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22話 最弱冒険者、地上に戻ってきちゃいました

「何やってるのよあのダメ人間!!」

「マコトって、そんな度胸ある人だっけ!?」


 ボードゲームを吹き飛ばし、慌てふためく二人。

 気持ちはわかりますが、一旦落ち着きましょうか。


「おい! みんな!! マコトを見てないか!?」


 またも窓から聞こえてきた声に、私は慌てて窓の近くに駆け寄った。

 窓から見下ろすと、ハルトさんが慌てたように立っている。

 マコトさんに誘拐された人は、ハルトさんの知り合いなのだろうか。


「見てません! 地上に戻れるわけありませんから、おそらくどこかに」


―――ドオォン!


 突如響いた爆音が、私の言葉を遮った。

 今の音はおそらく何かが爆発した音じゃない。

 言うなれば、何かが噴き出したような・・・・・・。

 まさか。


「「間欠泉!?」」


 私とハルトさんの声が重なった。

 もしかして、マコトさんは間欠泉で地上へ戻ったのかもしれない。

 地底の美女を引きつれて。


 どうしてだろう。

 すごい怒りが込み上げてくる。

 あんなに人が出て行くのは止めておいて、自分は何の連絡も無しに女の人を誘拐?

 ちょっとお話しましょうかマコトさん。


「なんで間欠泉!? 確か、次に温泉が吹き出るのは二日後じゃなかったっけ!?」

「・・・・・・心当たりがある。ユイならやりかねない。あいつ自分から誘拐されやがったな!!」


 顔色が一気に悪くなったハルトさんは、頭を抱えてしゃがみこんだ。

 頭でも痛くなったんだろうか。


「みんな! 帰る支度をしろ!! 俺達も急ぎで地上へ行く!」


 ハルトさんがとんでもないことを言い出した。

 地上には三日後じゃないと帰れないって言っていたのに。


 見ると、スカーレッドさんとエールさんも混乱しているようだ。

 スカーレッドさんは話についてこれているのかわからないけれど。


「どうやって行くの?」


 エールさんが聞くと、ハルトさんは剣を引き抜いて。


「『千刀流』でトンネルを掘る」

「「「そんな無茶な!!」」」


 ハルトさんの発言に私たちの声が重なった。




◆◆◆



「マジで地上に来ちまった!! やばいどうしようどうしよう!!」


 温泉の船で吹き飛ばされた俺とロリッ・・・・・・少女は、あっという間に地上に打ち上げられていた。


「落ち着きなさい少年よ。もう後には引けないわ。さあ、前に進みましょう!!」


 ちくしょう殴りたい。

 けど凄い可愛いから我慢します。


「さっきから気になっていたんだが、そもそも地上で何がしたいんだ?」

「いろんなものを見てみたいな。あんな地下で一生を終えるくらいなら、ここでいろんな経験をしたいもん」


 ・・・・・・。

 この子は、幼いながらもいろいろな苦労を積んだのだろう。

 人権が尊重されている平和な日本で育った俺では想像できないいろいろなことを。


「じゃあ行くか。とりあえず、俺の家に」


 俺が家の方向に向けて歩き出すと、少女も歩きながら眉を寄せて俺の顔を覗き込んだ。


「橋の下にあるの?」

「そんな貧乏じゃありません!! お前、俺のことをどんな奴だと思ってるんだ!」

「お前じゃない! 私にはユイという名前があるのよ!」


 ユイ。

 どこかで聞いたことがある単語だ。

 気のせいだろうか。


 手をぶんぶん振って抗議する少女に、俺は今後の予定を話す。


「あ、やっぱり街についたら安全地帯のカフェに行く。あの悪魔が切り盛りしてる店なら安心だろ」

「悪魔!? 何なのそのワクワクするワードは!! あなたは悪魔と知り合いなのねっ!」

「これでワクワクしたら君は医者に行った方がいい」


 悪魔という単語に目を輝かせたユイは、もう手遅れだ。

 どことなくエールの顔がちらつく。

 トラブルメーカータイプ確定だな。


「ねえ。気になったんだけれど、街に検問とかないの?」

「・・・・・・忘れてた」

「ここは強行突破しかないんじゃないかしら!」


 またも目を輝かせるユイに、俺は深々とため息をついた。

 こいつ、本当に何か問題を起こしたいらしい。

 俺まで地底生活しなきゃいけなくなるのではなかろうか。


「兄弟を装えば大丈夫だと思うんだけどなぁ」

「私、姉はちょっと・・・・・・」

「お前が妹だよ!! お前が姉なんて速攻で怪しまれるわ!」


 パーティのみんな。

 僕、凄い不安です。








「マコト殿。貴方のパーティにそんな子はいなかったような気がするんですが」


 王国の入り口にある門前で、俺とユイは案の定止められていた。

 やばい。

 もしもユイが玄武族だとバレれば、間違いなく聖騎士が来る。

 それだけは防がなければ。


「あらあら。私は前からいたわよ? ねえねえヨシオ。この人おかしいわ」

「マコトです」

「・・・・・・ちょっと署まで来てもらってもいいですか?」


 俺は墓穴を掘ったユイの頭を掴んで後ろに隠し、何とか言い訳をする。


「すいません。この子は実家から預かった妹でして・・・・・・」

「妹が兄の名前を間違えるんですか?」

「間違えてません」

「間違えましたよね!?」


 ちくしょう。

 この門番全く引き下がらない。

 

「なあ、もういいだろ? あんたには俺とブロッサムが怪しい奴に見えるのか?」

「ユイだよ」

「ユイでした」

「・・・・・・やっぱり署までついて来てください!!」


 門番は俺の手を強引に掴み、この街の警備を担当している聖騎士の元へ連れて行こうとした。

 とうとうばれたか。

 まあ、それが普通なんだが。


「『ソメイユ』っ!」


 ユイが何かを呟くと、突然門番は地面に崩れ落ちた。

 倒れた門番を見ると、気持ちよさそうにいびきをかいている。

 

 こいつやっちまった・・・・・・。

 門番を魔法で眠らして国に侵入とか完全に犯罪者のすることだ。


「おい貴様ら! そこの門番に何をしたっ!」

「こ、この人が!! 私を・・・・・・グスッ・・・・・・嫌がる私を! 刑務所で可愛がってやるって!! だから・・・・・・仕方なく魔法で・・・・・・うぅ・・・・・・」


 ひ、非道だ・・・・・・。

 こいつ自分の見た目を使って、職務を全うしようとした罪のない門番に罪を着せやがった!

 今度、この門番の無実を証明しよう。


「そ、それは申し訳ありません!! ど、どうぞ通ってください!」


 もう一人の門番は眠っている可哀想な門番を担ぎ、素早く敬礼した。

 ユイもそれに合わせて敬礼し、「早く行こ!!」と町の中に駆けていく。

 

「そんなに急ぐとぶつかるぞ?」

 

 ユイに注意をしたその瞬間。


「聖騎士団長様!! どこへ行くおつもりですか!?」


 とんでもない言葉が聞こえてきた。

 

 聖騎士団長?

 つまり聖騎士のトップか。

 冗談じゃない。

 聖騎士一人にこんなにビクビクしているのに、聖騎士のトップが来たら確実にユイのことがバレる。


「ユイっ! カフェに急ぐぞ!!」

「えっ!?」


 俺は戸惑うユイを抱きかかえ、急いで路地裏に入った。

 トラブルを引き起こしたスカーレッドがよく路地裏へ逃げ出すため、路地裏の地図は大体頭に入っている。

 この街の路地裏は広く、上手く移動すれば街の端から端まで横断することも可能なほどだ。

 当然グレモリーの店にも行ける。


「いいかユイ! お前は聖騎士って奴らに見つかったら間違いなく殺される!! だから、俺の指示には必ず従え!」

「それは凄い身の危険を感じるわ!」

「何もしねぇよ!?」


 俺がユイの持っているとんでもない勘違いをどう訂正しようか迷っていると、突然目の前にドアが現れた。

 妙な光に包まれた木製のドアは、もしかしなくてもあのカフェのドアだ。

 

 おそらく聖騎士団長がこの街に現れたことを知り、 グレモリーが魔法でドアを出現させたのだろう。

 なんと気の利く悪魔だろうか。

 どこかの魔王とは大違いだ。


「これは何!? 時空を歪める魔法なんて使える人がいるの!?」


 俺は目を輝かせるユイに頷くと、カフェの扉をいつもの調子で開けた。


「今日もツケで」

「・・・・・・やっぱり外へ出そうかしら」


 大きくため息を吐いたグレモリーは、口元を緩めていた。

 これから楽しいことが起きるみたいだ。



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