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3話 このロリッ子、魔王よりは使えました

「いたわ! あれよ! あれ! エリマキサラマンダー!!」


 晴れ渡る空の下、広大な草原の真ん中で魔王はテンションマックスでエリマキサラマンダーを指差した。

 スカーレッドが言うに、エレマキサラマンダーとはコモドドラゴンを紅に塗ったような外見を持つ火属性の大きなトカゲで、俺達でも楽勝に駆れるそうだ。


 俺たちが今いる場所は、王国の東に位置する草原だ。

 なんでもここは冬になるとエリマキサラマンダーが異常発生するらしく、毎年畑の作物が灰になってしまう等の被害が出るのだとか。

 そこで、農家がギルドにエリマキサラマンダーの討伐を依頼したらしい。


「落ち着け魔王。ていうか、あんな強そうなの大丈夫なのか?サラマンダーって言えば四大精霊の一角だろ?」


 魔王の指差す方向にいるのは、でかいトカゲだ。

 しかし、四肢の筋肉はたくましく、赤い鱗は熱風を纏っており、とてもレベル一の冒険者が相手をしていいモンスターとは思えない風格を持っている。

 スカーレッドの情報を当てにしたのが間違いだったか。


「その魔王って言うのやめなさい? 私にはアンプール・スカーレッドっていう名前があるのよ! スカーレッドってちゃんと言って!」

「はいはいスカーレッド。で、あれは倒せるのか?」


 俺の問いに、スカーレッドは大きく胸を張り背中の剣を引き抜いた。

 スカーレッドが握っている片手剣は、俺が持っている剣と同じで安物だ。

 日本で言う百均のスコップ程の値段だが、駆け出しの冒険者には重宝される剣らしい。


「私を誰だと思っているのかしら? 私は全ての冒険者の最終目標よ? あんな雑魚モンスターなんて吐息で弾き飛んだ虫の羽音で倒せるわ!」

「それお前の力じゃなくね?」

「と、とにかく! チキンのマコトはここで見てなさい!!」


 スカーレッドは俺の指摘を腕をバタバタ振りながら強引に流し、エリマキサラマンダーの元へ大急ぎで行ってしまう。

 あの発言をフラグと言わずなんと言う。


「あのー。少しお願いがあるんですが・・・・・・」


 スカーレッドの背中を見送っていると、後ろで可愛らしい声が響いた。

 後ろを振り向くと、手をモジモジと弄り、なんだか恥ずかしそうにしている中学二年生くらいの少女が立っている目に入る。


「どちら様?」


 ロングの白い髪をリボンで束ね、黒と白を基調とした異世界の騎士っぽい服装に身を包んだ少女は、いきなり俺に泣き着いてきた。


「あ、あの!パーティに入れてください!! お願いします!! お願いしますよ~!!」


 この必死の少女の姿に、俺の脳内に昨日の魔王城での光景がフラッシュバックされた。

 これはあくまで俺の感だが、この少女をパーティに入れるとこの先の苦労が一つ増えそうだ。

 俺の中の危機察知警報が大音量で告げている。

 それに少女の服装を見ると、剣を携えているから騎士っぽく見えるものの、鎧は身につけていない。

 怪しい。怪しすぎる。


 しかし、ただの感で必死に泣き着く少女の願いでを断るのは心が痛む。

 だから、俺はとりあえず今日はパーティに入れることにした。


 それであまりにも戦力にならなかったら断ればいい。

 こちとら現実世界への帰還が懸っているんだ。

 甘いことは言ってられない。


「わかった。じゃあとりあえず、今日はよろしく頼むよ」

「ありがとうございます! 私はクリーミネっていいます!」


 クリーミネは俺がパーティの参加許可を出すとパッと笑顔になり、大きく飛び跳ねて喜んだ。

 どれだけパーティに入るのに苦労してきたんだコイツ・・・・・・


「俺はマコトだ。で――――――――――あそこでトカゲに追い回されてるのがスカーレッドだ。クリーミネ・・・・・・すまんが助けてやってくれ」


 クリーミネは涙目でエリマキサラマンダーに追いかけられているスカーレッドを見るなりひきつった顔になったが、すぐに背後の剣を抜き、大地を蹴って助けに向かう。

 見たところ筋力値、魔力値共にそれなりの量に達しているらしい。

 ダッシュ速度がスカーレッドと段違いだ。


「マーコートー!! 剣が溶けた!! 氷みたいにジュワーって――――――あ、熱い熱い熱い!!」

「そのまま溶けてしまえ」


 さっきまでの自信はどこにいったのか。

 トカゲに追い回され、泣きながらレベル一の冒険者に助けを求める魔王の姿にはもう威厳のかけらも見当たらない。

 よくもまぁこれだけの短期間に剣を壊せるもんだ。


「スカーレッドさん! 私クリーミネと言いまーす! 避けてくださーい!」

「あなた誰!?」


 クリーミネはトカゲの手前20メートルあたりのところで急停止し、自身の身長ほどもある剣を上段に構えた。


「ちょっと待って! そんな所で遠距離魔法なんて使ったら私まで真っ二つになっちゃうわよ!?」


 後ろにトカゲ、前に魔法。二つの脅威が同時に襲いかかり、スカーレッドのメンタルはボロボロだ。

 この世界の魔王が全員あんな感じなら、どんなに勇者は楽なんだろうか。


「大丈夫ですよ! 私戦闘系の魔法一つも使えないんで」


 クリーミネの衝撃の告白に、思わず俺と魔王は固まった。


「「え?」」

「いきますよ!! 音魔法! 超音波(ウルトラサウンド)!!」


 猛進するエリマキサラマンダ―との距離が約10メートルになったとき、クリーミネは愛剣を勢いよく振り下ろし、地面に激突させる。


 その刹那のことだ。

 クリーミネの剣先から爆音が轟き、草原全体を揺らした。

 その音量は凄まじく、必死に走っていたスカーレッドもろとも当たりの小石が軽く飛ぶほど。

 爆音を目と鼻の先で聞いたエリマキサラマンダーは白目をむいてドサッと倒れ、泡を吹いている。


「これは広すぎる砂漠地帯などで仲間に居場所を伝えるスキルですが、モンスターの目の前で使えばこのように気絶させることも可能になるんですよ! むっふーん。すごいでしょ」


 クリーミネはエリマキサラマンダーを倒したことに満足したようで、嬉しそうに俺に手を振った。


「スカーレッドも気絶しなきゃ百点だけどな」

「あ・・・・・・スカーレッドさあああん!!」


 俺は、剣を放り投げ慌てて倒れこんだスカーレッドに駆け寄るクリーミネの剣を拾い上げた。

 これは間違いなく高級品だ。

 装飾の類は一切ないが、こんな剣は店で見なかったし、少なくともあの耐久度は鈍の出せるものではない。


「にしても、この剣はよく超音波に耐えられたな」

「その剣は一級品なんですよ。銘を『オルタナティブ・アカシックレコード』と言います。敵の弱点・性質を全自動で思考し、その結果に応じて剣自体の能力が変わる優れものです」


 なんだその機能は。

 スマホでもそんなハイスペックじゃなかったぞ。


 俺が感心しながら手に納められる剣を見ていると、なにやら地面が揺れているような感覚を足に感じ取った。


「地響き・・・・・・?」


 先ほどのエリマキトカゲの猛突の数倍、数十倍の足音が遠くから響いているようなそんな感覚。

 なんだろう。

 すごいこの後の展開が読める。


 俺は嫌な予感をひしひしと感じながら、後ろをそっと振り向いた。

 俺の視界に収まったのは、さっきの超音波で気を悪くした無数のエリマキトカゲが草原を燃やしながらこちらに走ってくる光景。

 開いた口が塞がらないとはこのことか、俺は首を傾げるクリーミネに向かって口をパクパクさせることしかできなかった。


「どうしました? そっちに何か――――――――――逃げましょう」


 スカーレッドを背負ってこっちに来たクリーミネは、トカゲの大進撃を見るなり顔の表情を一気に変え、すぐに反対方向に走り出した。

 こいつ行動速いな。 


「無理無理無理無理。どう考えてもあっちのほうが速いから! なんか転移魔法みたいな便利なスキル使え!」

「無茶言わないでください! そんな高度な魔法使えるわけがないでしょう!!」

「さっきの超音波はもう使えないのか!?」

「無理ですね。あれだけの数はさすがに倒しきれません。精々1、2匹が限度です」

「終わったな!」


 こんなくだらない会話をしている間にも足音は徐々にこちらに迫って来ており、勇気を出して振り返るとあと200メートル程しか距離がないことが把握できた。

 この世界に転移して二日目。

 早くも人生のつみに到達したわけだ。


「そうだ! おい! おきろスカーレッド!!」


 最後の望みというにはあまりにも頼りなく、むしろ致死率を上げる一方のような気がするが、やらないよりはマシだ。


 俺は拳を数回息で温め、スカーレッドの脳天に振り抜いた。拳は鈍い音を立て、見事にスカーレッドを覚醒させる。


「いったぁぁぁぁぁ!! 何するのよ!」

「いいから後ろ見ろ!!」

「え?何―――――――――――――――――逃げるわよ」

「今逃げてんだろうが!! あれをお前の魔法でどうにかできないか!?」

「余裕よ! 任せなさい! クリーミネ、下ろして!」


 スカーレッドはそう言うと、クリーミネの背中から飛び降り、地面に軽々と着地した。

 そして、後方150メートル程を猛然と駆けるエリマキサラマンダーを睨めつけ仁王立ちする。


 毎度毎度この自信はどこからくるのかわからないが、あの大軍を目の前にあんな堂々と立てるのならばそれなりの策があるのだろう。

 というか、あってもらわないと大変困る。


「母なる大地よ! 我に偉大なる力を与え、あのよくわからないトカゲ風情をなんとかして吹き飛ばすがいい!! 私は最強! みんなは最弱! この理が永遠のものでありますように!!」


 俺とアリアの視線が主に詠唱の前半部分が原因で急速に冷たくなったが、それを上回るスピードで草原の気温が冷えていく。

 この異常現象に、俺とクリーミネは思わず息をのんだ。


霧の国(ニヴルヘイム)!!」


 スカーレッドが両手を上げ、スキル名を宣言したその瞬間のことだ。

 スカーレッドを中心にして冷たい魔力が渦を巻き、それが徐々に結晶化していく。

 結晶は数秒の内に見上げるほどまで大きくなり、綺麗な球体の形に変化した。


 球体の爆発的な巨大化によりエリマキサラマンダーは全員吹き飛ばされ、俺とクリーミネも数メートル押し出される。


霧の国(ニヴルヘイム)・・・・・・氷を自在に操ることができる超上位魔法ですよ! スカーレッドさんって何者ですか!?」


 クリーミネが何やら言っている気がしたが、俺はそんなこと気にならない。

 というか、クリーミネの声が耳に入らなかった。

 無論、俺の耳が急速に悪くなったわけでも、俺が何処かに瞬間移動したわけでもない。


 その原因は、俺の視線の先の巨大な球体にある。

 俺が球体を見ながらクリーミネの話を聞いていると、その途中で球体のてっぺんからヒョコッともう一つの球体が姿を現した。

 その球体のさらに上には四角い氷の箱が置かれている。

 そして、数秒後には下の球体の両サイドから二本の棒が生成され、なんともなじみのある巨大な彫刻が完成された。


「雪・・・・・・だるま?」


 クリーミネも球体の変貌に気付いたらしく、何とも言えない表情を見せる。

 それもそうだ。


 氷を自由に操ることが出来る上位の魔法だ。

 ドラゴンだって大剣だって巨人だって・・・・・・強そうなものをなんでも作れてしまうはずなのに。


「氷で思いつくものが雪だるましかなかったんですね・・・・・・」

「こんな奴がいるパーティだけど大丈夫?」

「何とかなりそうです」

「じゃあよろしくお願いします・・・・・・」


 最初に比べて大分テンションが下がったクリーミネは、疲れたように氷の球体を見た。

 そして、眉をひそめて呟く。


「どうして魔法を解かないんでしょう?」


 その一言に、俺はどうにも嫌な予感がした。

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