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あんま期待し過ぎんなよ!

「ヤクモ」

「何?」

 

 アラガミは、こちらに笑みを向ける古馴染みに対して、運転席の方にアゴをしゃくった。


 うなずいた彼が移動を始めたので、次にノスに対してずっと手に持っていた腕輪を放る。


「やるよ」

「これは……?」


 受け取ったノスは、戸惑った顔で腕輪を眺めた。


「【均衡の腕輪】っつー名前の魔導具だよ」


 指で輪を作ったくらいの大きさの《魔導球コア》が嵌った腕輪だ。

 表面の装飾は、魔法陣を組み合わせて大人しめの意匠にしてある。


「相変わらず芸が細かいなー。顔に似合わず」

「どつき倒すぞ、このクソガキが」


 近くに来て腕輪を覗き込んだスサビの首を腕で羽交い締めにして、耳元で小さく『二人を見張っとけ』とささやく。


 小さくうなずいたスサビは、『いてーな!』と言いながら腕をすり抜けた。


「顔に似合わないのは事実だろーよ!」

「それが余計だっつってんだよ! 細かい細工ができなくて、魔導具が作れるかこのボケ!!」


 いつも通りに言い合い、腕組みしながらノスに目を向ける。

 そして、ぶっきらぼうにその効果を教えてやった。


「普通、魔導師ってのは生命力を魔力に変えてる。そのプロセスは魔物でも同じだろ」

「と、思いますが……」

「吸血鬼ってのは、魔力によって肉体を強靭にする代わりに、生き血くれぇ生命力が濃いモンじゃねーとメシにならなくなっちまった生き物だと、思ったんだよ」


 こちらを見上げるノスの顔から目を反らし、アラガミは背を向けた。


「そいつは、膨大に生産される魔力を逆に生命力に変えて、生命力の消費を抑える腕輪だよ」


 魔力化するのと同じだけ、生命力を逆に魔力から生産すれば、プラスマイナスは0だ。


「生命力を……」

「勘違いすんなよ。ノーリスクじゃねぇ」


 アラガミは先に告げた。


 実際は、そこまで便利な代物ではない。

 ヤクモがくぐり抜けた通用口に手をかけながら、リスクについても教えてやった。


「それをつけてる間、弱点はそのままで、テメェは吸血鬼としての強さを失う。魔法も使えなくなるだろう」


 そこから先は、早口に告げた。


「だが、普通の食事で生きていけるだけの生命力は得られるようになる。俺の考えが当たってりゃーな。それとは別に吸血衝動は残り続けるかもしれねーが、そいつはテメェ自身が我慢できるかどうかだ」


 本性に逆らうのは辛いものだ。

 人間で言うなら、薬草で生きていくようなものだろう。


 だがノスはただラトゥーのために生きたかっただけで、人を喰らいたい訳ではない吸血鬼だった。


 通用口を滑り降りる時に、ちらりと見えたノスは……どこか、信じられないような、救われたような表情で腕輪を見ていた。


「使えるもんかどーかはわかんねぇからな! 期待しすぎんなよ!!」


 運転席から怒鳴り、アラガミは通用口を閉めた。

 座席に腰を下ろすと、ヤクモがニヤけているのが見える。


「何笑ってやがる」

「使えるかどうかわからない、だって? 前に似たようなもの、作ったことあるのにさ」


 大地の力が強い地域にしか生息しない、人の手で育てられないと言われていた魔草を育てた時の話だろう。


 あの草も、同じ理屈で作った魔導具で、生育が遅くなったものの一応育った。


 無言で顔をしかめてみせるが、ヤクモの口は止まらない。


「相変わらず、礼を言われるのが苦手だよねー。その妙なところでシャイなの、どうにかならないの?」

「うるせぇ。カネが絡まない関係で、むやみに感謝されるのは苦手なんだよ」


 趣味で作ったから、役に立ちそうなところに渡したに過ぎない。

 魔導具は、使われることに意味があるのだ。


「はいはい。そういうことにしとこうか」

「元々そういうことなんだよ!」


 ガルル、と唸ってから、アラガミはタバコをくわえて魔導輸送車のコアを起動した。


「……ノスの話は、信用できるか?」


 話を反らしがてら、屋敷に向かって魔導輸送車を走らせ始めながら口にすると、ヤクモはアラガミの問いかけに頷いた。


「今のところはね」


 ヤクモもタバコを取り出して火をつける。


 夜の街は、ひどく静かだ。

 車輪が石畳を踏む音や、ゴトゴトと魔導輸送車が揺れる音すら、ひどく大きく聞こえるほどに。


 光の魔法で照らす、魔導輸送車の光と、宿屋兼居酒屋が集まる辺りだけが眩しい。


「まだ確証はねーってことか?」


 軽く顔を向けてたずねると、ヤクモは足を組んで窓脇に肘をもたせかけた。

 夜風が彼の帽子の柔らかいツバを揺らし、煙が外に流れる。


「今の段階で、『まるで逆の話』って可能性はない、と思う。……つまりノスの方が殺人鬼で、エリーの方がそれを止めようとしている可能性は低いんじゃないかな」

「理由は」

「ノスが当代領主なら、別に僕たちを使わなくても彼女たちを殺せるはずだから、さ」


 エリーの方が強くとも弱くとも、立場が逆なら、既にどちらかが殺されていておかしくない状況である。


 ノスを信じるなら、吸血鬼領主一族は元々、いすれ真祖に殺される運命にあるのだから。

 エリーらが失踪したところで、表向きには『時間が来たので殺された』と告げればすむ。


「後はご対面してからのお楽しみか」

「使うの? マナブレイク」


 ヤクモの問いかけに、アラガミは首を横に振った。


「暴れさせなきゃ、あのクソガキがうるせぇからな」

「色んなとこに気を使って大変だね、雇い主どの」

「そう思うなら、テメェも少しは俺に楽させろや」

「出番があればね」


 確かに、魔導の闘衣持ちであるスサビとコウに加えてノスもいる状況では、彼の特殊さを発揮する機会はないかも知れない。


 そのまま黙って魔導輸送車を走らせると、タバコが吸い終わるくらいに丁度屋敷が見え始めた。

 

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