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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第三章
177/346

【番外編】女子会~女はやっぱり恋の話に花が咲く?~

久しぶりの登場の慧斗ちゃんと藍華ちゃんがおります。


慧斗:二十二の神子補佐役。紅玉の同期で友達。

藍華:二十七の神子。紅玉と仲良くなりたい。




 地獄一丁目一番地で男会が開催されているその頃、十の御社の食堂では紅玉主催の女子会が開催されていた。


「へえ~、じゃあ蘇芳さんと紫さんも男会に参加しているんだ」

「はい。先程お迎えがあってお出掛けされました」


 文から男会開催の旨を聞いて知っていた雛菊だったが、蘇芳と紫も参加しているとは思っていなかった。

 故に紅玉から女子会に誘われた訳なのだが。


 紅玉の説明に付け加えるように慧斗が言う。


「リンリンとよっしーも男会行きたかったーって嘆いていたよ」

「何か用事が?」

「リンリンがまーた何かの神術を創ろうとしていたせいで書類溜め込んじゃって、まとめて書いているところ。よっしーは私とジャンケンで負けて、その見張り」


 この慧斗が仕えるリンリンこと鈴太郎は二十二の神子であり、新しい神術の創造を得意としており、これまでも画期的な神術を編み出している。

 しかし、そのせいで仕事を溜め込んでしまったらしい。神子としての本分を考えるのなら本末転倒である。


「まったく……普段から書類を片付けないからこんなことになるのよ」

「藍ちゃんはちゃんと真面目にやってるもんね。エライエライ!」

「当然の義務よ」


 胸を張ってそう言うのは二十七の神子こと藍華だ。

 この参加者で唯一の神子である。そもそも神子という高い身分の者がこのような気軽な会に参加すること自体違和感だが……まあそこは神子本人の希望なのである。


「藍ちゃん、晶ちゃん達と一緒じゃなくてこちらでよろしかったのですか?」

「え?」

「藍ちゃんは晶ちゃん達と一緒が良いのではと思いまして……」

「いっ、いいのよ! だってあっち、未成年ばっかじゃない! お酒が飲めないでしょ!?」

「そうなのですが……」


 紅玉は、藍華は同じ神子である水晶と仲良くしたいと思い込んでいるのだが……。


「まあまあ紅ちゃん。藍ちゃんが、こっちがいいって言うならいいじゃん。紅ちゃんだって藍ちゃんと一緒の方が嬉しいでしょ?」

「ええ、嬉しいですわ」


 慧斗の言葉にふわりと微笑んだ紅玉を見て、藍華が嬉しそうに頬を染める。


「な、なら、こっちにいてもいいわよっ」

「ふふっ、ありがとうございます」


そんなやり取りを見ていろいろ察した雛菊に焔が付け加えるように耳打ちをする。


「……ある種の片思いなんだ」

「なるほどねー……」


 紅玉は時々性質の悪い鈍さを発揮する事があるが(主に恋愛面で)、まさか友情面でもそのような事が起きるとは雛菊も思わなかった。

 余談だが、紅玉主催の女子会に参加したいと言った藍華を十の御社まで連れてきたのは藍華に使える女神だ。今頃別室で女神会が開催されていることだろう。


「あ、そうでした。藍ちゃん、こちら雛菊さん。神獣連絡部の部長ですわ」

「初めまして、二十七の神子様」

「藍華でいいわ。神子って呼ばれるの好きじゃないの。敬語もいらないわ」

「え、いいの?」

「呼び捨てでいいわよ」

「わあ! 嬉しい! ありがとー! 藍華!」


 小動物のように愛らしい笑顔に藍華は目をぱちくりとさせた。


「雛ちゃん、可愛らしいでしょう?」

「うん」


 頬を少し緩めて頷く藍華もまた可愛いなぁと思いながら、紅玉は「ふふふっ」と笑う。


「雛ちゃん、可愛いー!」

「ぐえっ! ちょっと慧……! 苦しい……!」


 雛菊に抱き付いた慧斗を見て藍華が呆れたように溜め息を吐く。


「あなた、昔から抱き付き癖あるわよね……」


 つまりは藍華も抱き付かれたことがあるのだ。女性の割になかなか力強いあの腕に。


「うう~ん……そんなことはないんだけどなぁ」

「どこがよ」

「いやだって、私、学生時代は女友達いなかったし」

「……えっ!?」

「なんで!?」


 衝撃的な慧斗の発言に藍華も雛菊もギョッとした。


「いや、仲良しだった子はもちろんいるよ。でもほら、私、どっちかっていったら男っぽい見た目じゃない? だから、女友達っていうよりは憧れの対象として見られることが多くて」

「あー……なるほど」

「所謂みんなの憧れのお姉様もしくは王子様で取り巻きが多かったってやつ?」

「そういうことー」


 雛菊の例えは独特であるが、分かりやすい。

 そして、そういう事ならば納得ができる話であった。

 そんな話を聴きながら焔が苦笑した。


「私なんてこんな性格が災いして、心から許せる友なんていなかったぞ」

「性格?」

「真面目すぎて融通がきかないって煙たがれた記憶しかない」

「あー……クラス委員長とか面倒くさい役職押し付けられるあれ?」

「それだ」


 またもや雛菊の例えは分かりやすかった。


「あらあら、焔ちゃん……こんなに良い子ですのに」

「そう言ってくれるのは紅玉先輩だけだ……」


 すると、藍華が小声で恥ずかしそうに言った。


「わ、私も……友達少なかったから……同じよ」

「……え?」

「だから! 私も友達が少なかったのよ! 気にすることないわ! 絶対私の方が友達少なかったに決まっているんだから! 落ち込むことないわよ!」

(これきっと、焔さんを励ましているつもりなのね! すごいツンデレ! そして、友達が少なかった原因も絶対このツンデレよ)


 相変わらず察する能力に長けている雛菊であった。

 そして、その場にいる全員が藍華の真意を察しており、微笑ましげに藍華を見ていた。


「ありがとう、藍さん。元気が出た」

「な、なら良かったわ」


 素直になれない藍華が可愛いなぁと雛菊は思った。


「雛ちゃんは可愛いから友達多そうー!」

「あはははは……あたし自身は人間関係に苦労したことないけど、両親の人間関係には苦労したし、明日食べるものに苦労した話ならいっぱいあるわよー……あはははは……」

「……ごめん」


 目が虚ろになっていく雛菊に慧斗は咄嗟に謝ってしまっていた。


「あー、えっと……話は戻るけどさ、つまり私がこうやって抱き付くようになったのはぶっちゃけ神域に来てからなんだよねー」

「へえー、そうなんだ」

「うん。で、原因は紅ちゃんのせい」

「え? わたくし?」

「ええ?! 紅!?」


 想像の斜め上行く人物が原因だと言われれば雛菊だけでなく、藍華も焔も驚いてしまう。

 何せ紅玉はどちらかと言えば、淑やかな女性であるから――。


「だって紅ちゃんが言ったんだよ? 親しい仲は抱き締めあってもいいのですよーって」

「あれは、とも……わたくしの幼馴染の受け売りでして。わたくしも幼い頃からそう教わってきたので、てっきり女の子同士のお友達ならそういう事が当たり前だと思っていたのですけれど……違いますの?」

「うーん……少なくともあたしは例え友達同士でもあまり抱きついたりしなかったかなー……」

「まあ! そうなのですか……!」


 驚きを隠せない紅玉に藍華が呆れたように言う。


「その幼馴染が極論過ぎるわよ。紅は少し人を疑った方がいいわよ」

「まあまあ。人それぞれだし、海外の人はもっとスキンシップ激しいとも聞くし」


 そう話をまとめた慧斗はパンと手を叩くとニッコリと笑った。


「んじゃ、この話はこの辺でおしまいってことで、女子会っぽいことしようか!」

「女子会っぽい事、とは?」

「当然! 恋バナでしょっ! 一度やってみたかったんだーっ!」

「恋バナねぇ~……」

「雛ちゃんは好きな人とかいないの?」

「う~ん……話だけなら友達からそれなりに聞いたことはあるけど、あたし自身は残念だけど、恋よりも、明日の食事! 生活費! 働かざる者食うべからず! という極貧生活を送ってきていたから、そういう類いの話に一切縁がないわ……」

「そ、そう……」


 雛菊の貧乏っぷりはどうやら慧斗の想像の遥か上を行くらしい。


 自分では面白い話題を提供できそうにないので、雛菊は向かいに座っていた焔を見てある事を思い出した。


「焔さんは? 幽吾さんと仲良しなんでしょ?」

「……は?」

「ひっ!?」


 低い声と共に焔の身体の内側で怒りの火焔が静かに暴れ、熱を放ち始めたので、雛菊は恐怖に思わず藍華にしがみついてしまう。


「幽吾……幽吾……あの根っから根性腐りに腐った骨の髄まで悪意の塊でしかないあのろくでもない男と私が……?」

「ひっ、ひえええっ!」


 熱が更に増した時、焔の隣に座っていた紅玉が動いた。


「あらあら、焔ちゃん。可愛いお顔が台無しですわよ。はい、あーん」


 焔の口の中に菓子を放り込んだ。すると、焔はモグモグと咀嚼し大人しくなった。

 どうやらお気に召したらしい。


 雛菊は思わずほっと息を吐いた。


 それでも尚、「恋バナ」は続く。


「じゃあ、藍ちゃんは?」

「私は神子よ。恋とかそんなのに構っていられないわ」

「真面目だなぁ」


 慧斗は思わず苦笑してしまう。


(……でも、紅への片思いは実っていないと)


 そうは思っても雛菊は絶対に口にしなかった。

 口は災いの元……二の舞はごめんなのである。


「そう言う慧斗はどうなのよ? そもそも好きな人とかいるわけ?」

「うん、いるよー」

「えっ!」

「えっ!?」

「ええっ!?」

「「「だっ、誰!?」」」


 先程まで全然盛り上がっていなかったのに、三人とも物凄い食い付きである。


「えへへっ、なーいしょっ!」

「何それっ!?」

「白状しなさいよ!」

「ずるいぞ!」

(なんだかんだ言って皆さん、女の子ですわねぇ、ふふふっ)


 紅玉が微笑ましげに見守っていると――。


「私のことより、やっぱり気になるのは紅ちゃんの方でしょ!」

「へ? わたくし?」

「そりゃあ! 本日のメインイベントだよ! 蘇芳さんとの仲について!」

「っ!?」


 流れ弾が自分に飛んできて、目を白黒させてしまった。


「あ、それ、あたしも気になる」

「私もだ」

「あんた達、最近どうなのよ?」

「まっまっまっ、待ってくださいまし! な、何故、わたくしと蘇芳様なのですか!?」

「そりゃあ、紅ちゃんの好きな人が蘇芳さんだから」

「へっ!?」

「研修の時からずっと気づいていたし気になっていたのよねー」

「ふえっ!?」

「すみません、紅玉先輩……私も研修の時からずっと気になっていました」

「ええええ……!?」


 次々と語られていく内容に紅玉は絶句した。

 慧斗に蘇芳への想いが筒抜けになっている事もそうだが、焔やつい二ヶ月程前に出会ったばかりの雛菊にまで露見している事に戸惑いが隠せない。


(な、何て言うことでしょう!? 晶ちゃんや金剛様にだけでなくあらゆる方にわたくしの想いが公に……!? おかしいです! 一体どこで知られてしまったのでしょう!?)


「言っておくけど、あんた達見ていたら言わずとも一目瞭然だから」

「う、うそ……!」

「ほんと」

「まじ」


 止めを刺された紅玉は恥ずかしさのあまり顔が林檎のように真っ赤になってしまう。


「ちっ、違います! わ、わたくしはただ一方的に蘇芳様を想っているだけです! 蘇芳様にはちゃんと想い人が!」

「いやそれどう考えても紅でしょ」

「違いますわ!!」

「いや紅以外に考えられないわよ」


 藍華の断言に慧斗も雛菊も激しく頷く。

 更に動揺する紅玉に焔が追い討ちをかける。


「だって……紅玉先輩、前の警備部部長のせいで意識失って目を覚ました時、激しく安堵した蘇芳さんに抱き締められたと聞いた」

「ひゅー! 情熱的!」

「あ、あれは、蘇芳様が大変心配していらして……!」

「いや、心配したからって言って、抱き締めるまではしないでしょ、普通」

「へっ!?」


 雛菊もまた追い討ちをかけるように言う。


「あたしなんて……二人で手を繋いで買い物に出掛けているところを見たわよ」

「あ、あれは、わたくしがはぐれないようにと蘇芳様が気を遣ってくださって……!」

「いやだからって手を繋ぐまではしないでしょ、普通」

「ええええ!?」


 そして、慧斗が止めを刺す。


「私なんて蘇芳さんが紅ちゃんをお姫様抱っこして連れて帰っているところ見たよー」

「……あんた達、実は隠れて付き合ってるでしょ」

「付き合っていません! 誤解です! あれは、わたくしがうっかり睡眠不足で眠ってしまったから……!」

「ちょっと……男の人が傍にいて寝るって……」


 紅玉の無防備さに藍華は呆れ果ててしまう。


「それは蘇芳様だからです! あの方は変な事は一切しないと信用していますし、わたくしだって蘇芳様以外の方の前では隙を見せるなどそんな事絶対しませんわ!」


 紅玉の性質の悪さが悉く発揮される台詞に全員頭を抱えた。


 これで付き合っていないと言い張るのだから、驚きを通り越して最早確信犯なのではと錯覚してしまう程だ。


 ニヤニヤしながら慧斗が解説するように言う。


「それってすごーく蘇芳さんのこと信頼しているってことだよね? んでもって、蘇芳さんもものすごーく紅ちゃんを大切にしているってことだよね?」

「はい! そうです! 蘇芳様はとても尊敬できる素晴らしい先輩なのです!」

「いやそうだけど、そうじゃなくて、それは蘇芳さんが紅ちゃんの事を好きだってことだよ」

「何故そうなるのですっ!?」


 慧斗の不意討ちに紅玉は大混乱だ。


 すると、突如雛菊が立ち上がった。


「紅! いい!? 男は狼なのよ!!」

「お、おおかみ?」

「そう! 所詮男なんて欲望の塊! メンタルはただのガキ! 己の欲を満たすためなら好きでもない女の子にだって平気で手を出しちゃうような生き物なのよ! 紫さん見てみなさいよ! あれは典型的な男の欲望の塊よ!」

「は、はい……」


 実にわかりやすい実例が身近にいた。

 そして、雛菊は友人達から話を聞いていたと自称するだけあってかなりに耳年増らしい。


「中にはそりゃ誠実な男の人もいるけどね。でも、目の前にご馳走出されて手を出さない人はよっぽどの理性者か本当に好きな女の子に対してできることなの!」

「す、すきな、おんなのこ……!?」


 顔を真っ赤にさせた紅玉に慧斗と藍華が身を乗り出して言った。


「そうだよ、紅ちゃん! 二人は両想いなのだー!」

「諦めなさい。反論なんてさせないわよ」

「そ、そんなはずは……!」

「……紅玉先輩」


 焔が静かに首を横に振った。


「潔く認めてください」


 焔にまでぴしゃりとそう言われ、紅玉は目の前がぐるぐる回り始める。


 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……。


「のっのっのっ、のどが渇きました! 頂きますっ!」


 紅玉が咄嗟に掴んだそれは、雛菊の大和酒だった。


「あ! それ! あたしの!」


 雛菊の声も虚しく、紅玉はそれを一口呷って、そして――……。




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