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指輪

テーマ「青春」

 高校生の頃、指輪を買ったことがあった。


 それを右手の薬指にはめて学校に行った時、友人に訊かれた。


「あれ、お前彼女できたの?」


「え?なんで?」


「だってお前、右手の薬指に指輪をしてるだろ。それ、恋人がいますっていう意味なんだよ」


「あ、そうなんだ……知らなかった」


 それで、俺はそれを外して言った。


「あーもったいないなー。せっかく買ったのに」


「だったら、左手の薬指にはめたら?」


「それじゃ結婚指輪になっちゃうだろ……」


「じゃ、人差し指にはめたら?」


「うーん、人差し指はなぁ……俺は何というか、右手の薬指にはめるってところに、かっこよさを見いだしてたんだよね」


「妙なこだわりだな……まあ、だったら、彼女ができるまでとっておけばいいじゃん。そうしたら、晴れてはめることができるってことで」


「そうだな。そうするか……」


 それで俺は、家に帰って、指輪を机の引き出しの中にしまい込んだ。



 ……そんなことを思い出したのは、とある休日の朝のことだった。


 俺は、せっかくの休日だからというので、遅くまでベッドの上でゴロゴロしていて、起きたときにはすでに10時になっていた。それからようやく起き出して、遅い朝食をとっていると、ふとあの指輪のことを思い出したのだった。


 それで、机の引き出しを開けて、奥を探ってみると……あった。あの指輪が、当時と同じ姿のまま残っていた。俺はそれを改めてまじまじと眺めてみた。


 こうして見ると、何というかずいぶんかっこ悪い指輪に思える。なぜあの頃は、こんなものがかっこいいと思っていたのだろう。まあそれが、若さというものなのかも知れないが。


 そんなことを考えながら天気予報を見てみると、今日は一日中晴れだと言っていた。俺はふと思いついて、言った。


「海に行きたいな……」



 車を走らせて海にやって来ると、すでにこの季節、海岸には人の姿もなく、ただ遠くの方に、ひとりふたりの釣り人がいるだけだった。

 俺は堤防の上を歩いて、そこから海を眺めた。


 灰色の海は、白く波だって、堤防に打ち寄せては砕け、打ち寄せては砕けして、単調なリズムを刻んでいた。さながら人生のイマージュだ。


 しばらくそうやって海を眺めたあと、俺はポケットをさぐって、あの指輪を取り出した。

 そしてそれを陽にかざしてみる。うん、やっぱりかっこ悪いな。でもまあ、嫌いじゃなかったよ。


 俺は指輪を持ち直すと、それを思いっきり、遠くの沖に向かって投げた。


 指輪は一瞬だけキラリと光ったあと、灰色の海の中に消えていった。


 落ちた瞬間さえわからないような、実にあっけない最後だった。



 俺は堤防の上にしゃがみ込んで、「はあ~~~……」と長いため息をついた。なんだか、急に歳をとったような気がした。


「タバコが吸いたくなってきたな……」


 俺は独りごとを言った。


 いつもはタバコなんて吸わないけれど、こういう時には吸いたくなってくる。

 せっかくだから、帰りにタバコを買って帰るか。あの頃とは違って、今では合法的にタバコが吸えるわけだしな。


「まあ、それぐらいしか、取り柄もないけどな……」


 そんな独りごとを言って、俺は空を眺めた。


 空は、あの頃と変わらない空のままだった。

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