!!」


 劈くような大声に、その場にいた全員は思わず耳を塞ぐ。

 見れば、紅玉が凍てつくような微笑みを浮かべながら、その場にいた全員を黙らせていた。


「皆様、勝手に勘違いをされては困ります。まずは人の話を聞いてあげましょうね? あと、己に課された命を今一度思い出すように」

「「「「「ご、ごめんなさい……」」」」」


 恐らく神々に対して放たれた言葉にもかかわらず、思わず雛菊も身を縮めて、神々と同じように謝ってしまっていた。


「はい、では蘇芳様、存分に反論をどうぞ」

「え、あ、ああ、すまない」


 そして、蘇芳は説明した。昨夜の紅玉の部屋の訪問は決して「逢瀬」の意味ではなく、単純に紅玉の体調を懸念しての「お節介」だったと。

 蘇芳から語られた真実に、神々はあからさまに落胆してしまった。


「なんじゃ……てっきりようやっとかと思ったのにのぅ……」

「ええええ、つまんな~~~い!」

「せっかく宴会できると思ったのによぉ……」

「おいっ! 誰だよっ! 最初にンな勘違いしたヤツ!?」


 刹那、雛菊の胸に違和感が宿る。


(……うん?)


 雛菊がその違和感を模索しようとした次の瞬間――――。


「ぎゃあああああああああーーーーーーっ!!!!!!」


 火の竜神の火蓮の悲鳴が響き渡り、辺りはビュウビュウと暴風が渦巻いた。

 見れば、目の前には大きな旋風――その中に捕らわれた火蓮が天高く舞い上がっていた。

 唖然とする雛菊の目の前で風は急に止み、火蓮が真っ逆様に落ち、「ドゴォッ!」と轟音を立てて、地面に突き刺さった。

 その轟音に雛菊は肩をビクリと揺らすも、恐る恐る火蓮を見遣る――火蓮は僅かに足をぴくぴくと動かしていた。


「い、いきてる……?」

「安心して。神はこれ如きじゃ消滅しないよ」


 そう言って、雛菊の目の前にふわりと降り立ったのは、翡翠色の柔らかそうな髪を持つ風の竜神の翡翠(ひすい)である。そう、この竜神こそ、旋風を起こした張本人である。


「少し五月蝿い赤蜥蜴に罰を与えただけだから気にしないで、雛菊さん」

「うおおおおおおいっ!! 翡翠ぃいいいいいい!! てめぇっ、何しやがるーーーーーーっ!?」


 火蓮は地面に突き刺さっていたにもかかわらず、ピンピンしているようであった。


「火蓮……あなたは馬鹿なのかい?」

「今のはどう見てもてめぇの方が先に手を出してきただろうが!? 俺は怒っていいはずだっ!!」


 正論である。だが、翡翠は首を横に振った。


「いや、あなたが悪い。だから、僕は注意したんだよ」

「何の話だよ!?」

「はあ……ダメだ、こりゃ」


 翡翠が両手を上げて降参をする。


「紅さん、お願いしま~す」

「は?」

「ふふふふっ、火蓮様ぁ?」


 背後から響くころころとした笑い声に、火蓮は肩を震わせ、顔を真っ青に染めた――そして、その瞬間、気づく。己がとんでもない失言をしていた事に。


「そのお口、しばらく開けないように縫い合わせてしまいましょうね?」

「すんませんでしたっ!!!!」

(かっ、神様に土下座させたああああああっ!!??)


 相手は泣く子も黙る竜神であるにもかかわらず、紅玉は全く容赦ない。いやむしろ、よく神相手にそのような態度を取れるのか甚だ謎である。


(え、紅玉さんって、何者よ?)


 雛菊は紅玉への得体の知れない恐怖を感じ、全身を凍りつかせてしまう。

 そんな怯える雛菊を見て、蘇芳はホッと息を吐いていた。




 そんな騒動のあった休憩を終え、再び神力操作と術式作成の訓練を始めようとした頃だった。


「おい、紅」


 鈍色の髪を持つ男神の(はがね)がぶっきらぼうに紅玉を呼んだ。


「はい、鋼様、何かご用でしょうか?」

「神子が呼んでいる。客人だ」

「お客様ですか? 本日、そのような予定は入っていなかったはずですけれど」


 紅玉は神子管理部だ。神子の予定の管理なども紅玉が行なっているので、紅玉が把握していないはずはない。


「……神子の客人というより、そっちの研修生にだ」

「えっ? あ、あたしですか?」


 まさか自分に話が回ってくるとは思わず、目を見開く雛菊。

 一方、紅玉は冷静だった。


「……どちら様ですか?」

「生活管理部の、そこの研修生の先輩だそうだ」


 鋼の言葉に、紅玉はいよいよ訝しげに眉を顰めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ