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6話 最弱冒険者、酒場でからまれました

「では、行きましょうか。早いうちに動かないと、魔法具を取り戻すころには日が暮れてしまいますよ?」

「では、いきましょうか。じゃねぇよ! お前一体何人前食ったと思ってんだ!?」


 王様から解放された俺たちは、腹が減っては戦は出来ぬということで近くの酒場に入ったわけだが、予想外なことにクリーミネがかなりの食いっぷりを見せた。

 クリーミネは席に着くなりハンバーグを10人前注文し、それを全部平らげると追加注文を五回繰り返したのだ。

 この小さな体のどこにあんな量の食糧が入るのだろう。

 ここまでくると七不思議レベルだ。


「三人分の生活費でうちの家計はこれからさらに厳しくなっていくっつーのに、なんでお前はそう遠慮なしにガブガブ食えるんだよ!!」

「よく食べて、よく働く・・・・・・これが騎士たる者の心構えです」

「その前に人間の常識、遠慮というものを学びましょう」


 俺は伝票を開き、おそるおそる中身を見た。

 合計支払金額100000ランド。

 1ランド1円計算で、日本円にして10万円。

 とても三人分の昼飯代とは思えない。どこの宴会だ。


 今後の食費のためにも、今回のクエストは失敗するわけにはいかないな。


「おいクリーミネ。お前どれくらい金持ってる?」

「6万ランドです」

「俺が5万持ってるから・・・・・・クリーミネ、少し財布見せて?」

「は、はいどうぞ」


 俺はそう言ってスムーズにクリーミネの財布を手に入れると、その財布ごと店員に渡し、残りの4万ランドを渡して会計を済ませた。

 犯行時間僅か12秒。

 クリーミネはデザートに夢中のため、自分の財布が自身の腹に入っている食材にトランスフォームしたことにきづいていない。

 完全犯罪の完成である。


「ねぇ、マコト。あそこの魔法使いの子、変な大男に絡まれてる」


 俺の腕を肘で軽く突いて言うスカーレッド。

 すぐに周りを確認すると、確かにスカーレッドと同じくらいの少女が大男三人に囲まれていた。

 周りの店員も客もかかわりたくないようで、皆見て見ぬフリをしている。

 もちろん俺もだ。


「マコトさん。助けたほうがいいんじゃあ・・・・・・」

「そうよ! チキンチキン! マコトチキン~!」


 少女の様子を心配するクリーミネと、俺を侮辱するスカーレッド。

 後者は後で泣かせてやろう。心に決めた。


「お前らなぁ・・・・・・! 俺だって助けられれば助けたいけど、俺は生憎ただの一般人だ。こういうのは特殊能力とか伝説の武器とか持ってる主人公ポジションの奴がどうにかするんだよ」


 俺の言葉に、クリーミネは周りを見回した。

 一通り酒場を見ると、そのままこっちをじっと見つめる。


 なんだ? 誰もいないってか。

 そんな奴この酒場にはいないから、お前が何とかしろって、そう言いたいのか。


「あ―――っ!! マコトさ~ん!! あそこの男性三人組を馬鹿野郎ども、なんて馬鹿にしちゃいけませんよ~!!??」


 クリーミネはいきなり立ち上がり、俺を指差してそんなことを叫ぶ。

 俺が慌てて周囲を見回すと、酒場にいる全員が俺の方を向いていた。

 もちろん、あの大男三人組もだ。


 憶えておけよクリーミネ・・・・・・


「あ!? なんだてめぇ! 俺達に文句あるってのか!?」


 大男の一人が椅子を蹴飛ばし、怒鳴りながら俺の方へ近づいてくる。

 蹴飛ばされた椅子は空中でバラバラに分解され、地面に落ちる頃にはもはや原型を留めていなかった。

 なんとたくましい筋肉だろう。あの筋力なら長ネギ王なんて一撃だ。


「いやー、あの女の子が可哀想だなーなんて思ったり思わなかったリ・・・・・・」


 俺はいやいや大男にそう言うと、目を合わせることが怖くてできないためテーブルを見た。

 テーブルに置いてあるさらに視線を送ると、スカーレッドがソースで『チキン』と文字を書いている。


「あのすいません。俺の横の女も俺と同じようなこと言ってました」

「あ!? てめぇも文句あるってのか!?」


 俺の道連れにあったスカーレッドは、大男に襟首を掴まれ早くも半泣きだ。

 魔王の威厳はどこ行った。


「おい、お前は何振り構わず噛みつくような雑魚か? それとも相手を選ぶ賢者か?」


 スカーレッドを掴んでいる手を振りほどき、俺が大男に問う。

 すると、案の定大男は額に青筋を浮かべた。

 かなり怒ってらっしゃるようだ。


 自分から道連れにしておいてなんだが、このまま自分のパーティメンバーがぶん殴られるのは大変後味が悪い。

 こうなればやけくそだ。やるだけやってやる。


「なんだてめぇ偉そうに。死ね!!」


 大男は俺の発言が頭に来たらしく、ダガーを腰から引き抜き、俺を袈裟切りにしようとした。

 が、俺は背後から長ねぎを取りだし、ダガーが俺に届くよりも前に大男の顔面をぶん殴る。

 

「ぐっ!!」


 実はこの長ねぎ、城に入る時に武器を取り上げられ、何かあった時に対応できないと困ると考えてとっさに隠し持ったものだ。

 まさかこんなところで役に立つとは。 


 大男は呻き声を上げて床に倒れたが、さすがに長ねぎじゃあ威力が足りないらしく、すぐに立ち上がる。

 そりゃそうだ。

 これで倒れてくれたらどんなに楽なことか。


「スカーレッド。クリーミネとあの女の子連れて逃げろ」

「わ、わかったわ! すぐ逃げる! 早く逃げる! マッハで逃げる!」

「必死だな、お前・・・・・・」


 俺の冷たい視線もスルーし、スカーレッドは逃げるべきか迷っている様子のクリーミネを引きずって女の子のところまで行き、すぐに酒場から消えた。

 あいつ逃げ足だけは早いな。


「さーて、かっこいいお兄さん? 俺たち相手に生きて帰れるかな?」


 ダガーを持て余して自信満々に言う大男達。

 俺は思わずニヤリと笑い、初期装備の剣を鞘ごと引き抜いて言った。


「・・・・・・全国優勝した高校の、元剣道部の主将ってどれくらい強いか知ってる?」

「「「は?」」」






◆◆◆




 もれなく仲良くおねんねすることになった大男たちを見て、俺は剣を背中に戻した。

 事がうまく・・・・・・というか、半ば強引に納まったことを知った酒場の客たちは、ドッと俺に歓声を浴びせる。


「あ、ありがとうございます! 冒険者様! 実はこいつらここら辺の盗賊団の一員でして、よく店で暴れるもので困っていたんです」

「盗賊団?」


 急いで駆け寄ってきた定員の言葉に、俺は思わず聞き返した。

 そう言えば、俺は異世界転移をしたのにこの手の連中に会っていなかった。

 俺の住んでいる町は平和な方なのか。


「はい。とくにその大男は珍しい魔法具を扱っており、町の警備隊も手を焼くほどで・・・・・・」


 俺は定員の指差す大男の腰に携えられたポーチを取り、中身を見る。


「結晶・・・・・・?」


 中に入っていたのは青色に輝く独特の装飾が施された結晶だった。

 なるほど、これが魔法具か。


「それは人を眠らせる効果が付与された結晶らしく、こいつら盗賊団が盗みによく利用していたそうです。なんでもかなり貴重なものらしく、城に入る予定だった積み荷から盗まれたとか」

「ビンゴだな。店員さん、これは貰っていくぞ? 王様からこれを取り返すように依頼されてな」


 俺は魔法具を手の中に納め、酒場の出口へ歩き出す。


「あっ、ありがとうございました!」


 店員の感謝の言葉を聞きながら外に出ると、スカーレッドとクリーミネがなんだか落ち着かない様子でおろおろ歩き回っていた。


「おーいお待たせ。よくわからんがクエストクリアしたぞ。ほれ、魔法具」


 俺はこちらにきづいて近づいてくるスカーレッドに魔法具を放るが、スカーレッドは魔法具を受け止めることも無く俺に飛びついた。


「なんでそんなに遅いの!? 少し心配したじゃない!! すぐに逃げて来なさいよ!」

「怪我はありませんか!?」


 二人の予想外の対応に、俺は思わず固まる。

 俺の予想では皮肉の一つでも言ってくると踏んでいたのだが、まさかこんなに心配してくれるとは。

 昨日から二人の印象は『残念』で固定されていたが、あながちそんなことはないのかもしれない。

 というか、二人の策略にはめられたためにからまれたんだが。


「そこのお兄さん! さっきはありがと!」


 地面に転がった魔法具を拾い上げ、俺に差し出しながら、先ほどからまれていた少女は礼を言った。

 この子も酒場の前に留まっていてくれたらしい。


「その場のなりゆきで助けただけだよ。それより、さっきはなんでからまれてたんだ?」

「あの人たちの着てる服のダメージ加工を回復魔法で直したら怒ったんだよ」

「うん、お前が悪いね」


 悪びれる様子も無く言う少女に、俺は思わずつっこんだ。


 さっきはよく見る余裕が無くて感じなかったが、この少女なかなか顔が整っている。

 金色の髪を肩あたりまで伸ばし、黄色のローブに身を包んだこの女の子はおそらく魔法使いだ。

 さっきも回復魔法とか言っていたしな。

 年齢は同い年ってとこか。


「あのさ、もしよかったら君のパーティに入れてよ! 回復魔法しか使う気がないけどそれなりには役に立つと思うよ?」


 魔法使いの言葉に、スカーレッドとクリーミネはしばらく考え込み、最終的に俺を見た。

 なんだ? 俺に決めろってか。


「確かに、俺のパーティは回復要員がいないし、もしもいれば今より安全にクエストがこなせるな・・・・・・よし!」


 俺はさまざまな利点や家計のことを考えに考え抜き、最終的に魔法使いに歩み寄り、


「俺の名前はマコト。これからよろしく頼むよ」

「私の名前はエール。これからよろしくね!」


 西に傾いた太陽をバックに、かたい握手を交わした。

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