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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第三章
160/346

見舞い




 紅玉と蘇芳が卯の門広場にある神域医務部総合病院へ向かうと、すぐさま焔が出迎えてくれた。


「紅玉先輩!」

「焔ちゃん、お疲れ様です」

「丁度良かった……実は先程、冬麻さんが意識を取り戻しました」


 焔の言葉に紅玉は驚きつつもようやっと安心できた。


「よかったです……っ!」

「幸い内臓への損傷が少なかったのが大きいかと。今はもうすっかり元気で会話もできます。外傷ももう塞がって、骨折もほぼ治療してしまったので、明日には退院できると思います」


 焔の説明に紅玉も蘇芳も驚いてしまう。

 何せ冬麻は本当に重症だったのだ。大きな裂傷に大量の出血に骨折――医務部の治療もあってのこの驚異的回復なのだろうが、何よりも応急処置で使用した焔の薬が何よりも大きかったのだろうと蘇芳は思う。目の前で焔の薬の効果を目の当たりにしているのだから。


 しかし、その一方で焔は浮かない顔をした。


「……ですが……すみません……私の技量不足で背中の傷痕が残ってしまって……」

「っ!!」


 焔の言葉に紅玉は息を呑むしかなかった。


 一命を取り留めたものの、背中に傷痕……それも未婚の女性の……。


 紅玉は少し言葉に詰まるが、努めて優しい声で焔に言う。


「いえ、焔ちゃんは全力を尽くしてくれました。本当にありがとうございます」


 そう言わなければ力を尽くしてくれた焔にも神域医務部にも失礼だ。それに治療が遅れていれば、もっと酷い傷痕が残っているどころか、命だって危うかったのだから。


 しかし、原因が自分であることには変わりはない――紅玉の心は沈んでいく。


 そんな紅玉の心情を察して、蘇芳が優しく背中を叩く。

 ハッとして顔を上げれば、蘇芳が己を叱りつけるような目で見つめており、前を見れば焔が心配そうな表情をしていた。


(……しっかりしなくては!)


 紅玉は心の中で己を鼓舞すると焔に言った。


「冬麻様には面会できますか?」

「大丈夫です。こちらへ」


 焔の先導で、紅玉と蘇芳は病院の入院病棟へと向かう。




 やがて辿り着いたのは個室の病室だった。

 焔が扉を叩き、「失礼します」と一言かけながら一緒に中に入れば、寝台の上で点滴に繋がれている冬麻がこちらを見て驚いた表情をしていた。


「あなたは……!」

「冬麻さんを心配してお見舞いに来てくださいました。紅玉先輩、すみません。私は一旦失礼します」

「ありがとうございます、焔ちゃん」


 焔は一礼をすると、病室から出ていった。


 そうして残った紅玉と蘇芳、そして冬麻は向かい合う。


「先程はご挨拶する余裕も無かったので、今ここで改めてご挨拶させて頂きます。十の御社神子補佐役の紅玉と申します」

「同じく神子護衛役の蘇芳と申します」

「……知っています……あなたは有名人だから」


 冬麻が言い淀んでそう言うものだから、恐らく悪い意味で知っているのだろうと紅玉は思う。

 周囲の人達があまりに優しい人達ばかりだから紅玉自身うっかり忘れそうになるが、〈能無し〉の紅玉を快く思わない職員の方が圧倒的に多いのだ。

 冬麻の言葉に蘇芳は思わず眉を顰めていた。


「冬麻様、お身体の具合は?」

「痛みもないし、身体もしっかり動きますし、傷ももう塞がっているそうです。痛みもないので明日には退院できると、先程先生から」

「良かったです……」

「あなたもご無事で何よりです」


 冬麻の言葉に紅玉は申し訳なさが込み上げてきてしまう。


「……申し訳ありません。わたくしを庇ってくれた為に……貴女に酷い怪我を……傷が……」

「……いいえ、これはきっと私への罰です。神子様のために何もしなかった私への」

「そんなことありません! 冬麻様は十分すぎるほど尽力されておりました。責任はありませんわ!」

「いいえ……今更後悔してももう遅いですが……私にはもっとやれることがあったはずです。例えば岩源と兎乃原の悪口も気にせずもっと叱るべきだったとか、職務放棄をしている事を二人の直属の上司に進言するとか、嫌われてもいいから神子をもっと叱りつけるべきだったとか、直属の自分の上司に相談するとか……考えはしたんですけどね」


 実際には行動は起こさなかったという。


「何故、です?」

「諦めてしまったんです。あの御社の人達が変わる事を」

「っ……!」

「幸い私一人でも何とかできたので、今後も一人でやれると思ったし、多少雑でも私一人で業務をやっているんだから多少は仕方ないと自分を甘やかしてしまった。そのくせプライドだけは高くて……人に頼ることを嫌った……研修生の彼やあなたに頼らずとも……〈能無し〉なんかに頼らなくても私はできる……そう思ってしまった」


 〈能無し〉なんかに――と聞いた瞬間、蘇芳は無意識に一瞬威圧を強めてしまう。

 それに気付いた冬麻は苦笑いをしていた。


「でも、結局はそれが悲劇を招く結果になってしまった。だから、二十の御社の件も、私の背中の傷痕も、全部私の責任です。自分を責めないでください。あなたは抱え込んでしまう人だから」

「え……?」

「言ったでしょう? あなたは有名人だって」

「…………」


 目をパチクリとさせている紅玉を見て、冬麻はふっと笑う。そして、真剣な表情になると言った。


「私は三年前のあの悲劇を知っているから……知っているからこそ、もっと厳しく躾なければならなかったのに……」


 三年前の悲劇――「藤の神子乱心事件」では本当に多くの者達の命が失われた。


 切なげに瞳を伏せている冬麻を見つめながら――彼女もまた、大切な誰か人を亡くしたのだろうか――と紅玉は思う。


「ところで百合様が神子を解任させられたと聞きました。解任後はどうなるんですか?」


 冬麻の質問に紅玉は正直に答える。


「百合様は現世へ帰られます。そこで待ち受けているのは厳しい日々でしょう」

「……そうでしょうね」


 冬麻が表情を暗くする。


「ですが、ご安心ください。信頼できる方に百合様の事をお願いするよう手配しております」

「信頼できる方……?」

「わたくしの知り合いで都会から離れた地方にお住まいの方です。生活は自給自足に近いので今よりずっと厳しい生活になると思います。決して楽な日々ではないとは思いますが、世間の目からは逃れられるかと思います。その先は……百合様自身の努力次第です」

「…………そう、ですね」


 神子という甘やかされた生活を送っていた百合にとっては果てしなく厳しい生活になるだろうが、それでも誹謗中傷の渦へ放り込まれ好奇の目に晒されるよりはずっとマシであろう。

 百合の行く末に冬麻はほっとした安堵した。


「……ありがとうございました」


 その言葉は本当に自然と出てきた。

 百合が冬麻に酷い扱いをしてきた事は無い。むしろ彼女は冬麻の事をなんとでも思ってもいなかった。きっとただの召し使いのように思っていたのだろう。

 しかし、それでも冬麻にとっては使えるべき神子で、素行は多少問題があってもそれでも……冬麻にとっては憧れの神子だった。

 ふわふわと砂糖菓子のように可愛らしい神子。

 こんな素敵な神子に仕えて、立派に育てていけたらどんなに誇らしいか……そう思い、辛い日々も頑張れていた気がする。

 だから、神子剥奪された百合に温情をかけてくれた事に感謝の言葉が自然と出てきたのだった。


 そして、そんな冬麻を見て紅玉はある確信を胸にしていた。


「冬麻さん、百合様の教育指導をされたのは貴女ですか?」

「いいえ、違います」

(やっぱり……!)


 あんな仕打ちを受けていながら百合の将来を心配する冬麻が、百合の教育を怠るはずがない――紅玉はそう思った。


「実は、私が神子補佐役として就任したのはこの一年ちょっとくらいの話でして……」


 結構最近の話である事に思わず目を剥く。


「では、百合様に教育をされたのは前任の神子補佐役という事ですか?」

「えっと……多分、恐らく……」


 ハッキリとしない冬麻の返事に蘇芳は思わず眉を顰める。


「歯切れが悪いな」

「すみません……というのも、百合様が就任されたあの当時は『藤の神子乱心事件』の後処理や『二十一と二十二の神子の争乱』もあって、神子管理部の……特に巽区が慌ただしかったから、当初専属の神子補佐役を就けていなかったそうなんです。私の前任の補佐役が就いたのはそれから随分後だったと聞いています」


 冬麻の言葉で紅玉はハッとなって思い出した。

 百合は水晶と同時期に選ばれた神子であった事を。


 当時、紅玉も十の神子として就任したばかりの水晶を守ることに必死で、朔月隊としても働き始めたばかりで非常に忙しかったが、神域全体で見てもあの当時は「藤の神子乱心事件」直後で混乱状態に陥っていた。

 特に神子管理部巽区は「藤の神子乱心事件」に加え、その直後に二十一の神子と二十二の神子が諍いを起こした挙句、二十一の神子は消滅し、二十二の神子が死亡するという事件まで起きた。

 あの当時、神子管理部の巽区は事件続きでとにかく忙しく、坤区の神子管理部も主任の引き抜き異動があったばかりで圧倒的人員不足であった。艮区と乾区の主任が巽区と坤区の補助に奔走していた事も紅玉は思い出す。


 しかし、まさか専属の神子補佐役が就けられない程、人員不足に陥っていたとは思わなかった。

 そして、冬麻の口振りを聞いていると――……。


「……もしや冬麻さん、当時巽区配属ではなかったのですか?」

「はい。私は乾区の参道町配属でした。巽区の人員があまりに不足していたので人員補充の為に巽区に異動になったんです」

「なるほど……」

「でも、私の前の神子補佐役は確か元々巽区の職員だったはずです。今はもう退職してしまいましたが……」

「退職されたのですか……!」

「実は、私が神子補佐役に就任する直前にお辞めになってしまって、顔も合わせた事が無いんです」

「なんとまあ……!」


 つまり前任者からの申し送りも何も無しに冬麻は神子補佐役に就任したという事になる。


(何やら酷い話ですわね……)


 いくら過去が忙殺される日々だったからとしても、詰めが甘過ぎる上に管理が杜撰では目も当てられない。


「念の為伺いますが、前任の神子補佐役の名前はわかりますか?」

「はい。夏希さんです」

「ありがとうございます」


 新しい情報を仕入れたところで次の目的地は決まった。幸いこの病院から程近い場所にある場所だ。


 すると、扉が叩かれる音が響き、入ってきたのは焔だった。


「失礼します。あの、紅玉先輩……」

「?」


 焔に呼ばれるまま、扉の外を覗くと――。


「この方が訪ねてきたのですが……」

「まあ! 真鶴様!」

「お疲れ様です、紅玉さん」


 そこにいたのは乗合馬車の美月の先輩こと真鶴であった。

 真鶴が訪ねてきた理由を紅玉は察し、咄嗟に口にしていた。


「あの、美月ちゃんの件ですよね? 申し訳ありません。天海さんから連絡を差し上げているはずなのですが……」

「ああ大丈夫ですよ。美月の件は話を聞いています。なんか大変だったみたいですね」

「馬車課の皆様のお仕事にご負担をかけてしまい、申し訳ありません」

「いやいや、それはお互い様ですよ。紅玉さんも災難でしたね。何より全員が無事で何よりです」

「お気遣い痛み入ります」


 そこまで話して紅玉は首を傾げる。では、何故真鶴はここに……?


「ところで、ここに二十の御社の冬麻さんが入院していると聞いて、面会に来たんですけれど……」

「あ、それで……!」


 真鶴の言葉で紅玉は思い出す。真鶴は郵便課時代、冬麻と顔見知りの仲だったと。


 律儀な人だなぁと思いつつ、紅玉は真鶴を中へと案内する。

 そして、真鶴の顔を見た瞬間、冬麻はハッとなった。


「あなたは郵便課の真鶴さん!」

「あ、俺の事覚えていてくれたんですね」

「はい、勿論です。同期ですし、毎朝に挨拶して頂きありがたかったですから」

「それなら俺も嬉しいな。今は郵便課がなくなったから乗合馬車課にいるんですよ」

「そう言えばそうでしたね。どこに異動したのかなとは思っていたのですが……」

「……怪我をしたと聞きました。大丈夫?」

「はい。ご心配頂きありがとうございます」


 顔見知りにしては軽快なやり取りに紅玉は「おや?」と思う。

 そして、冬麻を見る真鶴の眼差しを見て――紅玉は全てを察した。


 真鶴が何故冬麻をわざわざ訪ねて来たのかを。


「……真鶴様、念の為お伝えしますが、彼女は病み上がりです。絶対安静ですよ」

「はいはい。わかっていますよ」


 笑顔でヒラヒラと手を振る真鶴に、紅玉は少し呆れつつも、紅玉は頭を下げた。


「冬麻さん、どうぞお大事にしてくださいまし。さ、蘇芳様、焔ちゃん、行きますよ」

「えっ?」

「えっ?」

「べ、紅殿?」


 混乱している冬麻を置いて、紅玉は蘇芳と焔の背中を押しながら病室を後にした。


 病室を出てから焔が困惑しながら言う。


「こ、紅玉先輩、あの二人を残したままでよかったのですか?」

「まあ……大丈夫だとは思います。それより心配なのは、冬麻さんに男性の免疫あるかどうかなのですが……なかなかお腹の底がよく見えない方のようでしたので」

「免疫……?」

「お腹の底……?」


 紅玉の言葉に理解が追い付いていなかった蘇芳と焔だったが、その意味を察しハッとなる。焔に至っては少々顔が赤い。


「焔ちゃん、すみませんが、あの二人の事、よろしくお願いします」

「は、はい……」


 焔は正直自分には荷が重いと思ってしまったが、真面目故に断る事など出来なかった。


「それでは、わたくし達はこれで。また後程連絡が来ると思いますのでよろしくお願いします」

「……仰せのままに」


 焔から背を向けて歩き出しながら紅玉は思い出す。


 真鶴が冬麻に向けていたあの優しい眼差しを――二十の御社で孤独に奮闘していた冬麻を、ずっと気にかけていてくれた存在を――。


(……今度はあの方が傍にいてくれるから……きっともう大丈夫)


 思わず涙が込み上げてきそうになるが、堪えた。

 そして、たった一人でも傍に寄り添ってくれる存在がどんなにありがたいか、紅玉は改めて思う。


 紅玉は隣にいる身体の大きなその人物を見上げた。

 蘇芳はじっと紅玉を心配そうに見つめており、紅玉はパッと視線を逸らしてしまう。


(いっ、いつから見ていらしたのかしら、この人……!)


 紅玉は気付いていないが、蘇芳はもうずっと紅玉を見つめている。とても心配そうに。


「紅殿、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です……!」


 今度は涙を堪えるより、頬が火照るのを抑えるのに必死だ。

 紅玉は一度大きく深呼吸をする。


「さあ次へ参りましょう」


 紅玉は次の目的地へ歩き出し、蘇芳はその隣を並んで歩いた。





<おまけ:真鶴と冬麻、そして焔>


「は……? 今なんて?」

「だから、君の事が好きです。俺と付き合ってもらえませんか?」


 真鶴の爆弾発言に冬麻は心臓が止まるかと思った。せっかく塞がった傷口から出血してしまうのではないかと思う程、血圧が上昇しているのも感じる。まあ傷口は完璧にふさがっているのでありえないが……。

 それほどまでに冬麻は混乱していた。


「な、何でわたわた、私?」

「う~~ん、そうですね~……郵便課時代に君としょっちゅう話すようになって、いつも頑張っているなぁとか、いつも挨拶してくれるから嬉しいなぁとか、今日は笑顔が可愛かったなぁとか、今日はお疲れだなぁとか思っている内に、いつの間にか、です」

「だ、で、わたっ……」


 真鶴の真っ直ぐ過ぎる告白に冬麻はオロオロしきりだ。しかし、純粋に嬉しいのだ。

 御社では一切褒められた事のない努力を褒められた事だとか、些細な事で嬉しいと感じていたのは自分も同じだったとか、自分の小さな変化に気付いてくれる存在がいた事に、嬉しくて堪らない。


「二十の御社に邪神が現われて君が怪我をしたって聞いて、居ても立ってもいられなくなって、同期に仕事押し付けて午後休貰ってしまったくらいには本気です」

「えっ!?」


 またもや降り注ぐ真鶴の爆弾発言に冬麻は目を剥くしかない。たかがそんな事で休みを貰うだなんて――。


「だっ、駄目でしょう!?」

「はい。きっと怒られるだろうと思って、今遅めの昼休みです」


 悪びれる様子もなくニコニコと微笑みながらさらっと言う真鶴に冬麻は一気に身体の力が抜けてしまう。

 しかし、貴重な昼休みを自分の為に割いてくれた事も嬉しくて堪らない。


 冬麻の中で答えがカチリと填る音がした。


「わ、私……そんなに美人じゃないですよ?」

「そうかな? 可愛いと思うよ」

「足も腕も太めですよ」

「抱き心地良さそう。それに俺一応男だからそんな些細な事気にしなくていいよ」

「た、多分、今回の件で降格処分になるから、肩身狭くなるだろうし……」

「その時は俺が養ってあげる」

「せ、背中に傷が……」

「名誉の負傷でしょ。それ含めて、全部好きだよ」

「……っ!」


 真鶴の言葉に冬麻は翻弄されていく。顔が熱く、心臓は高鳴る。しかし、決して嫌ではない。むしろ嬉しさと喜びでいっぱいだ。


「ごめんね。あまり急かしたくはないんだけど、昼休み終わっちゃうから、返事が欲しいな」


 いつの間にか敬語が抜けて、ニコニコと顔を近づけて微笑んでくる真鶴に、冬麻はもう降参するしかなかった。


「わ、私も……あなたとお付き合い、したい、です」

「よかったぁっ! 嬉しいっ!」


 真鶴の弾けるような笑顔に、冬麻もつられて微笑んでしまう。


「あ、やっぱり笑った顔の方が可愛い」


 そう言って、真鶴は顔を近づけて――。




 ちゅっ――。




「っ!!??」


 唇に触れるその熱に感触に、冬麻は思考が停止する。ゆっくりと離れていく真鶴の瞳に捕らえられてしまう。

 そして、真鶴はそんな冬麻に見せつけるように己の唇をペロッと舐めた。


 冬麻の身体の熱が更に上がる。


「それじゃあね、冬麻。また来るよ」


 真鶴は良い笑顔でヒラヒラと手を振りながら、病室を後にした。

 冬麻は真っ赤なままで呆然としたまま真鶴を見送ったが、真鶴が出て言った瞬間、寝台の上に倒れて気を失ってしまった。




 その後、様子を見に来た焔が冬麻の顔が著しく赤い事に気付き検温したところ、熱が異常に高かったので、結局翌日の退院は延期になった。


 回復は順調だったのに……と、首を捻る医師達の一方、焔は冬麻の高熱の原因を察していた。

 紅玉に頼まれていたにも関わらず、真鶴の暴走を止められなかった自分を恥じ、また同時に病室で行なわれたかもしれない男女のあれやこれやを想像し、別の意味の恥ずかしさで、拳で机を叩きまくる奇行を繰り返す焔が病院内で見られたそうだ。


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