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23話 最弱冒険者、チートに嫌がらせをしました

「さて、この街最弱の冒険者様にお願いがあるわ」


 興奮するユイを何とか抑え、カウンターに座った俺にそんな言葉がかけられた。

 どうしてだろう。

 俺はこの世界の人に声をかけられると、大体嫌な予感がする。

 そして、嫌な予感が当たるから嫌なんだ。


 さっきだって、ロリッ子に話しかけられたと思ったらすぐ拉致られた。

 俺は予知能力でも持ってるんじゃなかろうか。


「貴方も気付いているだろうけど、今この街には聖騎士団長がいるわ」


 めずらしく真面目な表情でしゃべるグレモリーに、俺は緊張して背筋をのばしている。

 悪魔だからだろうか。

 人間離れしたその美貌は、真っ直ぐに向けられると思わず目を逸らしてしまうほどに完璧だ。

 

「知ってるよ。だから、このカフェに来たんだ。ここなら安心だろ? 天下のグレモリーがいるんだからな」

「グレモリー!? 悪魔の中でも上級の!? すごいわマコト! どこで知り合ったの!?」


 オレンジジュースを黙って飲んでいたユイは顔を上げ、目を輝かせて聞いてくる。

 その問いに、グレモリーが優しく答えた。


「マコトがバアル・ゼブルと戦っているときに出会ったのよ。まさか、この店を訪れるなんて思わなかったけれど」

「ま、マコト何者なの・・・・・・。バアル・ゼブルって・・・・・・」


 グレモリーの話を聞いて、ユイはジッと俺を見つめてくる。

 やめるんだ、話がしづらい。


「ただの冒険者だよ。それよりも、その聖騎士団長がなんだって?」

 

 俺の問いに、グレモリーは酒を一口飲んできっぱり答えた。


「私でも聖騎士団長相手は厳しいわ。それに、この街の聖騎士もいるのなら尚更よ。この子を守りたければ、どうにかして聖騎士団長を止めなさい」


 は? 勝てない? グレモリーが?


「じょ、冗談よせよ・・・・・・さすがにそれは笑えないぜ?」

「本当よ。この店の結界も、聖騎士団長がここの近くに来ればばれるでしょう。この子をこの店に預けておくのはやめなさい」


 普段より一段落ちた声のトーン。

 それが、事の深刻さを物語っていた。


 いやいやいや。

 聖騎士団長を止めるって・・・・・・。

 長ネギ王にできると思ってんのかこの悪魔は。


「まあ、厳しいってだけで倒せるかもしれないけれど、子供を守りながらはさすがに無理ねぇ」

「ま、まじすか・・・・・・。じゃ、じゃあ逃げよう!! 街からテレポートで逃げちまえば、聖騎士団長にも気づかれないだろ!」


 俺の言葉を聞いて、「やれやれ」とため息を吐くグレモリー。

 よし、今日も金は払わない。心に決めた。


「聖騎士団長はこの街に来たとき、僅かな魔族の気配を感じ取ってこの街に147重の対魔結界を張ったわ。テレポートしようとしてもぶつかってお終いよ」


 んなめちゃくちゃな。

 147重ってチートか! 

 どいつもこいつもチートに頼りやがって! 

 『草結び』と『フレイム』だけの俺を見習えってんだ。


「それに、もうすぐスカーレッドが帰ってくるわ。 スカーレッドが結界に触れた瞬間、聖騎士団長は必ずそれに気付く。早く聖騎士団長をこの街から追い出さないと、みんな死ぬわよ? クリーミネという少女もね」


「クリーミネ? あいつは悪魔的な食い意地を見せるが、ああ見えてただの人間だ」

「それ本人の前で言ったら殺されるわよ」


 引きつった顔のグレモリーが、カウンターの上に何かの紙を広げた。

 俺はそこに書かれた内容に目を通す。



 聖騎士団長:レイス・ダーインスレイブ


 保有能力

 ・スキルブレイク(手に触れた魔力を分解)

 ・ブリューナク(意志を持った剣を魔力で創造。剣は聖剣クラスのもの)

 ・メメント・モリ(放った魔法の威力が常時5倍)

 ・禁忌破り(人智を超えた魔法を使用可能)


 実績

 ・国を5個単独で滅ぼす。

 ・地獄に赴き魔族に喧嘩を売った後、生還。

 ・片手でドラゴンの首を飛ばす。

 ・じゃんけんで負けない。

 ・腕相撲で地を揺らす。





「・・・・・・こいつ本当に人間か?」


 思わずそんな声が出た。

 そもそも、ハルトみたいに日本から来た奴でも能力は一個しか保有していないのに、なぜこいつは四つも持っているんだ。

 俺なんか一つも持ってないんだぞ。


「おそらく、微妙に魔族の血が混ざっているわ。それも地獄の公爵級のね」

「会いに行きましょ! 私見てみたいわっ!」


 さっきから殺されるって言っているのに、どうしてコイツはこんなにも好奇心旺盛なんだろう。

 静かにしていてもらわなければ。

 これ以上トラブルは避けたいところだ。


「こいつを町から追い出すなんて可能なのか?」

「普通に考えれば無理よ。まともに勝負したら、軍隊が4つあっても足りないわ」


 そう言いながら、グレモリーはニヤリと笑う。

 それを見て、俺も口角を吊り上げた。


 グレモリーの言いたいことはわかる。

 『まともに勝負したら』絶対に負ける。

 でも・・・・・・。


「まともに勝負するなんてガラじゃないな!」

「いつになくやる気じゃない。精々頑張りなさい」


 俺はコーヒーを飲みほし、作戦を考え出した。




◆◆◆


 街を見下ろすことが出来る塔の上。

 そこで、俺は弓を構えていた。

 飛ばすのは弓ではなく、球体にして固めたグレモリー愛用の世界一辛い唐辛子『レッドデビル』。

 初めにこれを食った時は、『これ作ったやつマジ性格悪い』と思っていたが、今は『いい仕事してるねっ!』て思う。

 俺も大事なものを失ったのかもしれない。


 俺はグレモリーにありったけの支援魔法をかけてもらっているため、レベル90程度の身体能力・魔力などを持っている。

 今の俺なら、ダーインスレイブの飲んでいる紅茶に激辛唐辛子を投げ入れることも可能なわけだ。

 さあ、聖騎士団長。

 地底の連中が泣き叫んだ俺の陰湿な嫌がらせを受けるがいい!!


 左足を前に出し、半身の姿勢になる。

 聞き手を大きく後ろに振りかぶり、強化された視力でダーインスレイブを見た。

 

「女だったのか」


 滑らかな髪に、整った顔立ち。

 白銀の鎧を身につけているダーインスレイブは、それはそれは綺麗な女性だった。

 なんだろう。

 民を守るために結界を張ってくれただけなのに仕返しをされるなんて、なんだか可哀想になってきた。


 しかし、これもユイやスカーレッド、グレモリーとクリーミネを護るため。

 正当防衛ってことで。


 俺は嫌がらせを決行する理由を無理やり作ると、全身の体重を乗せて唐辛子を投げた。

 強化された筋力によって矢のように吹き飛んだ唐辛子は、綺麗な弧を描いて3km先の喫茶店の一角に吸い込まれる。

 そして、その一角にあるダーインスレイブの座っているテーブルの上に置いてある紅茶に、見事に唐辛子は入った。


 ダーインスレイブは店員と話しており、唐辛子が入ったことに気付いていない。

 そして、そのまま気付かずにカップを口元に近づけ・・・・・・。


「ブフッ!」

 

 盛大に紅茶を噴き出した。 

 急いで水を飲もうとするも手が震えて水をこぼし、テーブルを蹴り飛ばして地面を転げまわっている。

 絶景かな絶景かな。


 俺は矢を取りだし、『フレイム』を使用した。

 今度は、紅茶の砂糖を全部溶かす嫌がらせだ。

 焦げた砂糖を見た時のイライラする顔が頭に浮かぶぜぐへへへへ。


 そう思い、矢を引き絞ってダーインスレイブを見た俺は・・・・・・


「えっ」


 何かに反応したようにこっちを睨めつける、ダーインスレイブと目があった。

 おかしい。

 絶対におかしい。

 ここから喫茶店までの距離は、約3km。

 何の支援魔法もかかっていないダーインスレイブが、俺の存在を確認できるはずがない。

 ・・・・・・ないのだが。


 ダーインスレイブは右手に光る球を生み出し、手首のスナップで塔へ飛ばした。

 レーザービームのように喫茶店を飛び出したそれは、僅か3秒ほどで俺の頬をかすめて塔の上部を吹き飛ばす。


 えっ。

 なにこれ。

 やだこれ。

 ダーインスレイブ超怖いんですけど。

 

 崩れ始める塔の中心で、俺は慌ててグレモリーからもらった魔方陣に魔力を流した。


「『ワープ』ッ!!」



◆◆◆


 駄菓子屋で買った水風船を手に、俺は街を巡回する聖騎士団長の3メートル後ろをさりげなく歩く。

 今日もにぎやかな街。

 とある小さな女の子が、ダーインスレイブに向かって手を振った。

 ダーインスレイブも手を振り、女の子に微笑む。


 そして、俺もにこやかにダーインスレイブのマントを踏んで転ばせると、転んだダーインスレイブに水風船を叩きつけた。

 もうすぐ春が訪れるが、まだまだ気温が低い今日。 

 びしょ濡れになったダーインスレイブに俺は微笑み、


「『ワープ』」

「またですかああああああああああ!!!!」


 一瞬でその場から消えた。

 

 

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