習作
初投稿になります。お手柔らかにお願いします。
朱に染まりし学び舎の、寒風突き刺す霜月中旬。何人も居るはずのない教室のドアが静かに滑り、かっちりと制服を身に纏った男女が足を踏み入れる。それ迄理路整然と保たれていた均衡は崩れ、刹那の間に静寂が弾ける。
一歩、二歩、三歩…… 二足の指定靴が戸惑いながら、鉛色に凝った空気を塗り替える。先導していた彼女は意を決したように足を止め、古びた錻力の人形を思わせる動きで振り返り、ほんの少しばかり紅潮した彼と向き合う。はにかんだ彼女は徐ろに、脇に置いたスクールバッグを漁る。取り出した透明な個包装の両端をゆっくりと引き、震える指でそっと摘み上げ、目線を指先に落とし、幾許かの逡巡を伴い自らの口へと運ぶ。彼は俯く彼女の頤に手を添え、涙に潤んだ瞳を交わし、緊張に乾いた唇を重ね、強張る身体を解すように腕を回し、箍が外れ蠕動する舌が固く閉ざされた門を抉じ開ける。一度開いた門扉が閉まることはなく、熱に侵され、どろどろに融解けたモノを彼方へ押し流し、又、此方へ押し流され。彼と彼女とが混ざり合い、たったの一滴も逃すまいと嚥下され、咽喉の奥へと落ちていく。
「んっ…」
一秒にも永遠にも等しい時間が流れ、甘美な余韻と幸福の残渣が漂う口腔の中では、舌と舌とが重なり、絡み合い、酸素を欲して銀の橋が架かっては切れ、再び一つになり……
境界が曖昧になる二人の世界には、漏れ出る息、微かな衣擦れ、そしてゆっくりと時を刻む秒針だけが響いていた。
いかがでしたか?
日本語を味わっていただければ幸いです。