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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第六章
301/346

雛菊が異能で読んだのは……




「ではまず、名前と所属を」

「ひ、雛菊です……し、神獣連絡部の部長をしております」


 証言台に立ちながら、雛菊はビクビクしながら答える。

 顔面は蒼白、身体はガタガタ。

 まるで狼に睨まれた子羊だ。


「こちらの雛菊ですが、〈神力持ち〉で〈異能持ち〉です」


 桜姫が淡々と説明する声も雛菊の耳には届かない。


(なんで? どうして? こんなことに?)


 ――が、グルグルと頭を回る。


「彼女の異能は『以心伝心』と呼ばれるもの。これは自分の意思を相手に伝え、相手の意思を読み取ることができる異能です。神獣連絡網はその雛菊の異能を応用したものです」


(そう言えば、みたらしさんは元気かな……ちゃんとごはん食べられているかな……)


 雛菊の脳内は最早現実逃避していた。


「そして重要なのは、雛菊が先程一体誰の意思を読み取ったのか……ということです」

「…………え?」


 ようやっと雛菊は桜姫の言葉に耳を傾けた。


「覚えておいででしょうか? 先程法廷に入ってきた時の雛菊の言動を。武千代お兄様に不敬とも言える発言をした雛菊を」


 それは誰もが覚えている。

 あの時の雛菊の言動は、普段の雛菊ではあり得ない程乱暴な口調であった。

 かと思えば、唐突に冷静になったり、また熱くなったり、突然泣き出したり……。


「そして、その時の雛菊は瞳の色が変わっていました。青色、萌黄色、そして蜜柑色に」


 その色は武千代にも覚えがあった。


「まさか……!」

「そう、雛菊はつい先程読み取っていたのです。前任の神子である海と葉月と蜜柑の意思を」


 法廷内がどよめき、青褪める。

 無理もない。雛菊が読み取ったのは、もうこの世にいない者達の意思なのだから。

 そして――。


「あ、あああ、ああああたひ、ゆ、ゆゆゆ、ゆうれいにとりつかれちゃったの!?」


 他でもない雛菊本人も狼狽え、青褪めていた。


「安心してください、雛菊。幽霊に取り憑かれているわけではありませんし、あなた自身は無実です……そちらにいる彼と違って」


 桜姫は雛菊の後ろに立つ文をジロリと睨み付けた。


「どうやら彼は先程のあなたが異能発動状態であることを知っていたみたいですから」


 文が眉間に皺を寄せたのを、桜姫は見逃さなかった。


「さて、問題はここからです。では雛菊はどこから亡き神子達の声を読み取ったのか……」


 桜姫は迷わずその者に視線を向けた。


「あなたからです、〈能無し〉のお姉様」


 真っ直ぐ射貫くように見つめる桜姫の苺色の瞳を紅玉は真っ直ぐ見つめ返す。

 その隣にいる蘇芳は文より深く眉間に皺を寄せていた。


「あなたの中には海、葉月、蜜柑だけでなく、清佳と藤紫の意思が――いえ――神力があるはずです」


 衝撃的な指摘に法廷内はより一層ざわめいた。


「他人の神力を持っているって……!?」

「どういうことなの……!?」

「でも、さっきのは間違いなく前十の神子達の色だったし……!」


 カンカンッ! ――木槌が鳴り響く。


「静粛に! ……桜姫、あなたには紅玉が他人の神力を持っているという証拠が提示できるのですか?」

「はい、勿論でございます」

「では証拠の提示をしてください」


 飛瀧に命じられ、桜姫はまた迷わずその者に告げる。


「二の神子、露姫お姉様。あなた様のお力を貸して頂けますか?」


 突如指名され露姫は僅かに目を見開いた。


「……裁判長、露姫様に異能使用の許可を。これは原告側からの証拠提示にもなります」

「認めます」


 飛瀧の許可が下りたので、露姫は立ち上がった。

 それを見て桜姫は法廷内を見渡し宣言する。


「露姫の異能は『鑑定』と呼ばれるもの。かつて真珠の身に刻まれた呪いの術者の判定にも使用しました。今回もまた露姫に『鑑定』をして頂こうと思います――被告人、紅玉の身に宿る神力の色を」


 ハッとしたのは誰だったのか――。


「そう、〈能無し〉は神力を持たないからこそ〈能無し〉です。しかし、その〈能無し〉が仮に色のある神力を持っていたとしたら? そして、その色がかつての彼女の幼馴染達の色だとしたら?」


 法廷内のざわめきがより一層大きくなる。


「……なるほどね」


 露姫はじっと紅玉を見つめた。


「では、その真相を確かめてみましょう」


 露姫は神力を凝縮させる。


「【鑑定】」


 露姫の森の如き緑色の瞳が光輝き、紅玉の中を見通す。

 やがて、露姫が見たのは――。


「…………まあ…………!」


 露姫の口から零れた声に桜姫はハッとする。


「露姫お姉様、何が見えたのですか!?」

「…………そうね…………正直に話さなくてはダメよね」


 露姫は瞳を閉じると異能を使うのを止めた。

 そして、溜め息を吐きながら言った。


「紅玉の中には色の異なる神力がありました。色はそれぞれ……青、緑、水色、橙、薄紫……そうね……この色は間違いなく、海、葉月、清佳、蜜柑、藤紫のもので間違いないわね」


 衝撃的な鑑定結果に法廷内が一気にざわめき、桜姫は目をキラリと輝かせた。


「裁判長、今の露姫様の鑑定結果をお聞きになりましたか? これこそが紅玉が彼女達を羨んで凶行に走った証拠です! 紅玉は神力を持たない〈能無し〉であることを恥じて、悍しくも幼馴染達の神力を自分のモノにする為に奪ったのです!」


 露姫の鑑定付きの動かぬ証拠だ。

 再び紅玉に冷たい視線が突き刺さる――。


「待ってくれ」


 低い声が響き、巨大な身体が立ち上がった。


「その事について自分から証言したいことがあります。裁判長、自分に証言の許可を」


 それは紅玉の隣にずっと寄り添っていた蘇芳だった。

 新たな証人の登場――しかもそれが未だに想いを寄せる蘇芳ということもあり、桜姫は動揺してしまう。


「証言を許可しましょう」

「ありがとうございます」


 蘇芳は頭を下げると紅玉の傍から離れ、証言台に立った。

 真っ直ぐ前を見つめる蘇芳の横顔を、紅玉は不安げに見つめる……。

 そんな紅玉の視線に気付き、蘇芳はほんの一瞬蕩けるような笑みを浮かべた――彼女を安心させる為。


 しかし、再び前を向くと、その顔は仁王のものであった。


「では、証言をしてください。紅玉の中に宿る色の異なる五つの神力について」

「……………………」




 そして、蘇芳は語り始める。

 全ての始まりを……悍しき真実を……。




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