5話 この馬鹿みたいな嘘、意外と信じてもらえました
異世界生活3日目の朝の10時過ぎ。
「マコトさん。貴方のパーティは昨日何をしていましたか?」
ドアのノック音がしたのでドアを開けると、王国の調査団と名乗る女の聖騎士が玄関で仁王立ちしていた。
朝っぱらから来ておいて、挨拶も無しにこの質問だ。
この国の教育はどうかしてるだろ。
「やまキングの暴s――――――――――いたたたた! いた、痛いです!」
「ニートしてました」
俺は馬鹿正直に本当のことを口走ろうとしたロリッ子を自慢のつめで強制的に黙らせ、適当なことを言って誤魔化した。
「クエストの受諾記録が残っていますが?」
「クエストを受けながらニートしてました。俺は一匹もモンスターを倒していません」
自分で言っていても苦しすぎる嘘だ。どう考えてもバレる。大人をなめすぎだ。
「どうして一日目でレベルが10まで上がっているんですか? モンスターを倒していないのにこのレベルはおかしいですよね?」
「この娘と大人の階段登ったんで。経験値で言うなら魔王退治も比較にならない―――――――」
「何言ってるんですか! 嘘ですよ!?嘘ですからね!?」
俺がこの場しのぎの言い訳を言おうとすると、言葉の途中で全力でクリーミネに阻止される。
クリーミネを見ると、顔が耳まで熟れたイチゴのように真っ赤に染まっていた。
恥ずかしいのはわかる。
でも処されて首が飛んでいくよりは大分ましだ。ここは我慢してもらおう。
ていうかこの騎士の顔が引きつってるんだが。
まさか俺がロリコンだというあらぬ誤解が生まれたのか?
「ゴホン! ご協力感謝します。それでは私はこれにてしつr―――――――――」
「マコト! 昨日の氷魔法で疲れたから肩たたいてよー!!」
聖騎士が帰ろうとした瞬間、リビングに続くドアの向こうから聞こえた声に、俺たちは固まった。
「「・・・・・・」」
「城にご同行願います」
「はい・・・・・・」
背中に冷や汗を流しながら、窓の外の景色――――――――――晴れ渡る空を見て、俺は思う。
あのポンコツ魔王覚えておけよ!!!!
◆◆◆
俺は目の前の老人を見た。
うむ、目に毒である。
天井はめちゃくちゃ高く、大理石でできた床は輝いているこの部屋は、王国の城の中にある『王の間』だ。
俺たちはスカーレッドの場の空気を完全にスルーした発言により、国家転覆をもくろんだと疑われ、聖騎士に首都であるこの街に連れてこられるなりここに突き出された。
俺の家は王国の外壁近くにあるため、王国の中心部、首都『ルミエール』にある城に行くには馬車で二時間弱かかる。
『ルミエール』には魔法が溢れ、旅の中継地点になったことで発展した王国らしく世界各地の珍しい物が集まってくるらしい。
魔法具、家具、食料、雑貨・・・・・・この街に来て手に入れられないものはないそうだ。
観光したい。もの凄く観光したい。
パフェ食って、写真撮って、くったくたで家に帰りたい。
「・・・・・・観光したいです」
「お主自分の立場分かってる!?」
俺が自分の気持ちを正直に述べると、案の定王様は青筋を立てた。
どうして俺は王様の前で正座しているのだ。
仮にも疑いがかけれれているだけなのに、この仕打ちはなんだ。
あれか? これは罰か? 嘘をついた罰なのか?
「お主、どうしてこの城に連れてこられたのか自分で説明せよ」
玉座にちょこんと座る小さい老人の命令に俺は素直に従う。
「昨夜、横のロリッ子と〇〇〇したらレベルが上がって疑われました。それでこの城に連れてこられた次第です」
「ちょ、何言ってるんですか!!」
「お、お主らちょっと静かにしてくんない? ちょ、わし王様だよ!? この国で一番偉いんだよ!? なんでそんなになめてんの!? 処していい!? 処していいよね!?」
腕をバタバタさせて抗議するその老人に、王の威厳はまるでない。
これではもうそこら辺の子供だ。
この王様でよく国が発展したな。
「ねぇ、なんであんなに偉そうなの? 私の方が偉いんですけど。それにこの城、私の城より少し小さいし」
俺の隣で城の内装を見ていたスカーレッドは、王様に聞こえるくらいの絶妙な声量で愚痴をこぼした。
完全に喧嘩を売ってるな。
「わしより偉い!? 一冒険者が王より高い身分を主張してきたよ!! もう死刑だ! こいつら嫌だ!」
「ちょっと待ってくれ! 俺達は無罪だ! 何もしてない!」
もちろん大嘘です。
「・・・・・・信用できんな」
「大体、俺達みたいな駆け出しがあんなやまキn―――上級魔法を使えるわけないだろ? それにこのロリッ子はな、攻撃系のスキルが使えないんだ! この使い魔も戦闘開始から五分で剣を溶かすポンコツだ! 俺達にあんな芸当ができるか!」
「それは災難じゃのう・・・・・・」
「ぽ、ポンコツ・・・・・・ハハハハ・・・・・・」
目が死んでいるパーティメンバーは今は放っておいて、俺は説得を続行する。
「とにかく俺たちはやってないんだ! エリマキサラマンダーを倒してクタクタだったし、できっこない!」
「こちらも証拠不十分じゃ。今回は始めから退くつもりじゃった。あの騎士は、なにぶん疑り深くてな。失礼があったと思うが許してやってほしい。しかし、どうじゃ? せっかく王都に来たのだから、仕事を受けてはくれまいか? 町に出る盗賊団から魔法具を取り返してくれば良い。なにせ国からの依頼じゃ。報酬は弾むぞ?」
何て話の分かる王様。
さっき処すとか物騒な発言が飛んだから、常識が通用しない人間かと思っていたんだが、俺の必死の説得に王様はため息を吐いて引き下がり、おまけに依頼まで出してくれるとは。
さっきはこの国のこれからが心配になっていたが、どうやら杞憂だったようだ。
「ぜひとも受けさせてください」
「それでは頼んだ。冒険者たちよ。レメゲトン! この者らを城の外へ出してやれ!」
「御意」
突如、王の間にハスキーな声が響き、金色の鎧を着こんだ男の聖騎士が俺たちの前に現れた。
聖騎士は俺たちを見るなり、背中に背負った金色の大剣に手を掛ける。
「魔族が混ざっていますが?」
聖騎士の言葉に、俺とスカ―レッドはビクリと体を震わせた。
そうだ。すっかり忘れていた。
聖騎士は魔族の探知において優れているんだ。
「俺の使い魔だ」
「・・・・・・構わん。出してやれ」
王様は聖騎士の言葉に一瞬考え込む動作したが、俺の説明を聞いてすぐに外へ出る許可を出してくれた。
危なかった。
危うく別の罪で処されるところだったな・・・・・・
「では少し揺れる。覚悟はしておけ」
聖騎士はそう忠告すると、床に触り、俺たちが丁度入るくらいの大きさの魔方陣を形成する。
わけがわからず俺たちがおろおろしている間に魔方陣が輝き、景色が王の間から城の外へと一瞬で移り変わった。
なんと便利なスキルだろう。
ぜひとも俺のパーティのポンコツに教えてやってほしい。
「では依頼内容だが、そのままだ。町に出る盗賊団から魔法具を取り返してくれば良い。捕まえる必要もない。容易かろう?」
「簡単じゃなくてもやるさ。どっかの宿無しの分の雑費を払わないといけないからな。スカーレッド、クリーミネ。ちゃっちゃと魔法具取り戻すぞ?」
「「ラジャー」」
現時刻午後の14時。盗賊団を探すのは昼飯の後にした方が良さそうだ。