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夏の終わり

テーマ「夏」

 夏と言えば花火、浴衣、夏祭り。そんなふうに考えていたのは、もうずいぶん昔のことのように思える。


 俺は今日も一人、冷房の効いた図書館で本を読んでいた。今日の最高気温は30度越え、図書館にでも逃げ込まなきゃやってられない。

 最後に夏祭りに行ったのは、もう何年前のことだろうか。今夜は花火大会があるらしいが、どうせ自分は見に行かないだろう。遠くから音を聞くだけだ。


 窓の外では、蝉がうるさく鳴いていた。しかし、もう1ヶ月もすれば、蝉の声もしなくなるだろう。一夏だけの命、はかないものだ。


 それにしても眠い。空調のせいだろうか、本の内容が頭に入ってこない。昼寝がしたくなってきた。せっかくの休日だというのに、なんとも無為な過ごし方だ……。




 ……花火大会があってから、1ヶ月以上が過ぎた。今では気温が30度を越えることもなくなり、25度前後を行き来している。

 俺は今日も一人、図書館で本を読んでいた。今では、図書館の冷房もあまり効いていない。


 俺はふと窓の外を眺めて、そういえば、蝉の声が聞こえないな、と思った。

 気が付くと声がしなくなっている。彼らは、もう死んでしまったのだろう。一夏だけの命、むなしいものだ……。


 いや、考えてみると、俺の人生のほうがむなしいのかも知れない。こうやって、幾多の夏をむなしく過ごしてきた俺なんかより、一夏だけの命を燃やす蝉のほうが、生き物としてよほど充実しているような気がする。


 いやいや、そもそもこんなことを考えること自体がむなしいようにも思える。蝉と俺と、どちらのほうが充実しているかなんて、分かりもしないし、分かったところでどうしようもない。そんなものはただの空想、陽炎(かげろう)、蜃気楼だ。

 たとえ蝉のほうが幸福だったとしても、それで蝉になれるわけでもないのだから。


 そろそろ日が傾いてきた。日が落ちるのも早くなってきたものだ。すでに、秋の気配を感じさせている。

 そろそろ図書館も閉まるころだし、もう家に帰るか。

 そう思って、俺は席を立った。

これを書いたのが去年のことだと思うとなおさら……

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