わたくしの罪と罰
キリが良いところで区切ったので、短いです。
20時に二回目の投稿あります。
「みゅ~~~やっぱり『春の宴』についてのお知らせだ~~~めんどい。欠席したい」
「こら、いけません。『宴』は神子様の大変重要な仕事です。無断欠席は厳禁ですよ」
宴会はまだまだ続いているはずだが、紅玉はいつものように水晶を寝かしつけていた。
水晶のふわふわの白縹の髪の毛を梳きながら、紅玉は水晶の手にある書類を覗き込む。そこには「春の宴のお知らせ」と書かれた重要書類が握られていた。
「宴」とは、春夏秋冬の年に四回開催される四十七人の神子が集う催しだ。宴と名が付けられる事もあり、普段御社に籠りきりになりがちな神子同士の楽しい交流の場でもあり、情報共有の会議としての意味もある催しである。
しかし、いつしかそれがただの楽しい催しだけではなく、神子同士が己の格や誇りを見せつけ合う場にもなってしまい、神域管理庁の職員の方でも様々な思惑を渦巻かせ動いている者も多く、正直楽しいだけの場ではなくなってしまったのも事実だ。それが、水晶が出席を渋る一因になっている
「みゅ~~~晶ちゃん、一番若くて可愛いから、お化粧の濃いおっぱいのおっきな神子のオネーちゃん達にまたイジめられる~~~ヤダ~~~いきたくない~~~」
「そう言いつつ、その神子のお嬢さん方を完膚なきまでに言い負かして泣かしたのはどこの誰でしたっけ?」
十三歳とは思えない口の達者ぶりには、紅玉も舌を巻きつつも、相手方には少し同情したくらいだ。
水晶の髪が絡まないよう、緩くみつあみをしながら、紅玉は言う。
「春の宴であれば、神子補佐役のわたくしも出席です。晶ちゃんがどんなに嫌がって駄々をこねても、姉は力尽くでも貴女を宴へお連れしますからねぇ」
「みゅ~~~お姉ちゃんの横暴~~~妹のギャクタイで訴えてやる~~~」
「はいはい」
紅玉は軽くあしらいながら水晶から書類を奪うと、寝台へ寝かしつけ、そっと額に触れる。今日は熱が高くない事にホッとする。
「さあ、もうおやすみなさい」
「うん」
水晶の目が閉じたのを確認すると、ふわふわの髪の毛を一撫でし、なるべく音をたてないように立ち上がる。
「……お姉ちゃん」
「はい?」
「お姉ちゃんもちゃんと寝てね」
「………………」
紅玉は音をたてないように、水晶の寝室から出た。
「………………」
水晶の言葉に返事をする事ができなかった。
(ごめんなさい、晶ちゃん……)
姉として、妹に嘘が付けないからだ。
(貴女に酷く心配をかけさせてしまっても、わたくしは……)
「やあ、紅ねえ」
そう声をかけられ、紅玉は少し肩を揺らしてしまう。
振り返ればそこには、闇に溶け込むような薄墨色の長い髪と茜色の瞳を持つ男神が紅玉を見つめてニッコリと笑っていた。
「日暮様、相変わらず気配を隠すのがお上手ですこと。本日の夜番は日暮様達でしょうか?」
「うん、そうだよ。宴会も丁度お開きになったし、神子の寝室に来たんだよ」
「まあ、珍しい。随分お早いお開きですね」
いつもであれば日付が変わる寸前まで飲み明かしている神々もいるというのに、だ。
「皆、氷漬けにされちゃったからねぇ」
「……はい?」
紅玉に日暮の言っている意味が全く分からなかったが、宴会がお開きになったという事は、もうすでに片付けが始まっているという事である。
「わたくしは後片付けに戻らねばなりませんので、日暮様、あとはよろしくお願いしますね」
「うん、承ったよ」
「晶ちゃん、本日は熱も無く休んでおりますが、万が一何かありましたらお呼びくださいませ」
「あぁ、わかったよ。紅ねえも、今日は早くおやすみ」
「…………はい、失礼します」
紅玉は日暮に頭を下げると、その場を立ち去る――少し後ろめたくて、気持ち足早に。
「…………今宵も寝てくれそうにないかな」
茜色の瞳を怪しく光らせて、日暮がぼそりと呟いた声など、紅玉に聞こえるはずもなかった。
*****
守ると決めておりました。
傍にずっと一緒にいて、守り抜くと約束をしていました。
だけど、わたくしは約束を守る事ができませんでした。
わたくしは肝心の時に間に合わず、
傍にいたのに気づく事ができず、
その決意を止める事ができず、
そして、結局わたくしは、最後の最後まで何もできず、只の傍観者だったのです。
何故わたくしは間に合わなかったの?
何故わたくしだけが生きているの?
何故わたくしは何もできなかったの?
何故わたくしは真実を見つける事ができないの?
これが、愚かなわたくしの罪。
だから、わたくしは、強くあらねばならない。
多少の無謀は、わたくしへの罰です。
真実を見つけ出すまでは、わたくしは決して屈してはいけない――。