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大和撫子さまのお仕事  作者: 小茶木明歌音
第一章
11/346

御社案内中

神様達との会話部分が少し読みにくいかもしれません。

軽いフラグがあるだけなので、サラッと読んでくださると助かります。




 子ども達が雛菊を連れて出て言った後の応接の間には、水晶と紅玉と蘇芳、そして子ども達を除く神々三十三名が残っていた。


「……行ったか?」

「ああ、行った。気配も随分と遠くなったから話しても問題ねぇよ」


 そう言うのは先程子ども達に声をかけた男神と鋭い目を持つ(にび)色の髪を持つ男神だ。


 すると、全員正していた姿勢を一斉に崩しだし、楽な姿勢となり、紅玉の方を向いた。

 紅玉もまた説教を止め、その場で姿勢を正し神々と向き合った。水晶もごろ寝は止めて起き上がり、蘇芳もその近くで姿勢を正して控えた。

 話を切り出したのは樹の幹色の男神だ。


「さてと、紅ねえ、あの雛菊ちゃんのことで頼みたい事があるって話じゃったの。その前に一つ質問をさせて欲しいんじゃが……何なんじゃ!? あの異能は!?」

「畏れながら(えんじゅ)様、異能の形はあまりにも未知数。『何だ?』と問われましても、わたくしには、それが異能だからでございますとしかお答えができません」

「いやいやいやいやっ! あそこまで奇っ怪な異能はないじゃろう!?」

「ですが、実際に存在しておりますので否定されても困ります」


 樹の幹色の男神こと槐がそう言えば、周囲にいた神々も激しく頷いて同意をしていた。


「あんな異能じゃ、普段の生活困っちゃうでしょ」

「こっちにも影響がないわけじゃないからな」

「知らんぷりの演技に必死だったんだぞ、こっちは」

「私笑いを堪えるのが必死で……」

「「「わかるーーー!」」」


 子ども達よりは若干(見た目の)年齢が上の(それでもやはり子どもの)神四人がそう言えば、


「だからこそ、子ども達をお目付け役として宛がったのであろう」

「雲母の結界能力で異能を空間的に封じることができるし、れなは忘却能力を持っているから、仮に何かあってもその記憶を消すことができるからね」

「真昼は二人の兄貴分みたいな奴だからな。牽引役に適していたんだろう」

「ふっ、さすがだな、紅ねえ。ま、俺にはその考えとっくに読めていたけどな!」


 蒼石率いる竜神四人衆がそう言った。


「じゃあ、なんでさっき応接の間にいた時は、異能封じしなかったんだ? 俺、腹捩れるかと思ったぞ」

「それは彼女の異能を私達に見せる為だろう。百聞は一見にしかず、というからね。」

「おかげで異能が発動しているんだか、そうでないのか、どっちだかわからなくて混同しそうになりましたよ…迷惑な話です」


 団子を食べていたり、ひょろりと背が高かったり、言葉に棘があったり、実に個性的な男神達がそう言えば、


「この十の御社に滞在中の期間に、異能を制御できればよいのですけれど……」

「その為にうちの御社を研修先にしてもらったのだろう、紅ねえ」

「我が御社には彼女と同じ〈神力持ち〉の蘇芳殿がいるからな」


 朝と夕と夜といった色合いの女神と男神二人がそう言った。


「なるほどのぅ。なんとなくの経緯と訳は理解したわい。そいで、儂らに頼みたい事とはなんじゃ、紅ねえ」

「皆々様、お察しが良くて非常に助かります。おかげ様で細かい経緯を省いての説明ができるというものです」


 流石は神だ、と紅玉は思った。


「皆様は雛菊様の異能に気付いていないふりをして、ごく普通に接してくださいませ。あと、御社の警備と晶ちゃんの警護の強化の方を。十の御社に研修生面接を目的として、外部から人が入る事があると思います。お気を付けくださいませ」

「わかったわい」

「蘇芳様には〈神力持ち〉として雛菊様にご指導をよろしくお願いします」

「わかった。引き受けよう」

「あと、くれぐれも雛菊様を一人で外出させないようにお願いします。彼女はこの神域に来たばかりの〈神力持ち〉。悪意のある者の見分けがつきませんし、そういう方々をあしらえる子ではないと思います。この御社内でも慢心せず、常に誰か傍にいるようご協力をよろしくお願いします」


 紅玉は両手を身体の前に揃え、神々に頭を下げた。


「うみゅ、みんな、しばらくの間、よろしくね」


 水晶がそう言うと、三十三名の神々が頭を垂れた。


「「「「「御意」」」」」


 そして、全員がそう答えたのだった。




**********




「ここが食堂! 飯はここで御社全員が集まって食べるんだ!」


 真昼が説明しつつ、雲母とれなが扉を大きく開けた。そこには広い空間に一定に並べられている立派な卓と椅子がたくさんあった。


「普段食べるお食事はこの食堂で食べるんですけどぉ、宴会用で使う大広間はこのお隣にあるんですよぉ」

「で、その間にあるのが炊事場だ!」

「炊事場……」


 炊事場と聞いて、雛菊は反応してしまう。


(そう言えば、あたし生活管理部配属だから、神子様のお食事とかを作るのが仕事のはずよね。もしかしたら今回の研修で一番お世話になる場所かも。あれ、そう言えば、紅玉さんは神子管理部で、蘇芳さんが神域警備部だから、生活管理部の人もこの御社にいるはずよね)


 ふと思い出し、雛菊は子ども達に聞いた。


「ねえ、十の御社の生活管理部の人って、さっきの応接の間にいた?」

「ううん、いないぜ」

(ゆかり)さんはやることいっぱいですからぁ」

「……料理、掃除、洗濯……」

(主婦かーーーいっ!)


 まだ会っていない紫のイメージが主婦になりそうである。


「んでこっちには……」


 真昼君が先導をとりながら説明をし、雲母とれなに手を引かれ、雛菊は御社内を巡っていた。御社の至る所を案内してもらっていたが、この御社はとても広く、まだまだ見るところがあるようだ。


(いやそれにしても、これじゃただのお宅訪問化としている。あたしの研修、こんなに楽でいいのか申し訳なくなる! こんなかわいこちゃん達に御社を直々に案内してもらえるなんて幸せすぎるー! 後々に不幸な事とかやってきませんように……)


 切にそう願っていると、赤い暖簾と青い暖簾のかかった入り口が見えてくる。そう、旅館とかでよく見かけるあれである。


「ここが、我が御社自慢の大浴場だ!」

「おおーーーーーーっ!」


 真昼のその言葉に、雛菊の顔が嬉しそうに輝く。


「うちの御社の大浴場、神が三十六人もいるし、神子さんや職員も共用で使うから、めちゃくちゃ広くて豪華なんだぜ!」

「あたしも使っていいのかな」

「もちろんですぅ。温かいお湯に入って一日の疲れを癒してください~」

(いやもう雲母君自身が超癒し系でめちゃくちゃ癒されます)

「……中、見てく?」

「じゃあ、ぜひ!」


 真昼と雲母を待たせる事に抵抗はあったが、大浴場を見たい好奇心には勝てなかった。

 れなに手を引かれ、雛菊は大浴場の女湯の暖簾をくぐる。

 その先にあったのはまず広い脱衣所で、さらにその奥にはたくさんの人が入れる浴槽と岩場でできた湯船、さらには露天風呂付きという旅館顔負けの大浴場だった。

 洋館様式の御社に、大和形式の大浴場はやや不釣り合いではあるが、そんなことお構いなしに、雛菊はうきうきとした気持ちが抑えられないでいた。


(あれ? あたし、ここに何しに来たんだっけ? 温泉旅行? すっごく豪華な大浴場! はっ! いかんいかんっ! あたしは研修中! 研修中なの! そんなお風呂全制覇とか考えちゃダメでしょ!)

「……二週間もあれば全制覇できる」

「はっ! 天才か!?」


 れなの言葉に雛菊は感動し、二週間の研修期間中に全制覇しようと誓うのであった。


 大浴場を後にして、次に向かったのは御社の離れに繋がる通路だ。入り口が少し厳つい扉で作られたそこは「修練場」の看板が飾られている。


「修練場って、何か訓練をするの?」

「剣道とか組み手とか、戦闘に必要な技を磨いたり、訓練したりするんだよ!」


 真昼が揚々と答えるが、雛菊はギョッとした。


(戦闘って何!? 神域内ってそんなに物騒な事件が起きるの!?)

「ボクら神や神子様は神域内で時たま蔓延る邪神(じゃしん)の退治もするんですぅ」

「邪神……」


 雛菊は就職説明会で聞いた事を思い出していた。


『神子と神は災いの元である邪神を祓う唯一の存在』


(てっきり、邪神って何かの概念とかそういうのとか思っていたけど、ちょっと違うのかな……実際に戦う存在ってこと?)


 ふと思い出すのは、就職試験に出てきた地獄の番犬のような巨大な化け物だった。

 雛菊は全身が冷えていくのを感じていた。


(も、もしかして、あれって、邪神のイメージサンプルだったんじゃ……!?)

「雛菊さん、顔色が悪いですよぉ? 具合が悪いんですかぁ?」

「……大丈夫?」

「う、うん、ごめんね……ちょっとトラウマを思い出しただけだから……」

「ん、虎馬?」


 心配してくれる子ども達を見ながら、雛菊は目頭が熱くなった。


(こっ、こんな小さな子達が邪神と戦っているだなんて……っ! 邪神を放っておけば現世は災害とか天変地異とか起きやすくなるって言われているし、あたし達は実質この子達に守られながら生きていたのね……! なんか泣きそう! 本当に神子様や神様には日頃から感謝しないといけない、いやすべきだわ!)


 雛菊は子ども達の手を取ると、ジワリと涙を浮かべた。


「みんなぁあああ!! いつもありがとぉおおぉおおおっ!!」

「え、いや、どういたしまして……?」

「ひ、雛菊さん、落ち着きましょう~? 深呼吸、しんこきゅ~~~」

「吸って……吐いて……」


 突然泣き出した雛菊に子ども達三人はオロオロしながら、雛菊を宥めたのだった。




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