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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第二章
110/346

魂掌握の禁術




「………………」


 辰登は下を向いたまま黙ってしまった。


「に、いさん……」

「辰登……貴様……そんなにまで蘇芳の事が憎かったのか?」


 砕条の言葉に辰登がピクリと身体を動かす。


「……『そんなにまで蘇芳が憎い』? ……はっ、はははっ……あんたがソレを言いますか? 砕条さん」


 顔を挙げた辰登は砕条をギロリと睨みつける。


「あんたも俺と同じクセによぉっ!!」

「っ!!」


 辰登は憎しみの宿る視線を蘇芳に向ける。


「何が『初代盾の再来』だ!? 何でわざわざ本家の化け物と毎日毎日比較され続け、怒鳴られ続け、馬鹿にされ続けなきゃならない!? ふざけんなっ!!」


 そして、星矢の事を睨みつけ叫ぶ。


「星矢も悪い! 愛人のガキのくせに俺の上を易々と越えていきやがって!! 生意気なんだよぉっ!! どうせその容姿で上層部のばばあを誑かしたんだろ!?」

「星矢を侮辱するな!!」


 そう叫んだのは砕条だった。


「こいつは昔から苦労していた! 貴様らに傷つけられいつも泣いていた! だがそれでも負けずに頑張り、腐らずに努力し前を向き、今この地位についている! プライドを捨て、比較対象であり憎き存在の蘇芳に教えを乞いながら、ひたむきに努力してきたんだ! 俺には……できなかった事だ……」

「砕条……」


 砕条はギッと辰登を睨みつけると言った。


「大した努力もせず、自分はできると言い張って、最後は禁忌にまで手を出しながら、星矢に負けている時点で、貴様に偉そうに文句を言う資格などない!」

「っざけんなっ!!!!」


 瞬間、神力が凝縮されるのを星矢は見た――反射的に身体が動く――!




 どおおおおおおんっ!!!!




 激しい轟音と共に、目の前が爆発した事に砕条は目を剥く。

 しかし、黄色い壁が自分を守ってくれていた。


 それは星矢の守りの神術だった。


「ぐっ……!」

「星矢!!」


 神術の優秀な使い手であるはずの星矢がたった一発の攻撃で消耗されたのを見て、幽吾は目を剥く。


「――禁術!!」


 幽吾のその声に、紅玉も世流も轟も天海も戦闘態勢を取る――しかし――辰登はすでに禁術の術式を書き上げていた。


「動くなぁっ!!!!」

「――全員退がれ!!」


 辰登の禁術を見た天海が叫び、全員足を止めた。


「いいか!? 動けば自爆の禁術を発動させるぞ!? 全員みんなオダブツだ!!」


 辰登の叫びに全員動く事ができない。

 紅玉も幽吾も世流も轟も天海も、何もできずに辰登を睨みつけるだけ。

 消耗されて息絶え絶えの星矢を庇うので精一杯の砕条もまた同様に辰登を睨みつけた。


 すると、辰登は紅玉を睨んで言った。


「おいっ! 〈能無し〉! こっちにこい!」

「っ!?」

「こっちにこいっつんてんだろ!? 〈能無し〉!! 蘇芳諸共吹き飛ばすぞっ!?」

「…………」


 しばらく辰登を黙ったまま睨みつけていた紅玉だったが、ゆっくりと辰登へ近付く――。


「紅殿!! ダメだ!!」


 その叫びを聞いて、紅玉は振り返った。

 見れば、轟と天海に押さえられた蘇芳が真っ青な顔をしていた。


 それがなんだか嬉しくて、紅玉は微笑んでしまった――。


 そして、紅玉は再び辰登へ近付いていく。


「紅殿!!」

「紅!」

「「紅ちゃん!」」

「紅玉先輩!」

「――動くなよ! お前ら!」


 辰登は禁術の術式を見せながら全員を牽制する。


 そして、紅玉が目の前に辰や否や、新しい術式を書いていく――紋章は書き換えのされた禁術だ。

 紅玉は思わず眉を顰めた。


「何をなさるおつもりですか? 最早、貴方に逃れられる術などありませんわ」

「はっ! せめて蘇芳の絶望した顔を拝もうと思ってな! お前の魂を俺のものにしてやる!」


 辰登の言葉から連想したのは、大和皇国に伝わる言い伝えである。


 名前は魂の一部であり、「真名(まことな)」を知られる事は魂を握られる事と同意。そして、神に「真名」を知られてしまったら、恐ろしい目に遭う――。


 これは大和皇国でも有名な御伽噺で作り話である。子どもが悪い事をした時に親が叱りつける時に使うような話だ。


 紅玉は思わず呆れたように溜め息を吐く。


「何を申すのかと思えば……そんな御伽噺が可能なわけ――」

「可能なんだよ!!」


 辰登は自信満々に叫ぶと、ニヤリと不敵に笑った。


「かつて矢吹は『魂掌握の禁術』を開発した! これを使えばお前は一生俺の言うことしか聞かない操り人形だ! ただこの禁術の欠点は、使用の際、『ある情報』が必要不可欠にもかかわらず、神域でその情報を得ることは不可能だったことにある!」


 辰登の言葉に紅玉はある事を思い出していた。


 神域では、御伽噺として謳われるこの話も神が関連する話と言う事もあって信じられてきている。

 だから、神域に移り住む際、神子や職員は「仮名(かりそめな)」を与えられ、「真名」を隠して生活をする。

 例え中央本部の人事課でも職員の「真名」を知る事ができないように徹底的に管理されているのだ――。


 神域内では――。


 そして、紅玉は思い出す――つい先日、休暇で現世に帰っていた事を――。


「――まさか……!」


 辰登から距離を取ろうと身体を翻そうとした紅玉の腕を、辰登が掴んだ。


 禍々しい禁術の紋章が強い光を放つ――!

 辰登は勝ち誇ったような笑いを浮かべながら叫んだ――!


「さあ! 俺の傀儡となれ! 『千石紅子(せんごくべにこ)』!!」

「――っ!!!!」


 禁術の紋章が紅玉の身体を縛り上げる――!


「紅殿おおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」


 蘇芳はまだ動きの悪い血塗れの右腕を紅玉に伸ばす事しかできなかった――。




**********




 春の祝祭日の休暇の為に、現世へ帰ってきていた紅玉――の後ろに辰登はいた。


(なんとか気づかれずに、現世まであの女の後をつけて来れたっていうのに……)


 家族らしき人物達と楽しげに会話する紅玉の様子をチラチラと横目で伺いながら、辰登は内心苛立っていた。


(なかなか実家には行かねぇな……まさか実家には帰らず、この辺りに宿泊するつもりか? チッ! 真名を知る絶好のチャンスだと思って休暇返上で後を付けたのによぉ!)


 そんな一方で、久しぶりの家族との再会に紅玉は実に楽しそうに笑いながら何かを話している。しかし、流石にその内容までは聞こえてこない。


(チッ……会話もよく聞こえねぇな……)


 そんな悪態をつきながら、現世は不便だと、辰登は思った。

 神力のない現世の地では禁術はおろか神術も使えないのだから。


(なんとしてでもあの女の真名を調べねぇと、休暇が無駄になっちまう)


 移動を始めた紅玉達の後を、辰登もこっそりと追う。




 そうして紅玉達がやって来たのは、神社だった。


 家族揃って神社参りをしている姿を見て、辰登は思わず呆れる。


(休みの日まで神様にお参りとは……仕事熱心な事で)


 そんな事を思いつつ、遠目で紅玉の姿を追っていた辰登はハッとした。




 紅玉が小銭を渡して手にしていたのは、絵馬だった。


「姉貴、絵馬書くのか?」

「ええ。絵馬を書いた方が神様に願いをきちんと届く気がするでしょう?」

「……毎日神様と会っているくせに」

「それはそれ、これはこれ、ですわ」


 そう言いながら紅玉は絵馬に願い事を書いていく。


「ふーん、名前を書くのか?」

「正式な書き方はきちんと本名を書いた方がいいですけど、プライバシーとか気になるのでしたら昨今はイニシャルでもよいそうですよ」


 書き終えた絵馬を引っ掛けると、紅玉は両手を合わせて願いを込めた。


「……これでよし」

「なあ、姉貴」

「はい?」

「それ――」


 弟が何か言いかけたその時――。


「べにーーーっ! てつーーーっ! 行くわよーーーっ!」


 遠くから母親が大きな声で呼ぶものだから、紅玉も弟も慌てて駆け出した。




 紅玉達が立ち去った後、辰登は急ぎ足で絵馬掛けへ向かう。

 そして、紅玉が今さっき掛けていた絵馬を見てニヤリと笑った。


(これで蘇芳に復讐ができる……あの化け物の絶望した顔を拝める……!)


 その絵馬に書いてあった名は――「千石紅子」




おまけ

母に呼ばれた後の紅玉とその弟の会話




弟(先輩に幸福が訪れますように……ねぇ)

紅「? てっちゃん、何か?」

弟「なあ、姉貴、姉貴の先輩ってどんな人?」

紅「えっとですね、身体は大きくて一見すると仁王様みたいな方なのですけど、性格は穏やかで優しくて時々可愛らしいところもあって、尊敬できるとても素敵な先輩なのですよ」

弟(あ、これ、完全に恋しているヤツだ)




たった数秒で弟にバレる。

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