【番外編】締め~酒は飲むとも飲まるるな~
夜も更けて、月がぽっかり浮かぶ頃、蘇芳と紫は十の御社へ帰還した。
轟も一緒だ。十の御社で「げえむ会」に参加している諷花の迎えである。
「只今戻りました」
「たっだいまー!」
「おーい。諷花を迎えに来たぞー」
そう声をかけると、二階から槐が降りてきた。
「おお、蘇芳! 丁度ええところに帰ってきたのぅ! 紫はベロベロじゃのう」
「あっはっは」と快活に笑う一方で、同じく二階から降りてきた右京と左京が突如轟に殴りかかったので蘇芳はギョッとした。
「何すんだよ! 双子!」
「お気になさらず。ただの憂さ晴らしです」
「少々あなた様を殴りたくなってしまっただけです」
「気にするわっ!!」
そんな光景を後からやって来た諷花がニコニコ微笑みながら、美月が呆れた表情で、そして天海がオロオロとしながら見守っていたのを見て、蘇芳はなんとなく双子が轟に殴りかかった理由を察した。
轟を憐れに思いつつも、蘇芳は槐の方を向く。
「えっと、丁度良いところにって……何かあったのですか?」
「おぉ、そうじゃそうじゃ! 紅ねえが大変なんじゃ!」
「っ!?」
「紅ねえが倒れてのぅ。それで……ああおい、蘇芳!?」
槐の説明を聞くより先に蘇芳は二階へと駆け上がっていく。
蘇芳のあまりもの形相に轟は驚きつつも呆れてしまう。
(あんな顔するくらい心配だっつーのに、付き合ってねぇってホント……)
「ねえ、轟君」
「あ?」
「あんなに互いのことを想い合える関係って、素敵ね」
諷花のふわふわした微笑みを見ている内に、二人のくすぐったい関係性はもどかしくもあるが、尊いものだとも感じる。
「…………だな」
あの二人に早く幸福が訪れることを祈り、見守るしかないだろうと、轟は思った。
階段を駆け上がった蘇芳が飛び込んだのは紅玉の部屋だ。
「紅殿っ!!」
「……あらぁ? しゅおーしゃま?」
「…………??」
「おかえりなしゃいましぇ、ふふふっ」
「????」
確かに紅玉は明らかに大変なようだった。顔を仄かに赤く染め、呂律が回っておらずフラフラである。しかし、ふわふわと微笑んでいるところを見ると、緊急事態というわけではなさそうだ。
内心混乱している蘇芳に、紫とともに遅れてやってきた槐が説明をした。
「普段全く飲まん酒を誤って飲んでしまったらしくてのぅ。ふらっと倒れて頭を打ってしまったらしいんじゃ」
「さ、酒……?」
「ただ頭を打ってこんなことになったわけじゃないぞい。頭打つ前からもうできあがっていたらしいんじゃ。それもたった一口で」
「つ、つまり……」
「紅ねえは酒がしこたま弱い」
一気に気が抜けて蘇芳はその場に崩れ落ちてしまった。
そんな蘇芳を見て、紫がケラケラと笑う。
すると、甘えた可愛らしい声が響き渡った。
「お姉ちゃ~ん、晶ちゃんは可愛い~?」
「はぁい、しょぉちゃんはとぉってもかわいいわたくしのいもぉとでしゅわぁ」
「ぎゅ~ってしてなでなでして~」
「はぁい、しょぉちゃん、いいこいいこぉ、ぎゅうぅぅっ」
「ぐへへ、やべぇ、堪らん」
だらしない笑顔で言った声は可愛さの微塵もなかったが。
「ベニちゃーん! マリはー? マリはー?」
「はぁい、まりちゃんもぉ、とぉってもかわいいわたくしのいもぉとでしゅわぁ」
「紅ちゃん! 私は? 私はー?」
「はぁい、けぇちゃんもぉ、とぉってもかわいいわたくしのどぉきでしゅわぁ」
「マリもHugしてー!」
「私もー!」
「はぁい、ぎゅうぅぅっ」
「Wow……コ、コレは……!」
「お、女に生まれて良かった……っ!」
紅玉の豊満な胸に抱き締められて、鞠と慧斗が揃って幸せそうに蕩けているのを横目に槐が言う。
「紅ねえはどうやら褒め上戸に抱きつき上戸らしくてのぅ。さっきからこんな状況じゃ。いの一番に抱き締められた藍ちゃんなんか昇天したぞい」
槐の視線の先を見れば、藍華が真っ赤な顔で横になっており、焔が介抱していた。
「……こういうことだったか……」
「ん? なにか心当たりがあるのかの?」
「三年前……まだ紅殿が八の御社配属だった頃、彼女の幼馴染と一緒に飲み会をしたことがあって、珍しくはしゃいでしまったのかその日は開催地の二十七の御社に宿泊して帰ってこなかったのです」
その翌日、真っ赤な顔で平謝りする紅玉が可愛かったから覚えている。
「その時に紅殿を送りに来た幼馴染が言っていたのです……」
人差し指を突きつけられながら「紅ちゃんに絶対お酒を飲まさないでね!」と力強く言った元二十七の神子の言葉を思い出す。
「てっきり単純に酒が弱いだけかと思ったんだが……そういうことだったわけです」
「なるほどのぅ。確かにあれ程酒に弱い挙げ句あれじゃあ獣の餌食じゃからのぅ」
それは元二十七の神子も絶対酒を飲ますなと言うはずだと蘇芳は思いつつ、あんなに可愛い姿を見せる紅玉を隠していた事に少し不満を覚える。
(藤紫殿……やはりあの方は侮れん……)
「しゅおーしゃまっ」
「っ!?」
感じる衝撃と柔らかな感触に蘇芳は目を剥いた。
何故なら紅玉がその豊満な胸を惜しみ無く押し付けながら正面から抱きついてきたのだから。
いつも巻いている晒しはすでに取り払われており、身体から感じるのは直接的な柔らかさである。
それに気づいた瞬間、蘇芳は焦り出す。
「べっ! べにどのっ!? ちょ、ちょっとまて!」
「しゅおーしゃまはとぉってもえらいのでしゅぅ。ごりっぱなのでしゅぅ。わたくしのしょんけいしゅりゅしぇんぱいなのでしゅぅ。だからぁ、いっぱいほめてあげりゅのでしゅっ! あたまなでなでぇ」
「べにどのっ! いや、あの、おちつけ――うわっ!?」
まるで犬を褒めるように紅玉が蘇芳の頭を撫でまくる。背の高い蘇芳は頭を無理矢理押さえつけられている状態で、その格好は少々滑稽であった。
槐と紫は思わず吹き出してしまう。
「しゅおーしゃまはまいにちしゅぎょぉをなしゃってたんれんもおこたりましぇんし、わたくしのおてちゅだいもいっぱいしてくだしゃって、いつもいつもかんしゃしておりましゅぅ」
「紅殿!」
「――はら?」
焦った蘇芳が意図せず紅玉の手を振り払ってしまい、紅玉の身体が傾いだ。
しかし、それを見逃す蘇芳のはずがなく、倒れる寸前で紅玉を抱き止めた。
「すっ、すまん、紅殿……! 大丈夫か?」
「おお、大丈夫か? 紅ねえ?」
「はう……」
紅玉は何を思ったのか、きゅっと蘇芳の服を握り、蘇芳の胸元に頬擦りをした。
「このかおり……あんしんしましゅ……ふふふっ」
ビシリ――蘇芳の理性にヒビが入る音がした。
「あ、べ、や、ちょ、ま、は、べ――」
その瞬間、槐が叫んだ。
「全員撤退じゃあああああああ!!!!」
「わあああああああ!!!!」
「あっ! 待て! 貴殿ら!」
槐の一声で、その場にいた人間神全員が部屋の外へ飛び出した。
そして、蘇芳の叫びも虚しく、扉は閉められ挙げ句結界という名の鍵までかけられ閉じ込められてしまった。
蘇芳が扉を開けようと試みるも、扉はびくともしない。
蘇芳は置かれた状況に青ざめた。
「蘇芳さーん! いい加減頑張ってくださいっすー!」
「いや! 空殿! 待て!」
「いや、儂らはもう十分すぎる程待った! もう我慢ならん! 今夜中に決着をつけい!」
「槐殿! そんな殺生な!」
「蘇芳くーん、大丈夫大丈夫! 作っちゃえば問題ナッシング! レッツ既成事実!」
「紫殿ぉぉおおおおおお!!!!」
「んじゃ、お姉ちゃんのことよろしくね~、すーさん。おやすみ~」
「神子! 神子! 水晶殿! 待ってくれ……!」
しかし、返事はなく、シンと静まり返った。結界が更に強固なものとなり、防音までされていると察する。
蘇芳は恐る恐る紅玉を見た。
未だに蘇芳の服を握り、頬を擦り寄せ、とろんとした笑顔を見せている紅玉。
こんな無防備過ぎる紅玉と二人きり……まさに理性との戦い。生き地獄だ。
思わず唾を飲み込んでしまう。
「うみゅ……? しゅおーしゃま、のどがかわきましたの?」
「あっ、いや……!」
「おまかしぇくだしゃいっ。おみじゅをおもちいたしましゅわぁ」
「いや紅殿待て!」
「はひ?」
「貴女は寝た方がいい。貴女は今酒に酔っていて、平常ではないんだ」
「まあしちゅれいにゃ。わたくし、よってなどおりましぇんわ」
「酔っぱらいの常套句を言わないでもらおうか……!」
むぅと頬を膨らませる紅玉の可愛さに胸が締め付けられ、理性が引き千切られそうになる。
「しょれにわたくし、まだおしごとがごじゃいましゅの。ねむっているひまなんてありましぇんわ」
「まだ仕事をしようとしていたのか!?」
「えっとぉ……あらぁ? わたくし、なにをしよぉとしていたのでしたっけぇ?」
「寝ろ!!」
瞬間、紅玉の身体が再び傾いで、咄嗟に蘇芳が支えた。
「はらぁ? くらくらしましゅ……」
「酔っていると言っているだろう!?」
蘇芳は紅玉を抱え上げた。
突如訪れる浮遊感に紅玉は驚きつつも、ふにゃりと笑うと蘇芳の首筋に抱きつく。
「ふふふっ、しゅおーしゃまはちからもちしゃんなのれしゅぅ。しゅごいでしゅわぁ」
蘇芳は思わず唸ってしまう。
「やしゃしくてたよりになってちからもちしゃんで……こぉんなにすてきなだんしぇにおもわれるともるちゃんがうらやましぃでしゅぅ」
「…………」
「わたくし、がんばりましゅわぁ。がんばってともるちゃんをみちゅけだしてみしぇましゅから……だから」
「貴女は……」
「はえ?」
蘇芳はカッとなって紅玉を寝台の上へと押し倒した。寝台の柔らかさに紅玉の身体が弾み、漆黒の髪が散らばる。その美しさを目に焼き付けつつ、蘇芳は紅玉の上に覆い被さりながら怒ったように言う。
「貴女は……何もわかっていない……っ」
眉を顰める蘇芳の顔を紅玉は潤んだ瞳で見つめた。
「俺が……俺が……俺が心から本当に想うのは……っ!」
不意に紅玉は蘇芳へ手を伸ばし、頬に触れ、思いっきり引っ張った。
「っ!?」
蘇芳は息を呑んで目を剥いた。互いの吐息が感じられる程の近い距離に蘇芳は言葉を失い、混乱する。紅玉の意図が全く理解できなくて。
紅玉は黙ったまま潤んだ瞳で蘇芳を見つめるばかりだ。
「………」
「べ、に……ど……」
「……きれい……」
「……え?」
「おちゅきしゃまみたいにきれいなひとみ……きらきらしてましゅ……おかみもうめとおんなじいろ……かわいらしい……ふふふっ」
愛おしげに蘇芳の髪と頬を撫でながらふにゃりと笑う紅玉に、蘇芳は胸が締め付けられてしまった。
苦しい。苦しくて堪らないのに、幸福を感じる――。
「ほんとうの……まっくろなおかみとひとみもしゅおーしゃまももちろんしゅてきでしゅわ……あなたはほんとうに……すてきなひと……」
紅玉は両手を蘇芳の首へ伸ばし、ぎゅうと抱き締めた。そして、近づいた頬に己のそれを擦り寄せる。
触れ合う柔らかな頬の感触に蘇芳は心臓が止まりそうになった。
だが、紅玉は止まらない。
「やさしくて、たよりになって……そばにいるだけであんしんしますの」
心臓が破裂寸前だ。いやそれ以前に理性がギリギリの状態だった。
己の早い鼓動も荒い呼吸も全て、目の前にいる愛おしい彼女が元凶だ。
抱き締めたい。
口付けたい。
彼女を自分のモノにしたい。
男としての欲が理性を引き千切ろうとする。
蘇芳は紅玉の両肩を掴んで、身体を起こした。
「紅殿っ! 俺はっ!」
「……なんて……すてきなゆめ……」
そう小さく呟くと、紅玉は瞳を閉じ、ぱたりと蘇芳へ伸ばしていた腕を寝台の上へと投げ出した。
「…………紅殿?」
そう声をかけても紅玉の返事はなく、聞こえてくるのは健やかな寝息だけだった。
瞬間、蘇芳は我に返り、慌てて紅玉から距離を取ると、口を手で覆って顔を真っ赤にさせた。
(貴女は! いつも肝心なところで人の話を聞かないままで!!)
叫びたい一心を、紅玉の眠りを妨げると思って、心内になんとか止める。
はあと大きな溜め息を吐くと、吐息がかなり熱かった。
そして、再び紅玉を見る。
閉じられた瞼に長い睫毛。頬は酒に酔ってほんのりと赤く、唇も血色の良い紅色。寝台の上に散らばる漆黒の長い髪は艶めいて美しい。服はすでに寝巻きで、さらしも巻いておらず、豊かな胸が上下している。
思わず唾をごくりと飲み込みつつ、頭を振った。
「俺は……貴女には誠実でいたい……」
紅玉に言っているのか――己に言い聞かせているのか、そんな言葉を口にする。
「……だけど、これくらいは許してくれ」
散々翻弄されたのだ。これくらいは許されるはず――己に言い訳をしながら、蘇芳はそっと紅玉に覆い被さり、そしてゆっくり重ね合わせる――……。
――額と額を。
触れ合うそこから伝わる熱すら愛おしくて、思わずその言葉を呟く。
「貴女が好きだ……紅殿」
そんな告白に、夢の世界にいる紅玉が気づくはずもなかった……。
**********
紅玉はぱちりと目を開いた。
「あら……?」
目に射し込むのは眩しい日の光だ。
確か、最後の記憶では夜だったはずなのに……。
混乱しながら紅玉はゆっくりと身体を起こした。
「わたくし……何をしていたのでしたっけ?」
何度思い返そうとしても……記憶がない。
何故自分は己の部屋で寝ているのか。いつの間に寝巻きに着替えたのか。そもそも昨晩何があったのか――全く思い出せない。
「起きたか? 紅殿」
「えっ!?」
聞き覚えのありすぎるその声に振り返れば、案の定そこに蘇芳はいた。部屋の長椅子に腰掛けている。
「すっ、蘇芳様!? 何故ここに!?」
「安心してくれ。俺は貴女の看病を任されただけだ。誓って何もしていない」
「看、病……?」
蘇芳に寝起き姿を見られただとか、一晩中看病してもらったとか、驚くべき情報量の多さに頭がついていかない。
「その様子だと昨夜のことはまったく覚えていないようだな」
「え、えっと……はい……雛ちゃん達とお話ししていたのは覚えているのですけれど……そこから先はまったく……」
蘇芳は、はあと大きな溜め息を吐くと、紅玉に近づき両肩を掴む。そして、真剣な眼差しで紅玉の瞳を見て言った。
「紅殿、聞け。貴女は些かどころかかなり警戒心が無さすぎる。無防備だ。無防備が過ぎる。頼むからもう少し自分の身を大切にしてくれ。記憶を飛ばすほど酒が弱いのでは目も当てられない。よって今後飲酒は俺の目の届かないところでは絶対に禁止だ。反論はなしだ。決定事項だ。いいな?」
「は、はい……」
蘇芳の怒涛の説教に素直に頷くも、心当たりが全くない。酒を飲んだという記憶すらもないのだ。
「あ、あの、蘇芳様、わたくし、昨夜何をしてしまったのでしょうか?」
それで蘇芳に多大な迷惑をかけてしまったのなら、申し訳なさ過ぎて土下座だけでは済まないかもしれないと不安になる。
しかし、紅玉のそんな不安を余所に蘇芳は微笑む。
「気にするな。ただ気を付けろ。男は獣だからな」
「……えっ?」
その台詞によく似た事を誰かが言っていたような気がする。ぼんやりとした記憶でよく覚えていなくて……。
「す、蘇芳様も、ですか……?」
咄嗟にそんな質問を口にしていた。
蘇芳は少し目を見開き、やがて困ったように――だがニヤリと不敵に妖しく笑う。
蘇芳の少し珍しい笑みに紅玉は心臓が跳ねる。
「ああ、そうかもしれない。なにせ俺は化け物だからな。下手に無防備な姿を見せて、パクリと食べられても知らないからな」
言っている内容は物騒であるのに、己の頭を撫でる手はどこまでも優しいもので、紅玉は言葉を失う。
「今後はもっと警戒心を持ってくれ。俺は先に出る。早く支度を済ませておくんだぞ」
蘇芳はそう言って扉に手を掛ける。
バキン! ――と何かが破壊される音がしてから、扉は開かれた。
蘇芳が出ていき、扉が閉まった瞬間、紅玉は燃えるように真っ赤になって寝台の上に倒れて悶えることになってしまった。
(ああぁぁああああ……っ!! 何なんですの!? あの笑い方は!? 狡い!! 卑怯ですわ!!)
真っ赤になりながら紅玉は蘇芳が撫でてくれた頭にそっと触れる。
(どうしましょう……蘇芳様になら食べられてしまっても構わないだなんて……は、はしたなすぎますっ……! わたくしぃっ!!)
紅玉は恥ずかしさのあまり、寝台に顔を埋め、両手足をばたつかせてしまう。
はしたなくも、そうしなければ気が済まなかった。
階段を降りながら蘇芳は思い出していた。
かつて、飲み会からそのまま一泊し、翌朝真っ赤な顔で平謝りした紅玉を送りに来てくれた元二十七の神子こと藤紫が告げた言葉を。
「紅ちゃんに絶対お酒を飲まさないでね」――と言った後、耳元で囁かれた言葉を――。
頭の中で何度も響き渡る度、蘇芳は苛立ち、無意識に握る手に力が入ってしまっていた。
そして、向かった食堂の扉を乱暴に押して、怒りを込めて叫んだ。
「貴殿らぁっ!! 昨晩はよくも!!」
食堂内に十の御社の住人達の阿鼻叫喚が響き渡った。
藤紫色の長い髪をふわりと揺らし、藤紫は蘇芳の耳元に唇を寄せて囁いた。
「君みたいな獣に紅ちゃんを食べられたりでもしたら大変だもん」
儚げな印象を無くし蘇芳を挑発するような不敵な笑みでそう言った……。
もう一つ番外編を上げてから、四章開始予定です。
よろしくお願いします。