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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第四章
192/346

あざみの調査




 神域坤区内にある神域図書館別館には、歴史史料室というものがあり、神域の歴史について書かれた書籍が大量に保管されている。

 そして、更にその奥にある禁書室に保管されているのは、神域内で起きた事件や犯罪に関するもの資料や証拠品や報告書だ。


 ちなみにこの禁書室、神子や神のみが立ち入りを禁じられており、神域管理庁の職員であれば誰でも出入りできる状態であるのだが……。


「……管理が杜撰過ぎるわよ」


 そんな事を呟きながらあざみは禁書室の使用者管理帳を見返していた。

 驚く事にその使用者管理帳に記入されている名前はほぼ無い。


 もう一度言おう。この禁書室は過去に起きた犯罪の資料や証拠品が保管されている場所だ。それ即ち重要性が非常に高い場所でもある。


「あンのハゲどもぉぉおおおおおおっっ!!!!」


 怒りとともに管理帳を床へと叩き付ける。


「ったく! 仕事ほったらかして何していたのよ!! ハゲ! デブ! クソ親父!!」


 禁書室に他に誰もいない事をいい事に、ありとあらゆる罵詈雑言を吐き捨てる。

 そして、自分が中央本部の権限を握っている内にあちこち梃入れをしようと決めた。


「今後一生馬車馬のように働かざる負えないシステムを作ってやるわ。見てなさい、ハゲデブ親父ども!」


 「ふっふっふっ!」と悪い笑顔を浮かべながらあざみはあれこれ手帳に記入をしていく。


 ふと床を見れば、先程叩き付けた使用者管理帳が開いており、最後に禁書室を利用した職員の名前が見えた。

 そこに書いてあった名前は紅玉のものだった。


「……………………」


 あざみは手帳を閉じると、禁書室の中を見て回り、必要な資料を集めていく。

 やがて、机の上に並べられたのはいくつかの資料。


 一つは「十の神子焼死事件」

 一つは「術式研究所による三十五の神子、二十二の神子の子息誘拐事件」

 そして、最後の一つは「藤の神子乱心事件」


 あざみはその中の「十の神子焼死事件」の報告書を読み始める。




『十の神子焼死事件』


 概要

 太昌十四年葉月十一日、現世連続行方不明事件の容疑者であった丑村(以下、表記を容疑者と統一)に接触を試みようとしたところ、容疑者が十九の神子の焔(以下、表記を焔と統一)と接触していた。その際、容疑者が焔に異能を使用し逃走したので、焔を救出しながら即座に容疑者を追跡する。

 容疑者の逃走先は十の御社。十の御社の生活管理部の史美が鍵の施錠忘れにより、容疑者の侵入を許してしまう。

 御社内まで容疑者を追い詰めたところで、焔が意識を取り戻す。その時にすでに記憶が曖昧な状況であった。容疑者の異能(記憶操作)により記憶を消去されてしまったようだ。

 容疑者は己の罪を自白する。現世から自分好みの女性を誘拐したこと、その女性達を欲処理の為の玩具であること、その為に女性達の記憶を操作していたこと。容疑者の自白に焔が激怒し、異能(火焔)が暴走。容疑者を火焔で焼き殺してしまう。火焔は神力を帯びた強力なもので、当職員も他職員も介入が困難であった。容疑者が絶命し、倒れた場所が運悪く御社の屋敷で、火焔が一気に屋敷に燃え広がる。

 十の神子の海(以下、表記を海と統一)の指示で屋敷内にいた神々が避難をするが、逃げ遅れた神がいた。海はこちらが制止する前にすでに走り出しており、神を庇って火焔を纏った瓦礫の下敷きとなる。その後、神々の手により救出されるも、海は全身火傷が酷く、間もなく息を引き取った。


 原因

 十の御社生活管理部の史美の門の施錠忘れ。史美は当時御社前の掃除をしていた。また十の神子護衛役の皆上は当時外出をしており御社に不在で、当時海の傍にいた職員は十の神子補佐役の那由多のみだった。

 また焔が自らの意思で容疑者に接触し、不用意に刺激してしまったことも一因と思われる。焔は当時御社配属職員三名に黙って一人で外出をしていた。その焔が感情を爆発させ暴走させた異能の火焔が今回死者を生み出す元凶となってしまった。

 火焔を消火しようとすぐに判断したが、焔の神力で生み出された火焔は非常に強力で、当時現場にいた神域管理庁職員では対応できなかった。神ですら火焔を恐れ逃げていた。故に火焔を消火することは不可能であった。


 対応策

 門の施錠の徹底を再度実施していく。また御社外の仕事で、紙人形で賄える仕事であれば、紙人形を使用する。

 また御社配属職員は、神子の行動管理の徹底を再度確認していくべきである。


 処分

 十九の神子 焔 神子剥奪及び懲役二年

 十の御社生活管理部 史美 懲戒免職

 十の神子補佐役 那由多 御社配属から参道町配属へ異動

 十の神子護衛役 皆上 御社配属から参道町配属へ異動

 十九の神子補佐役 知草 懲戒免職

 十九の神子護衛役 電汰 懲戒免職

 十九の御社生活管理部 万水 懲戒免職


 作成者

 神子管理部 艮区配属 那由多



 報告書を読み終えて、あざみは本来の目的を思い出し、立ち上がる。

 そして、手に取ったのはある事件に関する資料だ。


(いっけない。コレを調べに来たんだった)


 そんな事を思いながら、あざみはその事件の報告書を読んでいく。




『現世で起きた連続行方不明事件』


 概要

 太昌十四年皐月三日頃から、現世で若い女性を中心にした行方不明報告が立て続けに発生。警察が捜査に当たったところ、共通して皇宮駅までの目撃情報はあるが、その後の消息が不明となっている。付近は全て捜索したが手掛かりが見つからず、唯一捜査していない場所が神域管理庁の管轄する場所のみとなった。

 同年水無月一日に、警察は神域管理庁に行方不明人物の情報を公開し、解決の為の協力要請をする。

 同年葉月十日、娯楽街付近で倒れているところを発見され保護された人間が行方不明者の一人であった。

 そこから容疑者として娯楽管理部部長の丑村が浮かび上がった。後に丑村は自分の罪を全て自白。本件は行方不明ではなく、丑村による誘拐事件であったことが発覚する。丑村は身柄を確保する前に、逃走中起きた別事件で焼死した。

 その後、乾区配属の神域警備部の捜査が入り、行方不明者全員が娯楽街で発見された。しかし、全員記憶が曖昧で、自分自身の事も、何故神域にいるのかも理解できていない状態。恐らく丑村の異能(記憶操作)で記憶を操作された可能性が高い。その上、性的暴行を受け続けてきたせいで、心神喪失状態。男性を激しく恐れており、男性職員が多い神域警備部の事情聴取も不可能だった。

 しかし、その後の得られた証言から捜査し、丑村と関係のあった娯楽管理部職員五名と中央本部職員一名が誘拐事件と被害者達への性的暴行に関与していたことが判明した。これらのことから事件に関与した者達全ての身柄は影の一族へと引き渡され、刑が執行されることとなった。

 同年葉月十五日、警察及び被害者家族へ事件の概略を報告。被害者家族からは被害者達の記憶を取り戻してほしいとの依頼があり、神域管理庁で治療を行なっていく事となる。


 処分

 中央本部所属 鰒天

 娯楽管理部所属 抜蒲

 娯楽管理部所属 更科

 娯楽管理部所属 猿滑

 娯楽管理部所属 伊瀬家

 娯楽管理部所属 還釜

 以上、六名は懲戒免職の上、身柄は影の一族が永久に管理する事となる。


 被害者

 ウル 二十六歳 女性

 モク 十九歳 女性

 メイ 十三歳 女性

 トウ 二十四歳 女性

 ユキ 二十二歳 男性


 追記

 被害者達への治療報告

 太昌十四年葉月十一日に保護。即刻治療が行なわれるも、心神喪失状態が深刻で医務部職員が触れようとしただけで激しい拒絶があり、検査も治療も困難だった。

 せめて失われた記憶を回復させる為に、四十六の神子の葉月(以下、表記を葉月に統一)に記憶操作の異能を解く神術の開発を依頼する。葉月の命により、神子管理部参道町配属乾区担当の鈴太郎も開発に加わり、記憶想起の神術を完成させる事に成功。記憶想起の神術により、被害者達は消された記憶を取り戻し、自信の事や家族の事や触られた経緯などについても思い出す事ができた。

 同年長月二十日、被害者達が現世へと帰還する。尚、神域で見たり聞いたり経験したりの事柄は全て他言無用という法律がある為、事件の概要は一切現世に公表できないことを説明し、承認済みである。


 作成者

 中央本部 人事課 鷹臣




 報告書読み終えたあざみは溜め息を吐いた。


「口封じには抜かりないわね、ホント……」


 呆れながら、背筋を伸ばしていると、それが目に入った。

 棚の隅に無造作に積まれた箱の山。長年動かされていないであろうそこは、埃が被っていた。


「…………」


 ふと気になって、埃にまみれた箱を一つまた一つと退けていくと、箱の奥のそのまた奥に仕舞われた埃まみれの箱を発見する。

 埃を吸いこまないように気を付けながら、箱を引っ張り出し、箱に書かれた事件の名前を確認した。


「……『神の殺戮事件』……!」


 それはあざみにとって――知の一族の者にとって忘れてはならない事件の資料だった。





<おまけ:資料が山の如く>


 禁書室に篭って大量の資料を読み始めて早数時間……。

 一向に読み終わる気配も無ければ、空腹まで感じてきた。


「あ~~~~、こんな調子じゃ読み終わらないわねぇ……しょうがない」


 あざみは己の伝令役の小鳥を呼び出した。呼び出した相手は――。


「あ、もしもし? 鈴太郎? 今すぐアタシのお昼ごはんと飲み物買って、神域図書館まで来なさい」

『ええええっ!? そんな急過ぎま――』

「は? なに? アタシに口答えすんの?」

『い、いえ……』

「つべこべ言わずに、とっとと買ってきなさい!」

『はひぃぃっ!!』


 伝令を終了してからあざみは「あ」と気付く。


「アイツ、神子だから禁書室は入れないじゃん……」


 しばらくあざみは悩むものの、あっさり考えるのを止めた。


(ま、黙ってりゃ問題ないでしょ)


 幸い、この禁書室の管理は杜撰なのだから。


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