9話 最弱冒険者と悪魔、共に悪を滅ぼしました
「おい、スカーレッド。敵が増えたんだが」
眼前に突如現れた二人目の部下について、俺はスカーレッドに説明を求めた。
「わ、私は知らない・・・・・・。幻覚よ。これはきっと、自分の部下にびびりまくってる弱い私が出した幻覚だわ。はははは・・・・・・」
完全に現実から頭の中のお花畑へと思考をシフトさせたスカーレッドは、一人屈みこんで小さく笑っている。
こいつ自分の部下にビビってたのか。
「マコトさん! さすがに部下二人はきついです。すぐに王国へ引き返しましょう!」
俺に提案するクリーミネの顔は、本当に焦ったような表情をしていた。
このパーティにおいて最高レベルの騎士が言うのだ。こいつはそれほどやばいのか。
「ちょっと待ちなさいな。別に私はあなたたちの敵ではないわ」
グレモリーと名乗る女は言いながら片手を振り上げ、黄金の金槌をサイコキネシスでも使ったかのように持ち上げた。
金槌が消えた地面を見ると、バアル・ゼブルの姿がない。まさか・・・・・・
「あいからわず物騒な奴め! まさか貴様もあのピコピコ鳴る玩具にハマったのか!?」
俺の後ろで聞きたくもない声が響いた。どうやらあの金槌を恐ろしいスピードで避けたらしい。
俺こいつ倒せないな。
なんか無駄なところで強すぎる。
魔王の部下の名は伊達じゃないらしい。
「そんなわけないでしょう・・・・・・」
ため息交じりに言うグレモリーの目は苦労人の目だった。俺にはわかる。
俺も日頃からあの三人にストレスを与えられまくっているんだ。
俺のストレスセンサーは最早この世界一の精度を誇るはずだ。
「「お互い苦労するな(わね)」」
「「「はっ!?」」」
俺とグレモリーの言葉に、当の苦労を掛けているサイドは「まさか私のこと!?」見たいな眼でこちらを見ている。
自覚がなかったとは。回し蹴りしようかな。
「さてと。私は悪魔。あなたたちは冒険者。立場だけを見れば確かに敵よ。でも、別に今争う必要はない。この先にもし、あなたが私たちの城を攻めようとするならば―――――――――――
スカーレッドとはまた違う色をした赤髪を、グレモリーは耳にかけ、
「―――――――もちろん一族郎党、皆殺しにさせてもらうけれど」
殺気を隠すことなく言い放った。
そのたった一言に、辺りが静まり返る。別に声を荒らげたわけでもない、静かな一言。
しかし、その一言で誰もが息を飲み、冷や汗をにじませた。
スカーレッドに至っては白目をむいて倒れている。
こいつホントにこの上司か!?
「悪いが、あんた達が俺たちの生活を壊すなら、あんたを倒すぞ?」
「レベル10のあなたがかしら?」
「そこの騎士だ」
「勝手に巻き込まないでくれます!?」
手をバタバタ振って抗議するクリーミネを見て、グレモリーは上品に笑った。
なんか大人の女性って感じだ。
うちのパーティの仲間を女性として見る機会がゼロに等しいから、なんか新鮮だな。
「それは楽しみね。待ってるわ。私たちが戦場であいまみれることを。それじゃあベルゼブブ。あなたには罰を下すわね」
「ふざけるな! 俺はそこのくそ魔王に引導を渡してやらねばならん!! この女が俺の貯金を全部取ってかなければ!! 俺は今頃・・・・・・!!」
「おいスカーレッド。あいつから取った金をどうした?」
俺の問いにスカーレッドは考え込むような動作をした後、平然と答えた。
「お酒とギャンブルに使ったわ」
「このダメ人間が!!」
俺はスカーレッドの頭に拳骨を落とし、ダメ魔王の部下たちに頭を下げる。
「あのなんか、すいません!!」
誰がやったとかとか、何を具体的にしたとかとかも言わない。
「あの、なんか、」で伝わってしまうほどにスカーレッドの犯行は明らかになっているのだ。
本当に申し訳ない。うちの元魔王がこんな駄目な奴なばっかりに。
「いいじゃない! あなた私の部下でしょ!? 有り金くらい献上しなさいよ!!」
なんという開き直りだ。むしろ部下の金を黙って取ることを恥だと思わないのか。
「どこのチンピラだお前は」
「さすがに盗みはダメだよね」
「ぐっ! パーティメンバーの視線が冷たいわっ!!」
パーティメンバーからの冷ややかな言葉に、スカーレッドは目に涙を浮かべる。
泣いたって無駄なんだが。
「あ、いいこと思いついた」
俺はここで、あることをひらめく。
俺は自分の考えをグレモリーにこっそり耳打ちすると、グレモリーの口角が微かに吊り上がった。
うん。自分で考えてもニヤニヤが止まらない。
「ちょっと、なんでそんなニヤニヤしてるの!? なんで二人して笑っているの!?」
「ど、どうしたんだグレモリー! まさか、良からぬことを考えているのではあるまいな!?」
「「さあねー」」
「「こいつら怪しすぎるっ!!」」
俺とグレモリーの笑みに危機感を覚えたバアル・ゼブルとスカーレッドは、二人して回れ右してダッシュでこの場から逃走を試みた。
ちっ、こういう時だけ勘の鋭い奴め!
「逃がすか! 『草結び』!!」
「いだっ!」
「ぬおっ!?」
俺はとっさに草結びを発動させ、逃走する二人をすっ転ばせた。
そして、
「グレモリー!」
「いい仕事したわね!!」
グレモリーは手を真上にかざし、半径三メートルはあるだろう大きな魔方陣を創造する。
そう、これが俺の考えだ。
二人とも相手が悪いと言い張っている。ならば、両方の意見を聞き入れてあげよう。
「喧嘩両成敗ってやつだ」
「そんなあああああ!?」
急いで立ち上がるスカーレッドとバアル・ゼブル。
その真上から、容赦なく紅蓮の炎が放たれる。
「マコトのバカああああああ!!」
衝撃波が草木を揺らす中、俺は絶叫しながら吹き飛ぶスカーレッドを手を振って見送った。
こうして、魔王の部下接近事件は二人の尊い犠牲によって無事解決したのだ。




