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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第三章
159/346

再捜査へ




 空はゆっくりと意識を浮上させた。目を開けると、そこには見慣れた天井が広がっていた。


(あれ……俺……)

「っ――空!」


 天井の次に現れたのは、父である蒼石の顔だった。その顔は珍しく切羽詰まった表情で、ああ心配させてしまったのだなと、空は思う。

 空はゆっくりと起き上がる。痛いところも無ければ、身体がふらつく感覚ももうなかった。

 蒼石はほっとした表情になると、空の頭と頬を撫でた。


「まったく……心配をさせおって」

「おとう、さん……俺……」

「……安心しろ。お主の姿も、鞠殿の真の姿も、朔月隊と十の御社以外の者にも見られてはおらん。お主の秘密は守られている」

「…………ごめんなさい」


 あの時は必死だった――紅玉を守る為に。

 覚悟の上だった。例え秘密が公になって、蒼石との別れになっても、それでも――。


「先輩を……大事な人をもう亡くすのは嫌だったっす……」


 思い出すのは、血塗れになって冷たくなった母の姿――あんな思いはもう嫌だった。

 蒼石も空の気持ちを知ってか、それ以上なにも追及はしなかった。


 しかし――。


「空、忘れるな。お主は我の息子で、眷属だ」


 そう言って蒼石は空の額に己のそれを重ねる。


「例えお主の正体が公になろうとも、我はお主を決して手放さぬ。何処へ連れて行かれようとも、必ず我がお主を迎えに行く。無茶をしない程度に守りたいものを思う存分守るがよい」

「お父さん……!」


 父の言葉が嬉しくて空は笑った。


「ありがとっす! お父さん」


 愛おしい息子の笑顔に蒼石は微笑むと、空の頭を撫でて、その髪に口付けた。


 それから空は蒼石から渡された紫特製蜂蜜檸檬水を一気に飲み干してしまった。

 どうやら神力はまだまだ回復しきっていないようだ。


「お父さん、俺、どれくらい寝ていたっすか?」

「六時間程だぞ。今は茶の時間だ」

(そ、そんなに寝ていたっすか……俺)


 少し愕然としながら、蜂蜜漬けになっている檸檬も頬張る。檸檬の酸味と蜂蜜の甘さが身体に沁み渡り、神力がどんどん回復していくのが分かった。


 すると、突如部屋の扉が開いて人が飛び込んできた。


「ソラッ!」

「鞠ちゃん!」


 未だ寝台の上にいる空に鞠が飛び付いてきたので、空はしっかりと受け止める。


「ソラ! Are you all right!? ヨカッタよー!」

「鞠ちゃんも大丈夫っすか? 具合とか」

「マリはNo problemデース!」

「よかったっすぅっ!」


 ぎゅうぎゅうと抱き締め合う二人を蒼石が微笑ましく見守る。

 ふと鞠の装いが寝巻きである事に気付く。鞠も起きたばかりなのだろうと思っていると――。


「こら! 鞠! 寝巻きのままで男の子の部屋に立ち入るなんて破廉恥ですわっ!」


 そう怒りながら入ってきたのは、楽器組の女神のつるだった。


 一方で鞠は気にした様子も無く、ニコニコ笑っている。


「ツルさーん、No problemデース!」

「問題ありですわっ!」

「まあまあ、つるさん。俺と鞠ちゃんは兄妹っすから」

「そういう問題じゃありませんわっ!」


 つるがそう叫んだ瞬間、遠くから――。




「そういう問題ではないっ!!」




 ――という似たような台詞が聞こえてきたので、空と鞠だけでなく、言った張本人のつるも目をパチクリとさせてしまう。

 一方で蒼石はその声の主が誰にそう言っているのか察した。


「どうやら紅玉殿が帰ってきたようだな」

「先輩?」

「ベニちゃん?」


 空と鞠は寝台から降りると、言い争っているような声が聞こえる方へ向かった。




**********




 十の御社の門をくぐりながら、紅玉は今までの事を思い返す――。


 中央本部では大分梃子摺ってしまったものの、現世と連絡は思ったよりも早く取れたので、十の御社に早めに戻る事ができた。とりあえず百合の今後の処遇については解決しただろうと紅玉は思う。


(あとは百合様のお気持ち次第ですが……)


 右京と左京に抱えられるように運ばれた百合は絶望に満ちた表情をしていた。

 現実を教示する薬は彼女にはあまりにも劇薬だったようだ。


 そんな事を考えながら、十の御社の屋敷に入ると、玄関前広間にその三人はいた。

 右京と左京と天海の朔月隊の仲間が。


「只今戻りました」

「紅玉先輩……!」

「「紅様、おかえりなさいませ」」


 三人は何か話をしていたようだが、紅玉の姿を見ると一斉に紅玉を振り返った。


「三人とも、御社の留守番を預かって頂きありがとうございました」

「いや……こちらこそ美月が……」

「それに留守を預かっていたと言っても、ほとんど十の御社の皆々様が手伝ってくださったので、僕らは何も」

「空君も鞠ちゃんも美月ちゃんもぐっすり眠っております。水晶様も今は落ち着いて眠っておいでだそうです」

「そうですか……よかったです」


 紅玉はほっと息を吐く。水晶達の事は任せてしまっていたが、やっぱり心の奥底では心配で堪らなかったのだ。


 すると、右京が首を傾げて尋ねる。


「紅様、お戻りまでに随分とお時間がかかっていたようですが、何かあったのですか?」

「元神子様……百合様の今後の処遇についての権限を得るのに少々時間がかかってしまいまして。でも、まあ幽吾さんのご助力も頂き、なんとか彼女の処遇をわたくしが一任する事になりました」


 幽吾の助力(脅し)については割愛をした。


 紅玉の言葉に天海は目を剥く。


「紅玉先輩、そんな面倒な事を引き受けてしまって大丈夫なのか?」

「ええ、問題はございませんわ」


 天海は単純に紅玉の事を心配したのだろう。しかし、紅玉はなんとしてでも百合の権限を得なければならなかった。

 落魄れてしまったとはいえ、元神子であることには変わりなく、挙句あれほどの可愛らしい容姿の女性だ。


(後味悪い結果では、空さんが悲しみますからね……)


 中央本部にお願いして(脅しをかけて)くれた幽吾には本当に頭が上がらないと紅玉は思う。


「その後、あちこちにいろいろ連絡を取っていたものですからこんな時間になってしまってすみません。幽吾さんからはまだ連絡はありませんよね?」

「はい。その代わり轟様からは連絡がありました。冬麻様の命に別状はないそうです。傷も癒えたのであとは意識だけだと。轟様も焔様もまだ病院におられるそうです」

「そうですか……」


 左京からの報告に紅玉はほっとしながらも、冬麻の意識が戻っていない事が気になってしまう。


「元神子様なのですが、正直に言って話がまともにできる状態ではありません。食事も水分も取らずに、完全に心を閉ざしてしまっております」

「……でしょうね」


 右京からの報告には頷くしかなかった。

 神子剥奪に、目の前で起きた惨劇――。

 紅玉だってあの光景はあまりに衝撃的過ぎるものだったが、百合にとってはそれ以上だろう。


「……ですが、彼女には聞きたい事がたくさんあります。酷ですが心を鬼にしましょう。さあ、三人とも働いて頂きますわよ」

「紅玉先輩……!」

「ではやはり」

「動くのですね?」


 三人ににっこりと微笑みながら紅玉は言う。


「当然です。今回の事件、何か裏があります。七の神子様が来る前にわたくしが言いかけた事を覚えていますか?」


 双子は「はい」と頷いた。

 そして、紅玉ははっきりと言った。


「神子への教育があまりに杜撰過ぎるのです。神子が、過去の神子の死亡に関わる事件を知らないだなんて言語道断なのです。神子様の命に関わる大事な伝達事項です。神子補佐役からしっかり教わる事になっているはずなのです。邪神の浄化を拒否した件だって、正直あり得ません」


 実際紅玉も、水晶の神子補佐役に就任した時に神子死亡事件に関するものは全て教えた。途中で水晶が居眠りをするので怒鳴りながらやった記憶だ。

 邪神の浄化に関しては、意外と真面目に取り組んでいたので全く心配なかったが。


「確かに……あの元神子様、あまりにも神域の常識に無知でした」


 右京が納得したように頷く。


「神子だけではありません。神子護衛役も生活管理部の堕落ぶりも少々異常です。岩源と兎乃原は『三年前の悲劇』を知らない世代ですから、教育を必要以上にしっかり受けなければならないというのに……」

「なるほど……仰るとおりですね」


 左京も納得したように頷く。


 「三年前の悲劇」――すなわち「藤の神子乱心事件」の事だ。

 新入職員――特に神子の身辺を警護する神子管理部や神域警備部――には「三年前の悲劇」について研修時に重々に教える事になっている。


 紅玉も雛菊に「三年前の悲劇」について真剣に尚且つ丁寧に教えた。当時まだ生活管理部であった雛菊の顔が涙目で真っ青になる程、辛く残酷な話をしたというのに……。


「神子を守るべき御社職員が職務放棄をして真っ先に逃げ出すだなんて言語道断です。挙句、言い訳に責任転嫁までしようとして無責任にも程があります。一体どういう教育をされてきたのか調べるべきです」

「俺もそう思います」


 天海は実質岩源と兎乃原と同期に当たり、所謂悲劇を知らない世代だ。だからこそ二人の職務態度や無知さには同期として憤りを感じるものがあるのだろう。真剣な目で頷いていた。


「その件に関してこちらで調査をする事を幽吾さんには報告しておきました。幽吾さん達も岩源と兎乃原から証言を聞き出すそうなので、お互いにある程度情報収集ができたら緊急のツイタチの会を開催することになっております。早速動きましょう」

「「「仰せのままに」」」

「……ですが、その前に……ひより」


 その名を呼んで右手を差し出せば、ひよりが瞬時にやってきて紅玉にそれを渡す――愛用の真っ白な前掛けを。

 紅玉はそれを身に付け、紐をキュッと結ぶ。


「……?」

「……?」

「……?」


 その様子を黙って見ていた三人だったが、天海が堪え切れず尋ねる。


「……あの、紅玉先輩何を?」

「おやつの時間ですからね。皆様のおやつを用意しなくては。今朝、紫様とゼリーを作っておいたのです。蜜柑と桃があるのですが、三人は何かご希望は?」

「「「いえ、特に」」」

「そうですか。では適当に見繕っておきますわね。あらいけない。神子補佐役日誌も今の内に書いておかねば……ひより、書類を持ってきてもらえるかしら……流石速いわね。ありがとう。ああ手作業をしながらのお話しですみませんね」

「「「いえ、別に」」」

「調査の他にも、百合様への聴取もしたいですわね。ああその前に晶ちゃんと空さんと鞠ちゃんと美月ちゃんの様子も一度見たいですし……病院行く余裕はあるかしら……冬麻様の様子も気になります。あ、そうでした。今日の晩ご飯を――」

「紅殿っ!!!!」


 書類を書きながら仕事の話が止まらない紅玉を止めたのは、憤怒の形相の蘇芳だった。

 蘇芳の怒鳴り声に思わず身体をビクつかせた右京と左京と天海だったが、紅玉はキョトンとして蘇芳を見た。


「あら蘇芳様、どうなさったのです?」

「あらではない! また仕事を抱えきれぬ程増やしているな! 無茶をするなといつも言っているだろう!?」

「これはわたくしの仕事です。この神子補佐役日誌は補佐役のわたくしでないとできません。朝放棄してしまったのはわたくし自身ですし、岩源達にも説教した身としては、最後まできちんと自分の仕事を果たす責務がございます」

「ああ……そうだな……いやいやそうではない!」


 うっかり論破されるところであった。


「蘇芳先輩……」

「「頑張ってくださいませ」」


 天海と双子が後ろで密かに応援をする。


「他にも俺ができる仕事があるだろう!? 渡せる仕事は渡せ!」

「そうですね……では、お茶の準備をお願いできますか?」

「それは勿論……」

「わたくし、お菓子の準備をしますわね」

「意味がない!!」

「あら、何故ですの?」

「俺が手伝う意味がなくなる! 茶も菓子も俺が準備する! というより紫殿にさせろ!」

「あら、一人より二人。二人より三人でやった方が早く終わりますわ。以前、蘇芳様がおっしゃっていたではありませんか」

「……うぐっ」


 紅玉は「ふふふっ」と楽しそうに微笑み、蘇芳は眉を顰めて言葉に詰まる。


「蘇芳先輩ぃ……」

「「負けないでくださいませ」」


 天海と双子も負けじと応援をする。


「だっ、第一に俺は怒っているんだ!」


 蘇芳は話題を変えた。

 勝てないから話題を変えた。


「あら、何にでしょう?」

「貴女が七の御社の神に対して言った発言だ! 何故俺を庇って罰を受けるなんて進言した!?」

「あれは神様の冗談だったではありませんか。その話はもうおしまいで、何の問題がございませんわ」

「問題大有りだ! 俺が怒っているのは、貴女が身を挺してまで俺を庇ったことについてだ」


 その一言に紅玉はキョトンとしてしまう。


「……何故ですか?」

「何故って……!」

「蘇芳様はわたくしにとっても、この御社にとっても、大変大切な存在なのです。身を挺して守りたいと思っただけですわ。ですからわたくしはあの時の行動は正しいと思いますし、反省もいたしません。第一に、先に蘇芳様が身を挺してわたくしを庇ってくれたではありませんか。ですからおあいこです」


 にっこりと微笑みながら言い切った紅玉に、蘇芳を一気に顔を赤くさせて俯いてしまう。


「あっ……貴女って人は……っ!」


 もう蘇芳はそれ以上何も言う事ができなくなってしまった。


 事の顛末を見守っていた右京と左京はにこにこと微笑み、天海は照れが写って真っ赤になってしまっていた。


「完全に蘇芳様の負けでございますね」

「さすが先輩っす! 今日も鮮やかっす!」

「互いを想い合う微笑ましいお二方ですね」

「Butベニちゃんとスオーさん、Not loversデース」

「何であの二人はまだ付き合っていないんだ……!?」

「全く以ってその通りだよ~天海く~ん」


 自分達以外の声と言葉も聞こえてきて「おや?」と思った三人が振り返れば、そこには寝間着姿の空と鞠と、おまけで紫と、空と鞠の付添で蒼石もいた。


 空と鞠の存在に気付いた紅玉がハッとする。


「空さん! 鞠ちゃん!」

「先輩!」

「ベニちゃーん!」


 空と鞠は紅玉に駆け寄って抱き付いた。それはまるで忠犬の如く。


「二人とも良かった……! もう身体は大丈夫なのですか?」

「もう元気いっぱいっす!」

「マリもー!」


 二人が元気そうなのを見て紅玉はほっと安心してしまう。

 だけど、二人の身を危険に晒してしまった原因は自分の不注意にある。紅玉は少し俯いて言う。


「ごめんなさい……わたくしが不甲斐ないばかりに、貴方達に無理をさせてしまって……」

「気にしないでください、先輩」

「Don’t mindデース!」

「でも、わたくし……」


 あの時、血を見て冷静さを失った己が情けなくて仕方ない。それで可愛い弟と妹を危険に晒した事にどうしても――。


「先輩、でもとかそんなのナシっす! 俺達はもう、先輩に守られるだけの子どもじゃないっす」

「マリもソラも、ダイジなベニちゃん、マモりたかっただけデース」

「まあ……」


 空と鞠の堂々としたその強い眼差しはあまりに眩し過ぎて、二人の成長が嬉しいやら、何時までも落ち込んでいる自分が情けないやらで――紅玉は思わず困ったように笑ってしまった。


「空さん、鞠ちゃん、ごめんなさい……ありがとう」

「えへへ」

「エヘヘ」


 空と鞠の頭を撫でてやれば、いつのもように嬉しそうに二人は笑う。

 成長はしても、やっぱりいつまでも二人は可愛い弟と妹だと紅玉は思った。


「――さてと」


 後ろで見守っていた蒼石が近付いてきて、空と鞠を一気に両腕で抱え上げてしまったので紅玉は驚いてしまう。

 一方の空と鞠は「わあわあ」と楽しそうである。


「二人はそろそろ着替えろ。まだまだやることも多いのであろう?」

「おっす!」

「Yeah!」


 蒼石の言葉に紅玉はハッとする。そうだ、やる事が山積みなのだと――。


「あっ、先輩! 百合さんからの聴取は俺とうっちゃんとさっちゃんで担当するっすよ!」

「えっ! ですが……」

「役割分担するっすよ。この中で適任なのは、うっちゃんさっちゃんっす」


 空からの提案に紅玉は戸惑いつつ右京と左京を見ると、二人も空同様頷いている。


「「紅様、お任せください」」

「……では、お願いします」


 すると、天海も動く。


「それじゃあ俺と鞠は神域警備部総合詰所に行って、岩源の教育がどうなっていたか調べるぞ」

「Yes sir!」


 蒼石に抱えられている鞠が元気よく敬礼をした。


「だから、先輩は病院に行ってきてくださいっす。本当は冬麻さんの事が心配で仕方ないっすよね?」

「っ!」


 空の言葉に紅玉は息を呑んでしまった。その通りであったから。

 未だに血塗れの冬麻の姿が頭から離れないでいる。


「ベニちゃん、いってきてクダサイ」

「…………はい」


 鞠の言葉に答えた紅玉の声は少し震えていた。

 蘇芳はそんな紅玉が心配で堪らず、見つめてしまう。


 そして、蘇芳は紫の方を向いた。


「紫殿、あの……」

「……うんと、よくわからないけど、御社の事は僕に任せて、蘇芳君は紅ちゃんと一緒に行っておいで」


 紫の言葉に蘇芳は目を剥いてしまう。今まさにそれをお願いしようとしていたのだから。

 しかし、自分から言い出そうとしていたとはいえ、少々気が引けてしまう。ただでさえ、今日は御社の事を朝から紫に任せきりにしてしまっているのだから。


 すると、そんな蘇芳の心情を察したのか紫がハッキリと言う。


「あんな紅ちゃんを一人で見送るつもり?」

「っ!」


 できるわけない。できるわけなかった。

 言葉に詰まった蘇芳を見て、紫はニコッと笑う。


「じゃ、遠慮せず、いってらっしゃい」

「……紫殿、ありがとう」

「いえいえ」




 こうして朔月隊は再び再捜査に動き始めるのだった。





<おまけ:一方その頃の轟君と世流ちゃん>


 轟は幽吾から神獣連絡網で連絡を受けた。朔月隊が再捜査に動くと言う事を。


「わかった。で、具体的に俺様は何をすればいい?」


 神域総合病院を地獄の番犬と後にしながらそう尋ねると、伝令役を介して幽吾が言う。


『メインの捜査は紅ちゃん達に依頼して、僕と文は岩源と兎乃原から証言を絞りさせるだけ絞り取るつもり。おまけでたっぷりお灸も据えてね』


 恐ろしい二人組が組んでしまった……そしてむしろお灸が主だろう……と轟は思う。


『それで轟君にお願いしたいことは世流君に伝達しておいたから遊戯街に行ってね~』

「おっし、わかった」


 そう言うと、轟はすぐさま地獄の番犬に跨り、遊戯街を目指す。




 ものの数分で遊戯街に到着すると、世流が轟に向かって手を振っているのが見えた。近くには鬼神もいた。


「轟く~ん! こっちこっち~!」

「おう! 俺様は何をすればいい?」

「はいっ、これ~!」


 そう世流から渡されたのは、自分が用意した神域警備部の書類だった――二十の御社の。


「あ?」

「岩源と兎乃原がいつからどれくらい仕事サボっていたか明確にしないといけないんですって。だから、轟君は神域警備部の書類をぜ~んぶ確認して、岩源の職務放棄がどれほど酷かったのか調べてねっ!」

「ちょっと待て。この大量の書類を俺様一人でか?」

「大丈夫大丈夫! 鬼神君も手伝ってくれるって言うし、アホ岩源も脳内お花畑神子ちゃん就任の頃からの神子護衛役っぽいから、たった二年ちょいよん」

「たったじゃねぇよっ!」


 轟は思わず怒鳴ってしまった。しかし――。


「ワタシだってねっ! あのアホバカ脳味噌空っぽお似合いアベックがいつから遊戯街の秘密部屋利用したのかとか、どの店の秘密部屋利用したのかとか、過去二年ちょい遡って調べなくちゃいけなくなったのよっ!? 全店よっ! 遊戯街全店舗の秘密部屋よっ!? 一体どれだけの書類を引っくり返さなくちゃいけねぇと思ってんだっ!? ああっ!?」

「……わりぃ」


 世流のあまりの剣幕に、轟は思わず謝ってしまう。


「ああもうっ! あとであのアホのアホを引き千切ってやらないと気が済まないわっ!!」

「お、おい、落ちつけよ」


 まさか自分が宥め役に回るとは轟自身も考えもしなかった。


「そんなわけでワタシ達二人は書類から証拠集める係よ~~ん。一緒に頑張りましょうね~~と・ど・ろ・き・くんっ!」

「…………うっす」


 世流の黒い笑顔に逆らえるわけも無く、轟は大人しく頷くしかなかった。


 そんな轟を見ていた地獄の番犬は「クゥン……」と轟を憐れんで鳴いていた。


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