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2話 ついてない高校生、初戦闘しました

「つまり、この世界のモンスターが強すぎてこの魔王城に勇者が来ないから暇だし、そもそも魔王なんてやりたくない。冒険者がしたい。そういうことだな?」


 俺の要約が正しかったらしく、女―――――元い魔王はコクリと頷いた。


 俺は魔王に泣き着かれ、どうにか魔王の言葉が聞き取れるまでに泣きやませることに成功した。

 しかし、長い長い魔王の体験談(生誕から今に至るまでみっちりと)を聞かされるはめになり、今現在に至るというわけである。

 超家に帰りたい。


「魔王なんてやりたくないなら辞めればいいだろ? 何でこんな薄暗くて趣味が悪い所にずっといたんだ?」


 俺の問いの所為か、カーペッドにへたり込み、鼻をすすりながら俯く魔王の目にまたも涙が滲んだ。

 

「私が外にのこのこ出て行ったらそこら辺の聖騎士に殺されちゃうわよ!! 味方なんていないの!! 私は魔族だから特有の気配があるらしくて、聖騎士はその気配に気付きやすいのよ」


 今度は俺が俯く番だった。

 正直、今の話を聞く限りだと魔王を外に連れて行くことは限りなく不可能に近い。

 その聖騎士と言われる奴らがどんな奴だかわからないが、気配で気付かれてしまうのなら対策の使用がない。

 冒険者である以上、騎士との接触は避けられぬ道だ。

 

 つまり――――――――


「冒険者は無理、か・・・・・・。 諦めろ魔王。 君にはなんちゃって魔王が似合ってる」

「今なんちゃって魔王って言った!? 私ちゃんとした魔王なのに!! 魔王の中でも魔力が高い方なのに!!」

「へぇ・・・・・・。お前が高い方か・・・・・・。この世界の魔王の立場は、雑魚敵A程度のものなんだな」

「今すごい失礼なこと言ったでしょ!! 訂正しなさいよパッとしない男A!」

「誰がパッとしない男だ! 駄目女!!」


 俺の一言に、ついに魔王は目に涙を浮かべた。

 ふっ。正義は勝つのだ。


「いや、待てよ」


 俺が勝利に酔っていたその時。

 名案が降ってくるとはこのことか、俺の頭に突然ある一つの作戦が思い浮かんだ。


「・・・・・・魔族って魔王以外にもいるよな?」

「何よ急に。もちろんいるわ。ほとんどが人類の敵だけどね・・・・・・もうお終いよ~!!」


 ほとんどが(・・・・・)

 

 なら、まだ可能性はある。

 まあ、ばれる気しかしないが。


「おい魔王。俺はこの世界から出たい。お前に俺をこの世界から出す程の力はあるか?」


 俺の急な質問に、魔王は一瞬疑問符を浮かべる。

 しかし、俺の意図を察したのか、魔王は首を横に大きく振った。


「そんなことをできるのは神の中でも上位に君臨する者か、ティルフィングくらいでしょうね」

「ティルフィング?」


 突然出てきたファンタジー感溢れるその単語に、俺は思わず聞き返す。


「ええ、三度願いを叶えると所有者に死をもたらす伝説の魔剣よ。一度引き抜けば誰かを殺さないと納まらないらしいわ。あくまで伝承上のことで、存在は確認できるらしいけどそれ以外は謎」

「なるほどな」


 ティルフィング。

 なんとも恐ろしい魔剣だが、それがあれば俺は元の世界に帰れるかもしれない。

 最早、見つけるしか帰る手段がないのだ。

 だったら、そのティルフィングを見つけるまで冒険者をしてもいいかもな。


「じゃあこうしよう。俺はティルフィングを見つけるためにしばらくの間、冒険者をやろうと思う。そのパーティにお前も入れてやるよ。俺の使い魔としてな」

「使い魔?」

「そうだ。使い魔なら魔族だし、使役する者がまともなら聖騎士とやらも手を出せないだろ」

「う~ん・・・・・・」


 俺の策に魔王はいまいちピンとこないようで、しばらく考え込んだ。

だが、突然顔がパッと明るくなり、笑顔で答える。


「そうしてみましょ!」


 こうして、俺たちの旅が始まった。



◆◆◆



 一人、人が倒れた。すると、周りからドッと歓声が上がる。


「てめぇ意外とやるじゃねぇか。本当にまだレベル一の駆け出しか?」


 身長がクラスの中でも常に高い方だった俺を優に超える程の大男は、にたりと口角を吊り上げ、好戦的な笑みを浮かべた。

残った参加者は俺とコイツのみ。

 最後の戦いだ。


「運動神経には自信があるのさ。さぁ、さっさと決着をつけようぜ?」


 間合いは僅か一足一刀。

 いつ互いの剣が動き出すかわからない緊張感と戦いながら、俺は剣を構えた。 

 俺は負けられない。

もしここで負けるようなことになれば、俺の異世界生活はここで終わってしまうかもしれない。


「「行くぞ」」


 両者の声が重なり、重心が下がったその瞬間。

先ほどまで太陽の光を遮っていた灰色の雲から、一筋の光がこの特設リンクを貫く。

それが開戦のトリガーになった。


「おおおおおおおお!!」


 俺は激しい気合と共に地を蹴り、大男の懐に飛び込んだ。

 大男が一瞬、気合に怯む。

その瞬間を俺は見逃さない。


「家は俺のものだ!!」


俺は大男の顔面目掛けて、愛剣『長ネギ』を真一文字に振るった。

 長ネギはリーチが長い。

 その特徴のおかげで、この『物件争奪戦』の参加者を次々に倒してきた。

 だから、この長ネギのフルスイングを先手必勝でお見舞いできれば、勝利をこの手に出来る。

 

 そう思っていたのだが―――――――


「考えがあめぇぜ坊主!!」


 俺の攻撃は、大男の両手に握られている愛刀『人参』の二重の刃に容易く防がれた。

 これには俺も苦笑いだ。


 大男の人参は俺の長ネギよりも遥かに硬い。

 だから、何度も刃を交えると俺の長ネギが折れ、すぐに勝敗が決まってしまうはずだ。

 それだけは防がなければいけない。


 俺は至近距離で回し蹴りを放ち、大男との距離を一旦離した。

 すると、大男が片手の人参を大きく空に振り上げ、何やらゴニョゴニョ呟き始める。


「くらえ!銃弾(バレッド)!!」


 瞬間、男の手からスパークが散り、手に握られていた人参が青い軌跡を描きながら俺の額に向かって吹き飛んだ。


――――――――躱しきれない。


 俺は本能的に人参を躱すのを諦め、替わりに自分の長ネギを前に突き出す。

 

 長ネギの先端が人参の先端にぶつかり、激しく長ネギがしなった。

 普通の長ネギならば、ここで縦に裂け目が入ってバラバラになるだろう。

 しかし、この長ネギは新鮮さが違う。

 八百屋のおじさんが丹精込めて作ったこの長ネギは、そこいらの人参に負けたりはしない。


「おい坊主。てめぇは一つ忘れている」


 大男の言葉と同時に、ピシっと長ネギに大きく裂け目が入った。

 どうでもいいことだと思うが、長ネギの汁が目に入ってちょっと痛い。


「この人参な、お前の長ネギと同じく、あの八百屋のおじさんが作ったものだ」


 大男の言葉が意味することを俺の体が察したのか、無意識に手から力が抜ける。

 お前の人参も新鮮だと? じゃあ、長ネギに勝ち目ないじゃん。

 絶望にも似た感情が俺の心に生まれた次の瞬間、長ネギが盛大にバラバラになった。

 俺の心もバラバラになった。


 そして、長ネギの飛沫を辺りに吹き飛ばし、人参が長ネギの合間を縫って俺に迫り――――


「お、おじさん・・・・・・嘘だ・・・・ろ」


 人参が俺の額に炸裂し、大きく視界がぶれた。

 完全敗北である。


 衝撃で闇に飲み込まれていく視界に入る、野菜を褒められて上機嫌のおじさんの照れ笑い。

 それが俺の底知れぬ敗北感を一段と大きくし、俺は耐えきれず意識を手放したのだった。


◆◆◆


「私がいない間に家を手に入れたのは評価するわ。でも、私が歩いてる時に『長ネギ王の使い魔だ』って笑われたんだけど!! どうやったら国に着いて三時間で長ネギ王って呼ばれるまでになるの!? そして長ネギ王って何!?」


 夕暮れ時、決して広くないリビングの真ん中でギャーギャー騒ぐ魔王を無視しながら、俺はコーヒーを一口飲んだ。

 うん、美味い。


 魔王の城から一番近いところに位置しているこのイルソーレ王国。

 俺たちはここに拠点を構え、魔剣を探すことにした。

 

 この王国は魔王城から最も近いが、冒険者の平均レベルは僅か50。

 その理由は簡単だ。

 この世界は無限に広がっているそうで、魔王城もまた無限にあると言われているらしい。

 俺の横にいる魔王城は攻略難易度がほかの城と比較しても段違いで高く、誰も攻略しないそうだ。

 そのため、高レベルの冒険者はここには留まらず、ここは他の町や王国に行くための中継地点的な役割を担っているというわけである。


「ちょっと聞きなさいよマコト! 大体、この家どうやって手に入れたのよ? 魔力も通ってるし、相当いい物件よ?」


 魔力というのは、この世界では俺が元板世界で言う電気みたいな役割を果たしているらしい。

 比較的生活が潤っている人は、この国の中心部に位置する城の中にある人口太陽で生成された魔力を買い取り、地下にあるパイプで運んで家の魔法具を動かすとか。


 俺は八百屋の客から聞いたこの世界の情報をおさらいしながら、魔王の質問に答える。


「八百屋のおっさん主催の『物件争奪戦』だよ。なんでも空き家が何件かあるらしくて、もったいないから冒険者に無料で譲りたいんだと。そこで八百屋にある野菜を使って戦い、最後まで生き残った冒険者に物件を譲る『物件争奪戦』を思いついたらしい」

「ふ~ん。で、勝ったんだ」


 俺をからかうように目を細めて言う魔王の手からコーヒーをひったくり、俺は即答する。


「負けた」

「え?」


 思わず聞き返した魔王に、俺は追加で説明し始めた。


「負けた。勝負には最後の一騎打ちで負けた。でも、攻撃スキル「銃弾(バレッド)」を長ネギ一本で惜しいところまで防いだから、『みずみずしさを示せて言い宣伝になった』っておじさんが特別にこの家をを譲ってくれたんだ」

「だから長ネギの王って通り名がついたのね。あ、これねマジックストーン」


 魔王は言いながら、テーブルの真ん中に虹色に輝く石を置いた。

 実は、魔王はこれを酒場に取りに行っていたのだ。

 これは冒険者のみが所有することが許される石だそうで、この石の中に自身のレベルや魔力が数値化されて刻まれるらしい。

 俺の石を覗くと、当然レベルは一。魔力量は40と見事に平均以下のステータスだ。

 あの殺人ひげモジャじじいの元にいた美女は、俺のことを高く評価していたはずだが。


 しかし、これで正式に冒険者となることが許されたんだ。

 そんな細かいことなど気にしていられない。


「明日から冒険だ!今日は早く寝るぞ!」

「そうね!」


 ただでさえいい物件に家具までつけてくれたおじさんに感謝して、俺たちは各々の寝室に入った。

 明日、王国を潰しかけるとも知らずに。

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